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名もなき感情

それからは毎日同じ時間にふたりは会うようになった。

どちらが切り出したわけでもないのに、自然とそうなった。

少しずつ距離が縮まっていく中で、ウィリアムは王様付きの選ばれたメイドにしか触らせたことのない、髪をイダに触らせるようになった。

イダはウィリアムの長い髪を編むのがとても好きだった。

編みながらニンゲンの世界のことを教えてくれる、最初は小馬鹿にしていたが、ニンゲンの世界にも大きな文明があり、人魚の世界とそれほど違わないのかもと思い始めた。

ウィリアムは聞く一方で、イダがいつも話すのを頷くだけのことが多かった。

そのうち私もぽつりぽつりと話すようになったが、人魚だということは明かせないので、あくまでも一言二言程度だった。

イダは「もう!ウィリアムは秘密主義なんだから、いつも私ばっかり話してるじゃない」

と怒っていたが、頬をつつくとすぐ笑顔になるのでだんだん違う感情が芽生え始めた。

この気持ちはなんだろうか、全くわからないがイダを見ていると胸がざわつくようになってきた。

海に帰って側近たちに聞いてみると、誰もが首を傾げて「そんな感情知りませんね」と言う。

兄弟たちに聞いても誰も分からない、みんなが隠しているんじゃないかと疑うほど、誰もこの感情のことを知らないのだった。

イダに会うと、なんだか胸の奥がぽかぽかする。

イダの笑顔を見ると眩しくて、触れたくなる。

彼女の一部になれたらとさえ思う。

イダは何も気づいていない、いつもの様にやって来て私の髪を編んでいる。

くすくす。

笑い声が聞こえてふと触ると、私の髪に貝殻がたくさん刺さっていた。

「こんなことをするなんて、もう髪を触らせないぞ」

と怒る私にイダは頬をつつく。

それがおかしくて二人で笑いあった。

人魚の世界で私は笑ったことなどなかったのに。

イダは「あああ!ウィリアムが笑った!ウィリアムが笑ったよ!」と大喜びしてその辺を駆け回っていた。

改めてこれが笑うということなのか、これも胸がぽかぽかするなと考えていたら、イダにいつもここに皺が寄ってるよ!

と、眉間の当たりをぐにぐにされた。

「痛いぞ」と言うと、イダは「痛くしてるんでしょ?」と聞いてくるので。

「私だけ痛いのは理不尽なのだが?」

と呟きイダの頬をむにむにとしてやった「ひらいひらい!!」と抗議の声を上げるイダに「こっちの方が痛かったぞ」と言うと、イダは「そんらわへぇないもん」

と言ったので頬から手を離してやった。

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