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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第一章:平原の狂える王

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決戦・下

 わたしの攻撃は瘴気に阻まれた感触がせず、スルっと刺さったような気がした。

 その上、レグルスの攻撃でどんどんパーツが潰されていっても微動だにしなかったのに、ここにきて初めてキマイラが苦痛を含む叫びを上げた。


 え、ひょっとして槍に塗った聖蜜水が効いた? いやでもレグルスとリーゼの武器にも塗っておいたし?

 それとも他のスキルとか関係してくる? 単にわたしが神子だから? ああああ検証したい!


「リオン!!」

「っ!?」


 ウルの鋭い警告にゲーマー思考に浸かりかけていた頭が一瞬で現実に戻り、ヤマカンで転げるように地面に身を投げ出す。

 瞬間、キマイラの肩に生えていたなにかの骨が、わたしの頭があった部分を通り過ぎていく。

 間一髪の出来事に冷や汗をかきながら、転がったままキマイラの前方の方へ目を向けると――山羊頭が、わたしの方を見ていた。


「――!?」


 ゾワリと全身を悪寒が駆け巡る。


「リオンに手など出させぬぞ!」


 ウルが跳躍し、山羊頭を地に向けて叩きつけることで、やっと視線から逃れることのできたわたしは弾かれたように起き上がる。


「手ぇ出させねぇっつの!」


 胴体から生えているパーツがわたしを捕捉しようと動くが、それもレグルスの拳により砕かれ阻止される。

 そうしてなんとかわたしはケガを負うことなくキマイラから距離を取ることができた。

 ウルに頭を抑えつけてもらったまま、レグルスとリーゼも同じように引いてきた。


「なぁ、今なにがあったんだ?」

「んー……二人とも、これを投げ付けてみてくれる?」

「? 聖水……ですか?」


 レグルスの質問に答えるのは後回しにして、わたしはアイテムボックスから聖水を取り出して渡す。

 二人は疑問符を浮かべながらも言う通りにしてくれた。

 狙い違わず聖水のビンはキマイラの後部に当たり中身が降りかかるけれど、なにも変化は起きなかった。


「……効いてないよな?」

「そう見えるね」


 結果を確認してから、今度はわたしの手で投げてみる。


 ギャウンッ!


「「効いてる!?」」


 あー……やっぱり。

 ゲーム時代と違って聖属性道具全般と使用者の保持スキルかなにかにプラス補正が掛かるようになってるみたいだ。

 これもこの世界アステリアに来て『制限が外れている』ということなのだろうか。

 くっそ、一番戦闘が苦手なわたしが頑張らなきゃいけないとか、なんてハードモードを――


「リオン! 攻撃するのはいいがもうちょっと考えるがよい!」

「ご、ごめん!」


 再度暴れ始めたキマイラをウルが必死な形相で抑えつけていた。いくらウルとて体の大きさが違いすぎて容易くはいかないようだ。

 ぐぬぬ……MMO系ゲームによくある、いわゆるヘイト管理が必要になってきたのだけども、わたしはゲーム後半はほぼソロプレイだったから感覚がすっかり抜けてしまっている……!


