3-19
「まぁ! ビスティーユ様もそのシリーズをお読みになっているのですか⁈」
「ええ、あれ本当に面白いわよね。特に男爵と騎士が決闘するところとか」
「はい! 私もあの場面大好きで、時々読み返してしまいます!」
盛り上がってる。大いに盛り上がってるわね、この同士たち。
図書館でメドビン嬢に小説探しを手伝ってもらった次の日、さっそく読み終えたと伝えると興奮ぎみに感想を強請られた。どうせなら時間のある昼休みにナタリーと共に昼食を一緒にしながら話そうと提案した結果、こんな状況になってしまったというわけだ。
メドビン嬢もナタリーと同じく、話が盛り上がると周りが見えなくなるタイプのようで、すれ違いざまに時折ちらちらと好奇な目で見られていることに気づいていないらしい。まさか、一人でも暴走を止めることのできない存在がここにきて増えるとは思わなかった。こんなことになるなら食堂じゃなくて、いつものように少し離れた外のベンチに行けばよかったと後悔する。
しかし、私にもミリアにもこの二人を止める術がないので致し方ない。今はこの状況を大人しく受け入れよう。
パクパクと昼食を口に運ぶ私たちとは違い二人は話に夢中で先ほどから殆ど昼食に手を出していない。せっかくの食堂で注文して温かいご飯を食べられるのにもったいないわね。と、いうか受け取るための待ち時間にも話していたのに、いつまで話に夢中になっているのかしら。本当食欲をも凌駕するとは、なんて恐ろしい趣味を持っているのこの人たち。
「そういえば、エスティ嬢はどこまでお読みになったの?」
いつもはため口のナタリーも今日はメドビン嬢がいるためか私に対しても敬語で話している。どうやら彼女も気になっていたみたいで、その言葉に「うんうん」と激しく首を縦に振るメドビン嬢。
圧がすごいわね。
「そうね……。図書館で見つけた『彼は素敵な王子様』と、あと、ええと『夢見る魔法使い』だったかしら? それの1巻を読み終えたわ」
昨日は寝不足もあってその2冊しか読めなかったが、結構”悪役令嬢”が活躍してくれており、なかなか勉強になった。まぁ、そんなことはメドビン嬢がいる前では言えないから、後で彼女がいないときにでもナタリーと話す予定だけど。
「まぁもう2冊も読み終えたのですか!?」
「相変わらず読むスピードが速いですね。それで?」
「へ?」
「どうでしたか?」
二人して顔を同時にずずいと近づけながら私に詰め寄ってくる。間にあるテーブルを乗り越えんばかりに前かがみになって顔を近づけられたら、その、怖いわよ。
「お、面白かったわよ。2冊とも」
「どこが? どの辺が面白かったですか?」
「え? ええっと……」
「ナタリー様、落ち着いてください。ベルフェリト様が戸惑っていますわ。ちなみに私は『魔法使い』の方が好みなのですが、そちらはどうでしたか?」
「あら、セイラ様だって抜け駆けしようとしてるじゃない」
なんか私の前で、私を差し置いてやいのやいのやりはじめた。
二人とも落ち着けよ~。
というか、いつの間にファーストネームで呼ぶほど仲良くなってたのよ。お昼に行く前はファミリーネームで呼んでいたじゃない。距離が縮まるのが早すぎてコミュ障の私、ついていけないわ。
「もう、二人で話してても埒が明かないわ」
「奇遇ですねナタリー様、私もそう思っていました」
ん? もう気が済んだのかしら?
そうやら2人の間で合致した結論が出たらしい。ホッと胸を撫でおろそうかとした矢先、ぐるんと同時に二人してこちらに向き直ると異口同音に言い放った。
「「どちらのほうがおもしろかったですか?」」
ええ~⁈ ここで私に振るのぉ?
すごい剣幕で私を見つめる2人を交互に見る。いや怖い。顔が真剣すぎてどちらを言っても怖いよ。
どっちをいってもどっちかに視線で殺されそうで、どういえば良いのかわからくなってしまう。仕方ない。ここは穏便に済ます方向でいこう。
「私はどちらも面白いと思うわ。甲乙つけがたいくらいに」
笑った顔はおそらくひどく引きつっていただろう。しかし、私の気遣いもむなしく二人して今度は深いため息を吐いた。
あれ? もしかして駄目だった?
「ごめんなさいエスティ様、あなたに頼った私たちが悪かったわ……」
「⁈」
「私も、まだ読み始めたばかりのベルフェリト様にこんな重荷を背負わせてしまって……。申し訳ありませんでした」
「⁈」
え⁈ 何⁈ これそんな重い話だったの?
っていうか私のさっきの回答、そんなにひどいものだったの?
全く理解できない二人の反応にただただ困惑するしかできない私。もう嫌よこの話題、私が振ったものだけど私の手に負える代物じゃないわ。
メドビン嬢と仲良くなれるチャンスが巡ってきて、すごく喜んだのも束の間。まさかこんな落とし穴があるなんて思ってもみなかったわ。
はぁ~。
3人して深いため息を吐くと、なんだか微妙な空気が流れてしまった。
と、そこへ丁度良く昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
やっとこの空気に開放されることに安堵したのは、おそらく私だけじゃなかったと思う。




