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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第6層編

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57.2軍メンバー加入

 今、俺たちは港湾都市セイスの奴隷市に来ている。

 目的はリュートやリューナのように、魔大陸からさらわれてきた若年奴隷の確保だ。

 魔大陸からの若年奴隷は、力が強い個体ほど魔素の薄い場所で衰弱するらしい。

 そんな衰弱した奴隷を買い取って、将来の戦力にしようと考えた。


 まずは昨日、話を付けた奴隷商の店に赴く。

 ちなみにこの商人、名前はアベルというらしい。


「おっ、ちゃんと来たな。ウチの店で弱ってるのはこっちだ」


 そう言いながら案内してくれた先は、そこそこ小綺麗なテントだった。

 価格帯としては金貨10枚以上といったところか。


「こいつだ。狼人族でしかも白毛だ。白狼は希少で力が強いって言われてるから、いい値が付くはずだぜ」


 アベルが紹介してくれたそいつは、レミリアより少し小さいぐらいの狼人だった。

 髪の毛と尻尾が真っ白で耳は薄い灰色、そしてその顔立ちはなかなかのハンサムと言っていいだろう。

 しかし体はガリガリに痩せているし、目にも精気が無いので、弱っているのは一目瞭然だ。


「ご主人様、たしかに白狼種は強くなると言われていますが、彼はあまり成長が良くありません。しかもこの大陸へ連れてこられて、さらに衰弱しているようです」

「そうなのか? おい、そこの君。年はいくつだ?」


 成長具合がよく分からなかったので、年を聞いてみたら弱々しい返事が返ってきた。


「……14歳、です」

「14歳でこの体格だとやっぱり成長が遅いな。しかも慣れない土地でさらに弱ってるんじゃなぁ」


 そう言いながらアベルに目をやると、奴が慌てて強弁する。


「な、なんだその目は。これぐらいだったらちゃんと買い手は付くぞ」

「ほー、これぐらいなら売れるか。でも買った方は詐欺だと思うんじゃないか? 期待ほど強くないうえに成長もしないなんて」

「ななな、なーに言ってんだお前……」

「その顔は図星だな。実は魔大陸の子供を売ったはいいが、けっこう客からクレーム入ってんだろ?」

「そそそ、そーんなことはないぞぅ!」

「この狼人族も白狼とかいって高く売ると、後で後悔するぞ。なまじ高価だとクレームも凄いだろ?」


 図星を指されたアベルの目が泳いでいる。

 相変わらず分かりやすい男だ。


「いちいち分かったようなこと言ってんじゃねえよ! どうしても欲しいってんなら、金貨30枚だな」


 案の定、吹っかけてきやがった。

 この感じだと原価は金貨10枚くらいか?


「俺がこいつを買うとしたら、金貨20枚だな。これは他の商人の情報込みだ。それで売れないってんなら俺は帰るぜ」


 それを聞いたアベルが意外そうな顔をしている。

 思ったより高く売れそうなんで驚いてるんだろう。

 ま、これは情報料込みだからな。


「し、しょうがないな。死にそうな奴隷を救うってんなら、俺が泣くしかないか。まったく、俺もとんだお人好しだぜ」

「さすがアベル、あんたの侠気おとこぎには敬服するよ」


 そう言って白々しく奴と握手を交わした。

 すぐに引き出されてきた狼人族は、なぜか俺とレミリアをにらみ付けていた。

 おそらく、さっきこいつは伸びないと話したのを怒っているのだろう。


 すぐに奴隷契約を済ませて名前を聞くと、そいつはアレスと名乗った。

 話は後回しにして、とりあえずローブだけ与えて付いてくるように指示する。




 その後、アベルにもらった商人のリストを頼りに、衰弱した奴隷を探した。

 結果的にアレスのように衰弱した奴隷がもう2人と、さらに今にも死にそうなほど弱ってるのが3人見つかった。

 さすがにアレスほど価格は高くなく、死にかけの奴らなどは金貨3枚以下だった。


 しめて金貨60枚足らずで済んだのは、安かったのかどうか?

