episode28〜本の行方〜
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それは、ムナス山脈に入ってから、数日経ったある日の事だった。
持参した1冊目の動植物図鑑を見せた後、他の書物は何があるのかをルクナは尋ねた。
「動植物の図鑑。これが1冊目ね。それと2冊目がこれで… 」
目の前に差し出された本を見て、ルクナは驚いた。
「はじまりの書? これを持ってきたのか!? 持ち出し禁止だぞ!」
「待って待ってよく見て! ほら! 字体が違うでしょ?」
アルネにそう言われ、その本を手に取ってパラパラと捲り始めた。
「ん? 確かに… っ!? まさか! 複写したのか!?」
「当ったり〜」
「よくもまぁ… こんだけ読み込んで、それでも足りなかったというのか?」
「ううん、内容は全て頭の中に入ってるわ。そうじゃなくて、これをノート代わりにするの。本物じゃ書き込めないでしょ?」
(確かに後ろの方は、書き込めるようにページが白紙になっている)
「あれ?」
「何?」
「こんな文章なんて書いてあったか? 見た事ない文字だな… 」
「え? 見た事ない? 最初から書いてあったけどね… 」
「いや、初めて見た… 何て書いてあるんだ?」
「それが分からないの… 辞書とかで調べたりもしたんだけど… とりあえず、書き写しといたのよねぇ… でも… ルクナが初めて見たなんて、おかしいわね? ところどころ色んなページに書いてあったけどな」
「… ? アルネにしか見えないとかなのか?」
「分からないけど… とりあえず、帰ったらまた確かめてみましょ? それにこの文字が読める種族が、どこかにいるかもしれないしね! そのためによ」
ルクナは不思議な顔をしながらも、頷いた。
「… それで? 3冊目は?」
「それは… 内緒」
「何故だ? 王宮書庫室にある本は、ほぼ目を通してある。別に隠す事ないだろう?」
(王宮書庫室のはか… ん? てか… )
「全部っ!? あの膨大な量の本を!?」
「あぁ。まぁ俺は生まれた時から、城に住んでいるからな」
「にしてもだよ… ? にしても… 」
「… ?」
「とにかく… 今は言えない… 」
「気になるな… 」
(私も気になる… この本の真実が)
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その3冊目だった。
3冊目の本がなくなっていたのだ。
(まずい… 非常にまずい… あれがないと… てか、あれを見られたら… )
この3冊目の真実。
既にその本の意味を知っていたアルネは、知られたくなかったのだ。
何故、ルクナとヴィカがそれに気が付いたかというと…
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アルネがシュリとデイルと共に、滝の麓で水浴びをしている時だった。
衣類などをほっぽり投げたその荷物の中から、大切な本達がはみ出していたのだ。
「全く! アルネ様ったら、あんなに大切って言ってたくせに… ん?」
「ヴィカ、どうした?」
「あ、いえ… 本が… 」
その荷物を見ながら、ルクナは察した。
「1冊足りない… ?」
女性の持ち物を勝手に見るのはいけないと思いながらも、気にならずにはいられなかった。
外からでもその感触を確かめるよう、ヴィカに命じた。
「やはり、ありませんね… 」
「そうか… 先日の襲撃の時にでも落としたか… ?」
「いつお伝えします?」
「… 早めの方がいいだろう」
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しかし、滝の出現により、その事をすっかり伝え忘れていたのだ。
そして今に至る。
暗闇の中でも、アルネの顔が青ざめているのがわかる。
むしろ、薄暗い光によって、更にその表情が際立って非常に怖い。
(どこかに… 落とした? どうしよう… 今から戻ってでも… )
そう思うアルネの足が止まった。
思考も止まった。
ぐるぐると回って、それ以上動かない。
判断がつかないでいた。
そんなアルネを見て、ヴィカが言う。
「アルネ様… 私が言うのも何ですが… その本は諦めて… 」
「… 無理… あれはとても大切な物なの… どうしよう……… 今からでも戻っ… 」
