episode89〜水源〜
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「他の井戸も、全て調べる必要があるわね」
アルネのその一言に、ルクナは肝が冷えた。
そして、彼は王家の特権を使うことにした。
「…… 手分けした方が早そうね。国をあげて」
(国を… あげて?)
「ははぁん、なるほど… でもね、その必要はないのよ」
「どういうこと?」
「忘れちゃった? 私が大聖女だってこと」
アルネのその言葉で気が付いた。
周辺にいつの間にか、キラキラと光を帯びた精霊達が視えていたのだ。
「そうか! この子達にお願いするのね!」
ニコリと笑みを浮かべ、応えを示したアルネ。
そして、両手を組み、祈りの体勢へと入る。
アルネの身体には、徐々に薄い緑色の膜が張り始める。
ほのかに光る身体。
(あれ? アルネ? 何だか以前とは… )
そう思いながら、ルクナはその様子を見守っていた。
リランの指導によって、制御を出来るようになった力は、その成果を表していたのだ。
しかし、アルネは苦戦していた。
(あれ?)
段々と光が強くなり、そして髪が解け、少しずつ髪が伸びていく。
力が強まっている証拠だ。
(アルネ、様子が… )
ルクナは、その姿に違和感を感じた。
そして、次の瞬間、力を収めたアルネは、呆然と辺りを見渡した。
「おかしい… 何で?」
「アルネ!?」
ルクナが心配そうに駆け寄る。
「いないの… 」
「いない?」
「ここから王都を中心に、円を描くように範囲を攻めていった。その途中までは確かにいたのよ。でも王都に入ると突然その姿が居なくなったの。パタリとね」
「それってつまり」
「王都には… 精霊達が1人もいない。こんなことって… 」
「確かにそれはおかしい話だわ」
「ねぇルクナ? この国には、結界か何か張られてたりするの?」
「いや、そのようなことは聞いた事ないわ」
「そう… まぁ精霊と結界は、関係なさそうよね… 多分。理由はわからないけど、とりあえず王都外の情報は大体わかったわ。城に帰ったら地図を用意してくれる?」
「えぇ、もちろん」
「それと、ここから近い所で少し気になる場所があるから、今から見に行きましょう」
「わかったわ。どちらにせよ、やはり王都内は衛兵達を総動員させようかしらね」
そう言って、世にも美しいウィンクを放った。
「… あぁ… うん、わかった」
(この人は一体… どんな人格管理をしているんだろう?)
アルネは混乱し、戦意を喪失しそうになった。
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その後、アルネ達はその周辺を聞き込みをしながら、気になる目撃情報と精霊を頼りに、2ヶ所程の場所を見て回った。
その中で近くに井戸があったのは、1ヶ所であった。
そして、その場所は、先程と同じ海水のような塩分濃度であったのだ。
もちろんアルネによる、独断と偏見なる野生の感覚であるが。
しかし、この井戸は普段はほぼ使われていない場所だった。
その代わり、何かを這ったような、歩いたような粉の足跡があった。
そして、もう1ヶ所の場所には、近くに井戸はなかった。
「井戸がない? じゃあ一体何処から… 」
アルネはそう呟くと、ふとその鼻を利かせた。
(犬… )
ノギジ程ではないが、アルネはその培ってきた自然の感覚を感じ取っていた。
そう、あったのだ。
大きな穴が。
(こんな穴… 以前からあったか?)
ルクナは、自身の記憶を辿った。
そう考えに耽っている間も、アルネの独断は進んだ。
その穴に、石を投げ入れてみるアルネ。
「えぃっ」
奥深く、遠くの方から、ぽちゃんという音が微かに聞こえた。
しかし、古過ぎて誰も使っていないのか、近くに井戸水を汲むような桶はなかった。
アルネの勘と嗅覚は言っている。
「微かに潮の香りがする… ほんのり微かにね」
(まぁアルネが言うのであれば、そうなのであろう)
ルクナはそれを信じた。
「さっきの場所といい、ここも人気はなさそうね。通りがかった数人にしか、話が聞けなかったし」
「そうね。それもあまり有力と言うには、到底遠いものだったものね」
そして、何か考えるように黙り込む。
「とりあえず、今日はもう城に帰るわよアルネ」
「… うん、そうね」
そう返事をすると、アルネはそのままじっとルクナを見つめた。
「な、何?」
「明日も… 明日もその格好なの?」
「うふ。もちろんよ!」
「国を担っていく殿下様あろう者が、そんな格好で彷徨いて大丈夫なの?」
「だからこそよ? だからこそ、このような親しみやすいこの私が必要なんじゃないの」
ルクナはそう言いながら、くるりとスカートの裾を持ち上げて、ひらひらと回った。
「親しみ… やすい…… ね」
(まぁ別に止めはしないけど、ギャップが… 美男子と美女の差が… それはそれで、演じられてて凄いけど)
アルネは飲み込んだ。
彼にとっては、最大の褒め言葉となってしまうからだ。
「後の2ヶ所は、明日にしましょう? そして他の場所の情報を照らし合わせたいわ」
「今夜?」
「そうよ? どうせ、既に他のヶ所の手配は、ほぼ済んでいるんじゃない?」
アルネはそう言いながら、ニヤリと草木の奥に視線を送った。
「そう… ね。報告を簡潔にあげさせましょう」
「ありがとう。よろしくね。はぁ、それにしても… 」
「ん? どうしたの?」
「お腹が空いて、死にそう」
「えぇ… そうね」
ふと見上げたその先には、既に陽が落ち、月が自分の出番だとばかりに、顔を出していた。
(こりゃお腹も空くか)
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そして翌日。
ルクナは午後から、滞っていた公務をするため、部屋へと篭らなければならないという。
しかし本来ならば、帰国後すぐに閉じ込められるはずだった。
それがだ。
『旅の疲れを取らなければ死ぬっ!』
と殿下ならぬお言葉を言い放ったがために、側近である者達を黙らせた。
いや、困らせていた。
その疲れを取るはずの為の時間も、全てアルネへと費やしたのだった。
そう、それが彼にとっての癒しと変わっていたからだ。
昨日行く予定だった残りの2ヶ所。
本日はその場所を目指して2人は、馬車に揺られていた。
しかし、1ヶ所目にも2ヶ所目にも井戸らしきものは、見当たらなかったのだ。
(もしかして、井戸は関係ない?)
