第102話 魔王も移住?(2)
「確認だが、ルシフェルは3日後から此処に暫く居ると言う事になったのか?」
「うむ、そうなるな。
よろしく頼むぞ」
「此処には泊められるような所もないし、第一、此処に居ても仕方がないだろ」
「此処に居るのは……龍の監視という事だ。
龍が度々出てきているのは、魔族としても放置できん。
龍に対抗できるのは我しか居らんから、『仕方なく』此処へと留まることにする」
いや、『ヴィーヴルの監視』と言うのは、後付けの理由だろ。
絶対、他の目的があるはずだ。
「留まる所については、場所さえあれば、後は魔法で家を作るから問題ない」
「あんまり、広い場所は提供できないぞ」
「我1人が寝られれば良いから、広くは必要ない。
広いと却って落ち着かぬから、狭いぐらいでも構わん」
「マスティマだったか? が、すごい形相でこっちを睨んでいるんだけど……本当に、こっちに来て大丈夫なのか?」
「魔王様は、こんな所へ来るべきではありません。
王とは、城にて君臨していなければならないのです。
監視だけなら、他の者にもできましょう」
「龍が何かしてからでは間に合わんからな。
他の者では止められまい」
「しかし……」
「妾は暴れたりせんのじゃ。
此処で暴れたら、畑が潰れてしまうのじゃ」
「今はこう言っておるが、何があるか分からんからな。
やはり監視は必要だ」
そう言いながら、ルシフェルが手招きをしてヴィーヴルを呼び寄せた。
小さい声で、ヴィーヴルとルシフェルが何か話しているけど、内容までは聞こえない。
だが、話し終わった直後に、ヴィーヴルから
「まぁ、突然、妾も暴れたくなるかもしれないのじゃ。
近くにルシフェルが居れば、直ぐに止めてくれるだろうし、安心なのじゃ」
見事な前言撤回だ。
あの場で、何らかの取引が行われたようだ。
ヴィーヴルが、眩しい位に笑顔を輝かせている。
魔王様とドラゴンが、裏でがっちりと手を組んだ状態だ。
誰に止められよう。
「分かりました。
では、3日後からこちらにて政務を行えるように、調整いたします。
ただし、魔王様の監視役として、私もこの地へと留まります。
よろしいですか?」
「いや、ベルゼバブ。
お前は、城とこの地との連絡係をやって貰いたいのだが……」
「よろしいですか?」
「だから、あの、その……」
「よろしいですね?」
「……はい」
魔王より迫力があったし、身体の芯から冷えたような気がした。
ベルゼバブは、絶対に逆らっちゃいけない人なんだろうな。
「……じゃあ、2軒分の大きさを用意しておけば良いのか?」
「いいえ、1軒分の広さで充分です。
私は、魔王様の軒先をお借りいたします」
「それでは、我が羽を……いや、婚姻前の婚約者でもない男女が、同じ屋根の下で暮らすのは問題となろう。
断じて許可できん」
「いいえ、魔王様は監視しておりませんと、直ぐに政務を放棄してしまうか逃げ出してしまうから駄目です。
私が同じ家にて、四六時中、監視させていただきます」
「でも、しかし、同じ屋根の下と言うのは……」
「よろしいですね?」
「……はい」
あれ? つい、さっきも見たような気が……
「連絡係は、私が新たに任命しておきます」
「分かった。
では、今日の所は城へと帰ろう。
3日後、再び参るので、よろしく頼むぞ」
そう言い残して、ルシフェル達は飛び去って行った。
内容を整理すると、ドラゴンが洞窟の外へと頻繁に出ていたので、魔王様が様子を確認しに来た。
当のドラゴンは畑作業をしていただけ。
確認も終わったので帰ろうかという時に、魔王様が此処に居るとゴネだした。
仕方が無いので、お守り役の女魔族も居ることになった。
纏めると、こんな所だろうか……
どうにも理不尽のような気がするのだが、この理不尽さを誰に言えばいいのだろうか?
アンやドゥ達は、畑の端っこの方で固まって震えている。
まずは、そちらへ事のあらましを説明して、震えを止めてやろう。
魔王が住むことになった事は、夕食の時にでも切り出そう。
今日のご飯は、味を感じなくなるかもしれない。




