36 後を追います
「カリーン先生ーッ!!!!!」
私は懸命に叫ぶが、カリーン先生の声は帰ってこない。
突如として空いた穴を除くが、中は黒だけが広がっており、深さがまるでわからない。
降りようにも私は風属性魔法なんてものを持っていないため、飛ぶこともできないし、地属性魔法で梯子を作ろうにも、私の魔力量で底まで丈夫で消えない梯子を作れるのかも不安だ。
一度瀕死の重傷を負ってもスキルでHP1位で回復して起き上がることは出来そうだが、下に誰かいる可能性もあるし、落ちたらまず大きな音がして気付かれるはず。
そうなれば囲まれてHPのほぼない何もできない私は捕まって終わりである。
一か八かで梯子を想像するかと動き始めた私に向かってウェルテクスが話しかけてきた。
「お主、もしかして先程のやつの後を追いここを降りるつもりかの?」
「はい。地属性魔法を使い、梯子を創って降りようかと。体力もMPも不安ですが、私は風属性魔法が使えないので地道に降りて行くしか・・・」
「だったらわしがお主を下まで運んでいってやろうか?なあに、遠慮せんで良いのじゃぞ。わしはこの嫌な気配が気になっていたのじゃし、どうせ降りるつもりじゃ。ならついでにお主とそこの毛玉も一緒につれていってやるわい!」
わははと顔に似合わない笑い方をしながら、ウェルテクスは詠唱をし指をパチンと鳴らす。
すると私とわかばとウェルテクスの体が浮かび上がる。
「今から降りるからの。ああ、そうじゃ。わしの近くにおらんと効果が薄れるからの、ほら、はぐれんように手を繋いで行ってやろう」
今度はさっきとは打って変わって、顔に似合う美しい微笑みを携え私に手を差し出す。
急に浮かび上がりびっくりした様子で犬かきをし始めたわかばを抱き寄せ、ウェルテクスの手を握る。
「うーん、やはり子どもは可愛いのう。なんだか急にうちの子にも会いたくなってきたわ。ここの事が終わったら久しぶりに帰ろうかのう。ああ、そうじゃ。ここは一応閉じておいた方が良いかの」
そう呟くとウェルテクスは、穴の中に入る瞬間に風の魔弾を先程のボタンに向け撃ち込んだ。
すると先程急に開いた穴は再び元の形に戻るべく閉じ始める。
だんだんと光が狭まっていき、一面が闇に染まる前に、あわてて光属性魔法で私達の周囲を照らす。
「ほう、光属性魔法はますたーをしているのじゃな。使い方が上手じゃ。えらいえらい。して、先ほど返し忘れたのじゃがこのリボンの持ち主の子とは知り合いなのかのう」
私の頭を撫でくり回しながら、ウェルテクスは青いリボンを取り出す。
この人になら話して良いだろうと考え、ユディと私達の事、今回の事件の事について話す。
「その悪い奴らについとる本物の精霊とやらがわしだったら一体どうするんじゃ・・・しかし、精霊が人間側につくことはあるにしても、それは酷い話じゃのう」
ちなみにウェルテクスによると、精霊達は無属性魔法に対して悪い物だと言う認識は持っていない上に、長く生きることができた高位の精霊にもなると、なんと無属性魔法も使えるそうなのだ。
精霊過激派涙目でしょ・・・
「しかし高位精霊で無属性使える奴らとは皆知り合いじゃし、悪どい事をする輩はいなかったと記憶してるんじゃがのう」
無属性魔法を無効化するとしたら、同じ無属性魔法かつ対象者よりレベルが高くないといけないらしい。
でもそうなると精霊は高位精霊しか無属性魔法を使える可能性が無い。しかし無属性魔法を使える高位精霊全員の事を知っているかつ、悪い事をする奴はいないとウェルテクスは言う。
その精霊だと名乗る人物は一体誰なんだろうか。
ただの人間が精霊のフリをしていてもボロが出そうなものだし、無属性魔法だって全くやり方など伝わってなかったのだから使いこなす事も難しそうだし。
わたしがうんうん唸っていると、額につんと指が当たる感触を覚え、横の人物を見上げる。
「なあに子どもがしかめっ面をしておるんじゃ。しわになるぞ。それにそんなに難しく考えこまんで良い。早く元凶の元に行ってぶちのめせば解決じゃ。わはは」
言ってることは脳筋のそれだが、顔が良すぎて見つめられると結構やばいこれ。
乙女ゲーの攻略者達よりキラキラしてるよ。隠しキャラとかじゃ無いよね、そんなのいなかったもんね?
