episode79〜竜族〜
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オレスの興奮は、未だ収まる事はなかった。
(判って… サインの事だったのか… サイ… ン?)
その理由は他でもない、この場に尊敬するヴァンパイアの一族に出会えたからだった。
その歓喜ときたら、地鳴りと突風が吹き荒れる程だったのだ。
(少しは慣れてきたが… アルネがオレスに当たり前に接し過ぎて、友との会話のようになっているな… 女性は種族関係なく、こんなにもお喋… 元気なんだな)
ルクナは、関心が違うところへと飛んでいた。
「ごめんなさい。ちょっと取り乱しちゃったわね。あまりに嬉しくて。そうね、先程ルクナ殿下が仰っていた種族達は確かに存在するわ。それと、もう一種いるの… 」
「もう一種? 新たな種族?」
「そう。でもあの城には、その彼らに関する文献がなかったから、あなた達もきっと知らないと思う。
彼らはとても数奇な存在だから… ヴァンパイア族より会うのは難しいかも」
(というか、会うにはそれ相応の覚悟がいるわ)
「確かに、先程の六種以外には、その他の存在を示すような文献はなかったですね」
ハルザが、思い返すように口を開いた。
「それは一体、どのような種族なのでしょうか?」
(もう一種か… )
ルクナは、以前の記憶を辿った。
そして、オレスの言葉を待つ。
「それは… 竜族よ。私が知る限り、この七つの種族が世界の均衡を保っている。もしかしたら、もっと遠くに他の種族もいるのかもしれないけど… それはまた想像の話に過ぎないわ」
「竜族!? ですって!?」
「彼らは憚らず護り人として、存在していた。その一つに ’ジャバラの天秤’ と呼ばれる耳飾りが存在するの」
(随分と不思議な表現をするな)
その言葉を聞いた一行は、一斉にアルネの耳元へと視線を向けた。
「待って… それってもしかして… 」
そう言いながら、アルネ自身も片耳に指を当てる。
「アルネ?」
「その耳飾り、今まさにアルネとデイルが付けている物に間違いない」
「… っ!? 何ですって!?」
「オレスが言う竜族… もし、それが ’ジャバラ族’ のことであるならば、その存在を以前、アンセクトの長に聞いた事がある。しかし、長であるサリドナも詳しくは知らなかった。まさかその名が、種族由来のものだったなんて」
そしてアルネはふと、呟いた。
「竜族か、竜… で思い当たるのは… バージ?」
その名が出た事によって、その場にいた者達全員の表情が一変した。
「うーん、でも竜っぽいのかな? 蛇感強し、それにどっちかっていうとニワトリっぽくない? バージって竜の類なのかしら? 確かに空は飛べるけど… 」
「彼の生態は、何もかもが謎だ。それに関しては、わからないな… 少しでも会話が出来れば良かったんだが」
(まぁバジリスクって言う程だから、蛇のようではあるんだろうが… )
ルクナはそう思いながら、遠く空を仰いだ。
二人の会話に、オレスは疑問を投げた。
「ねぇ? さっきから、そのバージって子は、蛇のような… 鳥の姿をしているの?」
「そうだな。一見すればすぐわかるが… バージというのは彼のあだ名のようなもので、言葉が通じないために、こちらが勝手にそう呼んでいるだけなんだ」
「なるほど。でもそれにしても、あだ名の由来はあるんでしょう? 何故バージなの?」
その疑問には、名付けた張本人であるアルネが応えをを出した。
「えぇ。バジリスク… 私達は彼を少なくともそう思っている。そこからとってバー… 」
しかしその瞬間、オレスの顔色は変わった。
「バジリスクっ… ですって!? そんな… 彼と会って… あなた達は… 何とも… 何ともないなんて… 」
(え? オレス… ? 何でそんなに驚いてるの? それにすごい汗… )
アルネはオーガ族の滴る大きな雫に、当たらないように警戒した。
それに対し、即座にルクナが返答をする。
「あぁ… というか、近くにいるはずだ… な? アルネ」
