32 事件です
デビュタントの日が刻一刻と迫る中、私は平和な時間を過ごしていた。
相変わらず呪いは解けないし身体の成長はなんだか遅い気がするし能力値の伸びも微妙だし、カリーン先生のレッスンはきついけどとにかくまあ平和だった。
しかしその平和な時間をぶち壊す最悪なニュースがもたらされる事になる。
「父上、よく聞き取れませんでした。もう一度お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「・・・ユーディット嬢が誘拐されたらしい。相手はおそらく精霊論の過激派組織だろう。御者と偽り、連行したようだ。」
精霊論の過激派組織・・・か・・・
私も詳しくは知らないけど、魔法は精霊によってもたらされるものであり、精霊に愛されない故に魔法が使用できない無属性の人間は人間ではない、精霊に愛されることの出来なかった欠陥品であるとかなんとか言ってる奴らの事だよね?
しかし無属性魔法が使えなかった昔とは違い、私よりも上手く使えるユディがどうして誘拐なんかを許したのだろうか。
「抵抗すれば敵なんていないだろうにという顔をしているな。御者へと手引きをした共犯のメイドを捕縛し、吐かせたのだが、どうやらバックには本物の精霊様がいるらしいんだ。おそらくそいつが魔法を発動させないように何か細工をしたのだろう。そのメイドが吐いた事をまとめると、無属性の者は人ならざる悪しきモノだから浄化するんだと」
もしかして精霊様にも悪い人っているんだろうか。
前に会ったニーレさんは闇精霊って言ってたけど、見た目は普通のお姉さんだし、イヤな感じとかも全然なかったんだよなあ。
いやでも今はそんなことよりもだ。
「それを私に伝えるという事は、何か理由があるのでしょうか」
「・・・トルーデ、お前も差し出せと言われたのだ。お前を明後日の夕刻までに差し出さねば、ユーディット嬢だけでも浄化を行うとの事だ。幸いにも王家とローゼンミュラー公爵家にしか情報は行っていないらしく、まだ大ごとにはなってはいないがな」
多分私は今まで病弱設定だったし、人の前に現れることがなく魔法が使えるのかどうかも不明、ユディは魔法を使えなかった。
だから説は正しいと人々に説くことができたのだろう。
しかし私も活動的になりデビュタントもある。
ユディが魔法を使えるようになった事も最近では周囲に広がりつつあった。
過激派の奴らからすると、無属性は精霊から愛されないから魔法を使えないという考えだったのに、無属性の者も魔法を使えるようになってしまった。
そうすると、その説は当てはまることがなくなり疑問を持たれるようになる。
過激派でなくても一般的に精霊信仰をする者は多いため、そいつらは精霊信仰によりお布施をたんまりと貰っているのだろう
だから邪魔なユディは消す。
そしてユディを餌に無属性魔法以外も使用することのできる、存在自体が目障りな私をおびき出して始末しようってことか。
「それで・・・お前はこの国の王女であり、次期王でもある。そんなお前を差し出すわけにはいかないんだ・・・。今現在、王家の騎士団や暗部達に捜索を手配しているが、尻尾すら掴めなくてな」
「ユディを・・・見捨てろというのですか」
「・・・・・・そうだ。そしてこれは現国王である私からの命令だ」
父上は怒りとも悲しみとも取れるような重苦しい声で呟く。
「・・・明後日の夕刻までと、おっしゃいましたよね」
私は拳を固く握り締めながら父上の方向へ顔を向けるとニヤリと王女らしくない笑みを浮かべる。
「まさか・・・トルーデ!さっきも言っただろう、お前はこの国の王女で次期王だと!」
「当然明後日の夕刻に差し出されるつもりはありません。命令ですもの。それまでの事は命令されなかったですよね?今から命令するとかは無しでお願いしますね。安心してください、私にはカリーン先生もいます」
「カリーン・・・あぁ、最年少で暗部の頂点に君臨するなど数々の逸話を残す紅い閃光の事か」
え、何?数々の逸話を残す?紅い閃光?
やばい、シリアスな展開のはずなのに突然のカリーン先生の二つ名で吹き出しそう。
あれか?紅が見えた瞬間相手は死ぬとかそんな感じでつけられた名前なの???
「という事ですので、外出の許可をお願いしますね父上」
「もし断ったら?」
「勝手に城を出ることになるので、その身勝手な行動の責任を取り王位継承権を放棄します」
「許可しよう」
即答であった。
こうして私と、ついでにカリーン先生とのユディ救出作戦が開始したのだった。
捜査開始ですよ!




