2-10
「あら? あらあらあら~。そちらにいるのはもしかしなくても私の未来の義妹たちではないですか~」
間延びするような声に話し方。おっとりしているその出で立ちとは裏腹に腹の内では何を考えているのか一番わからない人物。
ベリエル・クロネテス第1王子の婚約者、フィーネ・コンディアス公爵令嬢。
温厚な性格とその伸びのある特徴的な声と話し方は、第一印象から優しそうな印象を持たせる令嬢だ。加えて美しい容姿にたれ目の脇には泣きホクロという微かに醸し出される妖艶さが魅力的。
本日の彼女は、マーメイドのパープルのドレスが彼女の体格とマッチしており、妖艶さが魅力というのも納得の出で立ち。それに加えて、結わうことをせずに整えられた桔梗色の御髪はゆらゆらとウェーブがかかっている。普段はストレートでまとめれられているからか、印象が変わりさらに彼女の魅力を引き上げている。おそらくドレスの色は彼女の髪色と合わせたのだろう。
こんな美人を見かけたらきっと殿方はうっとりして釘付けになるに決まっている。
しかし、彼女はこの国の第1王子の婚約者。
しかも第1王子は彼女にベタ惚れだし、彼女も少なからず王子を想っている様子を隠しもせず素直に伝えている。つまり、この国の美男美女で相思相愛の理想的なカップルなのだ。
そんな相手に鑑賞用としてみることはあっても本気になるだなんてもってのほかである。
しかし、そんな彼女を黙って見過ごしていなかった人物が一人。それが今目の前にいる王子に付き纏うブラコン女児であった。とはいえそれは過去の話。
今となっては牙を抜かれた虎のように大人しい。
と、いうのも。
「ごきげんよう、フィーネ様」
「いやー! 出たわね、この性悪女ぁ!」
「あらあらあら~。仮にもこの国のお姫様がそんな礼儀の無い挨拶をするなんて、この国始まって以来最大の恥にでもなるおつもりですか~?」
とこのように姫様の小さな嫌味に何倍もの威力で反撃してくるのだ。そして姫様を後ろからがっしりと抱きしめるとぐりぐりと姫様の頭皮に勢いよく頬ずりしている。
「相変わらずいい匂いに最高の抱き心地ですね~。私の未来の義妹さまは~」
「ぎゃー!! 変態! 離れなさいこの最低女ぁ!」
傍からみたらこの国を代表する女性たちとは思えない行動である。しかし、おそらくこの幼女にはこれぐらいするのが適切なのだろう。
この生意気な姫様がフィーネ嬢を毛嫌いしているのには理由がある。
昔、第1王子の婚約者として紹介されたとき、まだ姫様は5歳だったらしい。しかし、すでにブラコンを発症していた彼女は私に対するように、当時の幼い頭脳を駆使してフィーネ嬢に嫌がらせをしたり嫌味を言っていたそうな。その嫌がらせ行為や嫌味をものともせず、反対に彼女を可愛がりながらも完璧な反撃を行って姫様は見事に撃沈。幼いながらも勝てない相手だと悟ったのだろう。以降は私に標的をシフトし、彼女には自分から一歩も近づこうとしなくなった。
と、いうわけらしい。できればフィーネ嬢が反撃する場面を見てみたかった。絶対面白かったに違いないはず。
その証拠に、教えてくれたあのヴァリタスが時折思い出し笑いをしていたほどのエピソードなのだ。とはいえ、自分と7つも離れた令嬢に嫌がらせをする姫様も姫様なのだとは思うのだが。
しかし、私も第2王子の婚約者という立場が無ければフィーネ嬢と関わろうとは思わない。どうしても彼女からはなにか見透かされているような感じがするのだ。
ヴァリタスからもそれを感じることはあるが、彼女のはもっと悟ったような、なにを隠してもすべて手の内に収められているような感じがする。そしてそれを本人には伝えず、高いところから私たちを見ているような。まるで私たちを演者として自分だけ劇場でそれを鑑賞しているような、そんな感じが。
ただそこにいるだけで悟られているような感覚を感じるのは、私にとっては精神を蝕む毒のようなものだ。実際の彼女がそのような人間であるかどうかはわからない。もしかしたらこの分析は当たっているかもしれないし、当たっていないかもしれない。
しかし、私にとっては人間関係自体が厄介なもの。彼女には悪いが印象が良くない人間とはできるだけ距離を置きたい。
きっと私のことを彼女は好いてくれているのは、今だって伝わってくる。女王に絡まれている私を助けてくれたのもわかっている。
しかし、そういう人物こそ私がもっとも注意しなければならないのだ。いつか、本当の私を知ったとき誰も味方にはならないだろう。そして、彼女のような人は敵に回すと厄介だ。きっと私は彼女がくれた情を忘れることは出来ないだろうから。
深い仲になればなるほど、それは私の弱点になる。
だからこそ、優しい人間は苦手だ。
誤字報告いつもありがとうございます。とても助かっています!