「えっ!? この近くに!? 急ぎ、身を隠さなければ! 奴らは危険です! しかも… おそらく彼自身がっ… その… 竜ぞ… かとっ!」
その身を駆け出そうとしたオレスの大きな膝に、手を置くアルネ。
「ま、待ってっ! オレス、落ち着いてっ! 大丈夫だから! ね!」
「アルネ!? 何故そう言い切れるの!? だって… はぁ… はぁ… 」
段々と、オレスの心が乱れていくのが見て取れた。
(ん? 何だかまずい状況になっ… )
「オレス! 落ち着いて! ほらっ! 私に合わせて? ひぃひぃっふぅよ? ひぃひぃっふぅ」
(なんか違うような)
しかしその呼吸法で、オレスの心が整ったのは運が良かったと言わざるを得ない。
少しの間を置いた一同。
するとハルザが、落ち着き始めたオレスにゆっくりと話しかけた。
「大丈夫か? 実は… 俺達はそのバジリスクであるリスに乗って、移動をしているんだ。旅のいち手段としてな。彼は最近、アルネが手懐けたことによってだな、その… 仲間に… 」
(無理矢理従わせたとは… 口が裂けても言えない… )
そう思いながら、ハルザは言葉を選んだ。
アルネは、目撃者の一人であるハルザに、素敵な笑みという圧をかけていた。
「えっ!? あの竜族を!? そんな… 信じられないっ… 」
小さな疑問を抱えていたルクナが、オレスにその違和感を投げた。
「オレス? 先程、彼ら竜族の存在を ’憚らず護り人’ とそう言っていたな?」
「え、えぇ… それがどうかしたの?」
「普通、護り人に対してそのような表現の仕方はしない。そう呼んでいた意図には、なんだか ’勝手に’ とそういった感情が浮かんで見えるが?」
(うわぁ… 何だか学校の先生みたい… 行った事ないけど)
そう思いながら、アルネはルクナの見解を聞いていた。
「そして其方は、その竜族を危険と認識しているようだが、もしバージが仮にそうだとしても、今となればそのような危険はない」
「え… 今となれば? ということは、出会った時は危険だったという事かしら?」
オレスの言葉に誰しもが口を噤んだ。
そして、当初を知っている者達がゆっくりと首を縦に下ろす。
「やはり… だって奴らは… あの方にしか従わない… おかしいわ… 彼に一体何を… 」
(あの方… ?)
ルクナは、その言葉が引っ掛かった。
しかし、恐れられているバジリスクに ’何をしたか’ は、誰も応えようとはしなかった。
そして、アルネが不穏な笑みを浮かべながら声を漏らす。
「ふふ、ふふふふ… それより、もし本当にバージが竜族だとしたら、話せない種族も存在するって事よね? だって彼、喋れないもの。超音波とか、テレパシーとか、何か他に通信手段があるって事?」
(テレパシー?)
「いや、竜族は喋れるはずよ? そこが謎なのよね… その… バージは喋れないのよね? いや… 待って、本当にそうなのかしら?」
「え…?」
「彼は本当に喋れないの? 試した事は?」
その言葉に、場の空気が一変した。
アルネとルクナの目線がぶつかる。
そして二人の意見が一致したその時、アルネが先にその言葉を出した。
「ここに… ここに今からバージを呼んでも良いかしら?」
「え… ? 奴を呼び出すの?」
「えぇ」
「い、今から?」
「うん」
「ここに?」
「…… 」
こくりと頷くのは、アルネだけではなかった。
「嘘でしょ… そんなすぐに呼べるような… そんな事が本当に可能… なの?」
アルネは、コクリと更にその首を下ろした。
再び乱れそうな心を、独特な呼吸法で整え、そしてグッと堪えるような表情をしたオレス。
「… わかったわ。あなた方がそう仰るなら… きっと… えぇ、きっと大丈夫なのよね?」
「その通りよ。なぁんの心配もいらないわ、なぁんにもね」
その言葉に、ゆっくりと頷くオレス。
「私を… 私達を信じてくれてありがとう。オレス」
ぎこちない笑みを無理矢理浮かべるオレスの膝に、そっと手を置くアルネ。
そして、十分な広さを作り、その中心にアルネが立った。
静まり返った少し冷たい空気に、アルネの指笛が遠く轟く。
(こんなんで、本当に来るのかしら?)
