旅のお供に
翌日、探索に必要な物資の補充と装備の修復……と言うより新調をして。その翌日には休養日と称してモノ作りの研究をして。なお、ウルに呆れたような視線を向けられたけど、もはやわたしのやることと諦めたのか止めはしてこなかった。ハハハ。
更にその翌日、今日から探索を再開することにした。
ウルがめちゃくちゃ渋い顔をしてたもののさすがにこれを止めるわけにはいかず『雷の音が聞こえたらすぐに帰還石を使うこと』、『夜間は地面の下に隠れて休むこと』の二つを徹底すると約束した。
「今は無理でもいずれ焼いて食ってやる……」
「あはは、いつかはリベンジと行きたいものだね」
とは言ってもそれは一体何時になることやら……そもそも遭おうと思ってもなかなか遭えない存在だからね。
地球にはめちゃくちゃ雷が落ちる地域もあるらしいけど、アステリアにもそういう地域があったりするのかな?
残念ながら位置は数日分戻り、大河を越えた所からのリスタートとなる。ここの創造神像が壊れてないだけでも良かったと思っておこう。
同じルートを辿っても何もないしヒマになるだけなのが目に見えているので、今度は少しだけルートをずらし大体北西の方角へと向かう。北東じゃなく北西を選んだ理由は特になく適当だ。
道中はまた同じように目印となる石を積みながら、ぼちぼち素材回収もしながら進んで行く。
「……こっちの方も何もねぇな」
「そうだねぇ……」
レグルスのぼやきに全面同意である。アルタイルのような災害と遭遇するのはごめんだけど何もないとダレて来てしまう。何か面白いモノないかな?と思ってしまっても罰は当たらないだろう。……当たった後?
途中、何度か野営を挟み、一度拠点に戻り。また同じような洞窟型のダンジョンを発見したので探索をする。
「そう言えばレグルス、雷のやつどうなった?」
「特に進展はねぇなぁ」
あの時のようにパチっとほんのちょっと雷が出る以上のことは出来ていないらしい。まぁまだほんの数日だし、わたしみたいに惨事になりかけても困るだろうけどね。
ライザさんの訓練があったので別行動だったけど、レグルスも一度フリッカに見てもらった方がいいのかな。
「ほれ二人とも、警戒が疎かになっているぞ」
「おっと、すまねぇ」
「ごめん」
ウルに窘められ、ダンジョン攻略に集中する。
ガーディアンはハイオークで、特筆することもなく無事に攻略完了しましたとさ。魔石うまー。
そんなこんなで更に一日経った昼間のこと。
「む、リオンよ、あの丘の向こうから何かが二つ来るぞ」
ウルは前方にあるなだらかな丘――わたしの身長以上の高さはあり向こう側は見えない――を指して警告をしてくる。
「……ついに昼間にも行動出来る程のモンスターとの遭遇かな?」
空を見上げると雲一つなく燦燦と陽光が降り注いで来ている。まさに創造神の力が強いであろうロケーションなのだけれども……それをものともしないほどの強敵なのだろうか。
わたしたちは武器を取り出し戦闘態勢を取った。緊張にごくりと唾を飲み込みながらわたしは弓を構え、丘から顔を出したらすぐに撃ち抜いてやる、と言う気概である。
あった、のだが。
「……あっ」
「む?」
「お?」
丘からひょこりと顔を出したのは……二頭の馬だった。
ウルが感じ取った気配?はそれだけで、モンスターに追われていると言うわけでもなさそうとのことで、わたしたちは警戒を解き近付く。
ただしこの時、不用意に近付きすぎてはいけない。野生の馬には気が荒いのもいて、蹴られることもあるからだ。地味に痛いのよね、これが。もちろん経験済みですともウフフ。
馬はスピードを緩めずにこちらへと向かってくる。え、まさかこのまま攻撃してくる程荒っぽいタイプだった?と慌てたけれどもそれは杞憂だったようで。
わたしたちの少し手前でゆっくりになり、立ち止まるのだった。……逆にめちゃくちゃ大人しいタイプなのかな……いや、違う。
「……誰かに飼われている馬、かな」
わたしが手を伸ばすと、逃げる素振りもなく撫でられてくれる。おぉ、馬の手触りってこんな感じなんだな。
「ふむ?」
ウルもわたしの真似をしてもう一頭の馬を触ってみようとするが、ヒヒンッと鳴き何故かわたしの後ろへと隠れるように移動する。
「……ぐぬぬ……」と微かな呟きが聞こえ、宙に上げられたまま寂しそうに揺れる手にちょっとばかり哀愁を誘ってくる。
丘の上へと登り周囲を見回してみたが飼い主らしき人影は見当たらない。どこかから逃げてきた? はぐれた?
