20.ビキニアーマー
サンドラから魔力斬を習った翌日、俺たちは朝からギルドに来ていた。
カインとサンドラに、盾の使い方を学ばせるためだ。
ついでに俺とレミリアの剣術も見てもらう。
俺の方は大して進歩してないが、レミリアの双剣はどんどん様になってきていると褒められた。
まあ、俺は後衛職だからな、ハハハ。
午前中をギルドでの訓練に充て、昼飯後に迷宮へ潜った。
シャドーウルフで魔力斬を試すべく、入り口の水晶から2層の水晶へ跳ぶ。
さらにそこから守護者部屋を通って1層深部へ入り、シャドーウルフを探した。
シルヴァに数が多めの群れを探してもらうと、すぐに4匹の狼が見つかった。
奴らにはこれから、覚えたての魔力斬の実験台になってもらう。
「カインは正面を押さえておいてくれ。他は目についたやつを魔力斬で各個撃破な」
俺は念のため弓を準備しながら、皆の攻撃を観察した。
まず身軽なレミリアがシャドーウルフに迫り…………スパンッと狼の首が飛んだ。
その横ではサンドラが盾で牽制しつつ…………ブシュッと正面から串刺しにした。
さらにシルヴァが3匹目の喉笛を食いちぎり、最後の奴はカインに撲殺されてしまう。
どうやら俺たちは、思った以上に強くなっているようだ。
レミリアたちが嬉しそうに寄ってくる。
「この間とはケタ違いの切れ味でした、ご主人様」
「妾の攻撃力も上がっておるぞ、我が君」
「俺のメイスも、一撃で仕留められました」
全員が魔力斬の威力を実感できたようだ。
「そうか、みんな良かったな。どうやら1層じゃあ、実力差が大き過ぎるみたいだから、やっぱり2層へ行こうか」
「はい、今だったらオークにも勝てるような気がします」
ちょっと自信を持ち過ぎな気もするが、この状況では仕方ない。
俺たちは魔石と素材を回収し、そのまま2層へ侵入した。
カインたちを仲間に入れて初めての2層探索だが、今までとは段違いのスピードで進んだ。
2人が加わって戦闘力が飛躍的に高まっているため、出てくる魔物を片っ端から倒せるのだ。
以前は周辺にゴブリンの集団が2個以上いたら、絶対に戦闘を避けていた。
しかし今なら、10匹やそこらのゴブリンなど敵ではない。
まずカインとサンドラが盾で正面を支えながら、ガスガスと魔物にダメージを与える。
その横ではレミリアとシルヴァが華麗に動き回り、サクサクと魔物を仕留めていく。
おかげで合成魔法を使うチャンスまでなくなってしまい、チャッピーの強化のために獲物を少し回してもらったほどだ。
まだ2層も序盤なのでオークに遭遇することもなく、その日はゴブリンやコボルドを30匹ほど狩って終わった。
シャドーウルフも合わせると銀貨70枚ほどの収入となり、半日の仕事にしては良い稼ぎだった。
けっこうな収入に気を良くした俺たちは、帰りに武具屋を覗いてみた。
「おっちゃ~ん。俺の弓をもっと強化したいんだけど、いいの有る?」
「おう、もう初心者用の弓じゃあ、物足りなくなってきたか?」
「そうなんだ。この間、2層でオークに遭ったんだけど、硬くてさ~」
「何だと? お前その歳で、もう2層に潜ってんのか? 大したもんだ。それなら、ちょっと値は張るが、この合成弓はどうだ?」
おっちゃんはそう言って、複雑に加工された弓を勧めてきた。
「へえー、けっこう小さいのに威力は高そうだね」
「ああ、それは良質な木材に魔物の腱や角などを組み合わせ、形状を工夫したもんだ。初心者用の単弓よりも、ずいぶんと威力は高いぞ。少々弓を引く力はいるが、お勧めだ」
念のため店の裏で試し撃ちをさせてもらったら、期待どおりの威力だったので買うことにした。
値段は金貨3枚と今までの6倍もするが、この威力は買いだ。
「いい買い物ができたよ。また何かいいのがあったら教えて」
「おう。ところで、鬼人の嬢ちゃんにピッタリのものがあるんだがなあ」
そう言って武具屋のおっちゃんが、赤い何かを出してきた。
「へえ、鬼人向けの装備なんて珍しいね……って、おっちゃん、これビキニアーマーじゃん!」
「そうだ。何年か前に引退した女冒険者から、買い取ったもんだ」
「こんな恥ずかしいの、サンドラが着るわけねーだろうがっ!」
何考えてんだこのエロジジイ!