オレスの緊張が、その場にいる全員に伝わるのがわかる。
すると、遠くから風を切るような音が、微かに聞こえ始めた。
今回、彼自身もいつも以上に注目されているとは思ってもいないだろう。
アルネに限っては傾聴に近い。
そのコミュニケーションを久しぶりに発揮する。
開け放たれたその場所に、躊躇なくバジリスクはその姿を下ろした。
駆け寄った全身を、その身にダイヴさせる。
こちらも何の迷いもない。
「久しぶり! 元気だった? ちゃんと食べてた?」
「その心配はなさそうだな」
そう言いながら、すっかり慣れたルクナも、バジリスクの体部にそっと手を置き、そう言う。
二人の姿に、驚きを隠せないオレス。
声を失いかけていたその表情を横目に、デイルは声を掛けた。
「ほらな? 大丈夫だろ? 見ての通り、あいつには何の脅威もない… アルネが手なづけたからな」
「そんな… バカな… 手なづけたって… 一体どうやって… そんな事… 」
そう言いながら、大きい瞳を更に見開いてデイルの方を見た。
「それは… 」
(言えない… 本人に聞いてもらおう… )
遠くで、手招いているアルネに気が付いたデイル。
「ほら、呼んでいるぞ… 大丈夫だアルネを信じろ」
「そうね… きっと、大聖女ゆえの何か不思議な力が働いているんだわ」
「あ、まぁ… な」
デイルはその応えを、はっきりと差し出す事が出来なかった。
ゆっくりと近づくその姿に、アルネはニコリと微笑みをかける。
必死にそれに応えようと表情を取り繕うとしたが、どうも心情が追いつかないオレス。
(… 怖い… いや、会った事もないはずなのに、怖がるのはおかしいわよね。それに、アルネの行動や言葉には、何故か信用しかない… とても不思議な感覚)
そう思いながら、その瞳をゆっくりとバージの方へと向けた。
真っ直ぐにオレスを見るその瞳に、一瞬心臓が掴まれそうな思いになった。
しかし、それは単なる自身の思い込みと恐怖心から来ているのだと、すぐに気が付く事となる。
「ご、ご機嫌よう… 」
しかし、オレスのその言葉に反応を示す事はなかった。
(やっぱり… 話せないのかしら… では彼は竜族ではな…… ん?)
「そういえば、会話が成せないのに、アルネは何故、バージ自身が ’彼’ つまり、男性ってわかったの?」
その疑問には、ルクナも反応を示した。
「確かにそうだな? 今まで何の気無しに姿だけでそう思い込んでしまっていたが、アルネははっきりバージが彼とわかっていたように感じたな」
「え? あれ? だって、ちゃんとあるじゃない? ほら、あそこに… 」
そう言いながら、覗き探す仕草をし始めたアルネの思考を、例の如く拘束したのはヴィカであった。
その事にルクナは、嫌でも察する。
(アルネ… もし本当にバージが種族だったら、どうするんだ? それにしてもいつ確認したんだ? … あの幽谷の時か? それとも… )
「なる… ほど… 確かにそれが一見で、確実ね」
(心無しか、バージが引いているように見えるが… )
デイルはそう思いながら、バージの腹部へと目線を潜り込ませた。
彼自身もこんな羞恥な目で見られた事は、今までなかっただろうに。
その、とても気の毒そうな表情を同じ ’生物’ の彼らは察した。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
突っ走って書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
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