33.ソードビートル
翌日の探索中も1回だけアサシンマンティスが潜んでいたが、期待どおりにチャッピーが見つけてくれた。
その後は奴を引きずり下ろし、袋叩きにしてやった。
そう何度も奇襲されてたまるかってんだ。
今回は俺のケガもあったので、早めに地上へ戻ることにした。
ちなみにマンティスの魔石は銀貨8枚と、その危険度に比べてアホみたいに安かった。
それでもカマが1本当たり金貨1枚になったので、まだマシな方だと言える。
本当に虫系の魔物については、もっとなんとかならんもんかね。
翌日はカインに槍を習わせるため、ギルドへ出掛けた。
盾の教官でもあるトッドさんの指導で、カインが槍を練習し始める。
他のみんなも、てんでに訓練で汗を流している。
ただし俺はケガをしていたので、ギルド内で3層以降の情報収集をしていた。
しかしこれが思った以上に難しかった。
そもそも3層に潜れる冒険者は、全体の2割しかいない。
しかも3層は危険で儲からないから、真面目に攻略しているパーティはさらに少ないのだ。
そんな状態で情報が広く共有されるはずもなく、分かるのは魔物の名前ぐらい。
そりゃあ、俺たちがアサシンマンティスに奇襲されるわけだ。
かろうじて分かったのは、3層深部に出る剣刃甲虫は馬鹿でかい魔物だってことと、4層は序盤でキラービーが大量に出てくるので、あまり探索が進んでいないってことぐらいか。
ちなみに現在、4層に潜る資格を持つパーティはたったの3つ。
エルフがリーダーを務めるトップパーティ ”天空の剣”。
魔術師がパーティの半分を占める魔法系の ”魔導連合”。
そして屈強な盾使いがリーダーをやってる肉体派の ”青雲党” だ。
どれもAランク冒険者を多く抱える、1流パーティである。
それが4層序盤で苦戦しているとは難儀な話だ。
もっとも、キラービーへの対抗手段を持つ俺たちにそれは、当てはまらないと思ってはいるが。
そんなことを聞き回っていたら、アリスさんに呼び止められた。
「おやおや、そこにいるのは3層探索者のデイル君じゃないですか」
「アリスさん、こんにちは。暇なんですか?」
「失礼ね。ようやく手が空いたから休憩中なのよ。それで、今はどの辺まで行ってるの?」
「3層中盤でアサシンマンティスの洗礼を受けたばかりですよ」
「マ・ジ・で? ほとんどのパーティはキラービーに嫌気が差して、2層に戻るっていうのに」
彼女がまた呆れ顔でぼやく。
「その辺はなんとかなりますよ。問題なのはこれからでしょうね。しかしなんで虫系の魔石は、あんな安いんですかね?」
「それも有名な話ね。虫系は内包魔力量が少ないから、あれ以上高くは買えないのよ」
「そこをもうちょっと何とかしないと、3層以降の攻略って進まないんじゃないすか?」
チクリとギルドの支援不足をなじったが、彼女は笑顔で受け流した。
「それはいち受付嬢の職分を超えてるわね。デイル君からギルマスに言ってみたら?」
「ハァ……今度機会があったら言ってみますよ」
それから2日間は魔法の練習だけして傷を癒やし、ようやく3層中盤の探索を再開した。
すでにアサシンマンティスの対処法も分かっているので、探索は順調に進む。
途中で30匹のソルジャーアントにも遭遇したが、竜巻弾と火炎弾でかき回して切り抜けた。
ある行き止まり部屋では7匹のキャタピラーに遭遇したが、代わりに金鉱石を手に入れた。
やはり十分に探索が進んでいない区画は、お宝に巡り合う可能性が高い。
そんな探索を3回も続けると、ようやく3層の深部に差し掛かる。
深部には3層最強のソードビートルが出るので、慎重に歩を進めていた。
やがて最強の敵が、俺たちの前に現れた。
ある部屋の中を入り口から、こっそり覗いてみる。
すると大きな部屋の中央部に、巨大なカブトムシが鎮座していた。
その体長は俺の3倍近くもあって、その名に恥じない剣のような角が鼻先にくっついている。
体高も俺の背丈に迫るほどで、体重は何十倍にもなるだろう。
その巨体は黒光りする装甲に覆われていて、俺たちの攻撃なんか軽く跳ね返しそうだ。
しかし俺たちはそれなりの勝算を持って、ビートルに戦いを挑んだ。
まずカインがソードビートルの正面に立ち、残りは奴を囲むように陣取る。
俺とリューナはカインの真後ろから少しずれた所で待機だ。
カインが挑発すると、ビートルが突進してきたので、鋭い角を躱しつつ盾でその巨体を押し留めた。
動きの止まったビートルの足を、残りのメンバーが攻撃する。
しかし想像以上に外皮が硬く、全く歯が立っていない。
俺とリューナも魔力弾を撃ったが、いとも簡単に弾き返された。
しかしここまでは想定どおり。
俺はリューナに合図を送った。
「リューナ、やれ!」
「はいです、兄様。土精霊さん、お願いっ!」
リューナが土の竜人魔法を行使すると、数瞬後にビートルの左脇からひと抱えもある柱が3本、勢いよく飛び出した。
その土柱の1本がビートルの脇腹を突き上げ、あっという間に奴をひっくり返す。
これこそが、対ビートル用に編み出した竜人魔法 ”ビートルさん転んだ” である。
