56.目指すもの
伯爵の館から戻った俺が、Aランク冒険者になったことを仲間に告げると、お祝いのために外へ連れ出された。
ケレスに約束していたこともあり、レストラン”女神の食卓”で食事を取ることにした。
「デイル様のAランク昇格を祝って乾杯!」
「「かんぱ~い!」」
とりあえず乾杯をして料理を食べ始める。
食いしん坊のケレスなどは、脇目も振らずに料理をぱくついていた。
「ご主人様、おめでとうございます。これで名実ともにこの町のトップ冒険者ですね」
「ありがとう。これもみんなのおかげだよ。俺だけ昇格しちゃって悪い気がするくらいだ」
「いいえ、デイル様あっての我々ですから、これでいいのですよ。とても誇らしく思います」
「そうじゃそうじゃ。我が君がいなければ、我々は生き残ってさえいないのだからな。気にする必要はないぞ」
他のみんなもそれに同意し、祝意を示す。
「よし、それじゃあ代わりに俺からみんなにふたつ名を送ろう」
「ふたつ名、ですか?」
「そうだ。例えばレミリアだったら敵の攻撃を掠らせもせずに倒すから……”疾風のレミリア”だな」
「疾風、疾風……」
レミリアが口の中で疾風と唱え、エヘヘと嬉しそうに笑った。
「むむむっ、妾はどうじゃ? 妾のふたつ名は」
「そうだな~……"首狩りのサンドラ”とかどうだ?」
「そんなの嫌じゃ。なんかカッコよくないのじゃ~!」
「アハハ、気に入らないか。それじゃあ……鉄をも斬り裂く"斬鉄のサンドラ"にしよう」
「うむ、それならばよいのじゃ」
すると、他のメンバーも期待の目を向けてきたので、順番にふたつ名を与えていった。
”魔炎のデイル”
”疾風のレミリア”
”鉄壁のカイン”
”斬鉄のサンドラ”
”閃撃のリュート"
”爆水のリューナ”
”魔壁のケレス”
”暴風のシルヴァ”
”雷撃のキョロ”
”爆炎のバルカン”
”閃光のチャッピー”
それぞれの得意技や特徴を並べただけだが、いっぱしの冒険者らしく聞こえる。
ついでに俺の分もという話になり、炎の短剣を操る魔法使いだから、”魔炎のデイル”に落ち着いた。
「そういえば、明日からはどうするのですか?」
「とりあえず明日も休んで、その次は6層の下見をする。それから防具の調整でセイスに行ったついでに、奴隷市を見ようと思ってる」
「またセイスに奴隷市が立つのですか?」
「ああ、この間会ったクインさんに、来週また市が立つと聞いたんだ」
「でもご主人様、私たちはもうパーティ枠いっぱいなので、奴隷を買っても意味が無いと思うのですが……」
たしかに、最近バルカンが戦力化されたため、ドラゴを抜いてもパーティ枠はいっぱいになっていた。
「いや、迷宮攻略のために戦力を増やすんじゃないんだ。またリュートやリューナみたいに死にかけてる子供がいたら、助けてあげたいと思ってね。幸い迷宮攻略は順調で、俺たちは莫大な資産を築きつつある。それを不幸な子供たちのために使ってもいいんじゃないか、そう思うんだ」
いい機会なので、以前から考えていたことを打ち明けてみた。
「ご主人様、すばらしいお考えです」
「私も賛成です、デイル様」
「もちろん妾も賛成じゃ」
「俺からも頼みます。少しでも俺たちみたいな子供を減らしてやりたい」
「さすがは兄様なのです」
実際に死にかけたことのあるレミリア、カイン、サンドラ、リュート、リューナが、揃って賛同の意を示す。
もちろん他のメンバーも異論は無いと思っていたのだが、チャッピーがここで口を挟んだ。
「デイル、その心意気は素晴らしいが、子供ばかり引き取ってどうするのじゃ? ただ買えば済む話ではないぞ」
「うん、実はその先についても考えがあるんだ。俺は今のように魔大陸から子供を攫ってきて奴隷にする仕組みを、ぶっ潰してやりたいんだ。そのためにいずれは魔大陸へ渡るし、向こうで活動するための配下として、子供たちを育てればどうかと考えている」
これはリュートたちを買った辺りから、漠然と考えていたことだ。
あれから俺たちはさらに強くなり、仲間も増えた。
今の俺たちになら、それはただの夢物語ではなく、実現可能なことだと思うのだ。
「なるほど、そこまで考えているなら反対はせん」
