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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第六章:死海の傲慢なる災禍
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見慣れた世界

「…………?」


 ぼんやりと瞼を開けた。

 眩しくて(・・・・)涙がにじみ、ぱちぱちと瞬きをする。

 すがめた目に映るのは、木の板。

 んー……? 石じゃなく木……? わたし昨夜そんな寝床を作ったっけ……?


 びゅおう、と風の音が鳴る。

 白い布が視界の端ではためいていた。

 アイティはそんなヒラヒラした服を着てたっけ……?


 ダメだ、眠すぎて頭が回らない。

 アイティが起こさないってことは、わたしが寝てからそんなに時間が経っていないのだろう。

 だったらもうひと眠りするか……。


 と、瞼を閉じようとしたその時。


「リオン! 起きたのか!?」


 すぐ側から聞こえてきたウルの、嬉しそうな、泣きそうな叫びに。

 今度こそ、目が覚めた。


 見慣れたわたしたちの部屋の木目の天井。ヒラヒラしていたのは爽やかな風になびくカーテン。

 そして……窓から差し込む、太陽の光。冥界では、決して見ることの出来ないモノ。

 心配してわたしを覗き込む、ウルの顔。……ずっと、ずっと、焦がれていたモノ。


 ――何もかもが、懐かしい。


「――いっ…………たぁ……っ」


 上半身を起こそうとして右腕に痛みが走る。

 ぐにゃりと曲がって体を支えることが出来ない。ウルが咄嗟に手を差し入れてくれたので枕に後頭部をぶつけることはなかった。


「ま、待っておれ。今フリッカを呼ぶから、ジッとしているのだ!」


 わたしをそっと降ろしてからそう言い、ウルは部屋の外へ駆け出す……かと思いきや、小さな石ころのような物を取り出してカチリと押す。


「……なに、それ?」

「む? フリッカの持っている同じやつに向けて音を送るアイテムだ。リオンの作った受信機と送信機を真似てカミルが作ったやつだの」

「ほーん……?」


 一瞬、ナースコールが頭を過ぎった。

 受信機と送信機だとその装置を見ていないと気付かないから、音で気付かせるのは有用かもなぁ。

 他にも、例えば見張りの人が『問題なし』『異常発生』の音を使い分けて送るとすれば、いちいち報告に行くよりずっと楽かも。いや後者はどのみち報告しなきゃだけど。もっと身近なところでは……『ご飯出来たよ』とか?


