91話
「ヴェルム、ちょっと良いか?」
朝食前の早い時間に、団長室を訪れる者がいた。それはファンガル伯爵家元当主であり、今はドラグ騎士団の新人騎士として訓練中のフォルティス・ラ・ファンガルだった。
早朝から団長室で一人珈琲を飲んでいたヴェルムは、友の来訪に快く扉を開けた。
「珍しいね。君がこんな時間にここを訪れるなんて。何か頼みたい事でもあるのかい?」
ヴェルムはフォルティスの分の珈琲を淹れながら、微笑を浮かべて問う。
フォルティスは勧められるままソファに座ったは良いものの、所在無さげにソワソワとしていた。
その姿がまるで、大人しくなった熊のように見えたヴェルムは可笑しくてたまらないようだ。
それを悟られぬよう、微笑を浮かべるだけで堪えられているヴェルムだが、微かに頬がヒクついているのが見て取れる。
「儂が此処に来たら変か?いつでも来いと言っておったではないか。」
護国騎士団の団長と旧家で大貴族の当主という関係から、上司と部下になった現在。それでも友であり相棒である二人の関係性はこれっぽっちも変わっていなかった。
このような事は偶にあるため、ドラグ騎士団内でも特に問題視されない。ヴェルムと団員の関係は様々な事情が複雑に絡み合うからである。
誰もが重要視するのは、ヴェルムに対し悪感情を持っているか否かである。
逆にヴェルムに対し好印象の者は歓迎される傾向にある。
「確かにそう言ったけど、一応部下になったのだからそう気軽には来れん、とか言ってたのは君だろう?」
フォルティスがドラグ騎士団に入団してから、団長室に来たのは片手で数えられる程しかない。
その全てが夜中であり、酒の誘いだった。
だが今日は朝一で訪れているため、何か用事があるのは誰にでも分かる。
ヴェルムはその用件に見当が付いていながら、分からない振りをしていた。あくまでフォルティスから切り出させるためである。
「まぁ、そうなんじゃが…。その、なんだ、陛下から泣きつかれての…。仲介を頼まれた訳なんじゃが。…勿論、相棒が伝令を追い返しとるのは聞いた。じゃが理由も分からんのでは困ると言われてなぁ…。」
フォルティスはそこで一度言葉を切り、ヴェルムが淹れた珈琲をズズッと音を立てながら飲んだ。
だが、ヴェルムに続きを言わせようとしたフォルティスの目論見は上手くいかなかった。自身で言いたくないという雰囲気を、これでもかと出しているにも関わらず、ヴェルムは変わらず微笑んだままだ。
それを見て一度ため息を吐いたフォルティスは、意を決して深呼吸をした。
どうやら自分で言う事にしたようだ。
「陛下と直接話してくれんか。本当は護衛の許可を取ってこいと言われたんじゃが…。儂は既にヴェルムの部下になった故、ヴェルムの決定に従うとは伝えたんじゃ。しかし陛下に儂がドラグ騎士団に入った事をグチグチと言われてのぉ…。確かに、伯爵位を継ぐ時に陛下に忠誠を誓った手前、断りにくくてな…。どうか、断るなら断るで直接言ってやってくれんか。頼む。」
フォルティスは膝に手をついて頭を下げた。国の英雄が頭を下げる場面など滅多に見れたものではないが、ヴェルムはそれを無感情に見ていた。
いつまでも返事が来ない事に、フォルティスは不審に思って恐る恐る顔を上げる。
ヴェルムは変わらず対面に座っていて、その長い脚を組んでいた。
だが、顔が見える位置まで頭を上げたフォルティスは見た。見てしまった。ヴェルムの表情を。
笑みを浮かべたところしか見た事がないようなヴェルムが、無表情にこちらを見ている姿を。
フォルティスはそれだけで蛇に睨まれた蛙のような心境になった。
やはり国王の頼みなど聞くのではなかった。フォルティスの胸中がそんな思いで支配される。
だが言ってしまったものは仕方ない。
