第一話
青い空には大きな入道雲、暑い日差しが厳しい季節
今は、夏真っ盛り。
「はー・・・・・・」
私の溜息は、セミの鳴き声にかき消される。
明るい太陽とは裏腹に、私の心はどんよりと暗く、鉛よりも重かった。
こんな日は、いつも思い出す。
あの日々を・・・・・
2年前----
「あやめー、どうしたのー」
「あ、ごめーん、先行っててー。体育館に上履き取りに行くからー。」
「もー、何でそんなの忘れんのー。ホンット天然だよねー。」
友達の声を背中で聞きながら、私は体育館へと足を進める。
廊下の角を曲がり、年期の入った大きな扉に手を掛ける。
たてつきの悪い扉をほんの少し動かした時、
「あれ?」
何かきこえる。
これは、
ピアノの音だろうか。
上品で優雅な旋律が、美しい流れとなって耳に届く。
音楽のことなんてほとんど知らない自分でも、相当上手いのはわかる。
なぜか私はその場から動くことができず、
じっとそのなめらかな調べに聞き入っていた。
どのくらいの時間がたっただろう。
演奏はどんどん壮大になっていき、
広い体育館にこれでもかというくらいによく響いた。
そして、とうとう曲も終わりに近づいてきた頃、
一瞬にして、唐突に演奏が止まった。
たっぷりと余韻を残しながら、行き場を失った音が消えていく。
私は、何とも言えない苛立ちを覚え、
扉を開け、前にのり出そうとする体を必死で止めた。
『なんでやめちゃったんだろう。もっと聴きたかったのに。』
私が扉に手を掛けたまま前のめり、という不安定な体勢のままじっとしていると、
体育館の中から「ずずずずず」と椅子を引く音がした。
そのすぐ後、
「誰かそこにいるの?」
よく通るソプラノの声が体育館中に響いた。
扉を隔てたこちら側にも届く。
『あ、もしかして、私がここで盗み聞きしてるのバレちゃった?』
きっとそうだ。
だからさっき、あんな中途半端なところで演奏を止めてしまったのだ。
「ねえ、誰かいるんでしょ?」
またあの声だ。
バレてしまった以上、
いつまでもこんなところに突っ立っているわけにはいかない。
ここに来た本来の理由を思い出したのと、演奏者を確かめたいのとが合わさって、
扉にかけた手を前に押し出すことができた。
ガガガガガ・・・・・・
たてつきの悪い扉を力を込めて開ける。
がらんと広い体育館のステージの上、
ピアノの前でこちらを見つめていたのは・・・・・・
私は驚きに息をのんだ。
「えっと・・・・・」
我が校を代表する不思議ちゃん、桔梗ヶ咲奈々杏寿恵里がそこにいた。
ああ、また思い出してしまった。
一昨年のあの日のことは未だに忘れられない。
夏のこの時期になるといつもあの日に戻ってしまう。
どこかに置いてきた大切なものを取り戻しに。
「そうだ、あそこに行こう。」
思い出の場所、体育館。




