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episode36〜家族〜

たくさんの作品の中から見て下さり、ありがとうございます!

最後まで読んで頂けると嬉しいです。


月華山が開く満月の夜まで、あと半月。


その間、アルネ達はアディ達兄弟が拠点としている小屋で、世話になることとなった。


その周辺には従者達が護衛のため、テントを張っていた。


テントを使用しない者もいる。

そのうちの1人であるハルザは、護衛がてら周辺を探索する為、自らそれを選んだ。


しかし、その他にも彼なりのある事情があったのだ。


それを理由に、アルネ達からそう遠くない場所へと離れ、その行動を選んだ。


ノギジとフレールは、生い立ち等の境遇が似ているということもあり、非常に仲睦まじくなっていた。


それを1人の女ハンターが見つめる。


そう… ニタニタとただただ見つめていたのだ。


もはや食す為に狩るハンターというよりは、愛玩用だ。

愛でるように眺めていたのだ。


「アルネ… そろそろやめろ。フレールをそんな目で見るな… 」


「え? 何が?」


(自覚がないほど怖いものはない… )


アディはアルネという生物の取扱説明書が欲しかった。


そんな思いも露知らず、アルネは問いかけた。


「そういえば、アディ達はルー族を探していたのよね? それは何故?」


「… 恩があるからだ」


「昔、お世話になったってこと?」 


「あぁ、俺達は幼少期の少しの間だけ、彼らに育てられた事があるんだ。しかし、俺とフレールは見ての通り、ルー族ではない。

本当の親は、顔も見た事がないからな。彼らと出会う前、一緒に暮らしていた奴らはいた。いや、暮らしとは到底呼べるようなものではなかったがな… 奴らが親じゃないとわかった時には、ホッとしたがそれも束の間、突然捨てられた。そんな俺達を拾ってくれたのは、ルー族だった」


(狼に育てられた子か… それにしてもそれまでどんな酷い暮らしをしてきたのかしら… )


アルネはそう思いながら、胸が苦しくなるような気持ちで話を聞き続けた。


「その中にノギジもいた。あの2人はその時の記憶がないみたいだが。心のどこかに繋がりがあるのかもしれないな」


「そう… だったんだ… そんなことが… でも再会できてほんと良かった」


「あぁ、本当に。だがある日、人攫いにノギジが連れ去られた。気が付いた時には、ノギジの姿は何処にもなく、途方に暮れた。

フレールも幼かったから、俺1人ではどうしようもできなかった… 何日も待ったが、ノギジが帰ってくることはなかった。それでも俺達はノギジを探し続けた」


その言葉に、真剣に耳を傾けるアルネ。


(ノギジは攫われた記憶すらなくなってしまったってことね… それほどの恐怖だったのかしら?)


