episode51〜初代大聖女〜
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アンセクト族の長であるサリドナ。
彼女から100年前に起こった出来事、ルー族とアンセクト族がそれまでずっと共存し暮らしていた事、そして月華山の事などを聞いたアルネ達。
そのほとんどが、ライやゾル、そしてアディ達から聞いていた事と同じような内容であった。
しかし、その中でひとつだけ、初めて耳にすることがあったのだ。
それは、先程知り得たアンセクト族の王位継承の件であった。
その事実をライ本人はもちろんのこと、一部の者しか知り得なかったという ’本当の意味’ である。
『ある契約が存在する』
サリドナは、ライがいない所で、アルネ達に口を開いた。
契約。
それは、 ’アンセクト族には手出しをしないこと’
では、他の種族には手を出して良いのか?
違う。
はたから見れば、ロクサーヌ女王がそう言っているようにも見える。
そう思われても仕方がない。
しかし、実際の彼女の意図はもっと違うところにあった。
それを悟られないように、そう思わせておくようにするためにも、ライには本当の真実を隠していたのだ。
この世に存在する種族達は、各々がそれぞれの役割を持って、その使命を日々生きて来ていた。
その中でも、アンセクト族は数の多い種族である。
移動手段も容易で、その身体の大きさからもどんな小さな場所にも入り込めた。
表向きは、運び屋や案内人などで知られていた。
その他にも様々な用務をこなしていた。
言わば、雑用とも呼べる。
その為、顔はどの種族よりも広かった。
しかし、本当の役割は違った。
それを彼女達は知らない。
そう、女神達は知らないのだ。
それに加え、アンセクト族は他の種族の中でも武闘に関しては弱い種族だ。
その本当の真実も彼女達は知らない。
彼らが本当は、どの種族達よりも強いという事を。
’アンセクト=昆虫’
それは族に言う虫の類を意味する。
しかし、虫というには漠然としている。
彼らにはその ’虫’ に関して特化していたのだ。
’微生物’
そう、この世で最も小さい生き物。
そして、何よりも強い生命体である。
それをも支配する頂点立つ王。
簡単に他の種族の手中に入る事はしない。
その為には ’弱い者’ のフリをしなければならかった。
いつか来るその時まで。
そして首飾りや女神達の事に関しては、それらに比べ情報が少なかった。
何より、サリドナが知り得る種族は全てで6種存在していた事がわかった。
ユマン族、アンセクト族、ルー族、ヴァンパイア族、シレーヌ族。
そしてオーガ族。
その新たな種族の名に、一同は更なる希望を得た。
それは、とても巨大な身体を持つ種族だという。
その新たな種族に関して、少し思い当たる事がある者が1人。
ハルザは記憶を辿った。
(オーガ族… あの古城にあった亡骸は… もしかして…)
そして更に新たな情報があった。
大聖女の事だ。
それはルクナのある疑問からだった。
「それにしても、女神達は今までよくこちら側に手を出さなかったな? その今まで歯が立たなかった大聖女の人数は、1人や2人ではなかったはずだろう?」
「その通りじゃ。その100は超えていると… 聞いておる」
「100人以上!? 何て数なの!」
その亡き人数に、アルネは背筋が凍った。
アルネは、ブツブツと何かに縋った。
「100人… 私に出来るの? この私に? できる? 死亡フラグしか見えないんだけど… ?」
(弱気が見え始めているな… まぁすぐに切り替えるには無理か… )
「アルネ… 」
そう言いながら、強い眼差しを再度向けるルクナ。
(はっ! そうだった! 弱音は吐かないんだった… あぁいや、でも… 不安が拭えない… )
そんなアルネを横目に、ルクナは話を続けた。
「もしかして… キティール島の存在が何か関係しているのか?」
「… っ! さすがは、かの国の次期王… ご名答じゃ」
「上空にある喜びの島も、元はキティール島なのよね? その半分が上空に分かれたって」
アルネの言葉に反応したサリドナは、この先の行く末を見込んで話す。
「あぁ、本来ならば、全てを上空へと持っていくつもりだったんじゃろう。それが上部のみしか出来なかった。失敗した… いやさせられたんじゃ」
「誰に?」
「初代の大聖女であるオルフール様じゃ」
(初代… ? 相当偉大なお方だったのかしら?)
