episode63〜ハルピーの森〜
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アルネの首に刺さっていたゴールドバニーの棘。
その棘によって、本来のあるべき力が吸い取られていた。
自然と刺さっていたものなのか。
それとも、誰かの手によるものなのか…
今となれば誰も知る由もなかった。
棘の処置がすぐに終わると、アルネは嘘のように体力を取り戻していた。
その後、特に休む事なく海岸の方へと進むと、不思議な事にすぐにその場所へと辿り着くことができた。
(今までのは、何だったんだ?)
ルクナには数々の疑問が残ってはいたが、アルネが回復したことの方が重要だった。
「アルネ… バージを呼べそうか?」
「えぇ! 任せてっ! お茶の子さいさいよ!」
「… ? そうか… ふふ、では頼んだ」
そうして、遠くまで綺麗に伸びるその指笛を解き放った。
間もなくすると、風を切るその音が聞こえた。
「バージッ!」
そう言いながら、いつもの如くバジリスクに抱きつき挨拶を交わした。
そしてすぐにその背に乗り、ハルザの住処としている古城へと赴く為に、ハルピーの森を目指すのだった。
数時間ほど空の旅を過ごすと、その生い茂った森が見え始めた。
緑が薄く広く開けた場所に、降り立ったアルネ達。
既に、辺りは日が暮れ始めていた。
そのため、今日は森に入る前にここで休む事となったのだ。
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翌朝。
(良い匂い… )
アルネがテントから出ると、そこには美味しそうな食事が用意されていた。
「おはようございます。アルネ様」
そう言いながら、ブランケットを優しくかけてくれるのは、ハルザであった。
「ありがとう」
温かいミルクをすすりながら、アルネはある事を思っていた。
「ねぇ、ハルザ。あなたの住処だというその古城って、国からかなり距離あるわよね?」
「はい。その通りでございます」
「その… ストックがあるという血液って、どうやって持ち歩いてるの?」
「… !」
「だって、すぐに取りに行けるような距離じゃないでしょ?」
「そうですね… はい、まぁ」
(おっと? 何だか濁し気味ね)
「血液に手を加えてるって言ってたけど、どういうふうに?」
「それは… 血液凝固によって、粉末状にして懐に入れております」
(粉末か… そんな技術が?)
「一ヶ月に一回の量… それで、前回その古城に行ってからどのくらい帰ってないの?」
「そうですね、かれこれ一年近くになります」
「一年… 十二回分… ? ポケットに… ?」
「え?」
「あ、いや、何でもないわ。その古城、前に誰が住んで居たの? 例の日に亡骸があったって… 」
「おそらく、その種族が住処にしていたのではないかと… しかし、私にもどのような種族なのかわからないのです」
「わからない?」
「はい。どの文献にも当てはまらなかったのです。しかし姿形は覚えております」
「その特徴は?」
「とても、大きな種族です。それはもう… 城が普通の家に見える程の… 」
(城が家に見える大きさの種族… え、それって… )
「… 一つだけ、心当たりがあるとすれば、以前サリドナ殿が仰っていた大きな身体の種族。もしかしたらその種族ではないかと思ったのですが… 今となれば私の記憶のみの残像でしかありませんので… 」
「確かに… オーガ族か? 実際、どれ程の大きさなのか、確かめる必要があるな。しかし、本当にそのような種族がこの世にいるのか? いや、今となっては居たのか… 」
「その種族の亡骸を、城の庭に埋葬したって言ってたわよね? それ程の大きな種族を? 10歳程の子供が?」
「まぁ… かなり時間は要しましたが… 弔いなので」
「ほんっと… 偉いっ! 偉いね! ハルザ! よしよぉっ… 」
アルネがその頭を撫でようとしたが、それをヴィカが止めた。
主人の目線が怖いから。
「ゔゔんっ、それで? その種族は1体のみだったのか?」
