episode84〜決断〜
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西の森にあるオーガ族の別邸。
そこで長年倒れていたオル。
その間、約150年の月日が経っていたのだ。
それは騙し絵によるものであった。
そう、誰かもわからぬ者の手によって…
無事、彼を救出したアルネ達。
その騙し絵は黒魔術によって、描かれているのではないかと考えを巡らせた。
東の森にいる可能性のあるリランの弟子、ジルコが何か知っているのではないかとアルネ達は考えた。
しかし、そこにも弊害がある事を知る。
ジルコはユマン族嫌いの、男嫌いという曲者。
対応できる者が、少ない事に懸念を抱いていた。
完治とは言えないが、回復傾向にあるオルにアルネは尋ねた。
「オルさん、身体の具合はどう?」
「あぁ、君だね? 大聖女アルネ、助けてくれてありがとう。この恩は一生忘れないよ」
「私だけの力じゃないわ。1番はここまで信じてきたオレスと… シェリュウスの存在があったからこそ」
「あぁ… そうだね。それでも、お礼を言わせてもらいたい。君達に出会ったおかげなのは、何にも変えられない事実だ。オーガ族の長として、君達に感謝をするよ。ありがとう」
「ふふ、私達もあなた方に会えてとても嬉しいわ。それでなんだけど、思い出せる範囲でいいの。その… このような状況になった時のことを話してくれないかしら?」
アルネは、拳を握りしめてそう言った。
「もちろん。まさか150年も伏せっていたとは… ぼんやりだが、少しずつ思い出したことを話そう」
その言葉に真剣に耳を傾けた。
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『あれは、霧のような雨の日だった。なのに、空はとても明るく、私の目には晴れているかのようにも思えた。
風邪を引くから屋敷へ戻ろう。
そう、シェリュウスに言ったが、その太陽に反射した雨が、キラキラとして、興味を持ったシェリュウスは帰ろうとはしなかった。
それに、そのような雨に濡れたからといって、風邪を引くような私達ではない。なのに… なのにだ。
その時は何故かそう思った。
それが悪寒だった事に、今思えば気が付きもし無かったんだな。この先、このような ’罠’ にかかるとも知らずに。
屋敷にいたオルが森の中に私達を迎えに来た事は、先程耳にしたところだ。
私は何だか、その空模様が気になった。
いつもとは違う雨。あれは一体何の匂いだったのか… ? 私はそれを嗅いだ事はなかった。しかし、普通の雨とは違う。少しベタつくような… まとわりつくようなそんな。それに、目も痛く、味もした」
(味!? そんなものが降っていたの?)
アルネ達は、驚きを隠せないでいた。
しかし、話の腰を折るのはやめようと思い、そのままじっと黙って聞いていた。
『そして、目を離した隙にシェリュウスがいない事に気が付き私は焦った。
しかし、不幸中の幸いか雨のおかげで、少し地面がぬかるみ始めていた。それによって、シェリュウスの足跡が、屋敷に続いている事に気が付き、すぐに屋敷の方へと走った。
しかし、その思い込みがいけなかった。
最後までちゃんとその軌跡を見るべきだった。
何故なら、屋敷には誰もいなかったからだ。
シェリュウスは途中迷子になったのか。
オレスは、私達を探しに森の中へと入った後だったのだ。
しかし、誰もいないはずの屋敷に何者かの気配を感じた。今思えば、その者がおそらくあの騙し絵を描いた者だろう。
私は、恐る恐る奥へと進んだ。
そして、不思議な空間を見つけた。穴のようでそうじゃない。しかし、突然それは現れた。
すぐに私自身が、穴の中心にいる事に気がついた。
さっきまでは半分しかなかったのに、突然だ。
訳がわからない。こう見えて、私達種族は高い所が苦手だ』
(ん? あれ?)