「レグルス! リーゼ! ぬしらはさっきと同じように後ろから攻撃し続けろ! リオンは我の後ろに来い!」

「わ、わかったよ!」


 ウルはさっきからずっと正面に一人だというのに、小さなものがいくつかあるだけでケガらしいケガがほとんどない。決定打が決まらないだけで防御面では心配がないのだろう。

 鉄壁ウルの陰から攻撃すれば確かにわたしも安全度は上がるけど……小さな彼女の背に守られるというのが、少しだけ胸にチクリときた。


「リオン、余計な気は回さなくて良い。これは我にできることだからやっているのだ」

「……そうだね、ありがとう」


 そんなにわたしの感情って顔に出るんですかねぇ……。


 しばらくウルの陰に隠れてポイポイ聖水を投げ付けていたけれども、完全に警戒されたのかほぼ打ち落とされるので投げるのは諦めた。

 隙を見つけて槍を突き出そうとしても、体の色んなところに目があるせいかどうしても事前察知されてしまう。

 なにか、なにか気を逸らせるモノはないか……――っと、一つ閃いたことがあるので試してみよう。


「ウル、次のタイミングで一回大きく引き下がって!」

「む? わかったのだ」


 大きく回し蹴りをしてパーツをいくつか薙ぎ払ったところで言われた通りに距離を取るウル。

 そしてわたしはアイテムボックスからQAボックスに移しておいた『それ』を表に瞬時に引っ張り出す。


「出でよ! 石ブロックバリヤー!」


 ドドン!と一辺五十センチの石ブロックを縦横八つずつ並べた、もはや石の壁と言える代物をキマイラの目の前に出現させた。キマイラからは見えないがこちら側は一部階段状に作ってあり、わたしが登れるようになっている。

 キマイラはどこか戸惑っているような雄叫びを上げなら石を攻撃しだす。ただの石に強度はないがさすがに一撃二撃で壊され……あわわ壊されそう急がないと!


「ウル、わたしが一番上まで行ったらブチ壊しながら攻撃して!」

「ふはは、こんな目くらまし初めて見たわ!」


 なにやら愉快そうなウルを下に残し、わたしは石階段を駆け上がる。

 そして。


「とうっ」

「ハアアアアアッ!」


 バゴォッ!!と石ブロックを盛大に壊してもらい、石ブロック片に紛れながらウルが何度目かのラッシュを仕掛ける。

 虚を突かれたキマイラは防御に使っていたパーツが減っているのもあってまともに喰らい、ゴリゴリLPを減らしているように見えた。

 けれどそれだけでは済まさない。

 高所から飛んだわたしは……上から槍で重力加速度込みの威力で突き刺して斬り裂く!


「ほら、ついでにこれも喰らえ!」


 ギアアアアアアアアアアアアッ!!


 槍の刃先が短いので傷は深くないのだけれども、追撃として体内に直接聖水を山盛りぶち込んだ。

 瞬間、キマイラがこれまでにない絶叫と共に激しく荒れ狂い、背に乗っていたわたしは放り投げられてしまった。


「ヒエエエ! ……って、あれ」

「まったく……攻撃するのはいいがもうちょっと考えるがよい、と言うたのに」


 目を回しているうちにウルにキャッチされたらしい。お、お手数お掛けします……。

 そっと地面に下ろしてもらい、キマイラの様子を確認する。


「だがおかげでヤツもそろそろ……む、なんだ!?」


 ギジャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアッ!!!


 断末魔の雄叫び……かと思いきやまだそうではなかった。

 体中にくっ付いていたパーツが黒い靄と変化して、キマイラの体がみるみる萎んでいく。

 しかし、その代わりに。


「瘴気が濃くなってる!?」


 まるでパーツを生贄にしているかのように、体が萎む代わりに黒い靄――瘴気が目に見えて急激に増えていっている。


「きゃあああああっ!」

「ぐあああっ! いってええええ!!」


 尻尾の方で奮戦していた二人の悲鳴が響いた。

 全身に火傷のような跡が多々刻まれ、攻撃された……と言うよりは、あれは瘴気のスリップダメージ!?


「まだ十分も経ってないのに……まさか、濃くなったことで効果が剥がされた!? 二人とも、急いで離れてホーリーミストを――ゲフッ」

「リオン!? 主も一旦離れて―――ぐがっ!」


 わたしたちの方にも大量の瘴気が降りかかり、全身を焼く痛みに立っていられずに蹲る。

 ウルが急いでわたしを掴もうとしたが……瘴気が弾丸のように弾き出され、不意の攻撃から防御ができず遠くへ飛ばされてしまった。


「ぐ、あ、あ……離れ、ないと…………う、あ、あああ!?」


 残っていた蛇尻尾が体をくねらせ、逃がすものかとわたしの足に噛み付いていた。

 ああああ痛い、イタイ、いたい! そ、そうだ、ポーション、使わないと……!

 QAボックスに格納しているので即時使用ができるものの、瘴気ダメージが続いて痛みに意識が飛んでしまいそうだ。そうなったら一巻の終わりである。

 薄れそうになる意識を気合で繋ぎ留めながら、わたしの足から離れない蛇を必死で槍で攻撃をしていたら――


 パシャンッ


 フワリと、花の香りが舞った。


「……えっ?」

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