ルクナが咳払いをひとつして、話を戻す。
「はい、左様でございます」
「そうか。オーガ族の可能性は大いにある… それに対し確たる証拠があれば良いのだが… ところで、ハルザのいう文献というのは、どれ程の量なんだ? オーガ族については知らなかったようだが… 全てが揃っているわけではなさそうだな? それに読み明かすのに、100年以上生きてるハルザと言えど、時間はそれなりにかかっただろう?」
「そうですね… 解き明かすのに数ヶ月程です」
「数ヶ月? あれ? 随分短くない? ん? わかったのは最近なのよね?」
「はい… それは文字や言語の問題がありましたので」
「なるほど」
ルクナはその説明に納得したようであったが、アルネにはピンと来ていないようであった。
「ん?」
即座に補足が入る。
「アルネ様、種族には種族の言語や文字が存在します。ここで言う言語とは、音声言語のことを示します。言葉の意味とでも言いましょう。種族の数だけそれはありますので、それを全て理解し、読み明かすのは容易ではなかったと思います」
(だから解き明かすって言ったのか… それにしても、わかりやすい説明ね。さすがルクナの側近をやってるだけのことはあるわね… )
「本当に苦労したんだねぇハルザ… 」
「しかし、不思議なことにその文献の筆跡は、全て同じのように見えました」
「どういうことだ? それはつまり同じ者が書いたということか?」
「おそらく… その場に息絶えていた種族が書いたものかもしれません。城に着きましたら、実際に目にしていただいた方が早いかと… 」
「そうだな… 」
(でもその大きな身体… って事は手も大きいはず… その大きさで、そんな小さな文字なんて書けるのかしら?)
アルネはそれが繋がらずにいた。
もちろん彼女だけではなかった。
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そうして、各自準備を入念にしていったのだった。
遂にその森へと足を踏み入れることとなった時。
テントを出る前に、もう一度確認をする。
只今、その最終確認の真っ最中であった。
身体の隅々まで、傷口が無いかそれぞれが2人1組で行う。
少しでも流血部位が存在すれば、その臭いにつられて、怪鳥ハルピーが襲ってくるという。
しかしどうしても、アルネにも見えない部分があった。
デイルにでも頼もうと思っていたが、ここは満場一致でルクナに託された。
もちろん本人が希望したわけでも、誰かが推薦したわけでもない。
’暗黙の了解’
まさしくこれである。
アルネ本人は必要ないと断言してはいたが、念の為のことであった。
ルクナがテントの中へと呼ばれた。
背中が大きく開かれた状態で立つアルネ。
その表情は見えなかった。
とてもじゃないが見せれなかった。
後ろ姿でもわかるその顔は、首まで真っ赤だったのだ。
ゆっくりとその場に進むルクナ。
(は、早くぅー)
その華奢な曲線に、目を離す事が出来なくなる。
欲を抑えるので精一杯であった。
しかし、その足はいつの間にか、アルネの身体の寸前にまで来てしまっていた。
「え? ね、ねぇ! 無いでしょ? 無いわよね!? 傷なんてなっ… 」
「あぁ… そうだな」
「じゃ、じゃあもうっ… 」
その瞬間、ルクナの欲望が一歩だけ前に出てしまったのだ。
女性のような、しかし女性ではない細く長い指で、その線を薄くなぞる。
「ひゃんっ… !」
(ヤバッ! 変な声がっ… あっ)
その瞬間、アルネは身体をのけ反ってしまい、バランスを崩してしまった。
慌てたルクナが、咄嗟にその身体を支えた。
その布切れ1枚の前面は、少しでもズレたら全てが露わになってしまう。
それをさせまいと、アルネが両手でしっかりと握り隠す。
しかし、両者の意識はそれどころではなかった。
背中に伝わるその体温。
手に伝わるその温もり。
頭の中が真っ白に。
そして、顔は真っ赤に。
身体中が熱くなっていた。
「す、すまな… 」
「バッ… ル… クナのバカァァッ!!」
