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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第5層編

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56/87

55.Aランク昇格

「予想よりもずいぶん早かったね」


 聞き覚えのある声に振り返ると、やはり迷宮の管理者 ベビンだった。

 相変わらず道化のようなふざけた格好をしている。


「よう、ベビン。また来たのか?」

「一応、ここの管理者だからね。新たに階層が更新されれば、見にきたくもなるさ」

「それもそうだ。だいぶ待たせたか?」

「とんでもない。今まで待った時間からすれば一瞬みたいなものさ」

「それは良かった。でもそれだったら、何かご褒美をくれてもいいんじゃないか?」

「アハハハハッ、厚かましいね、君は。初回攻略者には特別な武器が準備されているんだから、それで我慢しなよ。4層でも取ったろ?」

「ああ、これな」


 俺は炎の短剣を抜き出し、目の前に掲げた。


「そうそう、その短剣は火竜の素材を埋め込んで魔力を込めた逸品だからね。大事にしておくれ」

「これ、火竜素材使ってんのか……それじゃあ、今から手に入れる武器はなんだ?」

「土の魔剣だよ。土属性だから、使い方は土精霊ノームに聞くといい」

「そいつはいいことを聞いた。4層の時もバルカンがいなかったらさっぱりだったからな」

「役に立ったなら嬉しいよ。じゃあ、私はそろそろ行くよ。また6層で会えるのを期待している……」


 急に現れたと思ったら、また急に消えた。

 まあ、武器の話がちょっと聞けただけでも良しとしよう。


「デイル様は、よくあんな得体の知れない奴と平気で話せますね?」

「ん? 別に怖がっても仕方ないだろ。危害を加えるわけでもなし」

「それはそうですが……」

「それはそうと、お宝を手に入れようぜ」


 ベビンのことは頭の隅に追いやり、水晶に触れると奥の壁が開いた。

 現れた空間を覗き込むと、鞘に入った長大な剣が置かれていた。

 鞘も柄もダークブラウンで、所々に銀色の装飾が施された剣だ。


 それを手に取って鞘から引き抜いてみると、透明感のある銀色の刀身が現れた。

 炎の短剣の刀身によく似ているから、これもアダマンタイトなんだろう。

 軽く魔力を通しても反応は無かったので、ノームに聞くとしよう。


「リューナ、この剣の使い方をノームに聞いてみてくれ」

「はいです、兄様」


 リューナに剣を渡すと、彼女はしばらく精霊と話していた。


「この剣を地面に触れさせた状態で魔力を通すと、土を自在に操れるって言ってるのです」

「ありがとう、リューナ。土を操るって、こんな感じか?」


 剣を地面に突き刺し、柱を立てるイメージで魔力を通すと、目の前の地面から土柱がボコンと盛り上がった。


「ふーん、練習すればけっこう使えるかもしれないな。よし、サンドラ、この剣はお前のな」

「なっ、それは我が君のものであろう?」

「馬鹿言え、こんな凄い剣を後衛が持ってても宝の持ち腐れだって。たぶんアダマンタイトだから斬れ味も抜群だぞ。大きさもお前の剣に近いから、お前が持つのが一番だ」

「しかし、我が君が持っていた方がカッコいいと思うぞ……」

「サンドラ、デイル様の見た目よりも、お前がその剣を使って役立つことの方が大事だ。使わせてもらえ」

「わ、分かったのじゃ、我が君。それでは、この剣を預かるぞ」


 カインの説得もあって、ようやくサンドラが魔剣を受け取った。

 彼の言うとおり、サンドラがこれでより多くの敵を倒してくれた方がいい。


