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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第一章:平原の狂える王
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キマイラ戦準備

「きみたちにお願いするのは狩りです」


 翌日の朝食後。

 ウル、レグルス、リーゼに向かい、わたしはあえて厳かに言う。いや、意味はないけどなんとなく。

 ウルは「ふーん」って感じだけど、残り二人が「???」って感じだ。さもありなん。


「とにかく、食料を狩ってきてください。とにかく、おなかを減らしてきてください。とにかく、わたしの作った料理を食べてください」

「え? 料理?」

「……食べる?」


 首を傾げるだけで動こうとしない。

 でも動いてくれないと困ることになるのは彼らなのだ。彼らがバカスカ食べるせいで肉の在庫がほとんどないのだから。


「野菜オンリーでいいなら別に狩ってこなくてもいいけど?」

「それはイヤなのだ!」


 さすがウル、ブレない食欲をお持ちである。

 とは言え、さすがに説明が足りなさすぎた。


「えーっと、もうちょっとでわたしの料理スキルレベルが上がりそうなんだけど、そうするとわずかだけれども料理にバフが付くようになるんだよ」


 バフ付き料理アイテム。料理を食べることで食べた者になんらかのプラスの効果が付くアイテムだ。

 ただ、スキルレベルがまだまだ低くて、付いたとしても本当に少しだけ。

 だけれども……ひょっとしたら明暗を分けるかもしれない小さな一手。


「で、スキルレベルを上げるには料理をするしかないってこと。料理には材料が必要。だから……肉が食べたいなら働けぇ!」

「うむ、承知したのだ!」

「「はいいいいっ!」」


 威勢の良いウルを先頭に、駆け出して行く皆の背を見送る。

 さて、わたしはわたしで作業をしなきゃな。




「よし、周囲に植えていた花が聖花に変化している。これならなんとかなりそうかな」


 わたしが真っ先に足を運んだのは、祭壇……の周囲にある花壇だ。

 祭壇はわたしの拠点で一番創造神の影響を受ける場所であり、周囲にあるものが変化することがある。


 その例の一つが聖花だ。


 そのまま名が示す通り、聖属性を帯びた花のことである。

 わたしはまだ聖属性付与をすることができないが、こうやって聖属性素材アイテムを手に入れることはできる。

 まぁ少量であるし、期間も短いのでそんなに効果は強くないのだけれども。


 瘴気対策と一口にいっても、今わたしが取れるのは初歩の初歩でしかない。あのキマイラの瘴気が薄く、狭い範囲だから効果がある、というレベルだ。

 あの廃棄大陸に行くなんてとてもじゃないけれど出来やしない。


「それでもないよりは全然マシだからね」


 わたしはそっと花を手に取り、アイテムボックスへと収納した。また育つよう種を植えておくのも忘れずに。

 そのまま作業場に戻る前に、きちんと創造神像へお祈りをしていく。


「創造神様、どうか見守っていてください」




「うーん……錬金スキルレベルが足りないのか思ったよりできなかったなぁ……」


 聖花から蜜を抽出し、MPが無くなるまで注ぎ込みながら聖水とかき混ぜたことで完成したアイテム【ホーリーミスト】。

 形状はカプセルだけど、使用することで霧状になって使用者の体を包み込み、一定時間瘴気から身を守れるようになるアイテムだ。


「まぁ、そもそも瘴気対策しなきゃいけない事態がここまで早いとは思ってなかったんだけども」


 ゲームで言えば中盤くらいの話で、鉱石入手すらままならない序盤で必要になるようなアイテムではなかった。

 ちゃんと出来たこと自体は嬉しいのだけれども、在庫をフルに消費して出来た個数が六つしかない。確実に手に渡るのが一人一つで十分しか猶予がないということだ。

 四人居て十分もあれば中ボスくらい倒せるでしょ感はあるのだけれども、現実と考えるともっと数が欲しい。


