episode72〜抑制〜
久しぶりの投稿でございます。
待ってくださった方も、たまたま通りがかった方も読んでくださるとありがたいです。
そして、翌朝。
昨夜、アルネはリランと共にその部屋に入ったっきり、出て来なかった。
出会ったばかりの者にアルネの身を任せるのは、普通ではとても考えられないことだ。
しかし、不安という言葉はリラン自体に向けられているわけではなかった。
制御しきれていなかったアルネの力に気が付くことが出来なかった。
その苦しみに気が付けなかった。
その自己嫌悪にみまわれたルクナは、心休める事が出来なかったのだ。
アルネ達が部屋に籠っている間、中の様子はわからない。
しかし、その力の状態はデイルによって確認することができた。
デイルからは眩い光は消え、通常の大きさに戻っていたのだ。
一同は、小さく胸を撫で下ろした。
「さっきの俺も、結構イカしてると思ったんだけどな?」
呑気にそう言うデイルの頭を小突くゾル。
「アホか! 明らかに目が爛々としていただろう? 急激に力がみなぎると危ねぇぞ」
そして、時計が夜明けの刻をさした時、その扉は開かれた。
そこから登場したのは、リランただ1人であった。
「はっ! リラン殿! アルネの容体は!?」
ルクナは勢い良く立ち上がると共に、心配の声を発した。
リランは左手を前に出し、こう応えた。
「案ずるな。全て順調じゃ。少し時間がかかるが、制御できるようになる」
「そ、そうか… それは良かった。礼を言う」
(礼?)
「全く… それにしても、ここまで持ったのが不思議なくらいじゃ… 本来なら… ゔぅん… まぁいい」
(しかし、これができるとなると力を蓄える術により、更にはオルフール様をも上回る… いや、今それを考えるのはまだ早いか… )
そう思いながら、リランはアルネのいる扉の向こう側を見た。
「さて、大聖女様は只今安眠中だ。そっとして置いてやれ。目が覚めたら、再開するからな」
「まさか… 再開とは、先程施していたという力の制御か?」
「もちろんじゃ。あの力は一晩じゃ収まり切らん。それにアルネ自身で完全に抑えられるように、修行させねばならんのでな」
「修行? 中では一体どんな事が?」
そう言いながら、その部屋をちょっぴり覗き込もうとするルクナ。
「やめた方がいいと思うが? 楽しみはその時に取っておくべきだろうに?」
「ん? どういう意味だ?」
「ふっ… まぁ覗きたいのであればそうしても良いが… 一応言っておく。アルネは今、身も心も露わになっておる。つまり、全裸じゃ」
「え? ぜ、全裸!? … っく… 仕方ない… 今は、我慢… しよう」
そう言いながら、ルクナはその拳を強く握った。
(ルクナ様… 思考とお身体が合っておりませんが… 首が伸びてる… )
ヴィカはそう思いながらも、主人を横目でチラリと見た。
そして、視線をすぐにリランへと移す。
「リラン殿。アルネ様のその修行と成るものは、あとどのくらいかかりますでしょうか?」
「そうじゃな、ざっと2週間程か」
「2週間… ですか。意外とかかるものなんですね? やはりそれ程までに大きな力… 」
「いんや。おそらくアルネ本人は、1週間もしない程度で、習得できるであろう。しかし、2週間後に来るフルムーンまで、もう少し様子を見たいのじゃ」
その言葉に、ルクナは納得したかのように頷いた。
「なるほど、その成果をフルムーンの時まで、しかと確認したいということだな?」
「そうじゃ。暴走するようであれば、すぐにでもこの部屋に連れ込めるからな」
(暴走… それほどまで力が… )
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「温かい… 」
「本当に?」
その微かに聞こえる声に、アルネは目を閉じたまま身を任せた。
(いや、違うか… 所々冷たい部分がある)
側で状態を見つめるリランは、頷きながらアルネの全てを見た。
浮遊する実体の無い、その液体状の身体を。
その視線は、天井しか入らなかった。
気で感じる。
空気を一心させる。
そう思いながら、アルネはぷかぷかと湯船に浮かぶような気分でいた。
「大分、様になってきてはいるが、全体が同じ状態になるまで、集中させるんじゃ。そしてそれを一定の量として溜める」
(あぁ… 何を言っているのか全くわからん。私… 今、どうなってるの?)
