小手調べ
速攻で闇神を叩く、と行きたいところだけれども、ここまで強化モンスターが多い状態だと危険だ。先に周りから片付けて対闇神に集中出来るようにしよう。
「皆、囲まれないように気を付けて! ウル以外は突出厳禁で!」
了解の声を聞きながらわたしは聖剣を構えて一歩前に出る。その横をウルが風となって駆け抜けた。
先頭に居たソードエイプだったモノと早速激突する。しかし瘴気に衝撃吸収されている上に強化度が高いのか、元ソードエイプはいつものように一撃で倒れたりせず、少しのけぞっただけだった。
「さすがに硬いのぅ……!」
反撃すら仕掛けてくるがウルは難なく避け、カウンターでリバーブローを放つ。いやモンスターに肝臓があるのかどうか知らないけど。これも大してダメージは入らない。
何度も何度も、わたしであればとっくに全身の骨がバッキバキになっていそうなくらいに攻撃を当てるが、元ソードエイプは倒れない。ウルは破壊神の神子だけあって、わたしの聖属性バフがほとんど効果がなく特攻が乗らないのが残念だ。
舌打ちを零すウルに闇神が嘲笑する。
「ハハ、破壊しか能のない、邪竜に何が出来ると、いうのだ」
侮辱にウルは鼻を鳴らすだけで取り合わない。破壊神の神子であってもわたしよりよっぽど我慢強いな。
涼しい顔のままのウルに逆に闇神が気を悪くしたようで、指をパチンと鳴らす。
直後、ウルの足元から闇色の槍が生えてきた。ウルは持ち前の野生の勘で飛び退いて避ける。が、僅かに間に合わず、足に傷を負った。
「ウル!?」
「……問題ない、ただのかすり傷である」
かすっただけでウルの防御力を突破した時点で高威力だとわかる。さすが腐っても神ということか。詠唱なしに魔法を使うのもさすがだ。
……いや、モンスターも魔法の詠唱を必要としないのだ。やはりわたしが知らないだけで何らかの法則が隠れているのだろう。せっかく魔法が使えるようになったのだし、しっかりと研究をしておくべきだったか。なおわたしは、結局アイテムを使う方が速効性があるのであまり実戦で魔法を使うことがない。接近戦をしながら詠唱をするとかロマンはあるけど舌を噛みそうだし。
直撃しなかったもののウルの顔がしかめられたことに気を良くしたのか、闇神は追撃を見せなかった。……余裕だな。でも相手が油断してくれているのはありがたくもある。本気を出される前にモンスターだけでも片付けたい。
「うりゃあっ!」
レグルスが威勢の良い掛け声と共に拳をアッシュリカント――灰色の毛皮が今は真っ黒でダークリカントとでも言うべきか――にねじり込む。ウルほどの速度も威力もないが、レグルスには聖属性バフが乗るので結果としてはこちらの方がダメージが通っている。しかも拳を当てた部分は一瞬瘴気が消えるので、同じ場所を殴りつけることでどんどんと効果が蓄積していくことになる。
「リーゼ!」
「任せて!」
レグルスはリーゼの名前を呼んだだけだが、いつも一緒に訓練しているだけあって意図をしっかりと察しているようだ。
少し体をずらしたレグルスのすぐ横をリーゼの槍が紫電のように突き入れられ、瘴気が削れていたこともあって深々と刺さる。痛覚のなさそうなダークリカントも聖属性バフは苦しいのか、叫び声を上げた。
とはいえダークリカントの耐久値も上がっていることで早々に倒れず、黒い血を撒き散らしながら前進を続けようとする。レグルスが殴るのと同時にリーゼが槍を引き――
「セイクリッドウインドランス!」
二人とダークリカントの間が空いた刹那、ダークリカントの足をフリッカの放った聖なる風槍が吹き飛ばした。いかに耐久があろうと動くための足がなければどうしようもない。続けてリーゼが倒れたダークリカントに槍を突き刺すことで、運良く魔石を貫いたのかやっとダークリカントの動きは止まった。
「くそ、しぶといな! やっと一匹か……!」
「でもあたしたちの攻撃は効いてるよ!」
「えぇ、この調子で頑張りましょう。リオン様の足を引っ張るわけにはいきません」
