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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び
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異変の欠片

 凹みつつもお風呂に入って体がスッキリした所で、さっきのことを話し合う。

 いやぁ、お風呂作っておいて良かったですわー……命の洗濯とは正にこのことだ。


「あの大量のサイレントキラーが創造神様の言ってた異変なのかなぁ?」

「さすがにあの程度では違うであろう。影響は受けているかもしれぬが」


 うーん……影響か……。


「……そもそもサイレントキラーはモンスターでさえ刺して死ぬから、そんなに数が増えることは無いはずなんだけどなぁ」


 サイレントキラーはある程度より大きい生き物なら手当たり次第に襲い掛かっていた。プレイヤーであろうと、動物であろうと、モンスターであろうと、だ。

 ちなみに、モンスターではないからモンスターと敵対してもおかしくはないとして、モンスター同士でもたまに殺しあっていることがあったりする。その場合はモンスターが『経験値を得て』通常よりも強さを増すから注意が必要になる。


「いや、待てよ……?」


 数が減る所か増えていると言うことは……『刺す相手が居ない』から……?

 つまり……。


 破壊神の時間よるになっても、あの一帯でモンスターが沸いていない、と言うこと……?


 いやいやまさか、そんなことは有り得ない、はずだ。

 比較的平和な地域とは言え、夜になればモンスターは必ず出現する。それはもう初日に文字通り痛い程にわかっている。

 わたしの拠点みたいに夜間に聖水を常時撒いているなら沸きようもないけれども、誰かが聖水を撒くような場所ならサイレントキラーの巣を放置しているとは考えにくい。

 では、他に一体どう言った原因が……?


「……もしかして……」


 ……沸くべきモンスターのリソースが、他に取られている――?


 あくまでゲーム時代の話であるが、モンスターには特定条件下を除いて『沸き上限数』がある。この範囲内ではこの数までしか沸かない、と言うやつだ。

 実際、魔石のために一晩放置するのをよくやっていたのだけれども、モンスター数が湧き上限数を超えたことはなかった。

 もし際限無く沸いたらめちゃくちゃ処理が重くなって、処理落ちでプレイヤーが動けなくなって死ぬとかありえそうだね……。


 では、アステリアではどうなのだろうか。

 わたしは、上限はあると思っている。それは一定ではなく場合により増減がある、とも思っているけれども。

 作成メイキングに素材が必要なように、『モンスター作成』にだって何らかの素材やらエネルギーやらが必要なはずだ。

 それはダンジョンの核の『土地の恵みを吸い上げ』という話にも繋がってくる。

 つまり、土地の恵みが無ければモンスターが沸かない、それが上限である、と言う具合で……まぁ全ては推測だけれども。


 その上限数がゼロとかそれに近い数字だとモンスターが沸かなくて、サイレントキラーたちも刺すことがなくて死なずにどんどん増えることになる、のかもしれない。

 あそこで一晩聖水無しで過ごせばわかるかもしれないけれど……不慣れな森の中でそんな危険なことはやりたくないなぁ。


「ふむ? ではその、りそーす?とやらを持っていくモノに心当たりはあるのか?」

「一番確率が高いのはダンジョンの核だろうねぇ」


 ひょっとしたら気付いてなかっただけで、すでにダンジョンに足を踏み入れていたのかもしれない。

 神子の能力で気付くんじゃないの?って話だけど、気付けない程に遠く広い、もしくは……。

 核が、存在を隠蔽することが出来る、とか。


 ちなみに、わたしがゲーム時代に全然モンスターと遭遇しなかった事例は、ダンジョンの核周辺に集まっていたのと、地中など見えない位置にスペースがあってそこに溜まっていたとかの偶然を除いて、すぐに思い出せる範囲では三例ある。

 一つ目は、その地域に居たボスモンスターが、他のモンスターを食って――経験値にして超強化していたパターン。

 二つ目は、同じくボスモンスターが、周辺一帯のモンスターを率いて住人たちの築いた砦に攻め入っていたパターン。

 三つ目は、死の原野というフィールドで、命の気配が一切無かった場所だ。動植物だけじゃなくモンスターすら沸かないとか徹底してた。

 とりあえず三つ目の可能性は無いとして、一つ目も二つ目もどちらも怖いなぁ。もちろん、全然違う理由だったりする可能性だってある。


「現状では情報が無さ過ぎてどうしようもないね。今日はもう休みにして、また明日から慎重に進むとしよう」

「うむ……」


 さて、とりあえずわたしはアイテムの補充からだね。水はまだ大量にストックしてあるけれど、備えてないと落ち着かない……。



 翌日、ビクビクしながら帰還石を使い森に戻ってきたのだが、幸いにして周囲にサイレントキラーは居なかった。

 情けないながらもウルに少し先を歩いてもらい、警戒を密にしながら進んで行く。……森で視界が悪いし、神経がガリゴリ削れるなぁ。


「しかし、何故サイレントキラーはモンスター扱いではないのだ?」

「んー……」


 モンスターは全てが敵性存在であるけれども、敵性存在であればモンスターと言うわけでもない。

 モンスターではないのに攻撃をしてくるアクティブな生物は他にも存在しているのだ。サイレントキラー程攻撃的なのは早々居ないけど。

 では何をもってモンスターかそうでないかを判断していたかと言えば、ゲームであれば魔石を落とすかどうかだ。

 ではでは何故モンスターは魔石を持っているのかと聞かれたら……それがモンスターの『心臓』のようなものであるからして。

 魔石がなければモンスターは体が維持できない。偶然体内のどこかにある(特定の位置のあるわけではない)魔石を一突きしたらクリティカルヒット扱いで即死することもある。


「魔石を核として『作られた』か、そうでないか、の違い、とかかなぁ……?」

「ふむ?」


 モンスターは魔石の外に素材を残すことはあるが、基本的に遺体は残らない。朝を迎えれば消えてなくなるのだ。『普通』の命ではありえない光景だ。

 それはあたかも、モンスターに奪われてしまったリソースが大地へと還って行くようで。そういう意味でもモンスターの野放しはダメ、なのかもしれない。

 ちなみに、サイレントキラーからは針が素材として取れる。……巣を手に入れられれば蜂蜜を取れたりするのかな。怖いからやらないけど。


「モンスターでないと言うことは、聖水を撒けば何とかなるわけではないのが面倒だのぅ」

「そうだねぇ……」


 さすがにテントに大穴を開けられる程ではないし、そもそも内側に籠って視界に入らなければ襲われないだろうけれども……寝る時は隙間が空かないように気を付けないとな。



 わたしたちは雑談を交えながらひたすら東北東の方角へ歩く。サイレントキラーの大きな巣は何度か見かけたものの早期発見による回避で、大群に追いかけ回されるのを避けることが出来ていた。

 少しずつ森が深くなり、暗くなり、昼間でもモンスターが出てきてもおかしくはないのだが……見かけることはなかった。これは偶然なのか、それとも。


 昼食を食べ終え、わたしは方角を確認するためにコンパスを取り出した。

 ……おや?

 違和感を覚え、ブロックで木の上まで登ってきっちり太陽を確認して北を調べると――やはりだ。


「コンパスの向きが変わってる」

「む。と言うことは……」

「うん。この針の向こうに……創造神の像がある」


 そしてそこには、住人が居ることだろう。


 わたしたちは頷き合い、針の示す方向へと歩みを再開した。

 途中に拠点への帰還を挟みつつ歩くこと四日。


 辿り着いた先には……エルフが、居た。

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