「ねぇリランさん? これで身体を形成させるのよね?」
「ん? あぁ、まぁそういうことになるじゃろうな?」
「ふふ、てことは、ボンッキュッボンにもなれ… 」
「… 無駄な抵抗はやめろ」
「ちぇっ」
「その身体を、あの小僧にでも見せるつもりか?」
「あの小僧?」
「そうだ。どこぞかの国の王族である… 確か名をルクナと言ったか?」
「えっ!? なっ、何でそこでルクナが出てくるのよ!?」
「何? 違ったか? わしの目はこう見えて… 」
「リランさんっ! 集中できないからっ」
そう言いながら、アルネは乱れた気を戻そうとした。
(全く… 一国の王族である身の者が、あの時、礼を言っていた。よほど、この娘が大事なんだろうに。それにしても彼の国の殿下か… 確かあの国は… )
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そうして、2週間の時が過ぎた。
待っている者達には長く、修行中の身には非常に短く感じた。
アルネのその表情は、清々しさが全面に出ていた。
「アルネッ! 大丈夫か!?」
ルクナが心配そうに駆け寄る。
「うん! ご心配おかけしました。皆もありがとう。もう大丈夫だから」
その声に安堵する一同。
そして、ルクナはリランへと向き直って尋ねた。
「リラン殿、アルネはもう大丈夫なんだな?」
「うむ、アルネはこれまで、独自にその力を制御してきたのだろう。そうするしかなかったのだから。そしてそれは、ほぼ制御出来ていないと言ってもいいくらいだった。そのくらい雑で… ギリギリのところじゃった。知識がないということは、怖いことじゃ。
はぁ… 本当、よくここまで持ったものじゃ。通常の大聖女とは、状況も力の大きさも違う。
アルネの場合は、ユマン族が連続して成した大聖女じゃ。その力は先代の力をそのまま受け継ぐ。
更には、齢16になるまで、ほぼ使わなかった力。そうなると、それまでのものが一気に流れる事となる。そりゃぁ、月が満ちなくともそうなるわな… 本当危ういところじゃったわい… 」
「なるほど… そうだったのか… すまなかった… 」
「ん? えっ!? 何でルクナが謝るのよ!」
「俺が、連れてきた責任もある… もっときちんと調べる事もできた。すまない」
ルクナのその言葉に、気を立ててアルネは言葉を発した。
「ルクナ! 次そんな事で謝ったら怒るからね!」
「え… 」
「この身体は私自身よ! その身体を1番分かってなかった、私の責任だから… ね? だから… だからルクナが気を負う必要はないの」
「違う… 負いたいんだ」
その足が一歩、また一歩とアルネの方へと進む。
「ルク… 」
そして、その身体を大きな優しさで力強く包み込む。
(え… ?)
「一緒にその身体と… アルネという大聖女と向き合いたい」
(えぇぇぇっ!?)
「ラ、リ、ル… クナ…… うん… その気持ちだけでも嬉しい… から」
少し照れくさそうに、アルネは微笑んだ。
「さて、イチャつくのはその辺にしといて… 明日がフルムーンである事は忘れてないな?」
「いっ、イチャつっ… 」
アルネはリランの言葉に、急激に恥ずかしくなった。
顔が真っ赤に染まるのを隠しきれない。
「え、えぇ。明日の夜、この力がちゃんと制御されたのかを確認する必要があるのよね?」
「そうじゃ。それまで、休息を取っても良し… いちゃつくでも良いぞ?」
リランは揶揄うように、ニヒルな笑みを浮かべた。
「それよりも、お風呂! お風呂に入りたいわ! 2週間も入ってないの! いや、お風呂に入っていたような感覚ではあったけど、あれは私自身が… 」
「ん? どうした?」
「はっ! ううん! 私、臭っ… 」
アルネが欲望を剥き出しにしている中、そこに天使の微笑みを浮かべたシュリが、肩に手を置いて囁いた。
「アルネ? いつでも準備できているわよ?」
「さっすがシュリさん! ありがとう!」
そう言いながら、吸い込まれるように、シュリの後をついていくアルネだった。
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