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宮殿に来るのは久しぶりだ。
以前はヴァリタスの婚約者として2ヵ月に1度程度は顔を出すようにしていたからか、ここ数カ月来ていないだけでも久しぶりのような感覚を持ってしまう。
絢爛豪華なホールにはすでに無数の人たちが集まっている。部屋の壁には金色に輝く模様が装飾されており、私たちを照らす大きく豪華なシャンデリアの光できらきらと輝いている。
エスコートしてくれたフィリップとは到着後、早々に別れ、私は私で父がお世話になっている貴族やその令息令嬢たちに軽く挨拶をして回っていた。その挨拶周りも一息ついて軽く食事でもつまもうと思っていた矢先、厄介な相手に捕まってしまった。
「あら? そちらにいらっしゃるのはエスティ・ベルフェリト公爵令嬢でなくて?」
ひらひらと口元にあてた洋扇をゆらゆらと動かしながら彼女がこちらに近づいてくる。美しい金髪はいつものようにツインテールに結われている。流石、容姿端麗な国王夫婦に似て彼女も可愛らしい容姿をしている。
スカイブルーのドレスはふわりと彼女の周りを占領するように広がっており、均等な距離でフリルがあしらわれている。見るからに子供っぽい……いえ、可愛らしい彼女にあったドレスである。
しかし私に向ける邪悪な笑みはその可愛らしさを醜く歪めていた。
「ごきげんよう、シャルロット姫殿下」
「あら、ごきげんよう。挨拶ぐらいはまともにできるのね?」
いつも会ったときはこうして挨拶しているのに、何を頓珍漢なことを言っているのだろうこの子は。まぁ仕方ない。彼女は私のことが嫌いなのだ。
シャルロット・クロネテス姫殿下。
クロネテス王家の長女にして第1王女。今年で10歳になられる彼女は、兄である第1王子と第2王子が大好きな、いわばブラコン女児である。そして私を嫌いな理由もそれに起因しており、第2王子を取った私が許せないのだそう。
(別に好きで取ったわけでもないのですけどね)
というか今すぐにでも付き返したいくらいだ。
「まったく、平民の娘がよもや公爵家の人間になりかわるだなんて。本当に世も末ですわ」
知らない人が聞いたら成大に誤解しそうな事を声高々と主張する彼女の姿は、嫌味を通り越していっそ清々しささえ感じられる。
(そう、これよこれ。この反応が普通のはずなのよ)
普通であれば傷つくような言葉にも全く動揺することもなく、というか正しい認識をしてくれる彼女の嫌味に最近では喜々として受け取っている。真っ当な貴族や王族であれば、やはり外聞というものは気になるもの。前世とはいえ、それが平民ならば周りの目を気にして婚約を解消してくれてもおかしくないはず。しかし、彼の第2王子は全くその気配はないし、私を下に見たりしない。
傍からみれば、なんて人格のある素敵な王子なのだろうと好感度爆上がりらしいのだが。私からすれば好感度だだ下がりである。できれば彼女のように拒絶してくれれば話は早いのだが、現実はそう甘くない。
「そういえば、今度魔力検査すると聞きましたけど?」
全く彼女の耳はどうなっているのだろう。どこからそんな情報を。
「えぇ、確かにそうですが」
「やめておいたほうが宜しいのではなくて?わざわざ残酷な結果を見るのはお勧めしませんわ」
この春、タリエスタ学園中等科に入学して早3カ月が経とうとしていた。しかし、いくら勉強しても私は一切魔法が使えない。
そこで痺れを切らした父が私の魔法の適正を検査しようと教会に魔力指数検査を依頼したのだ。しかし、魔力指数検査をこの歳で行う=魔法の才能が絶望的だと言っているようなもの。
とはいえ、まだ教会に依頼を出しただけで検査すらしていないのに、一体どこから情報が漏れたのやら。
私に盗聴の魔法でも掛けているのではないかと疑ってしまうほどの彼女の情報収集能力には脱帽する。