どちらにせよ「ひとまず休憩しようか」とご飯を食べることにした。
馬たちにも水と干し草を与えてやると慣れた様子で飲み食いしているので、やはり飼われている馬なんだろうなぁ。……野生だったらわたしの馬にしようと思ったのに、残念だ。
「……リオンってホント色々持ってるんだな」
「備えあれば憂いなし、ってね」
馬の餌(牛の餌兼用)をスルっと出したわたしに対し、レグルスが呆れたのだか感心したのだかわからない調子で言ってくる。
まぁこれは大容量のアイテムボックスを誇る神子だから出来ることだろうね。普通であれば使わないだろう物で貴重なボックスの枠を埋めるのは愚か者のすることだ。
「むぐむぐ……それで、あの馬たちはどうするのだ?」
「せっかくだから乗せてもらおうかな、って」
飼育馬なら乗せてくれるでしょう。警戒心が強いならそもそも近付いてもこないだろうし。
二頭しか居ないけどわたしとウルくらいなら二人乗りは出来るはず。余談だけど、ウルは体は小さいけど筋肉量が多いのかわたしより重い。尻尾の分も上乗せされてると言うのもあるかな。でもいくらなんでもレグルスよりは軽いと思うのでこの組み合わせになる。
……心情的に、いくら友人であろうと異性のレグルスと密着するのは非常時でもない限り避けたい。リーゼに拗ねられそうって理由も大きいけどね。
「あ……レグルス、馬に乗れる?」
「……乗ったことないからわからん。最悪自分の足で付いて行くさ」
わたしもゲームがVRだったから乗り方はふんわりとわかるのだけど、リアルでは初めてである。なのでご飯の後にまずは軽く乗馬訓練をすることに。
鞍と手綱を取り出して装着させていく。これも『いつかは使う時が来るかも』と作っておいたのですよ。
「えーっと……手綱を持って、左足を鐙に引っ掛けて、鞍をしっかり掴んで……右足を上げる、っと」
馬が大人しくしてくれていたのもあってすんなりと上に乗れた。
いつもより高い視点だけれども、建築で屋根の上に居ることもよくあるし、この探索の間に超高い位置から見下ろしたことが何回もあるのでこれくらいなら全然平気だ。
「行ける?」
わたしの声に応答するように馬はブルル、と嘶いてゆっくりと歩き始める。
右に重心をわずかに傾け右足で馬のお腹を押さえて右へ曲がり、同様に左でやって左へ曲がり。その次は速足をさせて……あのゲーム、こんな所も割と良く出来てたんだな、などと心の中で思いながら一通りの動作を済ませて行く。
軽く手綱を引いて停止。降りるのも大丈夫、っと。
「リオン、なかなか様になっていたのぅ」
「ありがとう。でもこの子がきちんと訓練されているだけだよ」
見学していたウルから褒められたけど、さすがに野生の馬が相手ならこうも行かないだろうね。まずは懐かせる所からやらないといけなくなるし。
「じゃあ次はウル……あっ」
「……」
ウルが近付いたら馬は落ち着きをなくし、足をバタバタとさせ始めた。
どうどうと鎮めようと試みるも、耳や首が忙しなく動いている。手綱を握っていなければ走り出してしまいそうだ。
……もしかして。
「……ウルを怖がっている……?」
「……我、何もしておらぬのだが……」
拠点の牧場でも、最初のうちは牛も鶏も怯えていたのをふと思い出した。
生物たちはウルが途轍もなく強いってことが肌でわかるのかしらん……? うちの子たちは今ではすっかり平気になってるけども。……野生が失われただけの可能性もあるか。
ちなみに、レグルスは初めのうちは苦戦したものの、しばらく練習したら問題なく乗れるようになった。なんだかんだで彼もかなり運動神経が良いのよね。
「ウルの姐さんより弱いと馬にまで思われてるとか、複雑なものがあるんだぜ?」
「それは事実だから諦めよう」
とりあえずもうちょっとレグルスには練習しててもらい、ウルを乗せてみようとするも上手くいかず。……馬だけに? いやごめん何でもないです。
最終的に多少は慣れてくれたのか、わたしがまず乗って「大丈夫だよー、怖くないよー」と宥め続けることでウルを乗せることが出来るようにはなった。
「……ぐぬぅ」
「ま、まぁ元々二人乗りする予定だったんだしね……?」
わたしはウルの方も宥めることになるのであった。
たまにウルの尻尾の存在を忘れそうになります(げふんげふん