「ある時、南の方にある大きな国で、姿を一度も現すことのない神殿長がいると言う噂を聞いた。

ノギジはルー族だ。神から受け取ったその力を管理する立場にある。それが古代ルー族からの役割であるからな。

だから、神殿にいる可能性は十分過ぎるほどあった。しかも姿を一度も民に見せていないという。

それはその狼である姿を、人前に安易に出す事ができないからじゃないかと思った。

それなのに、それを信じる民。その絶大な信頼。それ程の力がある。

ルー族である可能性は大いにあった。だから、望みをかけて、何度もその国に足を運んだ。

しかし会う事は無論、その神殿にすら近づくことさえできなかった」


「そうだったのね」


「… そんな時、その国に大きな動きがあった」


「今回の遠征ね?」


「あぁ。まさかとは思ったが… 少しの望みをかけた」


「んで、あの山脈で… ん? てことは、山からじゃなくて、国からつけてたってこと!?」


「そうだ」


「はぁ… もっと早く言ってくれれば… ん? 待って… だとしたら、その間幽谷にいたのは… 誰?」


「俺だ」


「ん? じゃあ… 国から私達をつけていたのは?」


「俺だ」


「????」


アルネは、その思考を断ち切った。

アディのその言葉に理解が出来ないと判断した為、停止したのだ。


その様子に、フレールが援護し参戦した。


「兄さん! その説明じゃアルネが混乱するでしょ! 見てよ、この顔! 魂が抜けかけてるじゃないか!」


そう言いながら、フレールはアルネの頬に指をぶっ刺した。


微動だにしないアルネ。


「アルネ! しっかりして!」


フレールは、アルネの両頬を加減なくつねる。


その柔らかな頬を引っ張り、そして離すとアルネは魂を戻した。


真っ赤になった頬に心地良い痛みを感じながら、我に返る。


「はっ! … え!? アディ!? ’俺が2人’ ってどういうこと!?」


「あぁ… すまない。なんと説明したらいいのか… 実際には、あれは俺であって俺でない。作り物だからな。ここに戻って来た時に、入れ替わった… つまり」


「人形?」


アルネのその言葉に、コクンと頷く兄弟。


「うわぁ… 再現性… 」


「ふふ、そうだろう」


満足そうな笑みを浮かべるアディ。

その表情に弟のフレールは、苦い笑いを浮かべた。


「ただ黙っている。それだけで恐怖を与えていたからな」


「コクシネル達を、バージに近づけさせない為にでしょ?」


「あぁ」


「ふふ… 何としてでも守る為にね。留守にする間、近寄らせない為の恐怖を与えてたって事でしょ?」


「… あぁ」


「その度に少し罪悪感が浮き出てきた?」


「… っ」


「ふ… ふふ… ふふふふふっ… 」


「何がそんなにおかしい?」


「ふふ… いや、不器用だなって」


「… ?」


「だって最初から、そう本人達に言えば良かったじゃない? なのに… ふふ、人形まで置いて… その前に演技までして?」


ケラケラと笑うアルネを横目にフレールは、アディに言い放つ。


「ほら… だから言ったじゃない。兄さんが回りくどいことしなくても、良かったんじゃないの?」


「……… 」


「ふふ、まぁ結果オーライだったからいいんじゃない?」


そう言いながら、アルネはポンとアディの肩を軽快に叩いた。


その複雑な表情を浮かべながら、アディは少し照れたように、こめかみを掻く。


すると、遠くの方でノギジがフレールを呼ぶ声が聞こえた。


その方に駆け寄るフレールを少し寂しそうに見つめたアルネ。

しかし、そのままアディと話を続けていた。


「それでずっと探してたんだね。ルー族であるノギジを」


2人を大切に見つめる兄の目は、家族の愛を示していた。


「あれれ? でも、そのルー族達は100年前には、そのほとんどが亡くなったんじゃ… アディ達が育てられたのって」


「15、6年程前だ」


「んん? んー? 時系列がどうなってるのか… 」


「彼らルー族も生きていたんだ。全てが全て、その大地震の時に亡くなったわけではない。コクシネル達が谷底で見たルー族の亡骸は、全てではなかったという事だ。それに… 」


