59.新人教育
新人全員と使役契約を交わした翌日、練習用の原っぱに来ていた。
新たな仲間に魔力操作を教え、適性のある者には魔法を覚えさせるためだ。
ちなみに孤児組にも魔力経路を整える治療をやったおかげで、俺は昨日、大忙しだった。
まず1軍メンバーで手分けをし、新人に魔力の感覚を掴ませる。
こちらから魔力を注ぎ込んでやって、それを感知させる例の手法だ。
そしてそれを右手に集めて左手に送る練習をさせると、この段階で人によって差が出てきた。
俺のように半刻足らずで習得できたのは、ケンツ、レーネ、シュウ、セシル、ガム、ガル、ミントの孤児組だけ。
逆に魔大陸から来て衰弱していた奴隷組は、この感覚を掴むのに手こずっていた。
これはなかなかに興味深い事実で、孤児組は奴隷組に比べて力が劣る代わりに、手先が器用で魔力制御に長けていると窺えた。
思うに、彼らは無意識に魔力を制御できたが故に、魔素の薄いこの大陸で、さして不便もなく生活できていたのではなかろうか。
対する奴隷組は小さい子ほど魔力制御が苦手なため、衰弱がひどかったと見ることもできる。
この辺の事情は今後の亜人奴隷救済に役立つかもしれないので、考察を続けようと思う。
その後、奴隷組は年長者から順に魔力制御を覚えていったが、最年長のアレスでも半日、最年少のダリルはほぼ丸1日掛かった。
そして孤児組の方だが、やはりエルフであるレーネとセシルの魔法習得速度が、ずば抜けて早かった。
彼女たちは俺と同様、その日のうちに妖精魔法をひととおり使えるようになった。
そしてケンツとシュウも風と土が使えるようになり、ミントも風魔法を覚えた。
とりあえずこの5人には魔力斬も教えつつ、弓で風弓射を使えるように訓練する。
しかしドワーフのガル、ガムはやはりパワー系のためか、魔法は習得できていない。
そのため彼らには、盾とメイスの使い方をカインに指導してもらった。
奴隷組も魔力操作を覚えた順に、剣の振り方と魔力斬を指導した。
こっちはサンドラ、レミリア、リュートが対応する。
剣の種類とか盾の適性とかも、おいおい見極めるつもりだ。
これらの訓練をもう1日だけやってから、迷宮に再チャレンジさせることにした。
この間と同じ組み合わせで1層を回り、ゴブリンやコボルドを殲滅しつつ、魔力を使ったスライムの倒し方も経験させる。
そんな戦闘を交互に繰り返していると、夕刻近くになったので野営することにした。
中盤で適当な行き止まり部屋を確保し、野営の準備に入る。
いつもどおりレミリアたちが料理をし、温かい飯を出してやると新人が争うように食っていた。
今日はずっと移動と戦いの連続だったから、いろいろと消耗したのだろう。
しかし今日はスライムにも対抗できていたので、彼らの表情は明るい。
飯を食うと、見張り以外の新人はさっさと眠らせた。
一応、全員に見張りの順番は割り当てているが、たっぷり3刻以上は眠れる。
迷宮の中で温かい飯が食え、たっぷり眠れることのありがたさを、彼らはどれだけ理解しているのかと、ふと思った。
まあ、じきに迷宮探索の苛酷さを思い知るようになるのだから、今は楽をさせておいてやるとしよう。
翌日、朝早くから深部を探索していると、シルヴァからシャドーウルフ発見の報告が入った。
しかし俺はあえて知らせずにおく。
すでに新人には、深部にはこんな魔物がいるから自分たちで見つけてみろ、と言ってあるからだ。
彼らがどう対応するのか、お手並みを拝見するとしよう。
もうじきシャドーウルフが隠れた場所に差し掛かろうか、というところでケンツが声を上げた。
「待って、近くに何かいる。シャドーウルフかもしれない」
「本当だ、変な臭いがする」
ケンツの警告にシュウが同意する。
これは最近分かったことだが、狐人族は特に感覚が鋭く、探知能力に優れていた。
他の獣人に比べ非力なのは否めないものの、一方で優秀な斥候になる資質を秘めていると言えそうだ。
さすがにシルヴァの能力には遠く及ばないが、2軍の探知役として期待できるだろう。
「よく気づいたな、ケンツ。アレスの斜め右5歩ぐらいの壁際に潜んでいるぞ」
居場所を教えてやると、アレスがただちに攻撃を掛けた。
すると驚いたシャドーウルフが姿を現し、そのまま新人に囲まれ、袋叩きにされてしまった。
その先の部屋にも2匹潜んでいたが、これもあっさりと倒してしまう。
その後、休憩しながらアドバイスをした。