「オルフール様はそれはそれは… 美しかったそうな… そして… 」
「そして… ?」
「そして、とんでもなく怠け者だったと言われておったそうな… ある意味伝説の大聖女じゃ」
「え? な、怠け者?」
「聞いたことがあるかの? この世にある本があると言う。大聖女の為の本だそうじゃ」
サリドナがそう言うと、アルネは当たり前かのようにその本を取り出した。
「あ、これ?」
「… っ!? そうか… そうじゃな… 忘れておったが、お主は大聖女であったな。持っている可能性は十分にあった」
「あぁ、うん。大丈夫よ。その反応慣れてるから。それで気になってたんだけど、この最後のページの印って… 」
「うむ、これは歴代の大聖女の持つ印だ。言わば命の印。確かに存在していたという。それは、その本を持つ事によって、自動的に印が現れる。ほれ、これが最新のつまり、アルネ、お前の印だ」
「私の印… これが… ん? でもなんか、他のと比べると随分ぼやけてるわよね?」
「あぁ、それはおそらくまだ力を十分に注いでいないからじゃな… 」
(しかし、それにしてもだ… )
「なるほど、まだまだ見習い大聖女みたいなものね! て事は、その偉大な初代大聖女のはっと… 」
そう言いながら、アルネは先頭にあった印を指差した。
思っていたその濃さとは裏腹な印に、疑問を持つ。
「ん? あれ? 古すぎて掠れちゃったかな?」
「いや、この印はその者の力によって写し出されるものだ。年月によって、掠れたり消えたりはせん。その者の生きた証が力となって現れるからな。その指差している薄くぼやけているのが、初代であるオルフール様の物で間違いない」
「え? て事は… 」
「そうじゃ… オルフール様は、ほぼその力を使わなかったのだろう。フルムーンの時は、必ずと言っていいほど、外には決して出なかったと聞いている」
「オルフール様… そんな大聖女が、あのキティール島を制御したというの?」
「あぁ、これにはまだ続きがあってな。彼女はわかっていたんじゃ。女神達の目論みを。怠けているように見えていたのは、その瞬間の為だったんじゃ… 多分」
(多分… ?)
「力を抑えていた… そういう事か?」
ルクナは、ある1つの考えに繋がっていた。
コクンと頷くサリドナ。
「その時の為を想定し、力を蓄えておいたというのか… 」
「その印が薄いのには、他にも理由がある。それは、彼女は若くして亡くなったせいではないかと言われている。子を産んだその時に、すぐに息を引き取った… そう聞いた。とても残念で仕方がなかった」
「そう… でも… 繋いだんだね。それが今の私… 私達に繋がっている」
胸がいっぱいになるアルネは、自身の胸を強い想いを閉じ込めるように抑えた。
(キティール島… 上部と下部… ということは、元はやはり球体だったということで間違いなさそうだな)
ルクナは、その島の情景を思い浮かべていた。
アルネはその言葉に、今まで絡まっていた何かが解け始めた。
(大聖女の… 私のこの力は、溜める事ができる? 言わば力の貯蓄ね! でもコントロールできるようになる為には、どうすればいいのかしら? 今の私には到底… )
「待てよ… 」
ここで、アルネの極稀に見る勘が開き始めたのだ。
「アルネ? どうした?」
ルクナが様子を伺う。
「私… 死んでないわよね?」
「本当… どうした?」
ルクナは何だか心配になった。
「生きているように見受けられますが? もしそうだとしたら、元気な屍ですね」
ヴィカが、嫌味を込めてそう言う。
「私、死んでないけど、この命の証ってもう記されてるのよね? これって、この命が無くなった後に出来る物じゃない。この世に産まれたその時に記される証って事よね? だから… もしかしたら、生きてるんじゃない?」
「ん? どういうことだ?」
「この世にいる大聖女は、ただ1人なのよね? だけど、その人が死んだとは限らない。その力は次の者に受け継がれたけど、死んではない… って可能性はない? かな?」
その冴えた勘に、一同はこれまでにない驚愕の表情を見せた。
言葉も出ていない。
「あ、え、えっと… 考えすぎかな? もし誰か1人でも生きていれば… その力の事とか、色々教えてもらえないかなぁ… なんて? えへへへ」
そして、やっと口を開いたのはサリドナであった。
「何ということだ! 確かに… その可能性はあるな! それに大聖女だった者は、ユマン族とは限らない! むしろ少ない方じゃと聞いたことがある。この世の何処かにおるかもしれない。探す価値は十分にあるぞ」
(ユマン族だけじゃない… ? そうか… そういうことか)
アルネはその言葉に、最大級のニヘラ顔を表した。
(確かに、その可能性は大いにある。あるが… 既にその存在がいなかった時は、その時は… しかしアルネが言っていることは、現に当っているからな)
ルクナはその微かな希望を信じる事にした。
何よりも彼は、アルネの事を誰より信じているからだ。
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