episode40〜月が満ちた時〜
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精霊達の導きにより、ルクナ達の所へと戻る途中、アルネはハルザの方へと目線を送り続けていた。
首元には、水で濡らした布が当ててある。
(ハルザ… さっきからだんまりだな… 気にしてるのかな、やっぱ… )
気まずそうに、その目線へと応えるハルザ。
「痛みませんか? 血が出なかったとはいえ… このような行為は許されません… 」
「大丈夫よ、気にしすぎ! 自分でも制御できなかったんでしょ? 少しだけど、一瞬迷ったのも分かったわ。本当大丈夫だから」
「いや、でも… 」
「それに… ノギジ達は大丈夫かしら? せっかく会えたと思ったのに、また逸れちゃった。それにあの姿… 心配だわ。あの子に一体何が… 夜が明けたら探しに行こう。早くルクナ達とも合流しないと…
それにしても… うーむ、それにしてもよ!? さっきの事、 ちゃんと説明してくれない?」
「はい… それはもちろんです。ルクナ様達と合流した際に、きちんとご説明をさせて頂きます」
「わかったわ。はぁ… まさか今夜が満月だったなんて… この姿でも特に害はなさそうだし… まぁ見慣れないでしょうけど… あなた達も、やっぱりこの満月と何か関係しているの?」
「はい… しかし、その前に大切な事がございます。私の計算が少しずれていたのか、明日だと思っていた満月が先程の事で、今宵だと判明しました」
「そうね… 満げ… ん? 満… 月?」
「はい、そうです。満月です。なので急がなければならないかと… 」
足早だったその身体は、更に速度を上げる事となる。
しかし、ルクナ達と合流する前に、それは現れた。
何かに気が付いたハルザが、急に立ち止まる。
思わずアルネはその背にぶつかり、額を抑えた。
「うぶっ! ハルザ!? 一体ど… 」
何も応えずに、ゆっくりと空を見上げるハルザ。
それに倣って、アルネも顔を上げる。
丸い月に焦点が合う前に、アルネ達の目に飛び込んだのは、粉のような物だった。
その今にも消え入りそうなその粉は、彼女達の頭上へと絶え間なく降り注いでいた。
(え? 何?)
星が降ってきているのか?
そう錯覚する程であった。
その粉を手のひらに乗せてみる。
まるで冷たくない雪のようだった。
しかし、雪とは違う。
その粉は舞い落ちるたびに、色が変わるという不思議なものだった。
すると、聞き覚えのある声が、その長く伸びた耳に飛び込んできた。
「アルネッ!」
その声の方へ振り返ると、怒りとも呼べる不安の表情がこちらへと向かっていた。
「あ! ルク… ンナッ!?」
その瞬間、身体に衝撃が走る。
「お前! 何やってんだ! 勝手に出て行って! しかもあんなっ… あんな… 」
その抱きしめる腕が、更に強まるのがわかる。
「あの泥人形… 酷い出来栄えでしたね」
「えっ!?」
淡々と非情な言葉を投げるヴィカの声に、驚くアルネ。
「… その表情の意図が読み取れませんが… それより、これは一体… 満月は明日のはずなんじゃ… 」
そう言いながら、ハルザの方を見るヴィカ。
「はい… そのはずかと思ったのですが… なので、急ぎ戻らねば… いえ、行かなければなりませんっ!」
「… っ! 月華山だな!?」
その言葉に、頷く一同。
アルネはというと、まだそのルクナの腕の中であった。
「ルクナ? 一旦戻るのよね?」
冷静を装い、その身体を離そうとするアルネ。
その時、ルクナはアルネの首元の傷に気が付いた。
「… この傷はどうした? まるで… 何かに噛みつかれたような… まさか… ノギジが?」
「あ、いや、ノギジじゃなくて… これは… 」
そう言いながら、チラリとハルザの方に目線を送る。
「どういう事だ?」
その冷たい声に、周りが凍りつく。
「と、とりあえず先を急がないとっ! 行きながら話しましょっ!」
アルネはルクナの腕を引っ張って、そう促す。
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小屋に戻る一同。
その道中、ノギジの事を話したハルザ。
そして、自身の事についても話し始めたのだ。
「私は… ヴァンパイア… つまり吸血族の生き残りです」
(まさかヴァンパイアだったとは… どうりであんなに顔色が常に悪かったのか。万年貧血だったのはそういうことだったのね… そういえば、異常に火を嫌っていてような… )
ルクナはその説明に、思い当たる節があったのか、意外と冷静に耳を傾けていた。
アルネはというと、静かに2人の会話を聞くことにした。
「… そうか。しかし、何故今まで黙っていた。父上はそれを知っているのか?」
(何だかちょっと機嫌… 悪い… ?)