「……リオン、まだ疲れが抜けていないのか? 起きているのが辛いなら寝ててもよいぞ?」

「え? あ、いや、疲れは残っているけど大丈夫」


 考えを巡らせて黙り込んでいたらウルに心配されてしまった。いやいや、早速こんなことではいけない。

 それに……まだ肝心なセリフを言っていないことに気付いた。

 ……まぁ、寝ぼけていたと言うことで許してもらおう。そもそも全然怒ってないだろうけど。


「ウル」

「な、なんだ? やっぱりどこか――」


 慌てるウルを左手で止めてから。

 ふにゃりと口の端を緩めて。万感の思いを込めて。


「助けに来てくれてありがとう。……ただいま」

「――」


 ウルは、大きく目を見開き。

 数秒の静止の後に、そのまま、ぽろぽろと、涙を溢れさせる。

 一滴、二滴が、細い筋になり、いくつもの流れを作り。

 くしゃりと、顔を歪めて。しゃくりあげて。


「……おかえり、なのだ……。い、いぎででっ、よかっだ、よがっ、だのだ……っ」


 ウルは泣きながらも、わたしを怪力で押しつぶさないよう繊細に、すがりつくように、抱き締めてくる。

 その温もりに、匂いにつつまれたことで、わたしも同じように涙腺が決壊して。

 すぐ後に息せき切ってやって来たフリッカも加わって、三人でしばらくわんわんと泣くことになる。


 あぁ、わたしは本当に、現世うちに帰ってきたんだ――



「リオン様、体の調子はいかがですか?」


 皆して目が真っ赤になるくらいにガッツリと泣いた後であるけれども、わたしがケガ人だと言うことを思い出した。

 二人はこれ以上わたしの体に障らないよう名残惜しそうにしつつ離れ(わたしもかなり名残惜しい)、ベッド脇に椅子を置いて座る。


「神子カミルに診ていただいて、薬もいただいたのですが……一つ、よくわからない状態異常が発生している、と……」

「へっ?」


 よくわからない状態異常? ひょっとして冥界暮らしでなんか変なモノを引っ付けてきただろうか?と焦って自分のステータスを確認すると。

 そこには見慣れ……てはないけれど、【火傷:レベル一】と【破壊:レベル二】が表示されていた。


「あー……腕が動かないと思えば、また破壊の症状出てるね。……んん? カミルさんはコレがわからないって言ってたのかな?」

「えぇと、おそらくはそうかと……」


 はて? なんでわからなかったんだろう? 自分と他人とでは勝手が違うのかな?


「地神様と光神様は『命に別状はないから寝かせておけ』と仰っていたので、その通りにいたしましたが」

「まぁ、そうだね。痛いし動かないけど死ぬようなものじゃないね」


 サラリと流しかけてから。

 ハッ、と遅れて気付く。


「って……アイティはどうなってるの!? アルバは!? ウェルシュは――いだだだだっ」

「説明するからぬしは落ち着け!」


 飛び起きた痛みで悶絶し、ウルに怒られながらベッドに逆戻りである。

 ……久々すぎて『怒られるのもちょっと嬉しい』なんて言ったらドン引きされそうなので黙っている。口元がニヤけてきそうだったので咳払いをして誤魔化しておいた。


「まず光神様ですが、一緒にこちらにいらっしゃっています。神様方にお任せしていますので大丈夫です」

「アルバはゼファーのところだの。非常に大人しく、子ども組とも仲良くしており今のところ問題はない」


 なるほど。神様は神様に、ドラゴンはドラゴンに、だね。正しい。

 アイティだけでなくアルバも受け入れてもらっているようで良かった。太陽の光も大丈夫そうかな? 頑張った成果が出たんだね。


「ウェルシュは?」

「奴は来ていない」

「えっ……何で??」

「曰く『そちらに行く理由がない。仕方がないので悪用されないようにとらんすぽーたーを見張っておいてやろう』と。転送門の前で別れた」


 ……まぁ、確かに、ウェルシュはわたしがお願い(……脅迫?)したから手伝ってくれていただけであって、ウェルシュ自身は特に現世こちらに興味を持っていなかった気がするな? アルタイルを気にしていたくらいで。

 トランスポーターを見張っていてくれるのもありがたい。ウェルシュが居れば他のモンスターがトランスポーターを通って現世にやって来ることも、魔石エネルギーを狙って血みどろの争いが起こることもない……焼け焦げるモンスターは増えそうだな?

 であるのだけれど……お礼どころか別れの言葉すら言えなかったのは少々……いや、結構寂しい。

 その寂しさは、続くフリッカの言葉で解消される。


「もう一言、『また冥界に来ることがあれば駆け付けよう』とも言っていましたよ」

「……そっかぁ」


 縁が切れて清々した、と言う感じでもなさそうでホッとした。

 しばらく冥界はこりごりだけど、欲しい素材もあるしいつかは再訪するだろう。その時にたくさんお礼を言って、美味しい食べ物をあげることにしよう。

 ウェルシュのことはまたの機会に、として。


「えっと……アイティとアルバの顔を見ておきたいのだけれども……」

「まだ休んでいてください、と言いたいところですが……仕方ないですね」


 フリッカに苦笑されつつも、外出許可を得る。



「……ちょっとばかり恥ずかしいんだけど?」

「苦情は受け付けぬ」


 まだ体調が万全でないわたしは、ウルに背負われての移動となった。こればかりは譲れないらしい。二人共に詰め寄られては拒絶出来なかった。フリッカには「私も、ウルさんほどでなくてももう少し力があれば背負いたかったくらいです」と真顔で溜息を吐かれてしまったけど、申し訳ないと思いつつも丁重に辞退しておいた。さすがにわたしはそこまで軽くない。

 ……車椅子でも作っておけばよかったかなぁ。いやいっそ人が乗れるゴーレムとかどうだろう……?

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― 新着の感想 ―
[一言] >他にも、例えば見張りの人が『問題なし』『異常発生』の音を使い分けて送るとすれば、いちいち報告に行くよりずっと楽かも。いや後者はどのみち報告しなきゃだけど。もっと身近なところでは……『ご飯出…
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