今はどうやってこの状態を切り抜けるかを考えねばならなかった。
フォルティスの脳内が人生で一番回転していた時間だと言っても差し支えない。後に本人がそう思うほど彼は考えを巡らせていた。
だがそんな時間も唐突に終わりを迎える。
「分かった。ゴウルとは絶縁した方が良さそうだね。我が団員を良いように使おうなんて。ありがとう。良い話が聞けたよ。」
ヴェルムがそう言うと、忽然と消えた。
フォルティスは何が起こったか理解するのに数秒の時間を要した。
「…相棒?どこに行ったのじゃ…?まさか、本当に城へ…?マズい、マズいぞ…!」
段々とヴェルムの言葉を理解してきたフォルティスが慌てて団長室を飛び出そうとソファから立ち上がる。
すると団長室の隣の部屋からセトが入ってきた。
「おや、我が主人が急に消えたかと思えば。フォルティス殿は我が主人とどんな会話をされていたのでしょうか。どうやら王城に行ったようなのですが。」
セトの言葉で、己の予想が正しかった事を知るフォルティス。こうしてはいられないと、彼は部屋を飛び出した。
だが部屋を出て数歩で肩を掴まれた。
「どちらへ?こんな朝早くに城へ行っても門前払いですぞ。我が主人の事なら心配いりませんので、どうぞ最後まで珈琲を飲んで行かれるとよろしいですな。」
セトだった。音もなく後ろに現れて肩を掴んだセトに、フォルティスの背中を冷や汗が伝う。
「あ、あぁ…。折角ヴェルムが淹れてくれたのだ。最後まで飲まねば失礼だな。感謝する。」
「いえいえ。わたくしは我が主人の執事ですからな。」
二人が団長室に戻ると、ほっほ、という笑い声と共に団長室の扉がゆっくり閉まった。
一方その頃、早朝から政務を始めていたグラナルド王国国王は、山積みになった書類を見てゲンナリしていた。
「どうして寝て起きたらこんなにたまっているのだ…。あぁ、早く冠を脱ぎたい。ユリアの才能にもっと早く気付いていれば…。」
「陛下。朝からそのように暗い雰囲気にしないでください。こちらまで滅入ってしまいます。」
国王と宰相の朝は早い。特に最近は、避暑に行く間の仕事も片付けるため普段よりも多くの書類を決済していた。
二人は朝早くから執務室に入り、日中の会議などが終わるとまた執務室へ戻る。そして夜遅くまで籠った後、殆ど仮眠レベルの睡眠を摂るため執務室横の仮眠室で眠る。
そんな生活がもう十日程続いていた。
二人とも目の下には隈が出来ており、顔色が悪い。
元々、初夏はそこまで忙しくない季節である。雨季が終わり畑の被害状況などの報告があったり、秋に収穫出来る量の予想などが報告される。
それをもって冬対策を考えるのが国王の仕事だが、貴族たちの領は勿論貴族たちがそれを行うため、国王は王家直轄領の事を考えれば良い。
だが、そこに問題があった。
昨年の叛逆によって多くの貴族の家門が滅びた。
それにより王家直轄領が増えたのだ。南方戦線の恩賞として幾つか領地を与えたものの、まずは旧小国郡の領地を優先して与えたため、どうしても余ってしまう。
そこで思いついたのが、ドラグ騎士団団長であるヴェルムに爵位と領地を与える計画。
だがこれは宰相によって全力で止められた。
それは契約違反になりませんか。と。
良かれと思った国王の行動だったが、冷静になって考えれば確かに、爵位でもって国に縛り付ける行為だと気付いた。
危うく本当に今代で見限られるところだった、と宰相を褒めた国王。
そこで代わりに、近衛騎士団団長に領地を与える事とした。
代々の団長が管理する領地として制定したのだ。
これは殊の外上手く行った。
団長が好きに出来る領地があれば、そこで近衛の訓練も出来る。更に、その領地の税収で近衛にまわす金も賄える。
だが、想定外は何にも起こるものだ。