「分かってくれた? けど、ただの慈善事業をするつもりもないんだ。買うにしても、なんらか成長の見込みがある奴を優先して、しっかりと鍛えようと考えている」
すると、何かを思いついたらしいレミリアが口を挟んだ。
「あの、ご主人様。もしよろしければ明日、ちょっとお付き合いいただけませんか。実は私、この町に亜人の孤児の知り合いがいて、その子たちもご主人様のお役に立てないかと思うんです」
「ふーん、まあいいけど、ただの施しはしないぞ」
「はい、ご主人様のお眼鏡に適わないなら仕方ありません」
俺は釘を刺しつつも、レミリアの願いを聞くことにした。
実際に会ったら助けちゃいそうだけど、それは仕方ない。
それからもしばらく飲食と歓談を楽しんでから帰宅した。
翌朝早くからレミリアに連れ出され、この町のスラム街まで歩いてきた。
ゴミゴミとした街路を抜けて、ある家の前に立つ。
レミリアが扉をノックするとしばらくして、”だれ?”という声がした。
「私よ、レミリアよ」
「レミリアねえちゃん!」
レミリアだと分かって出てきたのは、7,8歳くらいの猫耳の女の子だった。
淡い緑色のショートヘアに、くりくりした目が可愛いらしい。
なんか凄くレミリアに懐いてるようだ。
「このひと、だ~れ?」
「私のご主人様よ。さ、中へどうぞ」
促されるままに家の中に入り、食堂らしき部屋に通される。
そこには猫耳ちゃんの他に、4人の亜人がいた。
俺と変わらないくらいの狐耳の少年に、少し小柄なエルフの女の子、そして10歳を超えたぐらいのドワーフの少年が2人だった。
「レミリア姉さん、この間来たばかりなのにどうしたの? それと、その人は誰?」
「この方は私のご主人様で冒険者のデイル様よ。今日はみんなにお話があって来たの」
とりあえず俺は椅子に座らされ、彼らの身の上話を聞いた。
彼らは5人とも、ここ1,2年で親に先立たれて孤児になったそうだ。
どこにも行き場が無く、野垂れ死にしそうだった彼らを、最年長の狐人”シュウ”がまとめて共同生活をしているらしい。
ちなみにこの家はシュウが親と住んでいた場所だそうだが、お情けで住まわせてもらってるだけで、いつ追い出されてもおかしくないそうだ。
彼らはちょっと前までは働く当ても無く、時にはスリやかっぱらいをして食いつないでいたらしい。
しかし最近はレミリアが食料を差し入れてくれるようになったので、ゴミ拾いなど比較的まっとうな仕事で食っているそうだ。
たまにレミリアが昔の友人に会いにいく、と言って出てたのはこれだったのか。
彼女のことだから、たまに渡してたお小遣いを使ってたんだろう。
みんなガリガリに痩せてるけど、これでもまだマシな方らしい。
「それでね、みんな。こちらのデイル様が今、部下になる人を探しているものだから、みんなを紹介しようと思って来たの」
「部下って、俺たちみたいな孤児をどうしようってんだよ?」
シュウが警戒心むき出しで聞き返す。
「まあまあ、そんなに警戒するなって。別に悪事を働こうってわけじゃない。ただ、自分の役に立つ配下を育てたいと思っててな」
彼らが訳が分からんという顔をしたので、さらに続ける。
「彼女が説明したように俺は冒険者で、ここの迷宮を探索している。初めてここの4層、5層が突破されたのはお前らも知ってるだろうが、それは俺たちだ。ちなみにその功績で、Aランクに昇格した」
「あんたが”妖精の盾”のリーダーだったのか……あまり強そうに見えない人だって聞いてたけど、本当だったんだな。あんたの部下になったら、迷宮に潜らされるのか?」
「別にお前らを迷宮攻略に使おうってんじゃないんだ。今はまだ話せないが、将来的に俺の手足となって働いてくれる人材を探してる」
「手足って、やっぱり戦うんだろ?」
「まあ、そうだな。そういう人材も探してる。でも戦いだけじゃなくて、商売とかモノ作りで役立てるんならそれでもいい。要はお前らに向上心があって、何かをやりたいって言うんなら、俺にはそれを支援する用意があるってことさ」
「なんだか話が美味すぎて怖いわ……」
エルフの女の子 セシルが呟いた。
