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「うう~ん、思った通り! とてもおいしいわっ」
「はい! ほっぺた落ちちゃいそうです!」
「……」
ふわふわの2段のパンケーキの上にはこれでもかと盛られた生クリームの塔がそびえ立っている。そこに飾られるように散りばめられたみずみずしいベリーたち。色どりを添えるようにベリーソースが掛けられており、空腹時でも胃をやられそうなものが2人の前にドンと置かれている。
そんなボリュームたっぷりのデザートを前に恍惚な表情を浮かべながらフォークとナイフでテンポよく切り分けていくと、次々と際限なく口に運んでいく2人。はっきりいってホラー映画でも見ている気分になるわ。
かくいう私はと言えば2人の物と比べ1/3にも満たない大きさのパンケーキにちょこんと小さなバニラアイスが添えられているだけのシンプルなものを頼んだ。それにしたって今の私には食べきれるかわからない量だ。ただでさえ目の前で繰り広げられる光景に、なにも食べなくても胸やけを起こしそうなのに。
ああ、これなら2人に触発されないで紅茶だけ頼めばよかった。
ていうかここを1番最初に偉ぶって、絶対お店の順番間違えてるよね⁈これからお昼も食べるっていうのに……。
「あらエスティ、あなた全然食べてないけど大丈夫?」
「もしかしてお口に合いませんでしたか?」
じっとパンケーキを見つめて固まっていた私に心配そうに話しかけてくれる。嬉しそうな2人の雰囲気を壊さないように黙っていたのが仇になったみたいね。
「朝ごはんがまだ残ってて……」
苦笑いしながらそう答えると、ナタリーはきょとんとした顔になった。
「あら、朝ごはん食べてきてたの? 食べない様にって昨日言ったじゃない?」
「え? そうだったっけ?」
「エスティ、はしゃいでいたのもね……」
はしゃいでなんかないしっ!
でも確かに昨日、別れ際何か念を押されていたような……。
駄目だ何言われたか思い出せない。
これじゃあはしゃいでいたと言われても否定できないじゃない。
「仕方なわね。残したら私が食べてあげる」
ええ⁈ それを食べて尚食べられるの⁈
ニッコリと笑う彼女を前に、もう私、ナタリーが同じ人間に見えなくなってきたわ。
「よしっ! 次はアクセサリーショップよ!」
あのパンケーキを見事に平らげ、私が半分残したパンケーキまでも見事にペロリと完食した魔王がふふんっ、と鼻をならし嬉しそうに私たちを先導している。うきうきと地図を広げながら次の目的地へと急ぎ足で歩く彼女を、先ほどと同じようにまるで手下のように私とセイラがついていく。
そういえば、セイラもあのパンケーキ残さず食べてたのよね。
この2人、女性にしたって細い方なのに一体食べたものはどこに飛んで行っているのかしら?
宇宙?
彼女の背中を見つめながらそんな阿呆みたいなことを考えていると、ツンと背中を引かれた。
おおっとなになに?
少し、転びそうになりながらもなんとか踏みとどまる。
振り返るとどうやら犯人はセイラのようだ。私の制服の裾を掴み、少し引っ張ている。そんなことをされたもんだから、私の歩みも彼女に合わせるように少しゆっくりになった。
俯きがちな彼女の表情は私からは見えなくて、何を考えているのかわからない。
どうしたんだろう?
少しの時間そうしていたが、心を決めたように不意に俯きがちだった顔を上げ私の顔を見つめた。
「さっきナタリー様、エスティ様のこと『エスティ』って呼んでましたよね?」
ギクッ。
しまった、馴染みすぎて忘れてた。
もうナタリーったら、気を抜けすぎよ。
「ええっと、それは……」
じっと見つめながら私の答えを聞く真剣な瞳を前に、彼女の気持ちが伝わってくる。
これは誤魔化せないわね。
「……実は前世の事があるからなの。ナタリーの事もあるし詳しくは彼女も交えて話した方が」
「もしかして、お2人の前世が庶民だったことが理由だったりするのですか?」
私の言葉を遮り、落ち着いたトーンで告げるセイラ。
まさかこの子が知ってたなんて。貴族の間では周知の事実とはいえ、彼女は貴族社会にまだ馴染みがない。同い年の知り合いなんて、きっと私たちくらいだろう。
だから私たちの前世のことなんて彼女の耳には入っていないと思っていた。
「噂で何度か聞いておりました。有名みたいですから、あまり他の方と関わりのない私でも知っております」
少し怒ったような、悲しそうな声で告げる。それはきっと私たちが彼女にそんな大事なことを伝えていなかったことへの感情なのだろう。
「私はそんなに信用できませんか?」
その言葉を聞いた瞬間、私の体は芯まで凍り付いた。
そんなことない。
そんなことは絶対にない。
でもそんなこと口に出せない。
だって私が彼女と関わったのは彼女を利用しようとしているから。そんな動機の私が彼女と交友を深めれば、きっと今以上に傷つけてしまう。それなら伝えない方が良い。
でも、本当にこのままでいいの?
彼女は私のお願いを聞いて、応えてくれた。
それなのに、彼女の誠意に答えないなんて……。




