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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第三章:荒野の抑圧された風

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荒野の住人

 「もういっそ我は歩いた方が良いのでは?」とウルはしょんぼりしていたけど、さすがに一人だけ歩かせるのも微妙な気分だったので二人乗りを続行しての移動となった。

 やっぱり徒歩に比べて楽だし体力の消費も抑えられますわぁ。ただ、現実になった今は頼りすぎると体力が付かないと言うジレンマに陥りそうなのがまた何とも。


 並足でポクポクと馬がやって来たであろう方向へと歩かせて行く。今のところは影も形も見えないけれど、村もしくは馬を探しに来た住人もちぬしを見つけられるかもしれないからだ。さすがに飼い馬をこれ幸いとばかりにそのまま乗り逃げする気概はわたしにはない。見つからなかったらどうしようもないけど。

 レグルスはまだ馬に慣れないのか馬上で時折あたふたしている様が見られるが、わたしの後ろに居る――尻尾の都合で前より後ろの方が良かった――ウルはやけに大人しい。

 手綱はわたしが握っているから操作に気を取られるとかはないのだけども、乗る前に馬に怯えられたことを気にしているのか乗馬体験が珍しいのか。

 それとも疲れたのかな? 馬はずっと乗ってるとお尻やら足やらが痛くなってくるらしいからね。適度に休憩を挟むようにしないと。


「ウル、さっきから静かだけど疲れた?」

「……いや、そうではない」

「じゃあ何か気になるものでも見えてる?」


 視点がちょっと高くなったことで変わったことでもあるのかと聞いてみたけど、これも「そうではない」の返答。

 ウルにしては珍しく歯切れが悪い気がするなぁ。うーん?


「さっきから……何と言うか、落ち着かない気分なのだ」


 どこかから危機的な何かが迫ってるならもっとピリピリしてるだろうし……もしくはそんなに馬に乗りたくなかったパターンかな?


「馬から降りて歩きたい?」

「……このままで良い」

「そう……何かあったらちゃんと言ってね」


 と伝えたら、ウルはわたしのおなかに回している腕をもぞもぞさせ、肩におでこを乗せながら小さく頷いてきた。

 ……やっぱり自覚がないだけで実は疲れてるのかしらん? もうちょっと進んだら休憩にしよう。



 多めに休憩を取りつつ進み、夜になり一晩過ごして。朝を迎えてまた馬に乗って進み始めて少しした時に、やっと望んだ変化が訪れたようだ。


「……リオン、前方に影が見える」

「お?」

「また馬か?」


 ウルは視力も良い。わたしとレグルスではまだ見えてないのだが、何かを捉えたようだ。


「馬ではあるが……ヒトも乗っているな。三頭と言ったところか」

「おぉ、住人はっけーん!?」


 大河を渡ってから初の現地人との遭遇だ。否が応にもテンションが上がってくる。

 が、続けられた言葉でやや冷静に戻ることに。


「武器を持っているので、念の為警戒しておいた方がいいぞ」


 狩り用だったり、こんなご時世であるのでモンスター用に武器を持っている可能性は大いにあるだろう。

 ただ……わたしは知ってしまっている。


 住人が善人とは限らないことを。


 ここはゲームの世界ではない。現実なのだ。

 だから悲しいことだけれども、襲い掛かられる可能性も頭の片隅に置いておくべき、と言う警告をしてきたのである。

 こちらは(見た目)子どもが三人なのだ。強盗行為をするには絶好の獲物にしか映らない。実態がアレなのでその時はご愁傷様ではあっても自業自得よね。

 わたしはいつでもQAボックスから武器を取り出せるように心構えをする。最初から構えていると要らぬ敵愾心を煽ってしまうかもしれないので準備だけだ。レグルスの方からも緊張が伝わってきた。


 数分もしないうちに、わたしの目にも馬とそれに乗っている人の姿が小さく見えてきた。あちらもわたしたちが見えたのか、真正面から対峙できるように微妙に進路を変えている。……敵意もなく不意打ちをする意図はないと言う意味か、それとも馬鹿正直に突撃してくるのか……。

 内心で心臓をバクバクさせながらも近付いて行くと、あちらは手前でスピードを落として馬を止め、持っていた槍の刃先を下の方へと向けた。

 ふぅ……即戦闘にならなくて良かった……でも会話次第でどう転ぶかな。


 一人、代表なのか数歩前に出てくる。

 わたしとウルの方を見て、レグルスの方を見て……何度か目を瞬いてから首を振り。……何だろう?