アルネは違和感があった。
『そして、そのまま気を失ってしまったんだ』
「ねぇ待って? て事は、最初は臭いは無かったてこと?」
アルネは我慢できずに、ウズウズを解放した。
「その通りだ。しかし、どのくらい寝ていたのか、強烈な… 嗅いだ事もない悪臭で目を覚ました。その臭いによって、再度気絶をしてしまったのだ。
その後、何度か起きたようなそんな気さえするが、覚えていない」
「なる… ほど。それにしても一体誰が? ものすごく悪趣味ね。まるでサイコパス」
アルネは、顔面を崩しながらそう言う。
「オルの記憶のない一件はわかった。しかし、オレスとシェリュウスは何故100年もの間、眠っていたんだ?」
ルクナも疑問符をつけた。
「わからないの… でも、シェリュウスを見つけ出したところまでは覚えているわ」
そうオレスが応えた。
その手には、我が子を愛おしそうに包み込む手が伸びていた。
「ねぇオル? その150年前に騙し絵の所には誰かいなかったの? 何者かの気配を感じたって言ってたけど」
「よく… 覚えていないんだ」
「そう… でも無理に今すぐ思い出さなくても良いわ。徐々に… 」
「いや…… 影だ… あの時確か… 」
オレスはそのまま考え込むように黙り、一点を見つめ始めた。
(オレスみたいに、頭痛が来たりとかはなさそうね)
アルネは、言葉を待った。
そして、オルはゆっくりとその口を開き始める。
「ある1つの… 影。フードを深く被り素顔は見えなかったが… あれは人型のように感じた。断定はできないが、アンセクト族やルー族ではないだろう」
その言葉に、アルネ達は喉が渇くような違和感を感じた。
(てことは、ユマン族かヴァンパイア族、竜族、そして… シレーヌ族?)
「消去法ね」
アルネは、言葉には出さなかった。
彼女よりもっと頭のいい者達は、薄々と感じ始めていた。
しかし、憶測でモノを言ってはいけない。
言葉を待った。
ゆっくりと近づく疑い。
どの種族も疑いたくはなかった。
むしろ、自身の種族であって欲しいとさえ思ってしまったくらいだ。
そして、胸がドクンと波打った。
「裸足のような… そんな感じがした」
その日、奇妙な雨が降っていたという証言から、嫌な予感はした。
それが何の繋がりのないものかもしれない。
しかし、その事が頭の全面に残っていたアルネ達は、それを一部の材料として、どうしてもチラついてしまう。
オルの言葉は続く。
「不思議な匂い… あれはあの日の雨の匂い… それが何なのかはわからない」
「そう… ありがとう。とても参考に… なったわ。辛い記憶を思い出させてしまってごめんなさい」
「いや… 私も、このような事になってしまった原因を追求したいからね。私達家族の大切な時間を奪った犯人をね。また何か思い出したら教えるよ」
「えぇありがとう。それでなんだけど… 」
アルネが口を噤んだ。
その理由は、奪われた時間に対しての、申し訳なさだ。
世界のためとはいえ、これ以上家族の時間のベクトルを違う方向へと、向けさせるのは後ろめたかった。
しかし、一歩前へと出る背中がアルネの視界に入った。
ルクナがその使命を全うするために、言葉を繋いだのだ。
「オル殿。長い年月から目が覚めて、やっと、家族の時間を取り戻した矢先だ。身体も精神的にも疲れているであろう。… 以上の事、重々承知でお願いしたい」
「え? 急に改まってどうし… あぁ、そうか。大丈夫だよ。命の恩人である君達には、何を返そうにも足りないくらいだ。遠慮なく言って?」
オルの優しい言葉とその表情に、オレスも同じく微笑み頷いた。
その言葉に、心強さを確信したルクナは率直な想いを伝えた。
「俺達の国へと、来て欲しいんだ。知っての通り、俺達は世界の均衡を保つ為に、滅びゆこうとしている種族達を求めて、旅をしてきた。
こんな短期間で全ての種族が見つかるとは、我々も正直驚いている。これも、大聖女であるアルネのおかげだ。
しかし、見つけただけでは到底その均衡は元に戻らないだろう。見つけた後、どうすれば良いのかもわからない。
おそらく、我々の国にある ’均衡の盃’ が鍵となっているのは間違いないが… その為には各種族達にその盃を見てもらいたいと考えている。
試せることは試したい。お願いできないであろうか?」
「えぇもちろん。お安い御用です。私達がそのような事でお役に立てるのであれば。それに、あなた方の国へ、行きたいと思っておりましたから… そう150年も前からね」
オルは自虐を込めた。
(ふ、触れていいのかな? え? いいの… かな?)