「勘違いするなよ。俺はただで支援するんじゃないぞ。たまたまお前らはレミリアの知り合いで、親を亡くして困っているんだろ? 一方の俺は金も力もあって、そして人材を求めてる。あとはお前らのやる気次第だ。俺に忠誠を誓って働く覚悟があるのなら、少なくとも今よりはいい生活をさせてやる」
「忠誠って、奴隷の首輪でもはめるのかよ? レミリア姉ちゃんみたいに」
「いや、隷属させるつもりなんて、これっぽっちもないぞ。ただ、ゆくゆくは秘密を共有するから、忠誠を誓ってもらう必要はあるな」
「ご主人様、この子たちもすぐには結論が出せないと思うので、少しお時間をいただけませんか?」
「当然だ。俺は明後日からしばらくこの町を留守にするから、その間に考えるといい。今度来るまではこれで食いつないどけ。あまり派手に使って、変なのに目を付けられるなよ」
そう言って銀貨を50枚ほどテーブルの上に置いた。
「こ、こんなにいいのか?」
「レミリアに渡そうと思ってた金だ。お礼はお姉ちゃんに言えよ」
「「おねえちゃん、ありがと~!」」
それ以上長居する雰囲気でもなかったので、俺はさっさと外に出た。
最後にチビたちが手を振って見送ってくれたので、ちょっと和んだな。
「ご主人様、ありがとうございました。彼らは絶対に私が説得しますから」
「別に無理に説得しなくていいぞ。やる気が無い奴を育てても意味がない。これから買う奴隷との兼ね合いもあるから、とりあえず様子を見よう」
その翌日、迷宮6層の下見に潜ったら、5層と同じように短剣猪と黒影豹、血赤豹が出てきた。
4層の時と同じようにその数と遭遇頻度が高くなっているが、とりあえず傾向は掴めたので、適当なところで切り上げて地上に戻った。
下見を済ませると、俺たちは港湾都市セイスへ向け旅立った。
今回の目的は武具屋でリュートたちの防具を調整するのと、奴隷市を見るためだ。
いつもと同じようにドラゴの馬車に乗り、2日で到着してゴトリー武具店を訪れた。
今回は特に買う物も無かったので、また背が伸びているリュートとリューナの防具を調整してもらう。
魔道具についても新しい情報は無かったので、防具を預けて奴隷市の会場を見にいった。
会場にはすでに色とりどりのテントが並んでおり、人々が忙しく立ち働いている。
そんな中を、ある男を探して歩いた。
しばらく探すと、ようやく目当ての男が見つかった。
「よう、おっちゃん、久しぶりだな」
「あん? 誰だい、あんた?」
「半年ほど前にこの子たちを買った人間だよ」
「この子たちって言われても覚えがねえな……待てよ、半年前に鬼人の兄弟を値切ってった兄ちゃんか?」
「うん、そうそう。あの後、治療して鍛えたらこんなに大きくなったよ」
「鬼人って、そんなに急成長したっけか……まあいいや。そいつらが生きてるんならあんた、本当に治す方法知ってたんだな」
「ああ、嘘は言ってないぜ。俺にしかできないけどな」
「ふーん、俺にもできるんなら教えてもらおうと思ったのに、残念。もちろん、タダじゃないぜ」
奴隷商はカネのサインを見せながら、報酬を仄めかした。
「特殊な技能がいるから無理なんだ。ところで相談なんだけど、魔大陸から送られてきて死にかけてる子供の奴隷はいないかな?」
「なんだ兄ちゃん、また助けようってのか? 本当に物好きだな」
「まあ、できることがあるんならやろうと思ってね。幸い、この子たちも役に立ってるから、全くの損でもないんだぜ」
「ふーん、こんな子供に何やらせるってんだい? まあいい。俺のとこでは1人だけ調子の悪い獣人がいるくらいだな。でもあの時よりはマシだから、それなりの値段はするぜ」
「今、見れる?」
「いや、今はバタバタしてるから明日来てくれ」
「じゃあ、明日にするよ。ところで、他の店にも同じような奴隷がいるかどうか、分からないかな?」
「他の店は分からねえな。でも魔大陸から荷を仕入れてそうな店なら、何軒か教えてやれるぜ」
「ああ、それでいいよ。紙にでも書いておいてもらえるかな?」
「ウチで買ってくれたらな」
「条件が合ったら買うよ。頼むぜ」
そう言って店を離れた。
とりあえず今日できるのはこんなとこだから、あとはのんびりするとしよう。




