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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第6層編

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58.忠誠の誓い

 大勢の人間を新たに雇ったため、自宅の近くに倉庫を借りた。

 ここに新しい部下を住まわせ、さらに商売も始めるためだ。


 まずはシュウたちの荷物を馬車に積んで、倉庫まで運んだ。

 すでに俺の仲間が総出で倉庫の掃除をしてあったので、そこへ荷物を運び込む。

 2階に部屋が3つあるので、新人はそこに住んでもらう形だ。


 ちなみに今回、新しく増えた仲間は以下13名だ。


アレス:14歳。狼人族。弱ってた奴隷

ジード:13歳。獅子人族。弱ってた奴隷

アイラ:13歳。鬼人族。弱ってた奴隷。女性

ザムド:11歳。虎人族。死にかけ奴隷

ナムド:10歳。虎人族。死にかけ奴隷。ザムドの弟

ダリル:10歳。獅子人族。死にかけ奴隷


ケンツ:14歳。狐人族。孤児院の後輩

レーネ:14歳。ダークエルフ。孤児院の後輩。女性


シュウ:15歳。狐人族。ガルドの孤児

セシル:14歳。エルフ。ガルドの孤児。女性。

ガル :11歳。ドワーフ。ガルドの孤児

ガム :11歳。ドワーフ。ガルドの孤児。ガルと双子

ミント: 8歳。猫人族。ガルドの孤児。女性


 この内セシルとミントには、ケレスと一緒に商売をやらせる予定だ。

 他の奴らは全員、迷宮に連れていって鍛え上げることになる。


 結局その日は倉庫の掃除や、身の回り品の買い出しなどで1日が終わった。

 そして夜は俺の家で歓迎会だ。

 この人数だとテーブルに座りきれないので、新人たちは床にシートを敷いて座らせた。


「みんな飲み物は行き渡ったか?……よし、まずは乾杯!」

「「かんぱーい!」」


 小さい子にはお茶とか水を渡してあるが、13歳以上には酒も許可している。


「みんな食いながら聞いてくれ。今日、ここに新たな仲間を13人迎えた。当面の目的は迷宮攻略と商売だけど、ゆくゆくは魔大陸に行って活動する。そのためには、みんなが強くならなければならない。倉庫の整備が一段落したら、迷宮に連れてってビシビシしごくから、覚悟しろよ」


 この言葉に返事を返したのは、13歳以上のメンツだけだった。

 それより下のガキどもは聞いちゃいない。

 争うように料理を取り、かぶりついているからだ。

 ミントが”おねえちゃん、おいしいよう~”と泣きながら食ってるのとか見ると、ちょっと心がなごむけどな。


 そんな中、レミリアが質問をしてきた。


「ご主人様、ご商売をされるのはなぜでしょうか?」

「うん、それは戦うだけじゃなくて、頭を使う人間も育てたいからなんだ。魔大陸で活動するにしても、そういう組織運営って必要だろう?」

「ご主人、本当にあたいが切り盛りしていいのかい?」


 ここでケレスが口を挟んできた。


「もちろん。俺は迷宮攻略があるから、お前がセシルとミントを使って商売するんだ。ケレスは商売の経験があるし、迷宮に潜るよりはそっちの方がいいだろ?」

「うーん、今までは使われる側だったから、あまり自信ないんだけどなぁ。それに商売のネタはどうすんの?」

「今考えてるのは、このガルドとセイスを行き来しながらの商売だな。こっちから魔物の素材を持っていって、向こうから海鮮物なんかを運ぶってのはどうだ? 俺たちは誰よりも速い馬車を持ってるから、新鮮な食材とかを供給できると思うんだ」

「なるほど、それはありだね。でも馬車1台じゃあ、大した量は運べないんじゃない?」

「それは、そんなに大々的にやるつもりはないからいい。状況によっては馬車を増やすことも考えるけど、周りに目を付けられない程度にやろうと思ってる。こいつらの訓練が一段落したら、一緒にセイスに行こう」