当の近衛騎士団長が難色を示したのだ。
国王はその説得にも時間を割いた。
結果的に領地を受け取ってくれたとはいえ、国王は儘ならぬ思いを抱える事となった。
「しかし、朝からこれでは気が滅入る。何か良い事でもあれば良いのだが。」
「じゃあ私と楽しい話をしよう。」
国王がペンを握り書類と格闘を始めようとしていた時、小さな呟きに反応を返す者がいた。
その声に覚えがあり過ぎる国王が慌てて顔を上げると、そこには予想通りの人物が立っていた。
「ヴェルム!お主いつの間に!いや、何故儂の伝令を悉く追い返しておる!」
日々の書類に対するストレスか、疲れのピークか。ヴェルムの顔を見るなり一瞬で沸点までいった国王。
ペンを握りつぶし机に拳を打ち付け立ち上がる。
革張りの豪華な椅子が倒れても気にしない。
物音を聞いて宰相が慌てて駆け込んでくるが、その時には国王はもう止められない状態だった。
「ちゃんと返事はしたじゃないか。暑いなら氷漬けにしてあげるって。なんなら今やってもいいけど。どうする?」
「却下に決まっておるだろうが!お主は城をなんだと思っておる!」
「ん?家だろう?王家の家だよ。初代のはこんなに大きくなかったけど。」
「間違ってはおらんが違う!城はグラナルドの象徴だ!この城が変わらぬ姿で首都に建っておるからこそ国民は安心して生活が出来るのだ!それを氷漬けになぞ出来るか!」
「へぇ、ゴウルも少しは賢くなったんだね。てっきりわがまま放題に適当な政治をしてるのかと思っていたよ。」
「んなっ…!な訳あるか!私はもう子どもではないのだぞ!」
「そうは言ってもさ。君、つい最近やらかしたばかりじゃないか。信用度は地の底だよ。叛逆は建国史上何度かあったよ。でもそれは貴族の叛乱で、王家のじゃあない。しかもそれが皇太子だなんて前代未聞だよ。大人しくしていれば転がり込んでくる王位を、わざわざ自分から貰いに行くなんて。」
「ぐっ…。それは、そうかもしれんが…。だが!それと伝令を無視する事は別問題だろう!」
「そうかい?私は一度断った。それでも縋るならそれなりの誠意が必要だと思わないかい?君だって、なんの興味もない貴族から意味のない嘆願をされても気にしないだろう?」
「ち、違う!今回の避暑はユリアのためなのだ!私がすぐ近くにいては問題があった時に頼ってしまうではないか!そこで国内一の国軍を持つファンガル伯爵のもとで私が過ごせば、私の護衛とユリアの成長を同時に行えるではないか!何故それが分からん!」
「ふーん?まぁ君の言い分は分かったよ。じゃあ今度はこちらの言い分を聞いてくれるかい?」
急に何か悪巧みをしているかのような表情になったヴェルムに、国王は先ほどまでの勢いを完全に殺されてしまった。
宰相はオロオロと二人を交互に見つめるばかり。この二人が言い争いをするところなど初めて見たのだから仕方ない。
宰相はこの現場の始まりを、隣の部屋に書類を取りに行っていたため見ていない。
だが、二人が言い争う声が聞こえているはずなのに近衛騎士が入ってこない事に気付いた。
それは勿論、ヴェルムが防音結界を張っているからなのだが、宰相はそんな事知る由もない。
「まぁ私ばかり一方的に述べるのはフェアじゃないからな。良いだろう。ヴェルムの言い分も聞こう。」
国王はそう言って倒れた椅子を起こし座る。
ヴェルムは立ったまま腕組みをして国王を見下ろした。
「そもそも、私は君の依頼を断ったんだ。代替案まで用意してね。それでも依頼したいと言うなら、頼みたい本人が頭を下げに来るべきだろう?なのに君は私の部下を利用した。私としては部下を守らないといけないからね。二度とこのような事が起こらないよう、いや、起こす気にならないよう徹底的に処理する必要があると思うんだ。」