「ん? て事はノギジの仲間… つまり、他のルー族もどこかにいるって事?」


「わからない… 」


「そう。でもあなた達は何故、そのルー族達と別れちゃったの?」


「俺が最後に彼らを見たのは、大きな穴底だった。真っ暗闇の中、目が覚めた」


「もしかしてそれがこの間までいた、幽谷?」


その言葉に深く、そして静かに頷くアディ。


「最後に彼らの目が、こちらを見ていたのだけは覚えている。その浮かぶ光りの瞳は、何か言いたげにそのままどこかへと行ってしまった。美しい金色の瞳だ」


「金色の瞳… ノギジと同じね」


更に頷くアディ。


「俺はその時思った。あぁ… またか… と」


「またか? また… 捨てられたのかと… 」


しかし、アルネはその言葉に霞むような声で、否定的な考えを示した。


「うーん、それは違うと思うな? というか、本当はそうじゃないってわかっているんでしょ?」


「どういうことだ?」


「それが本当に捨てられたのかは、確かめてはないんだよね? それはあなたの考えであって、真実ではない。

そしてあなた達の似てる境遇というのは、捨てられたことでも攫われたことでもなくて、孤児になったって事じゃないかしら。

それだけじゃない。何より自分達の力で生き延びてきた。それは今までも、この先もとても大きなものになるわ。そして少しだけど、一緒に育てられた。

それって、もう家族ってことよね?」


「家族? 俺とフレールは確かに血が… 」


「違うわ。フレールだけじゃない。ノギジや他に過ごして来た種族達もよ? 血が繋がろうがなかろうが、そう思い思われる人達がいるって事は、それを家族と呼ぶの。一緒に過ごして来た時間があなた達をそうさせたのよ」


「家族… ? そうか、家族か… 」


「ふふ… えぇそうよ」


アルネのその言葉に、ほんの一瞬だったがアディは微かな笑みを浮かべた。


「それで? そこから何故、月華山へと拠点を移そうと思ったの?」


「月華山だけではない。他にもあるんだ」


「え? この場所の他にも?」


「言ったろう? 俺はルー族を探していたと」


「ん? うん」


「この世界は広い。探すにも様々な所に拠点がいるだろう?」


「え? つまり、何ヶ所あるの?」


「まぁ数ヶ所程だな」


「凄いねーよくそんなに、手を広げられたわね? 若さってすごいわぁ… アディは本当に19歳なんだよね?」


「ん? まぁな… 」


「ふぅん」


「… なんだ?」


「いや、何というか… 頑張ったんだなって」 


神妙な顔をしながらも、そう言うアルネの言葉に驚き、そして抱えたことのない感情が浮かび上がるのを抑える事は難しかった。


(頑張った… ? そんな事一度も思った事はなかった… )


「確かに探すのには苦労した。それに、ノギジは俺達より少し長く生きているはずだ。寿命の間隔が違うからな。俺達の事を覚えてるかとも思ったんだが… 」


「本当に、全く覚えてなかった?」


「あぁ」


「そう… もしかしたら、それは… 」


「何か心当たりがあるのか?」


「いや、そういうわけではないんだけど… 」


「何だ? はっきりしないな?」 


「うーん… 」


(本人がいないのに、言ってもいいのかしら? それにショックを受けないとも限らない… )


「何を心配しているのか知らんが、俺はその辺の奴よりは、肝が据わっている方だと思うが? なんせ、あの洞窟でたった1人で、バジリスクを見張っていたからな」


「確かに… 」


妙に説得力があるその言葉に、アルネはあることに気が付く。


しかし、その言葉を言う前に、目の前の至る所に広がる傷が目に入った。


その傷は浅いものもあれば、深く刻まれているものもあった。


消える事がない傷の1つを、優しくなぞるアルネ。


アディの頬に、細い指が滑り落ちる。


その瞬間、顔面中に血液が一気に流れる感覚に襲われた。


「… っお、おいっ」


「綺麗な顔なのに… こんな所に傷なんて付けちゃって… 痛かったでしょう?」


「……… 」


「それでも彼ら、アンセクト族を守ったあなたは、本当に勇敢だったと思う」


「別に… たまたまだ。あそこは元々俺達が… 」


「ふふ… 自分達の、そして皆の居場所を守ったのよね?」


「まぁ、そう思いたいならそう思えばいい。それで? 何を躊躇していた?」


「ふふ、本当に不器用で、素直じゃないわね。うん… ノギジが、幼い頃の記憶がないのは… 」


そしてアルネは、ノギジが国王と出会った時の話をした。


その言葉に顔色は変えずとも、何か思うように黙って聞いていた。


彼は ’そうか’ とそう一言だけ言うと、何かを飲み込んだかのように少し黙り込んだ。


心地よい風と共に、暫し時間が流れた。




最後まで読んで頂きありがとうございます。

突っ走って書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。

何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。


また、心ばかりの評価などして頂けると、励みになります。何卒よろしくお願いします。


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