episode94〜危険、魅惑の舞い〜
たくさんの作品から見て下さり、ありがとうございます!
最後まで読んで頂けると、嬉しいです。
アルネは今、その祝いの舞台に立っていた。
ルクナの誕生祭は祝いの儀を終え、夜の部のパーティーへと移行していた。
「昼間、散々祝いの言葉を受けたにも関わらず、まだもらい足りないのか?」
デイルはふと現れて、そう呟いた。
しかし、主役である本人は、そうではなかった。
祝いの言葉を始めとした挨拶。
そして今後の国内情勢、交易。
次期後継者である者にとっては、当たり前の事である。
もちろんルクナも、それは重々わかっている。
他国においてのそれらには、しっかりと耳を傾けていた。
しかし、その中でも1番多かったのは、妃候補や後継ぎによる言葉であった。
どの言葉も必ずと言っていいほど、身内による嫁候補を謳ってくる。
言うまでもなく、どれもこれもルクナには響いてこない。
その耳には、ほぼそれらの言葉達が入る事なく、気も漫ろ状態であったのだ。
その間に考える事は、ただひとつ。
この後に待っている、アルネの舞台の事だ。
そして遂に、その時が来た。
特等席でその姿を、今かと今かと待ち侘びていたルクナ。
その姿は、意外にも近い場所にあった。
辺りが静まり返る。
空には、満天の星が輝いている。
一際目立つ、大きなベールを見に纏った女性。
彼女が出てきた瞬間、会場が少し騒めいた。
その踊り子が、アルネだと気が付く者は、数少なかった。
先程までと違う装い。
更にはその髪は長く伸び、美しい緑色を放っていたのだ。
「そうか、今宵は満月」
そして、始まる。
それを目にした者達は思った。
(これは一体? … 祝いの儀だよな?)
(きっと、何かの意味があるに違いない)
(なんというか… 随分と風変わりな舞いだな… )
そしてルクナも思っていた。
(これは… 視覚的事故にならないだろうか? まぁ、アルネらしいが… )
彼らが想像していた踊りとは程遠い、大聖女の舞いはある意味皆を釘付けにした。
とても華麗とは言えない振り付け。
つまり、奇妙な舞いだった。
デイルが遠くで、笑いを堪えているのが、視界に入る。
(デイルめ… )
しかし、その舞いから目を離すことができなかった。
何故か、その先を期待していたのだ。
これがキティール島に代々伝わる、通称 ’マルメロの舞い’ である。
または ’魅惑の舞い’ とも言う。
未婚の女性が意中の男性へと贈り、そして魅了させる為に踊るためのものだ。
本来ならば、その相手の目を見つめ、虜にし、更には段々と近づき、捕虜する所まで踊り続けるというものだ。
そして最終的には、マルメロの実を相手に口にさせ、完了である。
何とも恐ろしい舞いである。
(それでも… )
「美しいな」
思わず口から出る。
ルクナだけではない。
その場にいる皆がそうだった。
しかし、彼らの姿を捉えてしまったアルネは思った。
(まずいまずいまずいっ… まずいよ!)
空高くに浮遊していたデイルへと、強めの合図を送った。
(こんなに近いなんて聞いてないよ!? ねぇ! 大丈夫なの!?)
しかしその問いには、さぁというジャスチャーと共に、ニタリと笑うのみだった。
更にはバックミュージックとして、シュリの歌声が響き渡る。
これも相まって、その場は異様な空間ができていた。
(まるで、脳が何かに支配されるようだ)
そして、音が一瞬止まり、今度は目にも美しい舞いが湧いた。
(あぁ… このまま次に突入したら…… まぁこっちからロックオンしなければ大丈夫か… それにここには実もない)
そう思いながら、アルネは矢継ぎ早に、次の段階へと突入した。
すると不思議な事に、辺りが更に明るくなった。
空を見上げると、月が煌々と光っていくのが目に見えてわかった。
その影響からか、その場にいた者達は、身体から力が漲るような気がした。
アルネは焦った。
彼女には経験から伴う、その場の ’男性達の高揚’を察したからだ。
(あぁまずいまずいまずいぃぃ! やっぱりこれは… 非常にまずいんじゃ!? でもおかしいわね。島にいた時は、ここまでこんなんじゃなかったのに… )
しかし、乙女の心を持ち合わせているシュリには、その高揚感がどういうものなのかを、感じる取る事はできていなかった。
よって、彼女は引き続き、美声を楽器へと持ち替えて、その場に静かなる音を奏でた。
言葉なくアルネへと魅了される者達は、少なくなかった。
ルクナはもちろんのこと、招待された来賓の貴族や他国の王族達など。
その数は計り知れない。
そして、舞いは終盤へと差し掛かる。
「これが光の国か」
「なんて美しいんだ」
それらの言葉が、何に向けられたのは定かではない。
しかし、1つ言えることは、その場の空間を美しいと言う言葉を言わなかった者が、誰1人としていなかった事である。
「これが魅惑の舞いか… 」
不自然なひと言を放つ者もいた。