ヴェルムの言いたい事が分かってしまった国王は、激しく後悔していた。
何故フォルティスに話を持って行ったのか。疲れて思考がまともではなかったのだろうか。
しかし後悔しても遅い。既にヴェルムは目前にいる。
彼は王自ら頭を下げに来るべきだと言った。ドラグ騎士団本部内なら頭を下げてもバレはしない。だがここは王城だ。宰相しか見ていないとはいえ、避暑の護衛のために騎士団に頭を下げたなどと噂が立っては困る。
観念した国王は様々な思いを吐息に乗せ吐き出した。
「分かった。明日の午後そちらに顔を出す。護衛を予定している隊の者も集めておいてくれ。私から直接依頼する。」
国王が渋々ながらそう言うのを、ヴェルムは大変満足そうにニマニマした笑顔で見ていた。
明らかに揶揄っているその表情に、国王の額に幾つも筋が浮かぶ。だが国王の矜持で耐えた。
その様子を見て更にアワアワと挙動不審になる宰相。反面、ヴェルムはつまらなそうに鼻で笑った。
「まぁいいや。彼らに決定権は持たせておくから、明日彼らを説得するといいよ。優しい私は先に説明をしておいてあげるよ。国王のピクニックの護衛を頼みに来るって。」
「ピクニックだと!?…いや、頼む。」
ヴェルムとの舌戦に完全敗北した国王は、これ以上疲れるのは御免だとばかりに意見を飲み込んだ。
このくらいの揶揄いに反応してはヴェルムの思う壺だと自身に言い聞かせる。
話は終わったのにまだ帰る様子を見せないヴェルムに、国王は訝しげにその姿を見た。
ヴェルムは変わらず何を考えているか分からない笑顔でそこに立っており、その笑顔を国王に向けている。
「まだ何かあるのか…?」
恐る恐るといった風に国王が問うと、待ってましたとばかりに空間魔法から書類を取り出したヴェルム。
その書類を国王の前にある書類で一杯の執務机に置く。
「これ、どう思う?」
質問に質問で返したヴェルムは、同じ物を宰相にも渡していた。
まずは読んでみなければ話にならないと、国王はヴェルムに渡された書類を読む。呆然としていた宰相も、それを見て急いで書類に目を通した。
読み進める内に段々と顔色が悪くなる二人。
そんな二人を放ったまま、ヴェルムは空間魔法から取り出したティーポットで紅茶を淹れていた。
茶葉は自身のオリジナルブレンド。水は魔法で生み出した。勿論、加熱も魔法だ。
一人で紅茶を立ったまま味わっていると、書類に目を通し終わったのか、書類を置く音が聞こえた。
「なんだこれは…。本当にこのような事が?ならばあの件はまだ終わっておらんということか。だが、何故南部であった事件が北部でまた起こる?確か原因は西の国ではなかったのか?」
国王が書類を読んで生まれた疑問をポロポロと溢す。脳内で整理するのに、声に出す方が上手くいく部類の人間なのだろう。
宰相は黙ったまま、顎に手を当てて何度も書類を読み直していた。彼は見落としが無いか何度も読み直すタイプらしい。
「書類にもあるように、かの集落は魔物の群れの主を地下に隔離していた。狼型の魔物は、群れの主を決める際必ず主と主になりたい者とで決闘をする習性がある。その決闘無くして主と認められないからだよ。でも、その主がいなくなってしまった。どうやって捕えたのかは知らないけど、主を取り返して決闘をしようとするなんて思いもしなかったんだろうね。」
ヴェルムは紅茶を飲みながら、国王の疑問とは違う点を解説し始める。
魔物の習性など知る由もない二人は、ヴェルムの言葉をただ真摯に聞いていた。
「最後の方に載ってたとは思うけど、西の国だと思われていた原因は間違いだったみたいだね。まだ裏付けが取れていないからそこには無いけど、どうも北の国の技術みたいだね。それを、西の国が盗み出した。そこで独自に研究が行われていたのが、前に私の部下が破壊した研究所という訳。つまり、まだ壊さねばならない場所がある。」
