またも妙なモノを食べさせられる
「いっただきまーす! ――ぶっふおおぉっ!?」
「ちょ、レグルス兄!?」
どんな場所だろうとお腹は減る。むしろこれから本格的な戦いが始まるのであれば、わたしの料理の場合はバフが付くし、なおさら補給は大事である。ということで休憩に入ったわたしたち。
サンドイッチにかぶりつくや否やレグルスが吹き出した。ガッつきすぎて気管支に入ったのだろうか。
しかしそれも違ったようで、レグルスが口元を拭いながら涙目で訴えてくる。
「リオン……これ、変な味がするんだぜ……」
「えぇ? 味見はちゃんとしたんだけどなぁ……」
わたしは破壊神の力の制御はそこそこ何とかなってきたものの、未だに低めの確率でモノ作りを失敗してしまう状態だ。だからこそ、口に入れる料理の味見はしっかりと行ったし、その時は何も問題なかった。
まさかレグルスが食べた部分だけピンポイントに失敗していた、なんて珍妙なことが起こるのだろうか……?などと思いながらサンドイッチを調べてみると――わたしも「ぶはっ」と吹き出してしまった。口に物を入れてなくてよかった。
何故ならば、アイテムの説明文がこうなっていたからだ。
■ハムタマゴサンド
地神の加護で高品質に育った小麦、豚ハム、鶏卵、そしてジズーの卵で作成されたハムタマゴサンド。
非常に滋養も高くジューシーな味わいとなっているが、終末の獣の力ゆえに弱き者が食すと体に不調を来たす。
「ジズーさん何してんですかあああああっ!?」
料理に使った卵の山の中に、こっそりジズーの卵が紛れ込んでいたということなのだろう。卵の自動回収装置はさすがにそこまで判別はしてくれない。……まさかジズー、鶏小屋で暮らして、鶏たちと同じエサを食べているとかないよね……? というかジズーはメスだったの……? いやモンスターだから雌雄はないか。産んだのではなく何らかの方法で生み出した物だろう。
ともあれ、わたしの味見に引っ掛からなかったわけだ。以前の二大獣の果実水と同じパターンでわたしは普通に美味しいと思える味だったのだから。
今度会った時に『子どもたちが口にしたらどうするんだ!』とクレームを入れておかねばならない。わたしが一個一個卵を確認しなかったのも悪いのかもしれないけど……まさかこんな異物混入があるなんて思わないでしょ……。
わたしが説明するとレグルスは「うへぇ……」と呻き、フリッカとリーゼは無言で手にしていたハムタマゴサンドをバスケットに戻した。……うん、タマゴを使ってないやつを食べておくれ……。
「ウルはどうする……? 食べる……?」
「うぬぅ……」
ウルが睨みつけるようにハムタマゴサンドを見つめている。なにせ見た目はとても美味しそうなのである(味もわたしからするととても美味しい)。ご飯大好きウルさんであれば葛藤もするだろう。
やがて意を決して大きな口でかぶりつくと、カッと目を見開き、そのまま停止する。しばしの後にじわりと目に涙を浮かべ、それでもレグルスのように吐き出すことなく咀嚼して飲み込んだ。
「……我はこの一つだけでいいのである……」
「そ、そう……」
チビチビと食べればダメージも少なかったのでは……?という感想を心の中に留めつつ、わたしはカツサンド(一応確認済み)が入ったバスケットを口直しにどうぞの意を込めてそっとウルの前に押し出した。
しかしアステリオスといいジズーといい、彼らの行動はありがたいようなそうでもないような……せめてわたしに直接渡すように注意しておかないとな……。
それはそれとしてタマゴ美味しい。
休憩を終えて、わたしたちは行動を再開する。
変わらずモンスターたちは襲ってくるが、ディジーズグリズリーに比べればどいつもこいつも弱くて楽だった。パラサイトマッシュの手(?)もここまで伸びていないし、およそ脅威と呼べる物はなかった。
……であるのに。
「むぅ……嫌な臭いがするのぅ……」
「だよねぇ……」
「……そうかぁ?」
ウルとわたしはそろってしかめっ面になる。
レグルスなんかは鼻を鳴らしては首を傾げているが、嫌な臭いと言っても比喩の話だ。腐った臭いとか血の臭いとかが漂っているわけではない。
けれども、この身をチクチクと刺激してくるような何かがあるような気がしてならない。
はて、この感覚……以前にどこかでもあったような記憶が……あるような、ないような。どうにも曖昧だ。
「……あぁ、そういうことか」
「ウル?」
「この感覚が何かに似ていると思えば……リオンの聖域だ」
「えっ」
わたしだけでなく、全員がウルの方を見た。
この嫌な感覚がわたしの聖域に似ているって……え? わたしの聖域、ウルにとってはそんなにヒドいの……?