「待て待て、早まるな。この鎧はな、魔法が掛かっているから身体能力が強化されるうえに、全身に革鎧並みの防御力が付くんだ。しかも汚れてもすぐに綺麗になる浄化機能と、温度調節機能も付いてて快適なんだぞ」
なんだそりゃ、メチャクチャ高機能じゃねーか。
「マ・ジ・で? たしかに鬼人は肉体が頑丈で鎧を付けないから、それがアーマーで強化されるってのは嬉しいのか。それにしても、この露出度はちょっとなあ……」
「何言っとる? その嬢ちゃんだって短パンと胸当てだけだから、そんなに変わらんだろうが」
おっちゃんが言うように、鬼人は最低限の衣服しか着けないので、概して露出度が高い。
なぜ最低限の衣服しか着けないかというと、魔力で肉体を強化できるからだ。
その肉体の最大強度は金属鎧に迫るとも言われ、衣服は最低限にして動きやすさを優先している。
まあ、普通の服を着ないのは、彼らの文化って話もあるが。
俺は一応、サンドラにこれが欲しいか聞いてみた。
「サンドラ、こんな鎧欲しいか?」
「我が君、妾はこの鎧が欲しいのじゃ。これを着れば今よりもっと役に立てるし……何よりも我が君の前でいつも綺麗でいられる」
彼女はそう言いながら、頬を染めた。
そっちか?
たしかに浄化機能は女の夢かもしれんが、防御力はいいのか?
いや、この場合は今より防御力が上がるんだから、いい事尽くめか。
しかしあんな破廉恥な恰好を、他の男どもに見せたくはない。
サンドラは俺のもんだ、などと悩んでいたら、今度はレミリアが絡んできた。
「ご主人様、私もこれ欲しいです。店主殿、もう1着ありませんか?」
はあ? 何言ってんだ、レミリア。
お前にこんな恥ずかしいカッコ、させねーぞ。
「おっ、そっちの嬢ちゃんも目が高いね。実は色違いでもう1着あるんだ」
そう言って青いビキニアーマーを出してきた。
このエロ親父、最初から狙ってたな?
「ちょっと待て。サンドラはまだしも、レミリアには無いぞ。レミリア! 皮鎧並みの防御力だと今より弱くなるんだぞ。これからもっと強い魔物と戦うのに、危ないじゃないか」
「いいえ、ご主人様。魔物の攻撃なんて避ければいいんです。身体能力が上がるなら、今より早く動けます」
「そのとおりだ嬢ちゃん。気に入った、2着目は半額にしてやる」
このじじいー、何言ってくれてんだ。
レミリアの玉の肌を他の男に見せるなんて、絶対に許さんっ!
「ダメだ! こんなエロい鎧姿を他のやつに見せるなんてありえんっ!」
そう言ってごねたら、おっちゃんが妥協案を提示してきた。
何々、胸の谷間や股間を隠す飾り布をオマケに付ける?
それから人前ではマントを羽織らせればいいって?
たしかにそれなら多少はマシになるかもしれんな。
そんなやり取りをするうちにまずは試着をという話になり、奥の部屋へサンドラとレミリアが消えていった。
やがて出てきた2人を見て、俺は言葉を失う。
彼女たちの登場で、店の中が一気に明るくなったような気がした。
サンドラは赤色のビキニ、ブーツ、籠手のセットに灰色のマント。
レミリアは青色のビキニ、ブーツ、籠手のセットに薄茶色のマント。
それぞれのパーツには銀灰色の装飾が付いていて、なかなかオシャレだ。
そして、胸元と腰の前後が飾り布で隠され、エロさがちょっとだけ緩和されている。
何より2人ともスタイルが良いので、凄く映える。
ちなみにサイズ調整の魔法が掛かってるので、大きさもピッタリだ。
「ゴクリ……2人ともよく似あってるよ。凄く綺麗だ」
そう褒めると、彼女たちが嬉しそうに頬を染めた。
おっと、その格好で恥じらうとか、もうたまらん。
これは夜が待ちきれないぜ。
仕方ない、このビキニアーマー買うか。
これはパーティのためだからな、フヘヘッ。
「ま、まあ、能力的にも嬉しいから、買ってもいいかな。でも俺以外にはあまり見せないようにな」
「はい、ご主人様」
「もちろんじゃ、我が君」
そして代金を聞くと、なんと2着で金貨6枚と言われた。
たけーよ、おっちゃん。
貯えのほとんどが飛んでいくじゃねーか。