王太子と近衛騎士団長、そしてカルム公爵が起こした叛逆の際、魔物の体内に生成される魔石を用いた、魔物を強制的に強化するという技術が使われた。
これは危険度Dランクの魔物が、CランクもしくはBランクまで上がる事が確認されている。数少ない例だが、稀にAランクまで上がる事も報告されており、もしこの技術が広まりでもしたら、と国王たちは戦慄したものだ。
もう終わったとばかり思っていたこの一件が、まさか盗まれた技術によるものだったとは思ってもみなかった。
今回は魔石ではなく、薬剤であるということ。
魔物を強化するのではなく、従わせるということ。
北の国が本来の目的として魔物の従属を掲げているのなら、それは計り知れない脅威となり得る。危険度の高い魔物を複数体送り込めば、それに軍が対処する事になる。
その間に正規軍が攻め込めば、小国などはひとたまりもないだろう。
「これをイェンドルからの亡命民が使っておったのか…?」
国王の震える声に、宰相は視線を上げた。ヴェルムは変わらずカップを持っており、魔法で浮かんだポットがカップに紅茶を注いでいた。
そんな超常現象もスルー出来るくらいには、国のトップ二人はこの書類を脅威に感じていた。
「一応、今は零番隊が探っているところだけどね。でも、元々北の国は排他的な所があるからね。東や西ほど簡単にはいかないみたいだね。」
国の中枢にも関わる事案だ。簡単な訳がない。東の国などわざわざ海を渡らねばならず、西の国は宗教国家であるため内部への侵入は難しい。
そんな二大国よりも難しいというのだから、北の国の情報統制っぷりが窺える。
「この薬品が完成、もしくは実験段階に来るのはいつになると予想する?」
国王が情報の整理を終えたのか、核心部を問う。宰相も気になるのか、その瞳を心配そうな色を浮かべてヴェルムを見ていた。
「まだ何とも。でも、イェンドルの亡命民の集落にそれを渡せたって事は、国境を越える準備が出来ているって事。勿論、私の部下も国境を見張ってはいるよ。でも今は戦時体制じゃないからね。どうしても抜けは出る。この薬品の素材は主に北の国原産の植物みたいだけど、一部東の国でしか手に入らない薬草も含まれているみたい。だから、東の国の関与は間違いないよ。まぁ、こんな物を作っているとは知らないかもしれないけどね。」
ヴェルムから聞かされた情報は、既に書類にも記載されていた。だがこの遣り取りで国王は決心したのか、宰相の方を見て頷いた。
宰相は一礼した後、書類を機密情報として金庫に入れて執務室を出ていく。
「なんということか。こんな事、ユリアの代に丸投げなど出来んではないか。これは避暑も無しか…。」
書類だらけの執務机に項垂れる国王。だが、ヴェルムがそれに待ったをかけた。
「いや、そうとも言えないかな。どうせなら、君のピクニックを有効活用しよう。可愛い子には旅をさせよ、という東の国の諺があるようにね。それにほら、獅子は子を谷に突き落とすというだろう?国王が首都を空ける。そんな機会を、実験がしたくてしょうがない北の国が放っておくと思うかい?」
ヴェルムの笑顔が、これほど怖い物だと思っていなかった国王。
先ほど宰相に合図したのは、午後からの会議でこの案件を話し合う準備だったが、これも上乗せになりそうだ。
「よし、では午後の会議にかける。ヴェルム、お主にも出席を頼む。一番詳しい情報を持つ者が必要だ。」
ここ最近の疲れ切った顔が微塵も見受けられない国王。
そこには為政者としての誇りと矜持があった。
やっと国王らしくなった、などと考えていたヴェルム。しかし表情は呆れており、仕方ないな、といった風に頷いた。




