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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第2層編

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22/87

22.オークとの再戦

 2層中盤の2日目も、最初はあまり大きな変化はなかった。

 パラライズバット、ゴブリン、コボルドの群れが、間断的に襲いかかってくる。

 しいて言えば、コボルドの比率が増えているくらいだろうか。


 そんな中、シルヴァが急に尻尾をブンブン振り回しながら、俺を見上げてきた。

 今にも突撃しそうなその反応は、スライムを見つけた時のものだ。

 俺は思わずため息をつく。


 スライムといえば、手強いくせに見返りの少ない魔物として有名なのに、シルヴァはそれを好んで狩る。

 おそらく過去、彼が魔力不足で困窮していた時に、貴重な魔力源にしていたせいだろう。

 しかし、そんな実りの少ない狩りで仲間を危険にさらしたくはなく、できればスライムは放っておきたかった。


「シルヴァが、またスライム見つけたみたいなんだけど、どうしよう?」

「儂は構わんぞ。普段、その索敵能力には助けられておるんじゃ。好きなだけ食わせてやればよい」


 チャッピーがそう言うと、他のメンバーも賛同した。

 この過酷な迷宮で、あえて余計な危険をしょい込むとは、気のいい奴らだ。

 しかしチャッピーの言うことはもっともなので、スライム部屋へ直行した。

 その部屋を覗き込むと、スライム数匹に加え、ストーンスライムらしき大石もいくつか見える。


「よし、シルヴァ、好きなだけ食っていいぞ。他はストーンスライムらしき奴を小突いて、擬態を解除させよう。油断はしないように」


 その後はシルヴァの独壇場だった。

 片っ端からスライムの核をかじり取り、美味そうに噛み砕いている。

 俺たちはストーンスライムを小突いたり、スライムの遺骸から魔石を回収したりしていた。


 ひととおり片付くと、改めて部屋の中をチェックする。

 ここは行き止まり部屋なので、犠牲者の遺品が残ってないかと思ったのだが、代わりに面白いものが見つかった。


「ご主人様、この壁に埋まっているのは金ではないでしょうか?」

「えっ……本当だ、何かそれっぽいのがあるな。チャッピー、これ本物かな?」

「ふーむ……これはかなり純度の高い金鉱石のようじゃな。たしかに迷宮には宝石や鉱石が出るとは聞くが、こんな所にあったとはのう」


 その後、みんなで探し回ったら、ひと抱えほどの金鉱石が見つかったので、手分けして持ち帰ることにした。

 下手な遺品よりもお金になるかもしれない。

 嫌われ者のスライムだが、それゆえに奴らが集まる行き止まり部屋には、思わぬお宝があるのかもしれない。




 そんな宝探しの要素を加えて探索を続け、3日目に地上へ帰還した。

 今回の成果は魔石が銀貨300枚近くと、金鉱石で金貨10枚になった。

 2層の探索にしては破格の儲けだ。


 そもそも普通の冒険者は避けられる戦闘は避けて進むから、こんなに魔石を持ち帰らない。

 ましてやスライムの殲滅なんてもってのほかだから、金鉱石にも気がつきにくいのだろう。


 迷宮から帰還した次の日を訓練と休養に充て、以後3日の探索と1日休養を2回繰り返した。





 そして4回目の探索でようやく中盤を過ぎ、2層の深部に侵入した。

 幸い初日は比較的穏やかに過ぎたものの、2日目の朝にとうとう大豚鬼オークと遭遇する。

 前方の大部屋に3匹のオークがいると、シルヴァから報告があったのだ。


「いきなり3匹か。さすがは2層の深部だな」

「いかに我らの力が上がっておっても、3匹の相手は厳しいのではないか?」

「うん、だからまずは奴らを分断しよう。シルヴァとキョロは1匹を足止めしてくれ。無理に攻撃しなくていいからな。残りの1匹はカインが押さえてる間に、俺が魔法で仕留める。最後はレミリアとサンドラで頼む。足を傷つけて、転倒を誘ってみろ」


