サイレントキラー
見た目は想像通りハチの巣に近い物である。ただ……大きさが全然違った。
わたしはスイカくらいのサイズを想像していたのだが……。
軽く、わたしの身長を超えていた。
木の枝や軒先にぶら下がっている形ではなく、まるで木と融合しているようだ。
その超巨大サイズの巣にある大量の穴にうじゃうじゃとサイレントキラーが出入りする様が……うえぇ、虫の山も生理的嫌悪感が湧くけれども、集合体構造で気持ち悪さ倍増だ……。
あれら全てが一斉に襲い掛かってきたらと思うと……恐怖でブルリと背が震えてしまうのも仕方のないことと思ってほしい。
「さ、さすがにアレは辛いかなぁ……迂回しようか……」
嫌な予感に冷や汗を垂らし、そろそろと後ろに下がりながらウルに提案したのだが。
「もうちょっと早くに気付くべきであったな。どうやら既に警戒範囲に踏み入ってしまっていたようだ」
言葉と同時に、巣から黒い煙が噴き出したかと思えば。
それはもちろん煙などではなく……サイレントキラーの大群で形作られた物で。
一体何十匹、いや何百匹居るのか――
「ぎゃああああああ!? 逃げよう!!!」
最悪の事態にわたしたちは脱兎の如く走り出す。
けれどもここは森の中。真っ直ぐ走ることは出来ず足元も頭上も不確かで、体も小さく飛ぶことで地形をものともせずに移動出来るサイレントキラーを振り切るには厳しい場所であった。
ウルも同じ結論に達したのか、ただ逃げるだけでなく、追手を何とかする方向にシフトしたようだ。
「リオン、少しやかましいの行くぞ!」
足を止めサイレントキラーたちの方へと体ごと向く。そして大きく息を吸い――
――ガアアアアアアアアアッ!
『ウォークライ』スキルを放った。
何やらキマイラ戦の後に使えるようになったらしい。……うん、雄叫び上げてたもんね。
効果はキマイラの咆哮とほぼ同じで、聞いた者の戦意を萎えさせ恐怖で金縛り状態にさせるものである。戦力差が大きい場合は気絶すらさせられる。
虫であり、一種の戦闘マシーンであるサイレントキラーには恐怖は効かないのだが、『大きな音』により発生する衝撃で、飛ぶことを阻害させる用途で使ったようだ。バラバラと落ちていくのが見える、のだが……。
「ちっ、数が多すぎるわ」
そう、いくらか数が減ったものの、追い掛けてくる数が多すぎて劇的な効果は見られなかった。
「じゃあ今度はわたしが……ウル、巻き込まれないよう気を付けてね! 喰らえ! 殺虫剤!」
用意していた殺虫剤はボール状で、投げて標的に当てることで割れて薬剤が散らばるタイプだ。虫以外にそこまでの効果は無いはずだが、目や口に入ると痛くなることは間違いないだろう。
これでもかとアイテムボックスの在庫全てを使う勢いで投げ付けたのだが……。
「うわあぁん! 効果は有るけど無いよう!」
ウルの時と同様に、数は減らせたものの大勢に変わりはなかった。
わたしたちはまた走り出すが、足を止めた分だけサイレントキラーたちは距離を詰めてきていた。その距離はじわじわと狭まっていく。
「ぬぅ……リオン、他に何か使えそうなアイテムはないのか……?」
「ああああアイテムアイテム……」
必死にアイテムボックス内に視線を走らせる。気分はまるで四次元ポケットを探ってはあれも違うこれも違うと中の物を放り出しながら走るドラ〇もんだ。わたしは実際に放り出してはいないけれど、あれの回収ってしてるのだろうか……。
などと頭の中で余計なことを考えていたのが悪かったのだろう。意識を逸らしたことで、足元への注意が疎かになってしまった。
「あっ」
「リオン!」
木の根に躓き、全力で走ってきた勢いも余って盛大に前方へと吹っ飛ぶ。
ただそれは悪いことばかりでもなかったようで、視界にある物が入ったことにより打開策が思い浮かんだ。
それはそれで良いとして、思考にばかり気を取られてないで体もきちんと動かしましょうね!
「へぶっ!?」
受け身を取ることが出来なかったわたしは、顔面から着地することになるのであった。い、痛い。
「リオン、大丈夫か!?」
ウルが慌ててわたしを助け起こしに来る。その行動は、この一秒を争う事態において悪手でしかなかったけれど、原因であるわたしが責めることなど出来るはずもない。
好機とばかりにサイレントキラーたちが迫ってきて、せめて少しでもわたしを庇おうと構えたウルへとその針を向ける。
「我のウロコをハチ如きが貫けると思うでない!」
確かにウルの鱗の防御力なら耐えられるかもしれない。けれども数が多すぎるので何時までも耐えられるとも限らないし、鱗の隙間を縫って刺してくるかもしれない。
でも、何よりも、わたしのポカのせいでウルに余計なリスクを負わせてなるものか……!
「喰らえ! 水だばーっ!!」
わたしは、アイテムボックスに詰め込んでいた水を吐き出した。
水アイテム一つは十リットルくらいと大した量ではないのだが……それが百個あればどうよ!
ドッパアアアアンッ
大量の水は局地的な津波のようにサイレントキラーたちを押し流していった。
機動力において体が小さいことはメリットであるが、逆にそのせいで質量に耐えられなくなっている。その上羽が濡れたら飛べなくなるものだから効果は覿面だ。
同時に。
「がぼっ!?」
「だから主はもうちょっと考えてほしいのだぞ!?」
……サイレントキラーたちに向けた程ではないにせよ、こちら側にもかなり流れてきて頭からびしょ濡れになってしまった。
いやでもどうせ後から濡れることになるのだ、結果は変わらない、変わらないさ……ハハ……。
「数はかなり減ったがまだ来るようだぞ……立てるか、リオン」
「あっ、そうだ。目の前に池があったからそこに飛び込むよ!」
「……む? なるほど」
前述の通りサイレントキラーは羽が水に濡れると飛べないし、当然水中呼吸など出来るわけもない。だから水中に逃げるのも手の一つだ。
とは言え彼らは執拗だ。池の水面近くを飛び回り、わたしたちが酸素を求めて顔を出すのを今か今かと待っている。
彼らのヘイトが消えるのが先か、わたしたちの息が続かなくなるのが先か、我慢比べである。
……と言うことをするわけはなく。
わたしは池の底から横に穴を掘って、掘って掘って掘りまくって、十分に距離を取れたかな?と思った所で地上に顔を出した。
そして周囲の安全確認をして、再度創造神の像を設置して、拠点へと戻るのであった。
ふぅ、と安堵の息を吐いたのも束の間、次のウルの言葉でわたしは凍り付く。
「ところで、今になって思い浮かんだのだが……帰還石を使うことは出来なかったのか?」
「あっ」
そうだった、キマイラ戦の時とは違うんだから、使おうと思えば使えるんだった……!
一番の解決策がスッポリ抜けてしまっていたことに、わたしは平謝りするしかなかった。
「ま、まぁ、結果的に助かったのだし、行程が振り出しに戻らなかったと前向きに捉えるとしよう」
あかん……ウルが優しすぎて本当に堕落してしまいそうですわ……。
非常時にこそ冷静に判断できるようにしないと……と固く心に誓うわたしであった。
反省。