「それはなりません」
(確かにこんな所で足を引っ張って、皆に迷惑なんてかけたくない… でも… )
「ゔゔぅ… 」
すると、目の前に影が出来た。
「アルネ… 」
その声に顔をあげるアルネ。
悲痛の表情からは、今にも涙が溢れ落ちそうだった。
「すまないが、今から戻る事はできない。それに1人で戻させる事ももちろんできない。… この洞窟から出て、精霊に捜索を手伝ってもらうようにするのが1番早いと思う」
「確かに… 辿った道をいちいち探すよりは、山脈の精霊達に、手分けして探してもらうのが一番早いわね! そうと決まれば、早くその待つ輩という者の所へ行って、その道を開けてもらわなくちゃ!」
その表情にニコリと笑みを見せるルクナ。
「あぁ。必ず見つかる。大丈夫だ」
その言葉に、強く頷くアルネ。
(それに… 精霊達なら、すぐに見つけられるはず… )
そう思い、先に進むのであった。
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深く長い暗闇。
どのくらい歩いたのか、感覚がうまく掴めない。
先に進むにつれて、辺りは完全に白い息で包まれ始めていた。
パリンとたまに軋むその足元には、薄く氷が張っていた。
(ゔぅ… 寒い)
先程、シュリから借りたブランケットをもってしても、寒さは拭えなかった。
しかし次の瞬間、アルネの寒さが少し和らいだ。
「え? ルクナ?」
その表情は無表情のままだった。
「いいの?」
「あぁ」
(ルクナ様… 照れてるのか? 冷えすぎて、顔が強張っているのか? 表情が固くなってますね… )
従者は観察を怠らない。
「ありがとう」
ルクナはその感謝の言葉を受け取ると、耳元に光る物に気が付き、アルネに尋ねた。
「ん? その耳飾り、どうした?」
「え?」
アルネはその言葉に身に覚えがなく、両耳を触った。
(あれ? 左耳に何かある… )
それを、外して手に取って見るアルネ。
「綺麗… 」
それは暗くとも分かるほど、美しく輝く透明な耳飾りだった。
「中に何か散りばめられてる… 金粉? でもこんなのいつ… あ… もしかして…」
そう、それは先程、ゾルがアクロバットを見せた時の事だった。
その際にアルネの肩に乗ったゾルが、さりげなくその耳飾りをつけていたのだ。
先頭に立つゾルに駆け寄り、話しかけるアルネ。
「ゾル!? これ… 」
その耳飾りを見せながら、アルネは尋ねた。
「へへっ! 良いだろ?」
「え? うん、とても! でも何で?」
「…… 礼だ」
「ん? 何のお礼?」
「う、うるせぇ! いいから付けてろ!」
(キャー! 何!? 可愛い! めっちゃ照れてるぅ! 可愛い!! ツンデレ可愛い!)
突然のプレゼントほど、嬉しいものはない。
アルネはそのイケメン過ぎるゾルの行動に、心の中で発狂していた。
そして力一杯、抱き締めるアルネ。
「… っ! か! 離せ! それはな、蓄光石と言って、光を集めて溜め、そして暗い所で光るんだ」
「蓄光石… 本で読んだ事があるわ! そう… これが蓄光石なのね! ふふ」
「へへ、そうだ。しかもだな、それはただの蓄光石じゃない! 先端の部分を押すと、突風が出るんだ」
「え? 突風が? いつ使うの?」
「まぁ… それはその時が来たらわかる」
「… ?」
(その時… か)
「あとは… まだあるが、そうだな、使ってからのお楽しみだ! 大事にしろよ!」
「そんな機能が、この小さな耳飾りに凝縮されているなんて凄い… うん! 大切にするね! ありがとう!」
アルネは嬉しそうに、それを左の耳に付け直した。
そうこう話しているうちに、先程よりも大きく開けた場所に出た。
上方も広いのか、外の光が入り込み、その場所は少しだけ明るくなっていた。
「ほら、着いたぞ… あそこにいるのが… ん?」
(やっぱり… )
「待つ者… あいつは… ノギジ達を攫った、狼の面の男! 久しぶりね!」
アルネは強い殺気を放った。
そこにいたのは、狼を模した面をつけた男。
男は大きな岩に座って、静かにこちらを向いていた。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。
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