「了解。そういえば、商業ギルドへの登録はしないのかい?」

「俺は伯爵と面識があって許可証は簡単に下りるから、必要ない。申請の手続きだけそっちで進めてくれ」


 普通、この国で商売をするには商業ギルドに登録するのが一般的だ。

 ギルドに登録しておけば、その信用で商売の許可証が発行されやすいからだ。

 当然、入会者は年会費を払わねばならないが、情報が得られたり護衛が雇いやすかったりと、いろいろメリットもある。

 しかし、今の俺には登録するメリットはないと考えてる。


「デイル様、迷宮組の訓練はどのようにされますか?」

「うん、俺たちと一緒に潜って、1層から順に経験させていこう」

「というと、適当に経験者と混ぜて戦闘させる形ですね」

「そうだ。とりあえず新人だけで2層で戦えるようになるまでは、1軍の攻略はお休みだ。それと、見込みがありそうな奴は、1軍に引き上げる可能性があるから頑張れよ」


 そう言うと、年長組の眼の色が変わった。

 やはりより強くなって、もっと稼ぎたいと思うのだろう。


 そんな話をしながらたっぷり飯を食い、適当なところで切り上げた。

 その後は皆にシャワーを使わせて、奴隷組には俺の魔力を分け与える。

 もちろんチャッピーに手伝ってもらって、魔力経路も整えた。


 彼らに魔力を与え始めてすでに数日経つので、みんな元気になってきている。

 今回買った奴隷も年齢のわりに小柄な奴ばかりだが、魔力を与えるとやはり背が伸びた。

 これは高い潜在能力を持つ彼らが、魔素の濃い魔大陸ですら成長が遅れていた証だろう。


 そんな彼らが魔素の薄いこの大陸に連れてこられれば、衰弱してしまうのも当然だ。

 中でも11歳未満の若年者の衰弱ぶりがひどかったことから、幼い時ほどより多くの魔力を必要とするのだろう。


 それじゃあ、ケンツ以下の孤児組がなぜ衰弱してないかといえば、これは彼らがあまり強力な種族じゃないってことと、長くこちらに住んで体が適応しているからだと考えている。

 そういう意味では、戦力としてはあまり期待できないのかもしれないが、鍛え方次第でなんとかなると思いたい。





 翌日も引き続き倉庫の整備に費やした。

 倉庫の2階にシャワーや厨房を設置したり、ベッドを運び込むなど、やることはいくらでもある。


 そんな中で、家付き妖精ブラウニーのボビンとドワーフのガル、ガムが活躍していた。

 ブラウニーは家の中のことはなんでもお手のものらしく、大工仕事もプロ級だった。

 一方のドワーフも、手先が器用で物作りにこだわりがある種族だ。

 だからほとんどの大工仕事は彼らだけでまかなえてしまい、想像以上に早く住居が整備できたのは嬉しい誤算。


 ちなみに倉庫の1階は広いため、馬車を置くと同時にドラゴの住み家もこちらに移した。

 ドラゴも俺たちと迷宮に潜っていたせいか、体格がひと回り大きくなって自宅の庭が手狭になってきたからだ。

 親指ぐらいの長さだった角も今ではその3倍以上に伸びていて、弱い魔物なら刺し殺せそうだ。





 3日間掛けてやっと倉庫の生活環境が整ったので、次は迷宮組の訓練だ。

 まず新入りたちを武具屋に連れていって、装備を調える。

 全員に適当な革鎧を与え、奴隷組には攻撃力を重視して大きめの剣を持たせた。


 孤児組はガル、ガムのドワーフ兄弟には盾とメイスを、狐人のケンツ、シュウには弓と小ぶりな片手剣を装備させている。

 ドワーフは背が低いが頑丈で粘り強いので盾職を、狐人はそのすばしっこさをかして斥候スカウトと遊撃をやってもらう。

 ダークエルフのレーネには弓と短剣を持たせたが、おそらく彼女は魔法がメインになるだろう。

 あと、商売組のセシルとミントにも弓と短剣を与えてある。


 次に冒険者ギルドへ赴いて新人を登録させると、商売組を残して迷宮へ向かった。

 迷宮前で、まずパーティを2つに分ける。


Aチーム

 俺、レミリア、シルヴァ、バルカン、アレス、アイラ、レーネ、ガル、ナムド、ダリル


Bチーム

 カイン、サンドラ、リュート、キョロ、リューナ、シュウ、ジード、ザムド、ガム、ケンツ



 この組み合わせで1層に侵入し、獲物を見つけると交互に戦闘を繰り返した。

 ゴブリンなどは腹ごなしにもならないので、基本的に新人に任せていた。

 特に奴隷組の戦闘能力が高かったので、中盤まで苦労することはなかったのだが、やがて出てきたスライムでつまずいた。


 新人はまだ魔力の扱い方を知らないので、物理攻撃をほぼ無効化するスライムを倒すすべを持たなかった。

 仕方ないので手を貸したが、小さなキョロでさえ簡単にスライムを倒せることに、新人たちが衝撃を受けていたようだ。

 上位精霊に匹敵する雷玉栗鼠サンダーカーバンクルに負けても当然なんだが、どうしても見た目に騙されちまうんだな。


 ひととおりスライム戦を経験させたところで、地上へ帰還した。

 その後、俺の家で夕食にしたのだが、どうにも新人たちの雰囲気が暗い。


「アレス、今日はどうだった?」

「はい、ゴブリンやコボルドは全然怖くなかったんすけど、スライムには攻撃が通じなくてびっくりしました。なのにキョロやシルヴァが簡単に倒すのを見て、ちょっとへこんだっす」