「ケンツ、シュウ、さっきのがシャドーウルフの隠蔽術だ。3層には似たような術を使う暗殺蟷螂ってのもいる。2軍ではお前らが探知役になるんだから、しっかりと頭に入れておけよ。シルヴァが気流を操作して探知範囲を広げる方法を知ってるから、コツを教えてもらうといい」
その後もシャドーウルフを新人に狩らせ続けると、だいぶ安定して倒せるようになってきた。
そこで少し早いが、1層守護者を攻略させることにした。
まずは俺たちが、アレス、アイラ、レーネ、ガル、ナムド、ダリルを率いて、守護者部屋へ侵入した。
以前のようにビッグシャドーと手下4匹が現れ、ただちに戦闘に入る。
基本、戦闘は新人だけに任せ、危ない場面で俺の弓とバルカンの火球でフォローした。
すでにシャドーウルフに慣れつつあった新人は、ビッグシャドーに多少苦戦しつつも、見事に討伐してみせた。
続いてカインたちも、シュウ、ジード、ザムド、ガム、ケンツを率いて守護者と戦った。
こちらはリュートを攻撃に参加させ、リューナとキョロの支援を受けて戦いを乗り切ったそうだ。
こうして新人たちは、たった3日潜っただけで2層への侵入資格を手にした。
その晩は俺の家で祝杯を上げた。
わずか3日で1層を突破し、強化レベルも1つ上がった彼らは、とても嬉しそうにはしゃいでいた。
「ケンツ、今日はどんな感じだった?」
「まだ信じられないですよ、兄貴。たった3日で1層を攻略しちまうなんて」
「ああ、そうだろうな。俺だって1層を抜けるのには3ヶ月は掛かったんだ」
「へー、そうなんですか。その時は何人で攻略したんですか?」
「1層は俺とレミリア、チャッピー、キョロ、シルヴァだけだな。あの頃はまだ合成魔法を編み出してなかったから、苦労したよ」
「え……たったそれだけのメンツで倒せるの?」
「まあ、みんな頑張ってくれたからな。頭を使えばなんとかなるもんさ」
「さすがは兄貴っすね……」
あの時の大変さなんて、実際にやってみないと分からないだろう。
そう思ったので、少し釘を刺した。
「お前たちが1層を攻略して浮かれるのは仕方ないけど、本当に大変なのは2層からだからな」
「それは聞いたことあります。ほとんどの冒険者は2層のオークに歯が立たなくて、3層に行けないって話ですよね」
この町に住んで長いシュウが補足する。
「そのとおりだ。しかしデイル様は2層序盤に現れたオーク2匹を倒し、私とサンドラを救ってくださったのだ」
「そうじゃ。あの時も我が君は、少人数でオークに立ち向かっていったのじゃ」
「あの時は、カインとサンドラも一緒に戦ってくれたからな。体を壊していたのに、よく動けたもんだ」
そんな思い出話をしていると、アレスが疑問を口にした。
「すいません、俺の故郷では、オークは1匹倒すのに5人の大人が必要だって聞いたっす。なら、迷宮のオークは弱いんすかね?」
「そんな馬鹿な。この迷宮でオーク2匹なら、C級の冒険者が10人、しかも魔法込みでようやく倒せるぐらいだぞ。それを4人と使役獣だけで倒すなんて、聞いたことないよ」
「あの頃からご主人様は、とても強かったのですよ」
レミリアが誇らしそうに俺を持ち上げる。
まあ、2層の序盤でオークを倒したんだから、そう言われてもおかしくないのかもしれないな。
「そういえばあの後、”嵐の戦斧”とかいうパーティに絡まれたのう」
「ああ、あのクソ犯罪パーティか。チャッピーがいなかったらかなりヤバかったよな、あれは」
「えっ、”嵐の戦斧”って3層探索者ですよね? 何があったんですか?」
「シュウは冒険者に詳しいな。あいつら、俺たちがオークを倒した後に絡んできてな、獲物を寄越せって言いやがったんだ。当然、返り討ちにしてやったけどな」
「ええっ、そんなことって、可能なんですか?」
シュウが信じられないという顔でつぶやく。
「あいつらに追跡されてるのをチャッピーが教えてくれたからな。こっちは準備万端、待ち受けて迎撃したんだ。それでもレミリアとシルヴァがケガさせられて、大変だったんだ」
「あれぐらいで済んで良かったんですよ、ご主人様」
「それで……相手はどうなったんですか?」
「7人はその場でぶっ殺して、3人は奴隷として売っぱらった」
驚愕に顔を歪めるシュウに、ケンツが質問する。
「それって凄いのか?」
