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石を持つ乙女と海の王
彼と付き合ってから、私の体温がどんどん彼に奪われていく。これは恋愛なんかじゃなくて、もっと別の、もっと静かな、例えば、死に向かう儀式だ。
彼女の体内に一族に伝わる石が眠っている。
それを取り出すためには愛情が必要だった。
けれど彼は間違いを犯してしまった、彼女を深く愛してしまったからだ。
最初は嫌悪さえしていた、まるで自分たち一族とは違う、その生活様式に、姿形に。
彼の下半身には尾びれが着いていた。
人の姿に変わることもできる。
彼はその一族で王と呼ばれるべき存在だった。
彼女はニンゲンと呼ばれる存在だった。
スムーズに泳ぐこともできないニンゲンを彼らの一族は馬鹿にしていた。
人魚と呼ばれる自分たち一族は、好きな時に好きなように体を変化させることができた。
ニンゲンにはそんなことができない、だから端から劣っているのだと決めつけていた。
そして王はカノジョに近づいた、ニンゲンのカノジョはイダと名乗った。
それからあなたの名前は?と満面の笑みで訊ねられた。
私は「ウィリアムだ」と答えた。




