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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第3層編

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33/87

32.迷宮の暗殺者

 ひょんなことから偽竜フェイクドラゴンのドラゴを手に入れた俺たちは、彼を荷物持ちとして迷宮に連れていくことにした。

 ことに荷運び用のカゴを着けてやったので、運搬能力は大きく向上している。


 こうなると行きたくなるのがオーク狩りだ。

 なぜならオークの肉は、100オズが銀貨7枚で売れる高級肉だからだ。

 ちなみに1オズってのは金貨1枚の重さで、俺の体重が2000オズ弱ってとこ。


 しかし今までのメンバーで運べるのは、せいぜい5000オズに過ぎなかった。

 これでも銀貨350枚とそれなりの稼ぎだが、オーク1匹からはだいたい1000オズの肉が採れるのだ。

 つまりオーク5匹分しか持てなかったわけで、それ以上は捨てるのが実にもったいないと思っていた。


 これにドラゴの積載能力が加わったら、どれぐらい持ち帰れるだろう?

 それを試すべく、俺たちは2層深部に潜った。

 まず3層入り口の水晶に跳んでから2層に戻り、オークを探し回る。


 しばらくするとシルヴァから3匹発見の報が入り、そこへ案内してもらった。

 そして出会った3匹のオークには、レミリア、サンドラ、カインがお相手だ。

 すでにオークリーダーを倒した俺たちにとって、オークなどものの数ではない。


 100を数える頃には3匹のオークは倒され、その後は淡々と解体をしてまた次を探した。

 結局、3回の戦闘をこなすと、全員の荷物が満杯になる。


 ちょっと無理をしてなんとか9匹分のオーク素材を持ち帰ると、魔石が銀貨90枚、皮が450枚、肉が540枚で売れた。

 合わせて銀貨1080枚、つまり金貨11枚弱の大収入である。


 ちなみにオーク肉は大量に持ち込んだため、100オズで銀貨6枚に値切られた。

 そりゃあ、いっぺんに供給しすぎても、消費しきれないわな。

 これでも俺たちが2層攻略中に頻繁に供給したおかげで、オーク肉がこの町の名物になっており、以前より消費量が増えてるんだけどね。





 翌日にはリュートのケガも良くなっていたので、再び3層に潜った。

 ソルジャーアントの群れをいくつか殲滅しながら進むと、また洞窟芋虫ケイブキャタピラーを見つけた。

 ここで俺たちは、新しい戦法を試すことにする。


 まず油壷を取り出して、キャタピラーの群れの中に投げ込む。

 それを追うようにチャッピーの火炎弾を撃ち込むと、その周辺に火が着いてキャタピラーが逃げ惑った。

 慌てるキャタピラーにバルカンの火球をお見舞いすると、まず1匹が息絶えた。


 続いてこっちに向かってきた1匹をカインが盾で受け止めると、サンドラが魔力斬で深手を与える。

 そのままリュートとカインも加わって、キャタピラーを仕留めてしまった。


 俺もレミリア、シルヴァと組んでキャタピラーを狩った。

 レミリアとシルヴァが、それぞれ向かってきた敵の突進を、ヒラリと躱す。

 目標を見失って動きを止めたところに火球を撃ち込んでやると、じきにそいつらは息絶えた。


 こうして分断して各個撃破してやると、今回はケガ人も無く倒すことができた。

 キャタピラーの攻略法を確立できたので、その後の探索も順調となり、2日間で3層序盤を探索し尽くした。





 ここで1日休養を挟んでから、中盤の攻略に取り掛かった。

 中盤では新たに殺人蜂キラービーという魔物が登場する。

 こいつは猫ぐらいの大きさの蜂で、10匹程度の群れで飛び回り、隙を見せると毒針で攻撃してくる。

 2層の麻痺蝙蝠パラライズバットに似たような存在だが、動きが素早くてより厄介だ。


 こんなのに囲まれでもしたらかなりヤバいのだが、俺たちには散弾という対抗手段がある。

 最近は土精霊ノームの協力を得たリューナも、単独で散弾が撃てるようになり、2人で撃ちまくりだ。

 キラービーの防御力は大したことないので、散弾を当てるだけでバタバタ落ちてくる。


 落ちた奴にはすかさず前衛がとどめを刺し、魔石と毒針を回収する。

 この毒針には武具としての需要があるらしく、1本銀貨3枚で売れた。

 ちなみに魔石は3枚なので、3層にしては美味しい魔物と言っていいだろう。


 もっとも、そんなことが言えるのは俺たちぐらいのもので、他のパーティはけっこう苦労してるらしい。