「よし、じゃあ帰ろうか」


 一旦6層に降りて、転移水晶で地上へ戻った。

 衛兵に5層突破を報告すると、例のごとく事情聴取を受ける。

 立て続けに記録を更新しているせいか、衛兵の対応も丁寧ていねいなもんだ。

 まさかお茶が出てくるとは思わなかったよ。


 その後はギルドに行って報告だ。


「アリスさん、聞いてください。とうとう5層を突破しましたよ」

「えーっ、また攻略しちゃったの?……ハアッ、ギルマス呼んでくるからいつもの部屋で待ってて」


 喜んでくれると思ったのに、なぜか反応が薄い。

 立て続けに階層更新してるから、驚きを超えて呆れてるってとこかね。

 そのあと来た、コルドバも呆れ気味の反応だった。


「こうも立て続けだとちょっと呆れるな。まあ、迷宮の攻略が順調なのは喜ばしいが」

「そういえば、他のパーティはどんな状況なんですか? この間、狼牙団のエルザとかいうのにケンカ売られたんですけど」

「狼牙団にケンカを売られただと? たしか最近、外から来たパーティだったな……あまり揉め事は起こしてくれるなよ」

「向こうから突っかかってきたんですよ。”天空の剣”のオリヴァーの姉だとか言って」

「そういうことか……ちょうどいい。伯爵にその辺の状況を説明に行く予定だったから明日、一緒に行こう」

「ああ、そうなんですか。どうせ報告に行くつもりだったんで、いいですよ」


 結局、今日はここまででお開きとなり、また金貨3枚を頂いた。





 翌日、昼前にギルドまで行くと、コルドバと一緒に迎えの馬車に乗せられる。

 伯爵の館に着くと、昼飯を食いながら5層突破の報告をした。


「ほお、守護者は爆拳猩猩バーンナックルゴリラ爆炎猩猩ファイヤーゴリラか。いかにも強そうな魔物だな」

「そりゃあもう、メチャクチャですよ。拳は爆発するわ、体から火を出すわで大変だったんですから」

「そんなゴリラを5匹まとめて倒すんだから、お前らも大概だな…………しかし、儂もそんな冒険がしたいのう」


 伯爵が心底残念そうに肩を落とした後、話を変える。


「ところで、他のパーティの方はどうなっておる?」

「はい、デイルがオーク肉やら蜘蛛の糸を有名にしたおかげで、有力な冒険者が集まりつつあります。とりあえず西から移ってきた狼牙団、赤竜の爪、蒼穹の雷が4層に挑戦し始めました」

「へー、狼牙団はしっかり4層まで行ってるんだ。口だけじゃなかったんだな」

「なんだ、知り合いか?」

「ええ、以前、”天空の剣”にはめられた時にぶっ殺した奴の姉貴ってのが、ケンカ売ってきましてね。逆恨みもいいとこなのになぁ」


 そう言うと、伯爵もコルドバも頭を抱えていた。


「はーっ、また問題起こしそうな予感がするわい。なるべく問題を起こさんでくれよ」

「だから俺がケンカ売られてるんですって。ところで魔導連合と青雲党はどうしてるんですか?」

「ああ、彼らも頑張っている。最近はキラービー対策に目処が立ったらしく、4層の深部に到達したようだ。ニードルスパイダーの糸を持って帰ったからな」

「それは良かった。よそ者にばかり、でかい顔をさせたくないですからね」

「ああ、彼らだけじゃなく、2層に逃げていた奴らも3層攻略に乗り出してるらしいぞ。お前のおかげでオーク肉が有名になって、2層深部に入る奴らも増えているしな」


 コルドバが嬉しそうに語るが、本当にいいことばかりなのだろうか。


「そうなんですか。でもそれって、無理して命を落とす人も増えてません?」

「うーん、それが無いとは言わんが、今この町にはどんどん冒険者が入ってきている。それに負けじと元々いた奴が奮起して、実力が底上げされつつあるようだ。だからそれほど死亡報告は増えていない」