ただ、そう思っただけかもしれない。
何故ならその光景は、世にも珍しかったからだ。
アンセクト族達がアルネの近くへと集まり、光りとなって舞い踊る。
更には、上空にも光り達が集まる。
満天の星だけだったはずの夜空だ。
この国に、精霊は何故か入れない。
にも関わらずだ、空高く上に満天の星空以上の輝きで、精霊達が集まり舞っていたのだ。
結界の遥か上空に。
アルネは目を凝らした。
身に覚えがなかったからだ。
(デイルめ… )
今度のそれは、愛情が籠ったものだった。
そして、それらに関しては、高貴なる者達の目には、映ることができていたのだ。
もちろんのこと、血の濃いルクナの目にははっきりと映っていた。
それが自身へと向けられたプレゼントだと。
それと同時に思った。
(なんて…… なんて危ない舞いなんだ… )
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「どうだった? 綺麗だったでしょ?」
「あぁ… 」
ルクナはそう言いながら、天を仰ぐ。
未だ瞬きをやめない天空の星達は、何かを訴えているかのようだった。
そして、推されるように言葉を出す。
「しかし… 足りないな。足りない」
「え? あんなに色々ともらって… それでも尚ですかい?」
(さすが根っからの王子なのね)
「……… 」
その無言の意図が、取れないでいたアルネ。
瞳だけはしっかりと、捉えて離さない。
「ん?」
「… ありがとう」
ボソリと照れながら、そう言うルクナの顔を、アルネは直視できないでいた。
「え… あ、うん、どういたしまし… 」
慣れない感情が、流れ込んでくる気がした。
「それに、あんなに危険なプレゼントは初めてだ」
「へ? 危険?」
(そんなに危険だったかな? てか何が… )
「あぁ、最初から知っていれば、皆の前で踊らせることもなかった」
ルクナの言葉に、違和感を感じたアルネ。
その脚は段々と、自身に近づいて来る。
「ルクナ… ?」
「… とんでもなく恐ろしく… 人の心を蝕み… それでいて魅惑的な… 」
「え?ルク…」
そう言われながら、引かれたその腕に、アルネは頭がついていかなかった。
そのまま覆われた腕からは、今までとは違う感覚が襲った。
身体中にほと走るその熱さは、これまでに感じたことのないものだった。
そのまま、唇へと集中する。
きつく抱きしめられると共に、重なった唇が更に熱くなる。
深く… そして優しく。
想いが怒涛に溢れる。
今までの想いと、これからの期待。
拒む事なく受け入れた身体が、息をする事を許され、ゆっくりと離れた。
お互いの顔が真っ赤に染まっているのがわかる。
しかし脳だけは、ついていかない。
「ル、ル、ルクッ… 」
予想だにしなかった状況に、アルネは思わずその場から走り去ってしまっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そしてその夜から、いつもの部屋にアルネの姿はなかった。
(アルネ… )
ルクナは思考をフル回転させた。
段々と悪い考えへと、移行していくのが表情を見て取れる。
(ルクナ様… 一体何が?)
従者達は心配した。
一体何をしてしまったのかと。
翌晩、窓際にデイルの姿があった。
そして、そっと空を指差す先に、それはあった。
そこには、前日見た時のような光達が、天高く上空へと。
しかし、その時と異なるのは、それらが文字を成している事だった。
『しばらく戻りませんが… 』
それは、言わずもがな、アルネからのメッセージだった。
そのメッセージに、開いた口が塞がらないルクナ。
何度も読み返した。
短いメッセージだ。
デイルが合図を送ると、任務を終えた精霊達は、散るようにして解散した。
(アルネにはまだ早過ぎたか… )
そう思いながら、デイルはルクナへと声を掛ける。
「まぁ心配すんな。ただの照れ隠しだ」
(照れ隠し? ということは、喜んでいる? 嬉しい… のか? え? そのなのか? ん? どうなんだ?)
しかしデイルがそう言うのであれば、そうなのであろう。
ルクナはその言葉に何故かホッとし、更にはその不安が期待へと変わりつつあった。
しかし、同時に言葉に出ていた。
「全く… 精霊の力をこんな事に使うなよ」
軽いため息をつくルクナ。
その顔からは優しく、そして愛情に満ち溢れた笑みが溢れていた。
一方のアルネはというと、本来の用意されていた自身の部屋へと閉じ籠っていた。
布団を頭に被り、ぶつぶつと呟く。
当分の間、これが続くのであった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
突っ走って書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。
また、心ばかりの評価などして頂けると、励みになります。何卒よろしくお願いします。




