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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第三章:荒野の抑圧された風
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取り扱い注意

 雷魔法は難易度の高い魔法である。なのでまずは初級であるイグニッションから試してみよう。

 意識を集中するために指を伸ばし、魔力魔力と念じながら唱える。


「火よ、灯れ。イグニッション」


 ……。


 ……何も起こらない。

 完璧なまでのスカになんだか恥ずかしくなってきた……。

 ぐぬぬ、と唸っているとフリッカが困ったように眉を下げて呟く。


「……指先から魔力が放出はされているようなのですけれど……魔法になる前に霧散している感じでしょうか。よくわからない状態ですね……」


 なんでも、(幼くて)魔法が使えないエルフの子は魔力の放出が上手く出来ないらしい。種族特性で魔力視が出来るせいか魔力を感じるのは得意なのだけれども、それを動かすことに慣れることから始めるそうだ。そして魔力が放出出来るようになれば、イグニッションのように簡単なものなら適性が全くない場合を除き失敗する方が逆に難しいとのことで。

 この場合の適性とはその属性の魔法が使えるかどうかだ。個人差もあるけれど、エルフは火水風地光と大体持っている。闇魔法なんかはほとんどの種族が適性を持っておらず、聖属性などはまた別カテゴリになりこれは誰なら使えるとか一概には言えない。

 ……あれ? つまり神子って全属性適性皆無だから魔法が使えないと言うこと?


「……他の初級魔法も試してみますか?」

「……そうしてみる」


 湧き出た不安を頭の隅に追いやり、続けて行った水魔法のスプリング(少量の水を出す)、風魔法のブリーズ(そよ風程度の風が起きる)はどちらも上手く行かなかった。

 わたしは内心で汗をかきながらその次に、しゃがみ込み地面に手を当てて。


「地よ、起これ。ディグ」


 ポコッ


 すると……わずかにだけれども土が盛り上がった。


「お、おおおお動いた……!?」


 ディグとは地面を掘る魔法であり、唱えることで小さな穴を掘ったり耕したり出来る、農業に使うと便利かな?と言う魔法だ。

 今まではウンともスンとも言わなかったのだけれども、ほんの小さなものとは言えやっと変化が起こったことにわたしは喜びの声を上げる。

 しかし、対照的にフリッカはどこか浮かない顔をしていた。


「……何だかおかしいですね」

「えっ? 動いたから出来たってことなんじゃ?」

「いえ、リオン様から放出された魔力量からすると、その程度ではないはずなのですが……」


 例えるならば、魔力を三消費する魔法で十の魔力を使いながらも、本来の半分の結果も得られなかったようなものなのだと。

 なんたる無駄の極み……!?


「えーっと……ウルが力を篭めすぎてモノを壊しちゃうように、わたしも魔力放出量が多すぎて魔法を壊してる、とか?」

「その場合は通常時より強い魔法が発動するだけで、失敗したり減衰したりすると言うことはない、はずです」


 モノによっては繊細さを求められることもあるけれども、初級魔法でそんな事例は聞いたことがないそうだ。うぬぅ、どういうことだろう。

 なお、わたしの出した例にウルがしかめっ面をしていた。ご、ごめん。


「と、ともかく、動いたには動いたのだから、これはこれで良し……としちゃダメ?」

「……そう、ですね。リオン様はモノ作りが得意なので、物質を操る地魔法になら適性があるのかもしれません。……これを適性と言って良いのかは疑問ですが」


 ……現状、魔力の無駄使いすぎるものね……全く出来ないよりはずっとマシなのだけれどもさぁ……。

 ここで大人しく経過を見守っていたウルが口を挟んで来た。


「適性と言うのであれば、リオンはそれこそ雷の適性が出来たのではないのか?」


 あー……それは確かにあるかもしれない。

 元々魔法が使えなかった神子わたしが、雷だけ適性ロックが解除されました、みたいな展開もあったりするかも?