「……俺が知ってるだけあって、”嵐の戦斧”ってのはけっこう強いパーティだったんだ。2層の守護者はオークリーダーとオーク4匹だから、3層探索者は少なくともオーク6匹を倒せるくらいは強いんだ。それをたった4人で倒すだなんて、普通あり得ないよ」
「いや、俺たちも2層を突破したのはリュートとリューナを加えてからだぞ。あの時は相手の油断を突いたから勝てたんだ」
「それにしたって……」
「デイルは3層探索者どころか、トップパーティも潰したからのう」
チャッピーの言葉にまたシュウが食いついた。
「それって、”天空の剣”ですよね?」
「お前、本当に詳しいな? ”天空の剣”は俺たちが魔物と戦ってるところに割り込んできて、魔物の大発生を引き起こしやがったんだ。幸い、キョロとシルヴァの進化で生き残ったけど、あの時ばかりは死んだと思ったよ。その後、あいつらが戻ってきたから、奇襲して制圧してやったけどな。そして主犯はその場で殺して、残りは金をふんだくってから、町を追放ってわけだ」
「あの時は俺も死を覚悟しましたね」
「ほんによう生き残ったわ」
「私も死ぬかと思ったの~」
ケンツがまたシュウに聞いている。
「それも凄いのか?」
「デイルさんたちが4層に到達する前は、4層探索パーティは3つしか無かったんだ。その中でも最強と言われてたのが”天空の剣”さ。そんなトップパーティを返り討ちにするなんて、どんだけ……いや、そもそも魔物の大発生を生き残った時点でおかしいんだ」
そう言ってシュウが頭を抱えている。
「お前たち、デイル様は史上初の6層探索者だぞ。それくらいの武勇伝があって、何の不思議もない。むしろ心配なのは、お前たちがその強さを自分のもののように勘違いし、無謀な探索で命を落とすことだ。迷宮の厳しさと自分の力を見誤らないようにしろ」
「そうだ、カインが言うように状況を正確に把握しろ。ま、オークとやり合えば、嫌でも分かるけどな」
カインがうまくまとめてくれたので、俺も補足して新人の気持ちを引き締めさせた。
翌日はまた原っぱで訓練をした後、次の日から2層の攻略に入った。
今回は新人9人に子守役を1人だけ付けて探索をさせる形にした。
これだと新人が2人余るが、そいつらは後ろから見学させておき、適当に入れ替えて平等に経験を積ませる計画だ。
2層序盤では、ホブゴブリンに率いられたゴブリンの群れが待ち伏せていた。
そういった待ち伏せの予防策や、10匹以上の群れに囲まれた場合の対処法などを、実戦で教え込んでいく。
そうして何回も戦わせていると、奴隷組の適性が少し見えてきた。
狼人のアレスと鬼人のアイラはわりと器用なタイプで、盾と剣を上手く使う。
逆に獅子人族のジードとダリル、虎人族のザムドとナムドは盾の扱いが苦手だった。
なのでそれ以後、彼らには重めの両手剣を持たせて攻撃に集中させるようにした。
2日ほど序盤を経験させてから、中盤の探索を開始した。
ここはパラライズバットが鬱陶しいのと、コボルドが集団で襲ってくるのが厄介だ。
そしてまだ魔法攻撃に慣れない新人パーティは、パラライズバットに手こずらされることになった。
特に終盤ではバットとの戦闘中にコボルドが乱入してきて、壊滅しかけた。
子守役のシルヴァが風魔法で追い払ったからよかったものの、死人が出てもおかしくない状況だった。
何人かケガ人も出たため、そのまま地上へ帰還する。
帰宅してからまた反省会を開いた。
「今日の問題はなんだったと思う?」
俺が問いかけると、シュウとケンツが目配せをし、ケンツが喋り始めた。
すでにこの2人がリーダー格になりつつあるようだ。
「パラライズバットの対応に追われていて、周辺の警戒がおろそかになってました。そこへコボルドに乱入されて、パニックに陥ったのが原因です」
「まあ、そうだな。それで、次はどうすればいいと思う?」
さらに突っ込むと、ケンツが悔しそうな顔で答える。
「チャッピーを貸してもらえれば、散弾でバットを落とせると思います。だから――」
「それもひとつの手だな。だけどチャッピーは1軍メンバーだ。いずれは別の手を考えないといけないぞ」
「それは、分かってます……」
「まあ、すぐに答えは出ないだろうから、みんなでいろいろ考えてみろ」
「はい……」
その晩は早めに飯を食って、新人たちを倉庫へ帰らせた。
「やっぱり簡単にはいかないもんだね」
「まだ始まったばかりじゃからな。普通はこんなもんじゃろう」
「それもそうか。気長にやるしかないな」
人材育成ってのは難しいものだ。