「最悪逃げるか、ウルに余りを渡して頑張ってもらうか、かな……後者はあまり気が進まないけれど」


 ただでさえ戦闘面で彼女に頼ってばかりなのだ。適材適所ではあるのだけれども、どうにもわたしの心がモヤっとして仕方がない。

 はぁ、神子にも戦闘系スキルが生えてこないかなぁ……。


「あとは……弓が効かないからわたし用の槍を用意して、と。あー、びっみょーに余った聖蜜水をちょっと刃に塗ってみるかな」


 もちろんそんなお手軽エンチャントはない。けれども、このまま余らせてもなぁという感じだし使い切ることにした。


「後でレグルスとリーゼの武器にも塗っておくか。ウルは……まぁ素手だしね……」


 早く適正装備が作れる素材とレベルが欲しいなぁ、なとと思いながら、皆が帰ってくるまで色々と使いそうなアイテムを作り続けるのだった。




 窓から賑やかな声がしたので、狩りから三人が帰ってきたかと外に出てみれば……レグルスがちょっとおかしなことになっていた。


「ウルの姐さんはほんとすげーな!」


 ……姐さんって、ちょっと。ウルの外見は一番年下なんですけどね!

 レグルスとリーゼは大体私(の見た目)と同じくらいだけど、二人ともわたしより背が高いのよね。

 特に一番大きいレグルスが、一番小さいウルに対して姐さん呼びしているとなかなか笑えるものがある。


「特にあのデカイのを一撃で倒した時はもう痺れたぜ! 槍投げの時からスゲーとは思ってたけど!」

「わかった、わかったから……!」


 小さな少年のように目をキラキラさせてウルを褒めちぎるレグルスに対し、ウルもそこまで褒められてはあまり邪険にはできないのか、それでも勢いに押されて引き気味だ。

 わたしは、ちょっと離れた位置でオロオロとしているリーゼにそっと近付き、尋ねる。


「ねぇ、アレ、なにがあったの……?」

「リオンさん。それが――」


 とにかく大量の獲物を狩るために、林の奥の方まで進んで行ったら……深く入りすぎて、昼でも暗い鬱蒼とした森まで行ってしまったらしい。

 暗い、ということはそれだけで危険だ。足元も不確かだし、なにが潜んでいるかもわかりづらい。

 それになにより、日の光が差さないということは、夜にしか出現しないはずのモンスターが出てくる可能性もあるということだ。

 だから元々破壊神の力が強いダンジョンはもちろんとして、廃坑などの洞窟、海の底などは昼間でも気を付けなければならない。


 しかしながら肉のために狩りを続けていたら――ここら辺怒るべきなのか……いやわたしが煽ったせいだよね……――案の定モンスターと遭遇してしまったらしい。

 やや大きいオークが二匹と、とても大きいオークが一匹。

 「これはヤバい」とレグルスとリーゼは焦って構えるが……ウルが足元の石を投げつけることであっという間に三匹とも倒してしまったそうな。いやほんと強いなこの子。

 それでまぁ、ウルの規格外の強さを目の前で目撃したレグルスが感動?して、帰ってくるまでずっとはしゃいでいたらしい。


「ウルの姐さんの強さに惚れたんだ! 頼む、オレを弟子にしてくれ!」

「えぇ……」


 飛び出してきたレグルスのセリフに、口を挟めずにいたリーゼがビクりと震える。あー、これはアレですね。

 固まって動けずにいる彼女の肩にポンと手を乗せ。


「あれ、ただの脳筋だから気にしないでいいと思うヨ?」

「ふぇっ!? べ、べべべ別に気にしてなんて……!?」


 めっちゃ気にしてますがな。

 まぁ、レグルスにとって評価の指標の一つが強さだと言うなら?


「がんばって振り向かせられるくらいにもっと強くなりましょうねー? 誰とは言わないけど」

「ち、ちが、違いま……!」


 おーおー、顔を真っ赤にさせちゃって、青春ですねー。

 でも、ちょっと、痛いです。からかったわたしが悪いけど、照れ隠しにバシバシ叩いてくるの、ちょっと、ホント、痛い。ゴメンナサイ!

 ……お詫びに彼女の好物でも作ってあげよう。




 なお、翌日の夜に無事スキルレベルは上がり、バフ付き料理が作れるようになりました。

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