 よくわからない仕草をしてから声を上げる。


「つかぬことを聞きたいのだが」


 その馬に乗っていたのは意外にも若い女の子だった。わたしと同じくらいに見える。そしてどうでもいい話だけど結構可愛い。わたしはウルの方が好みだけどね。

 ベージュ色の髪に白のメッシュがいくつか入っており、頭部からひょこりと丸い耳が飛び出ている。獣人ビーストか。

 その体は細身であるけれども引き締まって、ウルと同じく体格から強さを測ろうとすると痛い目に遭いそうだ。

 残りは二人共男性で、片方が青年もう片方が壮年と言ったところで、どちらも同じく獣人のようだ。目付きが鋭く袖から覗く腕が太く、こちらは見るからに強そうだ。


 さて……応対するべきはわたしだよね。緊張を悟られぬようひっそり息を大きく吸ってから返事をした。


「何でしょう?」

「……その馬はお前達のものか?」


 あぁ、やっぱり馬の持ち主かな? まだ油断は出来ないけれども、嘘を吐いても仕方ないので正直に答えよう。本当に持ち主だった時に馬泥棒扱いされるだけだからね。


「いいえ。先日さまよっているところを見つけたのですが持ち主が傍に居なかったので、せっかくだから乗せてもらおうかと思いまして」

「そうか。そのたちは私の所有する馬なんだ。先日のモンスターの襲撃で驚いて逃げ出してしまってね。多少なりとも謝礼を支払うので返してもらえないか?」

「……不躾な質問をしますが、この馬があなた達のものであるという証拠は?」


 万が一、馬を返そうと近付いたところをグサりとされても困る。

 わたしの発言に気を悪くしたのか後ろ二人がザワりと武器を構えかけたけれども、少女が腕を横に突き出すことで押しとどめる。


「耳にタグがあるだろう? マローとブラウと言う名前が書いてあるはずだ」


 おや、気付かなかった。

 耳を見てみると……指摘の通りに『ブラウ』と書かれたタグが付けられている。レグルスを見るとこくりと頷き返してきた。


「失礼しました。確かにあなた達の馬であるようですね。こちらとしても持ち逃げする気は毛頭ないのでお返ししますよ」

「感謝する」


 道中楽したいと言う思いも大きかったけど、元々持ち主に返す目的もあったことだしね。

 わたしが素直に了承すると少女は目に見えてホッとしていた。あちらも争う気はなかったようだ。

 色々気を揉んだけど杞憂だったね。良かった良かった。

 ……で、終わるかと思ったのだけれども。


「ところで。おまえが会話に応じたと言うことは、この群れのリーダーはおまえなのか?」


 少女がわたしに向かってそんなことを聞いてきた。

 群れって……まぁそう言う文化なのだろう。適当にパーティと読み替えればいいかな。


「そうですよ。それが何か?」

「……それなら」


 グッと少女は目に力をこめて。


「その男を婿に欲しい。私と勝負しろ」


 レグルスを見て、全く思いもよらなかったことをのたまうのであった。


「…………はい?」


仮にも百合作品で何書いてるんだろ…と思わなくもないです。

ヒロインその3ではありません。

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[一言] >仮にも百合作品で何書いてるんだろ…と思わなくもないです。 >ヒロインその3ではありません。  いやいやいやいや。  百合作品だからって、別にノーマルカプやノーマルラブすら排除する必要はあ…
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