 毒針をギルドで売却した時にこんなやり取りがあった。


「キラービーの毒針を20本なんて珍しいね。ずいぶん貯めてたのかい?」

「いいえ、1回潜っただけの成果ですよ」

「1回の探索でこんなに?……君たちは効率のいい狩り方を知っているようだね」

「はあ、まあ都合のいい技を使ってますが、普通の魔法でも狩れないんですか?」

「キラービーはすばしっこいから、魔法を当てるのが大変なんだ。だからたまに持ち込まれても、せいぜい2,3本だよ」


 普通はキラービーを見つけたら、一目散で逃げるらしい。

 毒を食らって体を壊す奴もたまに出るので、キラービーに遭いたくないばかりに2層へ戻る冒険者も多いとか。

 以前、俺たちが”嵐の戦斧”に襲われたのは、実はキラービーのせいだったのかもしれないな。





 こうして順調に3層中盤の探索が進んでいたが、好事魔多こうじまおおし。

 少し警戒心が緩んでいたところに、とんでもない強敵が現れた。


 珍しく何も魔物がいないという部屋があったので、何気なく中に入ったのだ。

 シルヴァの探知能力を信頼しているがゆえの無警戒だったが、突然、強烈な殺気を感じた。

 本能的にリューナを抱いて横っ飛びに逃げると、寸前まで俺たちがいた空間にガキンッと何かが突き立てられる。

 ゴロゴロ転がって距離を取り、見上げた先には巨大なカマキリがいた。


 俺より頭2つは長いスマートなその身体は、4本の細長い足に支えられており、胸元には凶悪なカマを構えている。

 周辺の岩石とよく似た灰色系の体の上に乗っている三角形の頭が、俺たちを油断なくめつけていた。

 こいつが噂の、迷宮の暗殺者か。


暗殺蟷螂アサシンマンティスだ。気をつけろ!」


 すぐにカインとサンドラが、俺とマンティスの間に割って入った。


「ご主人様、肩から血が!」


 さらに俺のケガに気づいたレミリアが、悲鳴を上げながら俺に駆け寄る。

 言われて初めて左肩に痛みを感じて目をやると、オークの革鎧ごと肩が斬られ、血が出ていた。

 オーク革の鎧が役に立たないほどの斬れ味とは、凄まじいものがある。


「大丈夫だ、レミリア。今はアイツに集中しろ。治療は後でいい」


 彼女を制止しつつ、バルカンの火球をマンティスに放つ。

 しかしそれは余裕で躱され、マンティスがカマを上げて威嚇してくる。


「とりあえすカインが正面を押さえて、残りは奴を囲め。カマが鋭いから気をつけろよ。リューナは散弾を撃て」


 みんながマンティスを囲む間、カインが気を引くために盾で圧迫する。

 するとマンティスが盾にカマを突き立て、金属質な音がした。

 しかし、さすがに硬化処理を施したオーク革の盾までは切れず、カインがそれを押し返す。


 包囲網が完成すると、それぞれがマンティスを攻撃し始めた。

 こんな時こそ、使役スキルによる情報共有がきてくる。

 他のメンバーの行動とか位置関係がなんとなく分かるので、連携が取りやすい。

 マンティスも細かく位置を変えて攻撃しようとするものの、カインのプレッシャーを受けて動きが鈍い。


 俺とリューナはカインの後ろから散弾を撃っていたが、ほとんどダメージは入らない。

 細身の割に装甲は硬いようで、リューナに魔力弾を撃つよう指示し、俺はバルカンの火球を準備した。

 奴の動きを見極めつつ、チュドンと胴体に火球を撃ち込む。


 命中した火球がジューッという音を立て、マンティスの腹に食い込んだ。

 まだ浅いが、それなりに効果があるようだ。

 そこで、バルカンが作れるだけの火球を撃ち込むことにした。


 リューナの方はまだ命中弾が出せていない。

 オークより細身で、さらにちょこちょこ動くので、狙いが付けづらいんだろう。

 サンドラ、レミリア、リュートはマンティスの脚を攻撃している。

 脚もそれなりに硬いが、魔鉄製の武器はそれなりに通じているようだ。


 そんな攻防をしばらく続けていると、ふいに変化が訪れた。

 3発目の火球がマンティスの腹に食い込むと、奴の動きが鈍った。

 その隙にサンドラが渾身の一撃を振るい、足を1本切り落とした。

 これでもう素早く動けなくなったマンティスが、カマを振り回して最後の悪あがきをする。


「リューナ、魔力弾を腹にぶち込め」

「はいです、兄様」


 リューナが放った魔力弾が奴の腹に命中し、ズブズブと食い込んでいく。

 すると、ようやくマンティスの体が地に落ち、やがて完全に動かなくなった。

 広い部屋に、仲間たちの歓声が響き渡る。



 ひと息入れた俺たちは、マンティスの素材剥ぎに掛かった。

 こいつは魔石の他に、カマが武器の素材になるらしく、ありがたく剥ぎ取らせてもらう。