 いずれにしろ俺は6人の奴隷を確保し、セイスを後にした。





 その後は直接ガルドに帰らず、懐かしの王都へ寄って古巣の孤児院を訪ねた。

 たくさんの食料を買って孤児院に持ち込んでやったら、子供たちが大喜びしてた。

 孤児院なんて、普段はあまりいいもん食ってないからな。


 適当に子供たちの相手をした後、院長先生と話をする。


「まあ、デイル君、立派になって」

「お久しぶりです、院長先生」


 小太りの院長先生がゆっくりと歩み寄り、優しく抱きしめてくれた。

 懐かしい感覚だ。

 この先生にどれだけ救われたことか。


 彼女はこの国の国教である光輪教の司祭だ。

 その実力も信望もけっこうなものらしいが、人助けを優先してきたおかげであまり出世できていない。

 しかし、彼女のおかげで俺は成人できた。

 この世で俺が最も尊敬する人物の1人だ。


「元気にしていましたか?」

「はい、お陰様で冒険者としてやれています。今はガルドの迷宮に潜って稼いでいるんですよ」

「まあまあ、それで今日はたくさんの食料を持ってきてくれたのですね。一緒に育った仲間を思いやるその心延こころばえは、尊いものですよ」

「いえ、俺自身が先生や先輩たちのおかげで生きてこれたんですから、恩返しするのは当然ですよ」


 それから院の状況を聞くと、あまり経営状況は良くないようだった。

 今まで国や光輪教から補助を引き出してなんとかやり繰りをしてきたものの、最近はそれも減っているらしい。

 世知辛せちがらい世の中だ。


「実は迷宮でひと山当てることができたので、これを役立ててもらおうと思って持ってきました」


 そう言いながら100枚の金貨をテーブルに置く。


「まあっ! こんな大金を一体どうやって?」

「命懸けで迷宮に挑んだ結果ですよ」

「そうですか……苦労したのですね。このお金は大事に使わせてもらいます。デイル君も命を大切にしてくださいね」

「ええ、先生もお元気で」


 こうして俺は院長先生に資金を託し、孤児院を後にしようとしたところで呼び止められた。


「待ってよ、デイルの兄貴」


 俺を呼び止めたのは、狐人族の少年だった。


「よう、ケンツ、元気か?」


 その少年 ケンツは俺よりひとつ下の後輩だ。


「うん、元気だよ。だけどさ、俺ももうじき成人だから、院を出ていかなくちゃならないんだ」

「そうか、お前もそろそろだよな。これからどうするつもりなんだ?」

「うん、俺も兄貴と同じように冒険者になろうと思ってる。だけど俺、何も知らないし、兄貴みたいに使役スキルとか持ってないから、凄く不安なんだ。それで……もし良ければ兄貴の下で修行させてもらえないかな? 荷物持ちでもなんでもするから」