 うまくいくかどうかは分からないが、たぶんこれが最善だ。

 奴らは足が遅いから、最悪は逃げ出せばいいしな。


 準備を整えてオーク部屋に侵入した。

 まず1匹はシルヴァとキョロが周りをウロチョロして足止めし、もう1匹をカインが、残りをレミリアとサンドラが迎え撃った。

 オークがこん棒を振り回しているが、カインたちはうまく盾で受け流している。


 俺とチャッピーは石弾を作り、オークへ向けてぶっ放した。

 腹に響く音と共に撃ち出された弾はしかし、オークの皮を貫けずに跳ね返されてしまう。

 あれを弾くとは、鉄並みに硬いってことかい。


 もう少し近付いて次弾を放つも、先端が少しめり込んだぐらいで、ダメージはほとんどない。

 どうやら、この間倒した奴よりも硬いらしい。

 ここでふと、魔力斬のことを思い出した。


「チャッピー、弾の先端に魔力を貼り付けられないか?」

「むう、いきなり無茶を言いおるのう……ほれ、これでどうじゃ?」


 チャッピーがぼやきながら、魔力塊を先端に付けた石弾を作ってくれた。


「ありがと。これなら、どうだっ!」

 

 渾身こんしんの力を込めて撃ち出した弾が、見事にオークの胸板に食い込む。

 俺の狙いどおり、魔力がオークの表面防御を壊したのだろう。

 動きが止まった奴にもう1発ぶち込んでやると、ようやく1匹目が倒れた。


「カインはサンドラと交代。サンドラは剣に魔力を込めて待機だ!」


 サンドラたちが相手するオークは、まだまだ元気だった。

 レミリアもサンドラも魔力斬を使っているはずなのに、表面しか切れない。


 すでに石弾は4発も撃ったから、温存したい。

 そうすると、この間のように転倒させ、サンドラの一撃で決めるしかない。

 俺はオークの隙を窺いながら、サンドラに声を掛けた。


「サンドラ、奴を倒したら行けるか?」

「いつでも行けるぞ、我が君!」

「よし行け、土捕縛アースバインド!」


 オークの片足を土魔法で絡めとると、奴がバランスを崩して転倒した。

 すかさずサンドラが駆け寄り、オークの首筋に剣を叩きつけると、鈍い音を立てて首が胴体から切り離された。


 残るはあと1匹。

 こいつはシルヴァとキョロに翻弄されて走り回っていたので、こちらに誘導して再び土捕縛アースバインドとサンドラの剣で片付けた。


「フウッ、なんとか無傷で倒せたな。サンドラはご苦労さん」

「なんのこれしき、フハハハハッ」


 立て続けにオークを倒したサンドラが、気を良くしている。

 しかしそれほど戦いに余裕があったわけでもなく、まだまだ改善の余地は大きいだろう。


 その後はオークを解体し、魔石と素材を回収する。

 今回は輸送能力が増してるので、肉を持てるだけ切り取った。

 さすがに大量の肉を抱えて探索はしたくないので、そのまま帰還することにした。


 いつもどおりにシルヴァの先導で、2刻ほどで地上へたどり着く。

 さっそくオークの素材を売却すると、魔石が銀貨30枚、皮が銀貨150枚、肉が5000オズで銀貨350枚だった。

 しめて銀貨530枚なり。


 1日目が銀貨数十枚だったから、やはりオークの儲けは破格だ。

 その分、危険度の高さも相当なものだが、今回はわりと危なげなく終わってしまった。

 あまり油断しないよう、気をつけないとな。


 その晩はもちろん、オーク肉で宴会だ。

 カインとサンドラも、贅沢なごちそうにご満悦である。

 特にサンドラは最大の殊勲者だったから、美味しい所をたっぷり食わせてやった。



 夕食後、恒例の反省会をした。


「みんなご苦労だったね。幸い被害は無かったけど、オークの硬さを改めて思い知ったと思う。何か気づいたことはある?」


 するとレミリアたちが、悔しそうに反省の弁を述べる。


「魔力斬を使えばオークにも対抗できると思っていたのですが、ほとんど通用しませんでした」

「妾も体調が回復した今ならばと思っていたのじゃが、かなり魔力を込めないと通用せんのじゃ」

「俺も、もっとやれると思っていたのですが……」


 やはり皆一様に、攻撃力不足を痛感しているようだ。


「それは俺も同じだった。オークには石弾も通じないし」

「しかし、途中からは通じていましたよね?」