そして、アルネの大きな一振りは、そのどんな女性よりも美しいとされる顔面へと命中した。
テントから出てきたルクナの表情に、誰しもが驚く。
その型取られた赤い跡に。
すかさず、ヴィカが濡らしたタオルを主人へと渡した。
不貞腐れた表情で、タオルを奪うと、その赤くなった頬に当てた。
全員が気の毒な顔を隠しきれないでいた。
「大事ない」
ルクナのその一言を信じる者は誰1人、その場にはいなかった。
それから間もなく、更に不貞腐れた表情の者が、テントから出てきた。
そんなアルネに、空気も関係無しに話しかけに行くデイル。
「ははっ! 派手にやったな? 襲われたりでもしたのか?」
その言葉に、薄く閉じた瞼のみで応えるアルネ。
「…… マジか」
デイルはそのまま、ルクナの方を見た。
「何もないわよっ! バカルクナ!」
(ルクナ様… 一体何を… )
「… よしっ! 準備が出来次第、参るぞ!」
ルクナは吹っ切れたように、そう言うとある決意を胸にハルピーの森へと目を向けた。
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こうして、ハルピーの森へと足を踏み入れた一行。
その森はまるで、洞窟のように薄暗かった。
ゾルがその身をもって、明るくしようと試みたが、ハルザがそれを止めたのだ。
もちろん、ハルピーに存在を知らせない為に。
(なるほど… この暗さは、ハルザにとっても好都合ね)
しかし、事前のハルザからの情報にもあったように、他の森との違いは暗いだけではなかった。
その木々の高さなるものは、異常であった。
「本当にすごい高さね… まるで、これ自体が大きなお城みたい… 」
アルネはそう呟きながらも、手にある物をしっかりと握っていた。
そう、傘を差すかのような仕草をしていたのだ。
その様子を見て、シュリが反応した。
「アルネ? それは一体、何の真似? ていうか、その大きな葉っぱ、何処から持ってきたのよ?」
「これね… これは、身を守るための物よ… ほら、シュリさんの分」
そう言って、腰にたくさん差していた、茎の長い大きな葉の持つ植物をシュリへと渡した。
不思議に思いながらも、アルネと同じようにその植物を頭の上へと差した。
「これはね… 奴らの汚物から、身を守るためなの… 不意に落としてくるそれは、予測不可能… まさしく爆弾よ」
「そ、それってまさか… 」
「そう… それは… フンよ! 必ず役に立つから!」
その言葉に、全員が至る所に生えていたその植物を採取し始め、そして守りに入った。
(考えたこともなかった… )
ハルザは納得するかのように、肝に銘じた。
そして、その茎をしっかり握ると小さく口を開く。
「確かに、これは上からも姿を隠せて良いですね。血液の臭いさえさせなければ、かなり有効的かと… 」
「ふふ… そうでしょ? そうだと思った」
(絶対後付けだ… アルネはリモンに何度も襲撃を受けていたからな… )
デイルは心の声を漏らさないように、島での事を思い出していた。
そして、その行動は本当に役に立つこととなる。
昼も夜もわかりにくいこの森では、どのくらいの時が経ったのか感覚が不安定になっていた。
ゾルが言うには、出発してもうすぐ丸1日が経つという。
(どうりで眠いはずだわ… )
アルネが睡魔に襲われてていると、ハルザがルクナへと歩み寄って言った。
「ルクナ様、そろそろ近いかと… 」
アルネはこの森に入ってから、ルクナと一言も口をきいてなかった。
もはや近づいてすらいない。
聞き耳を立てるアルネ。
(はぁ… 無事辿り着けそうね… 良かっ… )
一同の緊張が解かれそうになったその時だ。
ハルザがある事に気が付いた。
その表情は、ノギジへと向けられていた。
そう… 彼は、誰よりも血の臭いに敏感である。
だからこそ、その汗も尋常ではなかった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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