「何か雷魔法で知っているものはないのか?」

「あるにはあるけど……」


 一つ、ライトニングボルト。

 アルタイルも使って来た、対象に雷を落とす魔法である。

 ……ただし雷雲がないと使えない制限付き。

 『意外と使えねぇ……』って? 制限が大きいからこそ威力も高いのですよ……そこは身をもって知ったからね……。


「……無理だの」


 雷雲なんて全く見当たらない真っ青な空を見上げてポツリと零すウル。フィンもつられて見上げている様が視界に入ってちょっと微笑ましい。


 二つ、スパークフィールド。

 空中、地面を問わず雷を平面状に展開し、攻撃かつ痺れ効果を発生させる魔法だ。威力はそこまで強くない代わりに範囲が広いと言う特徴がある。後はやっぱり痺れの状態異常が強く、空の敵にこれを放てばボトボト落ちてくる。

 ……ゲーム時代、山岳地帯をまともに歩くのが面倒でジェットブーツで跳んでいる時に落とされたことがありますとも、ハハハ。落下ダメージによる死のオマケ付きでね!

 なおアルタイルは雷に耐性があるのでこれで落とすことは出来ない。ふんぬぅ。


「……使えれば便利だろうが聞くだに危険よの……」

「ですよねー」


 わたしの知っているのが威力の強いやつばかりだからねぇ。……初級の雷魔法って存在するのかな……?

 場合によっては探す所からしなければならないのだろうかと思い始めたのだけども。


「ところで、レグルスは何故使えたのだ?」

「ん? あれは魔法とも言えないよ?」

「魔法とそうでないものの線引きが我にはよくわからぬが……リオンもまず同じようなこと、その、魔法ではない?雷の使用を試してみてはどうだ?」

「……? ……うん、そうだね」


 ウルのその言葉にも一理あると感じたので試してみようかな。

 ……『魔法とそうでないものの線引き』に何か引っ掛かったような感触があったけれども、この場ではスルリと頭から抜けて行ってしまった。


 とりあえずレグルスの真似として、拳を突き出した姿勢を取ってみる。

 魔力、雷、魔力、雷……と念じながら、うにうにと魔力……とわたしが思っている体内のモノを動かしていく。

 レグルスのアレは静電気のようなものだったけれども、実際の雷と言えば――


「リオン様!!」

「――は?」


 わたしが雷を想像し、フリッカの切羽詰まった声が耳に届いたその瞬間。


 ――バヂィイッ!!


「っつあああっ!?」

「きゃああああっ!!」


 レグルスの時とは比べ物にならない、まさに雷光と称したくなる程の強烈な光が溢れ衝撃が走った。

 発生源であるわたしだけでなく、すぐ傍にいたフリッカを巻き込んでしまう。

 ……幸いだったのが、わたしの魔法行使能力が低いせいなのか光量の割には威力が低かったことだろう。


「リオン! フリッカ!」


 パシャンッ! と咄嗟にウルが投げ付けたポーションにより大事には至らなかった。

 少しばかりフラつく足取りで倒れたフリッカの隣に屈みこむ。


「……フリッカ、ごめん。大丈夫……?」

「……はい、ちょっと、痺れている、くらい……です」


 痺れの状態異常が発生しているのかな? 抱き起こしながら緩和ポーションを使うと正解だったようで、大きく息を吐き出していた。

 火傷は……してないみたいだね。頬に手を当てて確認してみるけど見た目には問題がないように思える。


「ふふ、これで傷でも残っていれば『責任取ってくださいね』とでも言えたのでしょうか」

「……あはは……わりと強かだね、フリッカは」


 冗談が言えるくらいなので本当に問題ないのだろう。表では苦笑しつつも内心ではめちゃくちゃホッとした。


「二人とも、無事か?」

「うん、そっちは?」


 ウルとフィンも駆け寄ってきて「何ともない」と返してくる。

 ちら、と二人が居た所に視線を向けてみると――地面に描かれたいくつかの線がある中で一つだけプツリと途切れた跡がある。

 ……ウルがフィンをかばったのかな。それでいてウルは無傷なのだからさすがである。


「えぇと……わたしにはよくわからなかったんだけど、フリッカには何が起こったのかわかる?」

「私にも詳しいことは……ただ、リオン様の手に魔力が集まりすぎていましたので……」


 ふむん……? つまりは扱いきれない力を使おうとして暴走した、とかそんな話になるのかな……?

 ……扱えないからこそ練習したいと言うのに、なんとも歯痒いものだなぁ。

 今回は無事だったけど危険のようだし、次からは一人で練習するか?と頭を過ったけれども。


「……リオン様、私もウルさんも居ない時に練習をするのは止めておいてくださいね」

「……はーい……」


 わたしの考えが顔に出ていたのか釘を刺されてしまった。まぁ一人で何かあった時の方が危険か。

 ともあれ、しばらくはやめておこう……。


 かくてわたしの初めての魔法(もどき)は大失敗となったのであった。

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