夢の果てに求めしは⑭
「お爺ちゃん、私が誰だか判る?」
陽光の差し込む病室。
俺はベッドの端に手をつき、優しく語り掛けた。
「判るさ。由喜ちゃんやろ?」
可愛い孫へと笑みを浮かべて見せたが、その顔色は極めてよろしくなかった。
昨日、俺と姪が病院から出た数分後、父は意識を取り戻したらしい。
母と妹によると、容態は安定しているので差し当たり問題はないとの事。当然ながら退院は無期延期となった。
「もう帰るんか」
旅支度の俺を見て、寂しげな声。
「ウチの学校。文化祭の最中だから」
今から高速バスに乗れば、クラス演劇の時間にギリギリ間に合う。
新幹線を使えば確実だが、そこまでの余力は流石になかった。
「お爺ちゃん。お願いだから、ちゃんと大人しく寝ていてね。本当に身体が限界に近いから」
次は危ない。
そう担当医から釘を刺されたと、妹がぼやいていた。
「そうやなぁ」
どこか他人事のような父の口ぶり。
「みんな心配してるよ。早く良くなって退院しようよ」
「おぅ。判っとるさ」
返事はすれど、本心からの発言とは思えず。
生への執着に欠けるというか、悪く言えば別にどうなっても構わないというか。
これ絶対に、また何かやらかすだろ。
とてもじゃないが、今の状態では安心して帰る事が出来ない。
「ねぇ、お爺ちゃん。聞いてっ!」
苛ついたせいか、つい語気が荒くなった。
「春佳姉さん、成人したんだよ。結婚する年齢になったんだよ。孫の花嫁衣装、見たいと思わないっ?! ひ孫の顔だって見たいでしょっ?! だから長生きしようよっ!」
豹変する孫の態度に、呆気にとられたのか。
暫く俺の顔を見つめた後。
「お前は顔が息子にそっくりやけど、言う事までよう似とるなぁ」
しみじみと父は呟いた。
「そりゃ親子だから」
今のは少しマズかったか?
俺は誤魔化すように頭を掻いた
中学生らしからぬ物言いだった気がする。
「私、帰ったらお父さんを探してみるよ。きっと、私より役に立つから」
「そうか?」
「そうだよ。大人だし、保証人になれるし、力もあるし、経済力も………私よりあるから」
就職先が決まればの話だが、きっと何とかなるだろう。
「由喜ちゃんと次に会えるんは、いつ頃や?」
「いつ………かなぁ」
「息子が帰って来ても、由喜ちゃんはずっとウチにおるんか?」
一番答えに困る質問。
やはり、そこは気になるか。
「次はまだ判らないけど。来るのが難しい時は、お爺ちゃんに手紙を書くよ」
年賀状。暑中見舞い。何通でも、したためよう。
それで父が安心してくれるのなら。