「ああ、あれはチャッピーが、弾の先端に魔力を付けてくれたんだ。魔力斬と一緒で、表面の防御を崩せるみたいだね」

「とっさにそんなことを思いつくなんて、さすがご主人様です……」


 レミリアが感心してくれるが、そんないいもんでもない。


「うーん、実はまだまだ改良が必要なんだよね。とりあえずあの技を、魔力斬の応用で”魔力弾”と呼ぶとしよう。それでチャッピー、あれって何発撃てる?」

「今の儂じゃと、せいぜい5発ぐらいかのう」

「その程度だと、もっとオークが増えた時にキツイよね。たしか2層の守護者は大豚鬼長オークリーダーとオーク4匹だったはずだ。守護者部屋以外でだって、オークが4、5匹出てきてもおかしくない」


 今の俺たちが相手できるのは、せいぜい3匹までだろう。

 この先を考えると、戦力アップが必要だ。


「できれば新しいメンバーを入れたいけど、すぐには無理だよね。だから俺たちの戦力を底上げしたい。とりあえず俺とチャッピーは効率のいい魔力弾を研究するとして、他に何かないかな?」


 少し考えて、レミリアが提案する。


「私とサンドラが1匹ずつ対応できるようになれば、4匹まで相手ができます。あとは魔力斬の威力を上げれば……」

「なるほど。とりあえずオークの動きに慣れれば、4匹まではいけそうか。でも、魔力斬の威力は簡単に上がらないよね?」

「そこはオーク戦で経験を積めばいいと思います。シルヴァの探知能力があれば手頃な敵を狩れますし、強化レベルの上昇も期待できます」


 その後も話し合ったがそれ以上の案は出ず、もっとオーク戦の経験を重ねることになった。

 レミリアが言うように、レベルアップによる能力向上も見込めるし、オークの癖を覚えれば狩りの効率も上がるだろう。





 次の日は訓練のため、いつもの原っぱに来ていた。

 俺はチャッピーと魔法の練習をし、他のメンバーはそれぞれ型の練習や組手をしている。


 まず魔力弾を岩に向けて撃ってみると、やはりチャッピーの魔力消費が大きい。


「うーん、やっぱり効率悪いなあ、この弾」

「贅沢を抜かすな。オークを倒せる時点で、十分驚異的なんじゃぞ」

「いや、まあそうなんだけどさ。魔力消費が多すぎるよね」


 この魔力弾には、通常の石弾の倍は魔力を使う。

 チャッピーの能力では5発しか作れないので、オーク1匹に2発使うとすると、倒せるのは2匹までだ。

 そこで、昨日から考えていた案を相談してみた。


「こう、手をすぼめて叩きつけると、空気がそこに集中してはじけるよね。そんな風に弾の先端にくぼみを作って魔力をくっつけたら、威力が増さないかな?」

「ふむ、面白い考えじゃ。こんな感じか?」


 俺が頭に描いた構造をチャッピーと共有すると、それらしい弾を作ってくれた。


「そうそう、そんな感じ。ちょっと撃ってみるから、また魔力視の共有をお願い」

「うむ、任せよ」


 魔力視を共有してから、手近な岩に魔力弾をぶつけてみた。

 すると、今までは岩に当たると飛び散るだけだった魔力が、先端に集中するようになっていた。


「うん、いい感じじゃないかな。魔力の消費はどれくらい?」

「最低限の魔力しか込めておらんから、だいぶ少ないぞ。作り出す弾のイメージが鮮明じゃと、魔力も少なくて済むわい」

「うん、それじゃくぼみの大きさとか変えて、いろいろ試してみよっか」


 その後、弾やくぼみの形、大きさ、込める魔力量などを変えて、実験を繰り返した。

 チャッピーの魔力が切れても、俺が補充して実験を継続する。

 やがてその甲斐あって、効率的な組み合わせがいくつか得られた。

 あとは実際にオークにぶつけてみて、その効果を確認するしかない。



 昼飯を食いながらカインたちの進捗を聞いてみたら、あまり芳しくなかった。

 たった半日の訓練で大きな進歩があれば、苦労はないか。

 午後からは俺も加わり、対オーク戦の練習をした。

 カインをオークに見立て、どう立ち回るかとか、どうやると転ばせやすいか、などを皆で考える。


 我ながら地味だが、迷宮で生き残るには、ここが踏ん張りどころじゃないだろうか。

1オズは31グラムなので5000オズで155kgです。

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