アルネは目が泳いだ。
「とーちゃま面白い! ギャハ」
(((急に喋った!)))
その場にいる全員が、その幼い声に反応をした。
先程まで、全く話すことすら出来なったシェリュウスが言葉を発したからだ。
「ははっ! 息子よ! 急成長だな!」
(急成長にも程があるだろう?)
「あらあら。いい傾向ね」
(そうなの? そんなもんなの? … てか、とーちゃまって… 可愛いな、おい)
アルネは、オーガ族の生態を再び垣間見た。
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こうして、オーガ一族がルクナの国へと来てくれる事が決まった。
しかし、やはりこの150年間の溝は大きい。
身辺整理もこと済ませたいという、彼らの意見を尊重し、一度彼らとは別れる事にした。
そして再び、国にて落ち合う事を約束した。
アルネ達はと言うと、東の森にいるであろうリランの弟子、ジルコを探し求めに行った。
現在地である西の森と東の森では正反対に位置し、移動には時間がかかる。
しかし、ここは、バージ改め、竜族であるジャグモの登場である。
竜族でわかった今も、その呼び出し手段は変わらない。
アルネの対応ももたろん変わらない。
変化した事もあれば、不変的な事もあるのだ。
再び、ジャグモの背に乗って、移動を開始したアルネ達。
それでも、約3日程はかかった。
そして、東の森には3日目のお天道様が、頭の頂上へと登っている時間帯に到着していた。
西の森と東の森。
違いはすぐにわかった。
閑散と静まり返った森、その静けさは異様だった。
生き物の気配がしない。
精霊の気配もしない。
閑散と言うには、まるで正気の感じられない森であった。
(何なのこの森は… 何故こんなにも… )
アルネは息がしずらい事に、気が付かない程だった。
「呼吸を… ゆっくりとして下さい」
そう言うのは、ハルザであった。
「ふぅ… さすが種族達の看病人」
「少しニュアンスが… 違う気が… 」
ハルザはそう思いながらも、アルネの背中を摩った。
「それにしても、この森… 嫌ね。一刻も早く出たいわ。でも… ジルコさんを見つけなきゃだし」
アルネが本心と闘っていると、リランが重い口を開いた。
「アルネ、残念じゃが… おそらくこの森には、既にジルコはおらんじゃろう」
「え? じゃあ違うな場所に?」
「その可能性もあるが…… もしくは既に… 」
「それはどうかしら?」
「なんと?」
「ほら、見て?」
そう言って、アルネはあるモノを指差した。
そこに残されていた軌跡。
それはまさに、大聖女である者の軌跡だった。
「これは… 」
アルネが指差したそれを、師匠が拾う。
その手は、気が付かないほどの震えだった。
しかし、アルネにはわかった。
リランに付いている精霊がそうであったから。
「それ、もしかして師匠であるあなたがジルコさんに渡した物じゃない?」
「小娘… こんな所に置いていきやがって」
「それは違うんじゃないかしら?」
「え?」
「別れてからこんなに時間が経っている。なのに、今でも残ってる。その ’温かさ’ を感じるわ。これはきっと、感謝と… そして愛情… 何じゃないかしら? 私には… 私達にはわかるはず。ね? リランさん。だってこんなにも… 」
アルネは、ここで言葉を止めた。
これ以上、何を言わずとも、その先の想いは既に本人に伝わっていたからだ。
その顔に、大粒の何かが溢れ落ちる。
彼女はそれを、涙とは言わなかった。
そして、これからも認めることはなかった。
「素敵な関係だったのね。羨ましいわ」
その軌跡には、大聖女にしかわからない想いの光という名の輝きが集まっていた。
何処かでまだ生きているという、その軌跡を残して。