 実を言えば、俺はこんな展開を期待していた。

 しかし、どうしても欲しいというほどでもなかったので、こいつらが言い出すのを待っていたのだ。


「ふーん、そうか。でも冒険者なんて危険な職業だぞ。俺に付いてきたからって、それが大して変わるわけでもない。お前、本当に命を懸ける覚悟があるのか?」

「もちろんだよ。どうせこの街にいたって、俺みたいな獣人にまともな仕事なんか無い。それぐらいだったら、命懸けでも冒険者として自立したいんだ。頼むよ兄貴」


 彼が言うとおり、この国では獣人やエルフなど亜人の肩身は狭い。

 何の技能もコネも無いケンツにとって、冒険者は数少ない選択肢のひとつなのだ。


「まあ、一緒に育ったよしみだ。最低限の面倒は見てやるけど、甘えるんじゃないぞ。それと俺の命令には絶対に従ってもらうからな」

「分かった。兄貴の言うとおりにするよ」


 こうしてケンツを引き取ると決めた途端、もう1人が声を上げた。


「デイル兄、私も、私も連れていって」

「レーネ……そうか、お前もじき成人か」


 話しかけてきたのはレーネといって、やはりひとつ下のダークエルフの女の子だった。

 褐色の肌と真っ白な髪、そして紫の瞳にピンと尖った耳を持つその姿は、優れて美しい。

 しかしダークエルフへの風当たりはエルフ以上に厳しく、しばしば迫害の対象になっているのが実状だ。


「私もケンツと一緒で、行く所なんか無いから……なんでもするから、お願い、連れてって!」

「分かった。1人も2人も一緒だ。だけど甘えは許さないぞ」

「ありがとう、デイル兄」


 結局、俺はケンツとレーネを引き取ることになり、それを院長先生に申し入れた。

 先生は危険な冒険者になることを心配しつつも、俺の元でならとそれを許してくれた。





 こうして8人の仲間を増やした俺たちは、2週間ぶりに迷宮都市の土を踏んだ。

 そして俺とレミリアは、シュウたちと話をするために再びスラム街を訪れる。


「考えは決まったか?」

「ああ、だけど最後に確認させてくれ。あんたは一体、俺たちに何をやらそうってんだ? もし犯罪に使うつもりなら絶対に断る」

「犯罪なんてとんでもない。むしろ悪党をやっつける方だ」

「悪党って、どこの?」

「魔大陸で奴隷狩りをしてる奴らさ」

「ハア? なんであんたがそんなことするんだよ?」

「俺のパーティには魔大陸から攫われてきた奴隷が4人もいる。俺はそんな風に他人の人生を踏みにじる奴らが許せないんだ」


 それを聞いたシュウとセシルが、胡散臭うさんくさそうに俺を見る。


「あんた正気で言ってんのか? 赤の他人のために命を懸けるなんて馬鹿だよ。大体、奴隷狩りをする奴らなんて強いに決まってる。そんな奴らをどうやってやっつけるんだよ?」

「そのために人材を集めてるんだ。迷宮で鍛えれば、強くなるのも早いからな」

「鍛えるって、どうやって?」

「俺たちベテランと混ざって、バンバン魔物を狩らせるんだよ。そうすれば強化レベルも上がるし、軍資金も稼げる」

「魔物を狩るなんて危ねえじゃねーか。死ぬかもしれないんだぞ」

「もちろん危険はある。だけど5層を突破した俺たちが付いていれば、それほどでもないさ。それに命を懸ける気概も無いような奴はいらないしな」


 それを聞いたシュウとセシルが小声で話をしていた。

 やがてシュウが再び口を開く。


「分かった。実は俺たち、みんな魔大陸の出身だから、あっちへ渡るのは願ったりだ。それ以上に3人のチビを抱えたまま生き残るにはこれしかないと思ってる。頼む、俺たちをあんたのところで働かせてくれ」


 そう言いながらシュウが頭を下げる。


「いいだろう、雇ってやる。ただし俺の命令には従えよ」

「分かった。でもセシルとミントを戦わせるのは勘弁して欲しい。その分は俺とガル、ガムで稼ぐから」


 ドワーフの男の子がガル、ガムで、猫人族の女の子がミントなのだろう。


「ああ、セシルには他のことをしてもらいたいと思ってる。読み書きはできるか?」

「はい、親に教えてもらいましたから、ある程度、読み書きや計算はできます」

「それは好都合だ。じきに商売を始めるつもりだから、その手伝いを頼む。ミントはその手伝いをするか? それとも戦うか?」

「ミントはね~、セシルねえちゃんをてつだうの」

「そうか、それならそれでいい……よし、俺が雇うと決まったからには引っ越しだ。お前らを住ませる家はすでに借りてある。外に馬車を待たせてあるから、それに荷物を積み込め」


 そのまま慌ただしく引っ越しの準備に入った。

 これからしばらく、忙しくなりそうだ。

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