第87話 美味しいリンゴ
街へ行って、食料などを仕入れて家へと帰ってきた。
今回は資金的にも余裕があったから、結構な量を仕入れることができた。
買うごとに裏道へ行き、袋の中へと仕舞う作業は骨が折れたが、仕方がない。
家に帰ってくると、ヴィーヴルとゴブリン達は畑の作業を行っていた。
「ただいま、ヴィーヴル」
「お帰りなのじゃ」
ゴブリン達からも、お帰りの声が掛かったので、返事をした。
「今回は、ヴィーヴルにもお土産があるんだ」
俺は、袋から麦わら帽子を取り出した。
「これから暑くなるから、これを被っておいた方が良いと思ってな」
ゴブリン達にも配っていく。
「妾には角があるから被れないのじゃ」
「穴を開ければ被れるだろ? 穴を開けてやるよ」
「貰ったものに、穴を開けるのは気が咎めるのじゃ」
「別に良いだろ? 身体に合わせて使いやすくするだけなんだからな。
それに、使ってもらった方が、俺としても嬉しいからな」
麦わら帽子を頭にのせて、角の位置を確認した。
そして、袋からハサミを取り出して、角の位置に穴を開けた。
「こんな感じで良いかな?」
「うむ、丁度良い感じなのじゃ。
ありがとうなのじゃ」
「このハサミも、お土産だ。
これから育った植物の余計な葉を摘んだり、収穫する時なんかに使ったりするんだ。
その時になったら教えるから、それまで保管しておいてくれ。
あとは……」
「いや、ちょっと待つのじゃ。
お土産は嬉しいのじゃが、そんなに良いのか?」
「ドワーフの家に行ったら、臨時収入があったから気にしなくて良いぞ。
それに、ヴィーヴルが楽しそうに農作業をしているからな。
折角なら、もっと楽に農作業ができるほうが良いと思ってな。
皆の分も買ってきてあるから、取りに来てくれ」
今回、皆にお土産として用意したのは、麦わら帽子、ハサミ、小さい椅子、小さいスコップだ。
「あと、果物も売っていたから買ってきた。
一休みして、皆で食べよう」
袋の中からリンゴを取り出して、1つずつ渡した。
皆、不思議そうに手に取って、リンゴを眺めていた。
「これは、このまま丸かじりで食べても大丈夫だぞ。
真ん中の部分は芯といって美味しくないから、残しても良いぞ。
ほら、こんな風に……」
俺が、リンゴを食べていった。
俺の食べる様子を見ていた皆が、俺と同じように周りから丸かじりで食べ始めた。
『これ、美味しいですね』
『今まで食べたことが無い味がします』
『『『おいし~ね~』』』
アン達からは好評のようだ。
ヴィーヴルは? と、そちらへ眼をやると、一心不乱にリンゴの芯まで、食べていた。
美味しくないって言っておいたのになぁ。
それを見たアン達も、リンゴの芯を食べていた。
リンゴの芯を食べて死んだという話は聞いたことが無いから、大丈夫だろうと思う。
「もう一つ貰えんか?」
「晩飯の後にやるから、それまで我慢しろ」
「分かったのじゃ。
それでじゃ、ノアよ、これもここで作るのじゃ」
「リンゴを育てたことが無いから分からないけど、他のものと変わらないと思うから、やってみるか? ただし、リンゴの実がなるまでには長い時間が必要だと思うぞ」
「構わんのじゃ」
「畑に植えてしまうと他の物が育てられなくなるから、畑の横にリンゴを植えようか」
「種も買ってきてあるのか?」
「種は……ほら、ここに」
俺は、小刀でリンゴの芯の割って、中から種を取り出した。
「随分と小さい種なのじゃ」
「これを畑の横に植えよう。
土を作る処から始めないと駄目だぞ」
「リンゴは、妾が育てるのじゃ。
ノアにも手伝っては貰うがの」
「分かったよ。
じゃあ、ヴィーヴルと俺はリンゴを植える土造りをしてくるよ。
アン達はこっちの作業を続けてくれ」
『分かりました』
「あ、ドノバン達が引っ越してくることに決まったけど、細かいことは作業をしながらでも良いか?」
「良いのじゃ。
さぁ、ノア、リンゴを作りに行くのじゃ」
ヴィーヴルの、何かのスイッチが入ったようだった。
 




