第93話 ヴィーヴルと街デート?
ヴィーヴルと一緒に街まで半分の所まで、森の中を飛んできた。
俺の瞬間移動では、まだ、ドノバンの家から街までの移動ができないのと、ヴィーヴルが歩くのは面倒だと言ったからだ。
もう少しで、ドノバンの家から街までは瞬間移動できそうなのだが……
帰りの為に、此処にも目印を置いておこう。
「セット。
これで良しっと。
じゃあ、街まで行こうか」
森の中程から、前回ドワーフの街の裏道に仕込んでおいた目印を探して、その場所へと瞬間移動する。
態々、門番に街へ来た理由を聞かれて、言葉に詰まって困る必要もないだろう。
流石に「装備を買いに来た」は、もう、通用しないと思う。
「随分と、薄暗い所へと来たのじゃ」
「突然、目の前に人が現れたら、騒ぎになるかだろうからな。
人気のなさそうな所へ、予め目印を置いておいたんだ」
「それで、果物はどこに売っておるのじゃ? 早く行くのじゃ」
「慌てなくても、果物は逃げないよ。
こっちに市場があるから、行こうか」
俺は、ヴィーヴルと共に市場の方へと歩いて行った。
市場は、相変わらずの盛況具合だった。
ヴィーヴルは物珍しそうに、露店を見回している。
「いろんな店があるのじゃ。
此処なら、何でも売っているのじゃ」
「何でもは無いけど、必要なものはある程度売っていると思うぞ。
ヴィーヴルも、欲しいものがあれば言えよ。
言われたもの全てを買う訳にはいかないけど、ある程度は買えると思うからな」
「分かったのじゃ。
まずは、果物を買うのじゃ」
「あぁ、こっちで売っていたはずだ。
迷子になるといけないから、ほら」
ヴィーヴルに向けて、手を差し出した。
「妾は子供では無いのじゃ。
まぁ、良いのじゃ」
ヴィーヴルは、俺の差し出した手を取って
「案内を頼むのじゃ」
瞬間移動の時も手を繋ぐが、その時とは何か違う雰囲気がした。
俺には、その正体に気が付くことはできなかった。
ヴィーヴルを連れて、果物を売っている露店の前に着いた。
「お兄さん、前にリンゴを買って行ったよね? そろそろリンゴもお終いだから、今日も買っていくかい?」
「そうだな、リンゴを30個ほど貰おうかな。
そして、お、イチゴもあるのか? イチゴは、5山ほど貰おうか。
1つは歩きながら食べるから、その籠ごと貰えるかな?」
「毎度、ありがとうね。
これは……今日は、お連れさんもいるのかい? じゃあ、これはお連れさんに渡すわね」
露店の女主人は、ヴィーヴルに籠ごとイチゴを渡した。
「気に居るかどうかわからんが、食べてみてくれ」
ヴィーヴルはイチゴを1つ摘まむと、目の上に掲げて四方八方から見回した。
「その、緑の葉っぱを取って、丸ごと口の中に放り込めばいい」
葉っぱごと食べても、ヴィーヴルは問題ないだろうけど、美味しいとは思えないからな。
ヴィーヴルは言われた通りに、|蔕≪へた≫の部分を取って口へと放り込んだ。
ヴィーヴルの口にはイチゴの粒が大きすぎたようで、頬が膨らんでいた。
「ん~、んん……」
「何を言っているか、分からないから、食べ終わってから言ってくれ」
ヴィーヴルは口いっぱいに入ったイチゴを何とかして食べようとしている時に、女主人からイチゴとリンゴが入れられた袋を、それぞれ受け取った。
ストレージ化してある袋に入れて、告げられた代金を支払う。
この位の量なら、元々の袋の大きさでも入るから、一度、入れる為に裏道へと隠れる必要は無い。
「ノア、イチゴをもっと買うのじゃ。
美味しいのじゃ」
「あら、お連れさんは、イチゴ初めて食べたのかしら? 大層、お気に入りの様よ」
「あぁ、その様だな。
済まないが、あと5山、貰えるかな?」
「毎度ありがとうね。
ちょっと待っていてね」
ふとヴィーヴルの手元を見てみると、イチゴの山は半分以上無くなっていた。
「そんなに慌てて食べなくても取らないから、安心してゆっくり食べて良いぞ」
「ほんはひははへへはへへほはふほは」
「だから、食べながら話されても分からないから、食べ終わってから話そうな」
「ははっはほは」
道の端の方へと移動して、ヴィーヴルがイチゴを食べ終わるのを待った。
とても美味しそうに食べているのを見ていて、俺まで幸せな気分になっていた。
皆でこうして食べ歩きが出来たら、最高だろうなぁと、ぼんやり考えていた。