ノーム頼みで柱の位置精度が甘いため、3本同時に出すことで補っている。
ひっくり返されたビートルの足が宙をかき、ジタバタしている。
すかさず俺とリューナが、ビートルの腹向けて魔力弾を撃ちまくった。
ちょっと角度が悪くて弾かれやすいが、背中の甲殻に比べれば腹側はずいぶん弱い。
ついでにバルカンの火球もお見舞いしてやったら、こっちの方が良く効いた。
腹は魔力防御も薄いらしく、超高温の火球が奴の腹を焼きえぐる。
バルカンの魔力の限界である6発を撃ち終えると、ビートルはすでに瀕死だった。
最後にサンドラが剣を首の関節部に突きこみ、グリグリとえぐってやると、とうとう奴は動かなくなった。
メンバーから歓声が上がる。
俺もリューナと抱き合って喜んだ。
「よくやったな、リューナ。大成功だ」
「うん、うまくいって良かったの、兄様……グスッ」
殊勲者のリューナが感激して泣いている。
このためにけっこう練習したから、こみ上げるモノがあるのだろう。
残りのメンバーも周りに集まってきた。
「カインもよくやってくれた。お前がいなきゃ、絶対に成功しなかったよ」
「いえ、俺はただ止めただけですから」
「馬鹿言え。あんな巨体を正面から受け止められる人間なんて、そういないよ。本当に良くやってくれた」
そう言ってカインの肩を叩くと、嬉しそうに照れている。
”ビートルさん転んだ”はその位置精度の悪さもさることながら、発動に若干の時間が掛かる技だ。
そのため誰かがビートルを止めなければ、これまた成功しない。
あの巨体を見た時は、さすがのカインでも無理かと思ったが、彼は見事にやってのけた。
ただ鬼人族の肉体が頑強だからとか、そんな理由で成功したんじゃない。
ビートルを恐れずに、正面から立ち向かったからこその偉業なのだ。
彼は想像以上に強くなっている。
ひとしきり喜びを分かちあった後は、素材回収の時間だ。
魔石と一緒にビートルの角と、背中の上翅装甲を剥ぎとった。
角は剣の素材になり、上翅も鎧や盾の素材になるそうだ。
上翅だけで俺の背よりも大きいが、持ち帰る価値は十分あるだろう。
時間的にちょうど良かったので、地上へ帰還することにした。
2刻ちょっとで地上に戻ると、すでに日暮れ後だ。
ビートルの素材をギルドに持ち込んだら、ちょっとした騒ぎになった。
ビートルを狩れるパーティは4層探索者以外にいないため、ここ数年持ち込まれていなかったからだ。
角が金貨3枚、上翅2枚を金貨2枚で買い取ってくれた。
ちなみに魔石はオークと同じ銀貨10枚と、メチャクチャ安い。
絶対にオークよりソードビートルの方が、強いと思うんだけどな。
そんな愚痴を買い取り担当にこぼしたら、お決まりの答えしか返ってこなかった。
強さと魔力量は比例しても良さそうなものだが、そう単純ではないのだろう。
ソードビートルを下した後の探索は比較的順調だった。
もちろん、マンティスやビートルがたまに出てくるし、ソルジャーアントやキラービーもウジャウジャ出てくる。
しかし、すでに攻略法を確立した俺たちには、それほどの脅威にならない。
もちろん、これにはシルヴァの並外れた探知能力も、大きく寄与しているのだが。
そんな探索の終盤、またもや魔物の気配が感じられない部屋が見つかった。
手はずどおりにチャッピーを偵察に送り出すと、すぐに彼が戻ってきた。
「マンティスが2匹もおるぞ。どちらも入り口の上で待ち構えておるわい」
「2匹かよ。でも、俺とリューナで散弾を同時に撃てばいけるな。よし、行くぞ、リューナ」
「はいです、兄様」
俺とリューナは入り口の手前でタイミングを合わせ、部屋に入りざまに上に向けて散弾をぶっ放した。
その先にはアサシンマンティスが擬態して待ち受けていたが、攻撃を受けて地面に降りてきた。
チャッピーの情報どおり、2匹いた。
すぐに仲間が駆け付け、カインとリュート、サンドラとレミリアがそれぞれマンティスを相手取った。
俺とリューナは魔法で援護だ。
すでに何回もマンティスを倒してきた俺たちにとって、それほど大した敵ではない。
魔法で数回援護してやったら、大して待つほどもなくマンティスは倒されてしまう。
「意外にあっさり片付いたな。ケガは無いよな?」
「問題ありません」
「これくらい、どうということないのじゃ。フハハハハッ」
やがてマンティスの解体に取りかかろうとした時、レミリアが壁の1点を指しながら指摘した。
「ご主人様、あそこにまた宝石のようなものが」
即座に解体を中止して駆け寄ると、たしかに宝石らしきものが見つかった。
ほじくり出してチャッピーに見てもらうと、ルビー、サファイア、そしてトパーズの原石だと言う。
2層より1個多いから、金貨にして60枚くらいになるか。
「2層に続いて宝石を手に入れるなんてラッキーだったな。いや、誰も来ない未踏地域ならではの収穫か」
「そのとおり。危険な迷宮の中を隅々まで探索するなど、儂らぐらいのもんじゃからのう」
チャッピーの自嘲めいた言葉に皆が笑う。
こうしてまたもや宝石を獲得して、1ヶ月半に及ぶ3層探索が完了した。
残すは守護者の攻略のみだ。