 それから部屋の中を探しまわると、数人分の装備が見つかった。

 おそらく何人かの冒険者がこの部屋で奇襲を受け、命を散らしたのだろう。



 すでに夕刻に近かったので、この辺で野営することにした。

 まず近くの行き止まり部屋を確保して結界を張ってから、夕食を準備する。

 温かい夕飯を食いながら、さっきの奇襲について話し合った。


「それにしても、さっきの奇襲はヤバかったな。逃げるのが一瞬でも遅れていたら、俺かリューナのどちらかが大ケガだ」

「本当にありがとうなの、兄様」

「ご主人様のケガを見た時は心臓が止まるかと思いました。おケガの方は大丈夫ですか?」

「ああ、チャッピーに治してもらったから、もうだいぶいいよ」

「あまり無理はなさらないでくださいね」


 左肩の傷は、見た目はすっかり治っているが、動かすとまだ少し痛む。

 チャッピーの魔法も万能ではないのだ。


「ところで、なぜ今回は襲撃を察知できなかったんでしょうか? いつもはシルヴァが警告してくれるのに」

「クゥーン……」

「うーん、これは推測なんだけど、あの魔物は魔法で気配や臭いを消してるんじゃないかな? シルヴァの探知能力も完璧じゃないってことさ」


 カインの指摘にうなだれるシルヴァを撫でながら、推測を話してみた。


「おそらくデイルの推測どおりじゃろう。アサシンマンティスというだけあって、奇襲に特化していると見える」

「だろうな。あいつは入り口の上に身を潜め、冒険者が来ると後ろから襲うんだ。しかも俺たちみたいな後衛職を先に片付けて、パーティの力を削ぐんじゃないかな?」

「そう考えると実に恐ろしい敵ですね。何か対策を取らないと」


 カインが顎に手を当てて悩み出したが、それはすでに考えてあった。


「それについては考えがある。あいつが臭いや気配を魔法で消しているなら、魔力が動いているはずだ」

「なるほど、それを儂が確認すれば、少なくとも奇襲は避けられるか」

「そのとおり。チャッピーは魔力が見えるし、姿も隠せるからな。これからマンティスが潜んでいそうな部屋は、チャッピーに偵察してもらいたい。頼むぞ」

「フヒヒッ、任せておけい」


 これでマンティスの奇襲は防げるはずだ。

 あとは奴の料理法だ。


「それで、もし奴が潜んでいるのが分かったら、とりあえず魔法で引きずり下ろす。俺とチャッピーで散弾でも撃ち込んでやればいいだろう。後はみんなで始末するんだけど、カインは今日、奴と立ち会ってみてどう思った?」

「そうですね…………最初は奇襲に動揺してとても恐ろしく見えたのに、実際はそれほど力も強くないし、動きも早くないんですよね。だからみんなで囲んで攻撃する分には、それほど難しくなかった、かな?」

「そうなんだ。アイツは奇襲に特化してるから、見た目ほど強くないんだよね。だから動きに慣れれば、サンドラやレミリアでも1人で対応できると思う」


 最初こそ奇襲されてビビっていたが、冷静に見るとマンティスはそれほど強くなかった。

 奇襲さえ潰してしまえば、むしろ楽な部類に入るんじゃなかろうか。


 その後もいろいろと話していて、俺はひとつ忘れていたことに気がついた。


「そうだ、カイン。今日拾った装備の中に、槍があったよね。あれ、お前が使ってみないか?」

「槍ですか? 使えと言われれば使いますが……」


 今日拾った装備の中に、俺の身長くらいの短槍があったのだ。

 魔鉄製でこそないが、なかなかの逸品に見えた。


「今までカインには、早く盾の扱いに慣れてもらうために、あえて簡単なメイスを使わせていたんだ。だけど今日のマンティスとの戦いでも、立派に盾を使いこなしていたから、そろそろ別の武器を使ってもいいと思うんだよね。槍だったら、今までより遠くから攻撃できるし」

「それはたしかに良い考えですね。俺も攻撃に貢献できそうです」

「うん、相手によってはメイスが有効な場合もあるだろうから、そこは使い分けてくれ。いずれ魔鉄製の槍も手に入れよう」

「分かりました。明日からは槍とメイスを使います。地上に戻ったら、また訓練ですね、ハハハ」


 これでまた俺たちの攻撃の幅が広がるだろう。

 何よりカインが嬉しそうだ。

 実は今までも剣や槍を拾うたびに、カインが寂しそうにすることがあった。


 やはり男として、剣や槍を振るいたいって気持ちが強いんだろう。

 それなら彼には、無双の槍使いを目指してもらおう。

 そうすれば俺たちは、もっともっと強くなる。

1オズ31グラムなので、冒頭で持ち帰った肉は9000オズ=279kgになります。

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