もちろんわたしはサボってなんかいない。励まし合う三人の声を聞きながら。
「はあっ!」
聖剣で元ジェネラルゴブリンの胴を横一文字で両断して。
「ここか!」
魔石があると思しき右鎖骨を一刺しして倒す。
レグルスから「……お、おぉ……」とちょっと呆れたような感嘆が漏れる。あっさり倒したように見えるけど、創造神の神子による聖属性ブーストに加えて、火神の協力を得て鍛えられた聖剣、そして破壊神の神子による膂力アップの恩恵のおかげであるので、得意げに胸を張ることではないけどもね。
「いやそうだとしても、どうやって魔石の位置を判別してるんだ……?」
「……勘?」
「……そっかぁ……」
わたしは近くにいたもう一体のモンスターを斬り捨てながら答える。残念そうにしているけど、本当に勘としか言いようがないんだ。ごめんよぅ。
あえて説明するとすれば……変に魔力が溜まっているところ、かな……。瘴気で強化されているのだけれども、その瘴気が一番汚染しているのが魔石である、みたいな。魔石から血液のように瘴気を全身に巡らせているのかもしれない。
「魔力のことはわからないなぁ……」
「私は観察すればわかるかもしれませんね……やってみます」
レグルスと同じく汗をたらすリーゼと対照的になるほどと頷くフリッカ。
「観察に集中するあまり、他を疎かにしないように気を付けてね」
「はい」
まぁこの辺りはレグルスとリーゼがしっかりフォローしてくれるだろう。皆は本当に頼もしくなった。
っと、のんびりと話をしてもいられない。まだまだモンスターは残っているのだ。頼みの綱であるウルの攻撃が通りにくいせいで全然減っていないし、本人もとても悔しそうだ。あまりストレスを溜めさせないためにもさっさと全部倒して――
「――っ!?」
「ごふっ!?」
足元から嫌なモノが急激に迫ってくる感覚。
わたしは咄嗟にジェットブーツに魔力を流し、急加速しながらフリッカを右腕に、レグルスとリーゼを左腕に抱えて跳ぶ。離脱優先でレグルスの腹によい感じに食い込んだけど、許して!
その場を離れた直後に、地面から闇の槍がいくつも飛び出した。避けずに突っ立っていたら串刺しになったことだろう。誰が下手人かはわかりきっている。
「……勘のいいことだ……」
「……めちゃくちゃ臭ってきますからねぇ」
おそらく、普段?の闇神であれば前兆などわからなかっただろう。
瘴気に呑まれ汚染されているからこそ、それが僅かな臭いとなって、創造神の神子のセンサーに引っ掛かるのだ。……神子ルーエが闇神の異常に気付かなかったのは、瘴気が日常で感覚が鈍っていたのもあるのかもしれない。
しかしやはり、モンスターを倒し切るまでわたしたちを放置してくれるような都合の良い展開にはならなかったか。皆に闇神の詠唱なしの魔法を警戒し続けろというのは厳しい。
意を決して闇神に突撃するか、と思った時。
「攻撃が通らずとも、これくらいの芸当なら出来るわ!」
ウルが大きなモンスターを闇神に向けて投げつけた。速度だけでなく質量も相まって、相当な威力になる。
「……小賢しい!」
闇神も素直に喰らってくれることはなく、闇の刃を放ちモンスターを両断する。
が、ウルの投擲はそれだけに留まらない。
「ほれ、こいつも倒してくれ!」
「……おのれっ……」
モンスターを減らす手段として使われていることを察した闇神は悪態をつき、闇の壁を作っての防御に切り替える。ぶつかっただけのモンスターは多少のダメージは負ったもののまだ健在だ。
それでもウルは手当たり次第にモンスターを投げていく。闇神の顔がどんどん怒りで険しくなっていくが、鬱陶しいからと下手に攻撃魔法を使ってはせっかくの手駒を減らすことになるので、必死に激情を堪えているようにも見える。
「……ウルが時間を稼いでくれている間にわたしたちも減らそう」
「……さすがですね」
フリッカと苦笑を交わし、残りのモンスターを倒しにかかるのだった。