そう思った矢先だった。
井戸のなかったその2ヶ所には、地下水路の入り口があったのだ。
「井戸ではなく、地下水路か。昨日の場所より、街に近いのも関係あるのかしら?」
アルネはそう言いながら、やはりその地下水路の臭いと味を確かめずにはいられなかった。
そこは、井戸ほどではないが、ほんのりと塩っ気のある味がした。
「全ての共通点は、水辺ね。そして塩味?」
ルクナは確信したように、その言葉をあげた。
昨日の3ヶ所と今日の2ヶ所、そして昨日にて他の場所を調査していた者達の報告を照らし合わせた結果だ。
それらの共通点は水源である。
しかしまだ、全ての場所を調査したわけではない。
それにも関わらず、自ずとその考えに近づくのを確信していたのだ。
よって、ルクナはその言葉を口にしていたのだ。
「まぁほぼ確定ね。でもこの件が一体、何に繋がっているのかが謎なのよねぇ、本当」
「アルネの言う通り、この謎の痕跡が何らかの悪さをしているようには感じないのよね。それも今のところはだけど」
「既に起きている可能性も無きにしも非ずよ? 私達のまだ知らない場所でね」
「確かにそれも否めない。それと… 黒い羽根。これが1番引っかかるわ」
「カラスの3倍以上もある大きさの羽根… 」
これについてのルクナの言葉が、アルネのある考えを過らせた。
ルクナの言うとおり、平民である物達は全員、黒い羽根を見た者は誰1人いなかった。
地下水路近くの集落の者による返答は、想像通りだったのだ。
「黒い羽根? カラスか何かでしょうか? そういえば最近は、カラスのような黒い鳥は見なくなりましたね」
「そうですか。ありがとうございます」
そして、次だ。
通りすがった馬車に乗っていた、高貴なる貴族。
その者に尋ねた返答がこうだった。
「黒い羽根? そうのような物は存じ上げませんね」
「そうですか… お時間頂き、ありがとうございました」
そうお礼を言い、見送った。
「この辺には、まだ現れていないのかしら?」
しかしそう思った時だ。
進み始めた馬車が、すぐに再び車輪を止めたのだ。
不自然に思ったアルネ達が馬車へと駆け寄った。
「いかがされました?」
「妻が… お伝えしたいことがあるそうで」
そう言う男の横には、少し怯えたような貴婦人の姿があった。
「大丈夫です。ゆっくりお話してみて下さい」
ルクナは、その美貌をふんだんに纏い、笑みを放った。
「ここではないのですが、わたくし別の場所でそういった物を見ました… その黒い羽根を」
「それは本当ですか?」
「えぇ… 間違いないかと。それはそれは… 見たこともないような大きさで… わたくし… それを… 」
「そ、それを?」
アルネは思わず、生唾をごくりと飲み込んだ。
「拾い上げましたの」
「え? ひ、拾い… 上げた?」
「えぇ、何だかとても魅力的に見えまして… 」
(そういうものなのかしら?)
「でも先程、その出来事に怯えているように感じましたけど?」
アルネは余程の事があったのだと思い、そう尋ねた。
「そうです。最初は興味本位だったのです。しかし、その後の事です。わたくしがその羽根に、心奪われそうになりながら眺めていると、侍女が不思議そうな顔をして、こう言ってきたのです。
『奥様?一体何をなされてるんです?』と。
それに対して、わたくしはそのままの事を告げたわ。そうしたら彼女は、更に不思議そうにしていました。
『私には、奥様が何を持っているのか… 見えません』と。
こんなに大きな羽根が見ない? そう思い、わたくしは一瞬にして恐ろしくなり、その羽根を振り落としました。
その後何度聞いても、何も見えてなかったと。
しかも… 彼女だけではなかったんです。そこに居合わせた執事や… 通りかかった通行人も… 皆… 何も見えてなかった」
そう言うと、貴婦人は表情を青ざめながら身体を震わせた。
アルネは脳に埋め込むように、その言葉を受け止めた。
そして、アルネがずっと抱いていたある考えが、ゆっくりと起き上がる。
(… やっぱり、いるんだわ。いいえ、来たのね… )
アルネはそれを追求する為に、更に質問をした。
「その場所は何処です?」
「王都です。王都の… 」
「あとの事は、使用人から手紙をお送り致しましょう」
その言葉を遮る事によって、主人による労りを表した。
そしてその送り先を聞いた使用人は驚き、主人に耳打ちをした。
「なんとっ! ’皇女様’ で在らせられましたか!失礼に至り… 」
「いいえ、良いのです良いのです、ふふ」
(何でちょっと嬉しそうなのよ)
「それよりもです。辛い経験だったにも関わらず、とても貴重なお話を頂けた事、心より感謝しておりますわ」
そう言いながら、皇女ルクナは華麗な礼を披露した。
こうして、有力な情報を聞けたアルネ達は、太陽が真上に登る前に王宮へと戻ることにしたのだ。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
突っ走って書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
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