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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第一章:平原の狂える王
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作る。生きる。

「……あの、なにしてんの、きみたち?」


 さすがにわたしも疲れが溜まり、ご飯の後は――無意識に聖水を撒いてから――バッタリと寝てしまった。

 なお、作業もいくつか残っていたし、わざわざ拠点に帰るのも億劫だったので、作ったばかりの家の中でである。

 そして目を覚まし、未だ寝たままのしがみつくウルの手をやんわりと外し、朝食でも作るか……とあくびの一つもしながら外に出てみれば。


 わたしの顔を確認したレグルスとリーゼが……跪拝をし始めたのだ。


 まだ寝ぼけているのかな、と目をこすってみるけれど、現実に変化はなかった。

 えぇ……出待ちでコレとかなんなん……? わたしが眠くて聞いてなかっただけで昨夜なにかあった……?


「神子サマ」

「は、はい。なんでしょう?」


 レグルスがヘタをするとキマイラ戦の時より固い調子で声を出す。

 そして……目だけでなく耳すら疑うようなことを言いだした。


「オレたちは、一生アナタに忠誠を誓います」


 ……は、忠誠?

 わたしは言われた単語がなんなのか、咀嚼するように少しだけ口を噤み……深く考えるまでもなくそれに対する回答がでてきた。


「えっ、ごめん、わたしそういうの要らないから」


「「えっ」」


 えっ、じゃないよ。わたしが「えっ???」だよ。

 そもそもなんで急にそんな超展開になったのさ……!


「キマイラを倒してくれた上に、神子サマは、下手をすると、何年、何十年と住めない穢れてしまった土地を浄化してくださいました」

「そして、全てを失ったあたしたちのために、家まで用意してくださいました。……ほんの僅かな間で」

「家はともかく、浄化なんてしてないよ?」

「「えっ?」」


 アイテムボックスの中に入ってた健康な土と入れ替えただけで、汚染された土自体はまだ中に大量に転がってるからね。

 証拠に、と一つだけブロックを出してみると、二人ともポカンとして見つめていた。


「フハハハ、そうか、入れ替えるとはそういうことか。その発想は我にはなかったわ」

「ウル? おはよう」


 背後から笑い声が聞こえたのでブロックをしまいながら振り返ると、愉快そうな笑顔のウルが起きて来ていた。

 わたしの挨拶に「うむ、おはよう」と返してくれる。


「まぁ、入れ替える『だけ』と、ぬしにとっては大したことのない作業なのかもしれぬが、一般人からすれば途方もないことだからな。そもそも触れること自体が厳しいだろうよ」

「あー」


 確かに、ずっと触ってたらダメージを受けるし、使ってる道具も腐食が早くて難儀しそうだな。

 わたしはスキルがあるからサクっといけるし、しかも神のシャベルで耐久値の損耗もなかったからねぇ……。


「レグルスとリーゼが崇拝したくなる気持ちもわからないでもない。なんなら我も拝みたいくらいだぞ」

「いやいやいや、拝まないでね? これくらい、プレ……神子なら誰でもできることだしね」


 おっと危ない、プレイヤーと口に出しかけた。

 やー、でもほんと、ちょっと作業に慣れたプレイヤーならすぐだし、センスのある人ならめちゃくちゃ凝った家とか作ってくるからね?

 スクショコンテストとかたまに開催されてたけど、もう毎回溜息が出るくらいにスゴかったよ。

 なのだけれども、ここはゲームではなく現実アステリアで。


「では聞くが、ここに神子はどれだけ居る?」

「…………わたしだけです」

「そうだろう。今、この場では、主しか成し得なかったことだ」


 ウルに諭され。

 わたしはわたしにできることをやっただけなのだけれども、それでも。


 ――誰かを救うことができたのだと、感慨深い気持ちになった。


「レグルスとリーゼも少し考えよ。忠誠心などと言うお堅いものを、リオンが欲すると思うか?」

「むぐ……それは……」

「でも、あたしたちは、なにも返せるものがなくて……」


 今度は未だ跪いたままの二人に声を掛ける。

 そうそう、そうだよ。敬語でムズムズするわたしが、そんなもの必要とするわけないじゃないですかー。


「まぁなにもないと言うなら、体で払ってくれれば……」

「「……えっ?」」

「ごめん、言葉選びを間違えた。労働力を提供してくれればそれでいいかな、っていう感じ?」


 よくあるジョークのつもりで言ったのだけれども、殊の外困惑されてしまったので慌てて言い直した。

 ウルがどことなく呆れたジト目を向けてくるけど、いやほんと、変な意味はないんだってば!

 と言うか、ウルも『体で払う』の意味わかるんですか、そうですか……。


「でもまぁ、そういうのは色々と置いておいて」


 おかしくなりかけた空気を払うように、パンと手を叩き、横に置いておくジェスチャーをして。


「わたしは、普通にきみたちと友達になりたいな」


 そんなわたしのお願いに、二人は息を飲んで固まった。

 その反応に一瞬、「え? ダメだった? 厚かましかった?」とか思ってしまったけれども。


「おう! よろしくな、リオン!」

「よろしく、リオンさん」


 レグルスもリーゼも、満面の笑みをもって答えてくれたのだった。




 とは言っても、彼らにわたしの拠点に移り住んでもらうのは無理だ。いや、希望自体はしていたのだけれども、それが受け入れられないというわけではなく。


「まずは逃げた住人たちを集めてこないとダメじゃない?」

「あっ」


 集めるだけじゃなく、経緯を説明して、これからどうするのかを考えていって。

 なにせ多くの人が亡くなってしまったのだ。家は用意したけれど、日常生活を送るのも困難かもしれない。


 とりあえずわたしは最低限の備えとして、畑を耕して作物の種を植えて、周囲に柵と堀を作成していつもの自動聖水散布装置を作成しておいた。

 身の安全が保証され、住む場所と食べるものがあればひとまずは生きていけるだろう。傷が癒えるには時間がかかるだろうけれど……。

 あー、聖水と魔石の扱いについてはちゃんと確認しておかないと。場合によってはまたわたしが教えなきゃいけないし。

 あとは可能なら、モノ作りの推奨をしないとな。創造神の神子としてはむしろそれが一番肝心なことか?


「モノ作りとか難しそうだな……」

「レグルス、深く考えなくてもいいよ?」


 例えば、狩りのための武器を作るのだって『モノ作り』だ。作物を作るのもそうだし、収穫した作物で料理を作るのもそう。

 全ての活動は、創造へと繋がっていく。


「……つまりは、今回の事件で絶望せずに、日々をきちんと生きてほしい、ってことになる、のかなぁ?」

「それなら大丈夫だよ」


 クスリと笑ってからリーゼは、おもむろにわたしに向かって手を合わせた。


「リオンさん、あたしたちはあなたに希望を示されました。

 あなたに報いるためにも、この希望を、未来さきまで続けてみせます」


 そう、花がほころぶような清々しい笑顔を見せられて。

 わたしは、つい。


「……手を合わせるなら創造神様の像にお願いネ」


 照れ隠しに、思わずそんなことを言ってしまった。

 そしてわたしの内心が如実に伝わってしまったのか、みんなに笑われてしまった。ぐぬぬ。

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