今更な事実に愕然としていたら、ウルが笑って首を横に振った。
「リオンの聖域は寒気はするがそれだけだ。嫌な臭いはせぬよ」
「……寒気ってだけでも大変だとは思うけど……」
頑強なウルさんが寒気を感じるとなると相当なモノではないだろうか? 相性の問題で耐性を貫通している可能性もあるけど。
「これは……そうだのう。聖域におかしなモノが混じっていると言えばいいのだろうか」
「おかしなモノ……? いやそれはさておき、聖域ってことは――」
「うむ。十中八九、彼奴の領域に入ったということであろうよ」
――神子ルーエの領域。
明確に聖域化されているわけではないので気付かなかったけど、言われてみればほんのりと聖属性が感じられる。
言われるまで聖属性に気付かないのは創造神の神子としてダメなのでは? と思わないでもないけど、ウルの言う通り『おかしなモノ』が混じっているせいでもある。
そのおかしなモノの正体はわからない。わからないけれども……良いモノであるとは到底言えない。
失格の烙印を押されかけているとはいえ、何故神子がこのようなモノを撒き散らしているのか。それとも単にわたしたちへの敵意の表れか。わたしも破壊神の力を得たのだし、それによってわたしとウルだけが察知出来ると考えるのが一番濃厚か?
モンスターたちはわたしの聖域にまさにこのような気持ちを抱いているのかもしれない。……と連想したところで、わたしたちもモンスターのような扱いをされているのだと思うと複雑になる。
「リオン様もウルさんも、モンスターだなんてありえませんね」
「と、ともかく。この辺りは一旦避けて、グルっと回ってみようか」
「そ、そうだの」
フリッカの笑顔がとても怖い。彼女の気を逸らすためにも、わたしは事前の取り決め通りに迂回するよう促し、ウルがサッと乗って来た。
そうしてわたしたちは少しばかり進路を変更する。
……が、嫌なことはそう簡単には避けられないようで。
「……うーん……導きの枝がやっぱりこっちを示しているよ……」
ついでに、わたしの勘も何かがあると囁いている。
『こっち』とは言うまでもなく神子ルーエの領域のことで、どうやら避けては通れないらしい。
それはそれで、以前も思い浮かんだ疑問がまた脳裏を過る。
神子の手が入っている場所に、この島の瘴気の元凶が存在しているのか? と。
最悪の事態としては、神子が元凶であることだけども……さすがにそれはないだろう。いくら創造神への敬意を失っていたとしても、村人たちの命を背負ったままそのような愚行はしない、はずだ。
「なぁリオン、ひょっとしてあん時と同じパターンじゃね……?」
「あの時?」
「レグルス兄が言いたいのはアイロ村のことだと思うよ」
「あー……」
アイロ村。
神子カミルが居ながらにして、信頼していた実の弟が裏で手を引いていたために村の地下にある元凶に気付けなかった、灯台下暗しな事件。
同じように神子ルーエが騙されている可能性も大いにあるか。アレは直情的すぎて騙されやすそうだし。
下手するとまた村人たち(の一部)を敵に回すのかぁ……いやすでに神子ルーエのせいで敵になっているか。そしてそれ以上に神子ルーエに関わるのがしんどい。けど、しんどいから止めようとは言えない。
「……行こっか」
溜息と共に吐き出したわたしの嫌そうな声に、皆も諦めたように頷くのだった。