しかしおっちゃん曰く、今までずっと買い手が付かなかったので、これでも安くなっていて、ほとんど儲けは無いそうだ。
俺はきっと戦力増強に役立つと信じ、泣く泣く代金を払った。
思わぬ高い買い物を済ませて帰宅した俺たち、夕食とシャワーを済ませてリビングに集まった。
今日の反省と今後の相談をするためだ。
「とりあえず、魔力斬の強力さはしっかり確認できたね。たぶんオークにも効くと思うけど、実際に戦うまでは油断しないようにいこう」
今日の狩りがあまりにも楽勝ムードだったため、釘を刺しておく。
「カインは盾とメイスの使い勝手はどうだった?」
「はい、まだ使い慣れませんが、俺に向いていると感じました」
「うん、俺もそう思った。今後は盾で敵の攻撃を弾いたり、相手にダメージを与える技術を磨いたりすると、幅が広がっていいんじゃないかな」
「分かりました。練習してみます」
カインの方はこれでいいだろう。
「それからサンドラとレミリアは、新たな鎧の使い心地はどう?」
「はい、なんだか体全体が何かに包まれているような、不思議な感覚です。しかも暑さや寒さの変化が少なくて、凄く快適なんです。呪文ひとつで体も綺麗にできるし、もう癖になりそうです」
「まったくじゃ。これでいつも我が君の前で美しくいられるわい。今夜どうじゃ? ほれ」
武具屋の言っていた機能はしっかり働いているようだ。
ついでにサンドラが胸を持ち上げ、俺に見せつけてきやがった。
その見事な谷間に視線が釘付けになりかけたが、鋼の意志でスルーする。
「そうか、快適な装備ってのは羨ましいな。防御力については明日、訓練場で試してみよう。それなりに使えるようなら、レミリアはよりスピードと回避を重視したスタイルに変更だな。サンドラは……今までどおりでいいか。でも2人とも鎧の力を過信して、無茶しないようにな」
「はい、ご主人様」
「ちっ、了解じゃ」
その後はまたカインとサンドラに魔力を注いだ。
2人とも日に日に体が逞しくなってきている。
初めて見た時はあばらが浮き出ていたのに、今は筋肉が付いてきて肌に張りもある。
あと1週間ほど治療を続ければ、ほぼ元に戻るだろう。
ひととおりの治療を終えて、俺たちは寝室に上がった。
さーて、ようやくビキニのレミリアとグフフ、とか考えていたら、彼女が何か言いたそうにしているのに気が付いた。
問いかけようとすると寝室のドアがノックされ、返事をしたらサンドラが入ってきた。
一体何のつもりかと思っていたら、彼女たちが並んで俺の前に立つ。
「ご主人様、今日はサンドラにお情けを頂けませんか?」
予想外のことを言い出すレミリアの横で、サンドラが顔を真っ赤にして俯いている。
俺に受け入れてもらえるかどうかが不安で、堪らないのだろう。
しかし、なんでレミリアが仲介する?
「えーっと、レミリアはそれでいいの?」
「はい、奴隷の身で夜伽に口出しなど、身のほど知らずとは存じますが、ご主人様のためにはこうするのが一番だと考えました」
彼女が真っ直ぐに俺の目を見つめてくる。
その態度から、これは彼女なりに考え抜いてのことだと察しが付いた。
俺だって気がついてはいた。
サンドラが俺に惚れていて、俺と一緒に寝室に入るレミリアを羨ましそうに見ていたことを。
サンドラは大柄だけど、凄い美人でスタイルも抜群だ。
彼女を強く女として意識しつつも、レミリアを傷付けてしまいそうで、中途半端な状態のままにしていた。
レミリアはそんな俺の迷いとサンドラの想いを見抜き、こうすることを決断したのだろう。
俺がサンドラに乗り換える可能性だって理解しているだろうに。
俺は2人を抱き寄せ、こう言った。
「ありがとう、レミリア。自分のことよりもパーティのことを考えてくれたんだな。君がそう言ってくれるなら、俺は2人とも同じように愛するよ」
そう言ってレミリアの唇を奪い、しばらく楽しんでからサンドラにも同じようにしてやった。
すると、早くも足に力が入らなくなったらしい2人をベッドに寝かせると、俺も引き込まれた。
その晩は、夢のような世界を満喫した。




