ド根性VS安定その1
「ここならどうだ?」
「屋上か……いいな!」
漢野と天衣の二人は支社の屋上に来ていた。
屋上の端で四方を囲むフェンスはさながら格闘場のリングのようだった。
「こんな所で闘うのは初めてだ。面白え! さっさと始めようぜ!」
「やれやれ……最近の若者はどうも血の気が多くて困るね……まあいい。かかって来なさい」
拳をポキポキと鳴らしながらもそう言う漢野に、天衣は冷めた表情で手招きをした。
「へへ……ならお言葉に甘えて挨拶と行かせてもらうぜ! でも先に言っとくぜ、今日の俺は最っ高のコンディションだ! 根性見せろよ! “ド根性馬鹿力”ッ!」
漢野は右のジャブを天衣に撃つ。
天衣はひらりと残像を残しつつその一撃を躱す。
そのあまりの速さに漢野は目を輝かせて言った。
「おお……! こんなに速い奴は初めてだ!」
「お褒めに預かり光栄だよ」
称賛する漢野に天衣は棒読みでそう返す。
そんな天衣との温度差を一切気にする事なく漢野は天衣に無数の拳を放っていく。
「ま、すぐに追い付いてやるよオラオラオラァ!」
「ふん……」
しかしその拳は全て天衣の虚像を打つだけに止まった。
「何!?」
「次はこちらの番だな」
驚く漢野に天衣は疾風の如き回し蹴りを放った。
漢野は凄まじい蹴りの速さと威力に空高く弾き飛ばされる。
「ぎゃはあっ! なんて力だ……っ!」
「困るんだよ。君のように聞き分けの無い子供が私の“聖域”に入って来るのは」
漢野は受け身を取る間もなく床にドサッと衝突し倒れ込んだ。
だが次の瞬間、彼はすぐに起き上がって拳を構えた。
「へへっ、まだまだ行けるぜぇ!」
「しぶとい奴だな……」
依然として目を爛爛と輝かせる漢野に天衣はため息をつく。
漢野は再び地面を蹴って殴り掛かった。
「オラァ!」
「何度やろうと結果は同じだ」
天衣はそう言い放って残像を見せながら避けようとした。
「っ!?」
「言ったろ、今日の俺は最っ高のコンディションだってな!」
漢野の拳が、残像ではなく本物の天衣をしっかりと捉えていた。
天衣は先程とは一味違う彼のパンチを受け止めざるを得なかった。
「で、それが何だ?」
「うぐあっ!」
それでも天衣はうろたえる事なく漢野に裏拳を叩き込む。
漢野は凄まじい裏拳に体勢を崩しつつも反撃にローキックを放つ。それも易々と膝を上げて弾き返し、漢野を蹴り飛ばす天衣。
力の差はあまりにも歴然としていた。
天衣は地面に転がる漢野に更に蹴りを入れ痛めつけながら言った。
「これでどう足掻こうとどう根性を見せようと私に勝てないのは分かっただろう。それに君、我が愚息とは何の義理も関係も無いのだろう? なら戦う意味も無い筈だ。私の安定の為に潔く諦めなさい。人生諦めが肝心だ。ほら、早く諦めたまえ。ほら! ほら! ほら!」
「がっ! うぐっ! あがっ……!」
激しい追撃に呻き声を上げる漢野。
内臓が傷付いたのか彼の口から血が溢れ出す。
彼の体中が悲鳴を上げる。
しかし、それでも漢野はすぐさま立ち上がり、こう言った。
「へっ……そうやってすぐ諦める奴が一番喧嘩に弱えんだよ!」
「ふん……そもそも私は喧嘩などしない。お前は馬鹿だな」
漢野は右のストレートを天衣にお見舞いする。
天衣はそれを流れるように回避――。
する事が出来なかった。
漢野の拳が、天衣に届く。
「ぐあっ!?」
「オラオラどんどん行くぜ!? なんせ今日の俺は最っ高のコンディションなんだからな! オラオラオラァ!」
「ぐああああっ!? がああっ!? うがあっ!?」
漢野は次々と天衣にパンチ、肘鉄、膝蹴りを入れていく。
先程とは打って変わって漢野が天衣を圧倒している。
天衣は漢野の怒涛の連撃にフェンスまで吹き飛ばされた。
「がっ……! うぐっ……!」
「さて、シメといくぜ!」
「……ふふ、ふはは、ふははははははははははははは!!!」
「な、何だお前……?」
追い詰められた状況の筈なのに突然笑い出す天衣。
漢野はいきなり気でも狂ったのかと目を丸くした。
そんな彼を見て天衣はまた更に笑って言う。
「ふははははは! まだまだ青いな少年! 全くもって勝負は付いていない。それどころか私は圧倒的に優位だ。まさか気付いていないのか? 私がまだ、能力を使ってすらいないという事に……」
「何っ!?」
「私は安定の道を突き進む。“コンフォートウィンク”」
天衣はその能力名を呟くと、パチンとウィンクを贈った。