「いえ、この事は誰にも口外しておりませんので、存じ上げないかと… それにしても、やけに冷静ですね? 今すぐにでも、私の首を刎ねなくてよろしいのですか?」
「あぁ… そうだな。それはもちろん刎ねたいに決まっている。アルネの首に噛み付いたんだ。俺だってまだ… 」
(ん?)
「しかし、ヴァンパイアと言えど、種族なんだろ? その種族を俺達は必要としている。そう簡単には手を出さん… 今のところはな」
「今のところは… ですか… 広いお心痛み入ります」
ルクナは流すような目で、冷たいその視線を送った。
そして、一同はアディとフレールのいる小屋へと辿り着いた。
小屋の外では、空を見上げながら、驚きの表情をしている彼らの姿があった。
「まさか… そんなっ… フルムーンだと?」
アディはそう言葉を溢すと、近寄るアルネ達に気が付いた。
「アディ! 一体これは… 」
「アルネ! 無事だったか! あぁ、これは鱗粉だ」
「鱗粉… !?」
「そうだ… これは月華蝶の鱗粉だ。開き始めている… っ! おいっ! 全員揃ってるか!? 急げっ! 今すぐ向かうぞ!」
「月華山に行くのね! でも待って! ノギジ達がまだ… 」
「見つかってないのか!? … チッ、仕方ない! これを逃すと、次はまたひと月後だぞ!? 覚悟を決めろっ!」
ルクナはアルネの方を見て、強く頷いた。
「わかった! 急ぎ支度を」
アルネはルクナの選択に納得はしていたものの、まだ心残りがあるように深い森の方に視線を飛ばした
。
しかし、アルネもわかってはいた。
この旅の目的を見失ってはいけない。
そんなアルネの様子を見て、ヴィカが声をかける。
「アルネ様、何度も申し上げますが、2人は大丈夫です。何度でも信じましょう」
「うん… そうね! ありがとう、ヴィカ」
「あ、いえ… 」
(う… むず痒いこの感じは… 何であろうか?)
その慣れない彼女からの言葉に、ヴィカは少し顔を歪めた。
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こうして一行は、急ぎ月華山の麓へと向かった。
アルネはその途中、ハルザに少し身を寄せて、声を顰めながら言った。
「ねぇ、折ってから思ったんだけど、その牙って毎回満月の度に生えてくるの? 次もちゃんと生えてくるのかな?」
「はい、朝になると既に次の牙が生え始めておりますので」
「そっか! 良かった! で、この牙はいつもどうしてるの?」
アルネのその手には、先程へし折ったハルザの牙が乗っていた。
「げっ! 何でそんな物持ってるんですか!? さっき捨てたんじゃ!?」
「まさか」
「今すぐに捨てて下さいっ!」
「まぁまぁまぁまぁまぁまぁ」
(何だろ? ものすごく… 殴りたい… )
「で? いつもコレはどうしているの?」
「え? どうしてるとは? いつもその場に置いて去りますが… 」
「この牙、集めてネックレスとかにし… 」
「しませんっ! 気持ち悪いっ」
「なっ! 気持ち悪いですって!? イカしてる輩は、つけてるかもしれないじゃない?」
(イカしてる輩? 何を言ってるんだこの人は… )
ハルザは、到底理解できない思考の生き物を目の当たりにしていた。
(種の違いか?)
「… と言いますか、朝になって太陽に照らされると、蒸発して消えますから、それ」
「え? そうなの? チッ、なぁーんだ! ポイッと」
(え? 捨てた? 今捨てたよな? しかもいとも簡単に… いや、別に良いんだけども… でもちょっと… 嫌だ)
そうしてアルネ達は、月華山の麓へと急いで向かった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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