「なっ・・・私というものがありながら浮気ですかトルーデ様!」
私がボケーっとウェルテクスの顔を眺めていると、懐かしい声が響き渡った。
その赤を身に纏う彼女は、壁に向かってクナイを突き刺し、己の腕力のみでそこにぶら下がっていた。
「しかし、トルーデ様は梯子を創ってここら辺まで降りてくるかなあ、ここら辺までが限界だろうし途中から私が継ぎ足していけば良いかなあと待っていたら何ですかその予想外の登場は!」
「無事でよかったです、カリーン先生!あのですね、ウェルテクスさんが風魔法をかけてくれたんです!」
「えぇ、あの距離をですか!?風魔法で体を浮かすとなるととてもMPを消費するのに。何という規格外なMP・・・私も精進せねばなりませんね」
そうしてカリーン先生とも無事に再会し、一緒に下へと降りていく事にした。
話を聞くと、落ちた瞬間浮遊、素早く飛び上がる事で脱出する事もできたらしい。
しかし、ユディの身に何が起こるかわからないのだし、救出は早いに越したことがない。私もそこまでしたらついて行かざるを得ないだろうとの事で、そのまま落下したらしい。
いやまあわからんでもないけどさあ、もうちょっとやり方があったでしょうよ。
私本気でびっくりして泣きそうになっちゃったんだからね!
そんなこんなで話しているうちに、何事もなく一番下へと辿り着いた。
光を消すと相変わらず真っ暗で四方も岩に囲まれており、入口のようなものは見当たらない。
ただの落とし穴的な奴だったのかな?と足元を見ると、なんだか一部分だけ色の違う部分があった。
「カリーン先生、ウェルテクスさん、見てくださいこれ・・・」
その色の違う部分に触れた瞬間その部分が消え去り、私はそのまま下に落下する。
ま、またおちるの!?と思いきやそこまで高さは無かったらしく、べしゃりと下の空間に落ちる。
先程とは打って変わって明るく、この時代には似つかわしくない、近未来的な機械めいた空間が広がっている。
なんなんだこれはと辺りを見回すと、カリーン先生達も続けてこの空間に入ってきた。
「うわー、凄い。何というかいきなり別世界に来たって感じですねえこれ。まさか異世界転生の次は異世界転移とかですか!私たち!あ、なんかボタンありますよ!」
そう言ってカリーン先生はなんの考えもなしに、ポチッとボタンを押してしまった。
すると私達のいる空間は震えだし、体に重力がかかるのを感じた。
「ちょっとちょっと!カリーン先生!なんて事するんですか!敵の罠とかでこの後毒の霧がこの空間内に充満とかし始めたらどうするんですか!」
「そうなったら水か光属性魔法の浄化でチョチョイっと」
「うわーん、そういう事じゃない〜」
「わはは、何だか楽しくなってきたのう!」
「わんわんっ!」
やがて揺れと重力を感じなくなり、チーンという音ともに目の前の壁が真ん中から割れ、左右に分かれて開かれていく。
目の前に広がっていたのは、少し開けた薄暗い落ち葉だらけの場所。
先程まで私たちがいた場所である。
「エレベーターじゃないこれ・・・」
なぜこの機械すらまだ発展していないこの世界にこんな物があるのはそりゃ驚く、驚くのだが・・・
「こんなに便利な物があるなら最初から出現しとけやぁああ!!!」
「私が落ちた意味は何なんですかあ!!!」
「わんわんわんっ!!!」
「わっはっは、やはり人間と関わると面白いことがあって楽しいわい!」
ひとしきり騒ぎ、納得のいかないままそのエレベーターもどきで下に降りる私達であった。
ちなみに降りるときは浮遊感があって少し楽しかった。
カリーン先生「実は地属性魔法を鍛える練習にもなるかなと思って待機していました」