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期待通りにはいかなかったが、そこにジルコがいたという軌跡は微かに残されていた。
そしてその想いも、残光となって留まっている。
「ここにいないとなると、一体何処へ行ってしまったのかしら?」
シュリが顎に手を当てながら、そう呟く。
「それは分からぬがおそらく… 」
「「あっちね」」
そう言葉を揃えたのは、アルネとリランであった。
「… わかるのか?」
ルクナが目をまん丸くしてそう言う。
2人は目を合わせると、軽く頷いた。
「あちらの方向ですと、私共の国とは少し逸れていますね」
ヴィカがそう言うと、アルネは首を傾げた。
(指を差したは良いけど、あっちに何があるのか、全然地図がわからないわ… )
「もしかしてヴァーネル国か? もしくはその途中に位置する村か、民家?」
「…?」
アルネのその反応に、察しを発道させたヴィカ。
「隣国のヴァーネル国です」
「… あぁ、はいはい! ヴァーネル国ね! あの隣のね! 知ってる知ってる!」
「えぇ… 」
(アルネ様? 何だか様子が… 気のせいか?)
すると、ルクナが考えを示した。
「このまま、ヴァーネル国へと向かってもいいが、一度、我が国へと戻りたい。我々の疲労も溜まっている。ここは一旦休息を取りに行くのは、如何だろう?」
「そうね。お店の事も気になるし。それに何より、私の豊満ビューティフルボディが飢餓という名に侵され始めているわ!」
(毎日見ているせいか?)
(何か変わっているようには、見えないけど)
(飢餓… とは?)
全員が空気を飲み込んだ。
「そうですね。一度報告も必要でしょうし、それに… 」
ヴィカの表情が、一瞬曇りかけた事に気が付いたルクナ。
「サルーンか?」
「はい… その… 例の地下の進捗状況も気になりますし」
ヴィカは、野放しになっている弟の事が気になって… 気になって気になって、仕方がなかった。
(ヴィカ… 無意識だよな? 本を読みながら歩くなんてよっぽどだ)
ヴィカは、その失礼に値する行為をすぐに引っ込めた。
「決まりだな。休息もこの ’旅’ の1つだ。一度我が国へと戻る事にする」
その言葉に、全員が大いに賛同した。
「しかしまぁ、国へ帰るとなると、こりゃまた大変だな」
デイルの、その身に覚えのある声に、ゾルが反応する。
「大変なのか?」
「ふふ、ルクナリオ殿下でも、守る事は難しそうね」
シュリの意味深な微笑みに、ゾルの背は一瞬肌が立った気がした。
そして、その首を180度回転させて、張本人へと答えを乞う。
「ルクナの国は危険なのか… ?」
「そう言う意味じゃない」
「じゃあ一体… 」
ハルザが代わりの言葉を発した。
「国王は何て言うか… 種族をとても愛してるおられる。そう、愛しすぎるゆえの… 寵愛とはまた別の… 重い愛… 」
「重い… 愛」
ゾルが、定まらない視点で復唱した。
「そう言うハルザさんも、大丈夫なのですか?」
「何だ、ヴィカ? 俺がどうし…… 」
一瞬にして、ハルザは未来予想図を設計した。
そして、いつも以上に血の気が薄くなるハルザ。
「報告は… 避けられませんゆえ」
ヴィカはそれでも、これからの現実を突きつけた。
「… っている… 」
ハルザは薄紫に染まった唇と、微動させた声帯で返事をした。
しかし、彼らがすんなりと国へと戻れない事は、誰しもが予想だにしなかった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
突っ走って書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
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