「スライムが物理攻撃に強いってことは、先に言ってあったよな」

「聞いてたっすけど、スライムぐらいなんとかなると思ったんすよ……」


 そう言って全身でしょげかえるアレス。


「ふむ、それじゃあ、お前はどうする?」

「それをあんたが教えてくれるんじゃないんすか?」

「アレス、主人をあんた呼ばわりとは何事だ。デイル様と呼べ。それから教えてもらうことだけを期待するんじゃない。まず自分で考えろ」


 ここでサブリーダーであるカインの指導が入った。

 彼は俺の意を汲んでいろいろと動いてくれるから助かる。


「兄貴、物理じゃダメってことは、魔法が必要なんですよね? だけど普通の人間には魔法なんか習う機会はないです。兄貴は一体どうやったんですか?」

「そうだ、ケンツ、俺たち貧乏人にとって魔法は縁遠いモノだ。だけど俺はチャッピーに教えてもらって、たった1日で魔力操作を会得したんだ」

「そ、それは兄貴に才能があったから? 俺たちなんかにはやっぱ無理なんですかね……」

「それは違う。俺は別に天才でもなんでもないが、ちょっとした秘密があるんだ……もしお前たちがその秘密を知りたいってんなら、全てを差し出す覚悟が必要になる。どうだ、お前らにできるか?」


 部屋の中に重い空気が立ち込める。


「全てを差し出せって、なんだよそれ。やっぱり俺たちを奴隷にするのか?」

「シュウ、そうではありません。ご主人様はあなたたちの覚悟を問うているのです」

「レミリアの言うとおりだ。俺の秘密を共有するからには、生涯の忠誠を誓うくらいの覚悟が必要なんだ。そのうえでなら、俺はお前らをもっと強く、豊かにしてやれる」


 そう言ってしばらく待っていると、獅子人族のダリルが立ち上がった。

 ミントを除けば1番のチビが、腕を振り上げて宣言する


「忠誠を誓うだ。デイル様は俺を救ってくれた。俺はもっと強くなって恩返しするんだ」

「「俺も誓うだ!」」


 ダリルの次にザムドとナムドが続いた。

 それに続いてアレス、ジード、アイラ、ケンツ、レーネ、ガル、ガムが立ち上がり、それぞれ誓いの声を上げた。


「セシルとミントはどうする?」

「えっ、私たちも必要なんですか?」

「絶対にとは言わないが、お前たちにも自分の身を守れるくらい強くなって欲しいからな。それにお前らだけ仲間外れとか、嫌だろ?」

「わたしは、いいよ~。おにいちゃんのこと、すきだからぁ」


 舌っ足らずな言葉でミントが忠誠の意を示す。


「……それなら、私も忠誠を誓います」

「よし。最後にシュウはどうする? 別に強制はしないぞ」

「……なんだよ、みんな。簡単に忠誠なんか誓いやがって。そんなもんじゃないだろうが。世の中ってのはもっと残酷で、非情なんだ…………だけど、あんたが俺たちを救ってくれたのも事実だ。チビがあんたに全てを捧げると言うんなら仕方ない。いいだろう、俺も忠誠を誓おうじゃないか」


 ようやく全員の誓いが得られた。

 今は表面的なものに過ぎないだろうが、それは使役契約によってほぼ絶対的なものに変わる。


「シュウ、俺はお前のその疑り深いところ、好きだぜ。お前はお前なりに仲間を守って、俺の役にも立ってみせろ。さて、魔法を覚える秘訣ひけつなんだが、全員に俺と使役契約を結んでもらう」

「使役契約だって? やっぱり俺たちを奴隷にするつもりだったんだっ!」

「落ち着け、シュウ。別に奴隷として縛るわけじゃない。実は俺の使役スキルは特別でな、感覚とか意識の一部を共有することができるんだ。しかも、契約したメンバー全員が対象となる」


 それを聞いた新人たちがざわめく。


「……つまり、兄貴のスキルを通じて、言葉では伝えにくい秘訣なんかを教えてもらったりするんですかね?」

「そのとおりだ、ケンツ。それだけじゃなくて、戦闘時に他人の感覚を共有できるから、パーティの連携も格段に取りやすくなる」

「それが本当なら凄いぞ……」

「でも使役だなんて、まるで動物や魔物の扱いじゃないか」

「俺の場合、強制的に何かをさせることはしないし、少々逆らっても罰を与えたりはしないぞ。ただ、もし敵対したり、俺の秘密をばらしたりすれば、そいつは死ぬことになるがな」


 実はそんなことできないんだが、あえて脅しを掛けておいた。

 これだけ人数が増えると、うっかり俺の秘密を喋る奴が出てきてもおかしくないからだ。

 死ぬという言葉に、さすがに何人かはおびえを見せた。


「逆に敵対や秘密を漏らすことがなければ、お前らは自由だ。そして俺の指導を受ければお前らは強くなれて、より豊かな生活ができる。それは保証しよう」

「このに及んで、もしご主人様に不利益を与える者がいれば、私が処分してさしあげます」


 レミリアがそう言ってにっこりと笑うが、その目は全く笑っていない。

 レミリアさん、怖いっす。


「まあ、いずれにしろお前たちの選択肢なんて、そう多くないんだから俺に張っといて損はないぞ。今から順繰りに使役契約をするから、みんな受け入れてくれ」


 結局、全ての新人が契約を受け入れ、俺の使役リンクに組み込まれた。

 こうなれば、まず俺を裏切ることはなくなるし、彼らを強くすることもできる。

 あとはビシビシと鍛えてやりましょうかね。

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