「そうだ。そしてデイルはその冒険者たちの頂点、つまり憧れの的だからな。くれぐれも言動には気を付けるのだぞ」


 一介の冒険者である俺に何を求めてるのやら。

 ああ、でもこの間、人助けしたなあ。


「大丈夫ですよ。この間も2層で女性パーティをオークから助けたし」

「ああ、”女神の盾”の連中だな。ほとんど報酬受け取らなかったって、本当か?」

「ええ、まあ、後輩育成もありかなと思いまして」


 そう言ったら、伯爵が突っ込んできた。


「なんだ、どうせ体で払えとか言ったんだろうが? ん?」

「いや、向こうはそう言ってきたんですけど俺、すでに女2人いますからね」

「そうなんですよ、伯爵。聞いてくださいって。こいつの奴隷が超美人で、しかも強いんですよ。最近はこの町で最も美しい冒険者とか言われてるんですよ」

「なん、だとっ! なんで連れてこんのだ。儂も見たいじゃないか!」


 机を叩いて駄々をこねる伯爵を、コルドバがなだめる。


「まあまあ、見ても羨ましくなって後悔しますよ、伯爵。どうせめかけとか囲えないでしょ?」

「そうなんだ、側室が欲しいって言ったら、かあちゃんにぶん殴られてなあ……」

「相変わらず、尻に敷かれてますな……ま、何だったら次回の報告にはデイルの仲間も招待しますが?」

「そうか、それは楽しみだ。早い内に頼むぞ」

「どんどん厳しくなってるんで、次は時間かかりそうですけど」


 そしたら伯爵たちに笑われた。


「すでに攻略するつもりなのが小憎こにくらしいわい。まあよい、儂の生きとるうちに頼むぞ」

「さすがにそこまで悠長にやるつもりはありませんが、どうしたって数ヶ月は掛かるでしょう」

「うむ、期待しておるぞ。そういえば、今回のお宝は何だった?」

「今回は土属性の大剣でした。たぶんアダマンタイト製ですね」

「凄いことをサラッと言ったな、お前。魔力を帯びたアダマンタイトの剣など国宝級だぞ」

「まあ、そうなるでしょうね。せいぜい迷宮攻略に役立てさせてもらいますよ」

「フハハッ、楽しみにしておるぞ」

「ンッ、ウンッ……」


 このまま終わるのかと思っていたら、コルドヴァが思わせぶりな咳をして伯爵に目くばせをした。

 それを受けて伯爵が居住まいを正す。


「そうだ、忘れておったが、今日からお前をAランク冒険者に任命する」

「はあっ? ご冗談を。俺はまだCランクですよ」

「だからだ。もう十分に実績ポイントは貯まってるのに、Bランクの昇格試験を受けておらんそうではないか」

「だって、昇格すると制約を受けるって聞くから……」

「やはりそれを気にしておったか。だからこそのAランクだ。ここまで来るとほとんど制約は受けないにも関わらず、税金は大幅免除という特権階級だ。法律も貴族のものが適用される」


 それは俺を貴族にするっていうことか?

 しかしそれには何か代償があるだろう。


「ほとんどって言うからには、何か制約があるんですよね? それから税金も」

「うむ、Aランク以上の義務は災害指定級の魔物討伐に参加することだけだ。ギルドでの素材売却の代金からは税金がさっ引かれるが、これは従来の半分の1割だぞ。それ以外は人頭税や奴隷税、通行税もゼロだ。ただしAランクはギルドに対して金貨5枚以上の年会費を納めるか、それに相当する税金を払わねば資格を凍結されるからな」


 うはっ、凄い厚遇。

 基本的に魔物をガンガン狩って納めろってことね。


「メチャクチャ優遇されてますね。でも移動の制約は無いんですか?」

「基本的には無いが、本人が国内に存在しない間の特権は凍結される」

「そんなんでいいんですか? もっとガチガチに縛られるのかと思ってたんですけど」

「そうでもせんと、お前のように昇格しない奴が出てくるからな。優秀な冒険者を引き留めるため、こうやって特別に昇格させるのだ」

「俺がそれに値するとは思えないんですが……」

「何を言うか。お前が来たおかげでこの町はどんどん発展しているのだぞ。それだけでも十分、Aランクに値する。それにトップ攻略者がいつまでもCランクでは、格好がつかんだろうが。お前にはせいぜい広告塔になってもらうから、今後も言動には気をつけるのだぞ」


 こうして俺はAランク冒険者に祭り上げられてしまった。

 幸い、大した制約も受けないようだから、今後の目標のために利用させてもらいますかね。

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