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闇竜と騎士団  作者: 山﨑
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80話

騎士団内全ての休暇組が戻ってくると、本部はいつもの賑わいを取り戻した。


食堂ホールでは、多くの者が休暇中の事を報告し合い、中には土産を渡す者もいる。

そんな中、団員内で噂になっている事があった。


「おい、聞いたか?準騎士の講義を団長と隊長たちがやるらしい。訓練も五隊で協力するって。」


「それってまじなのか?俺もそんな噂は聞いたけど、まだ予定に組まれてないだろ?五隊が協力するなら俺らにも連絡あるだろ。」


「あぁ、その話?本当らしいわよ。うちも訓練の治療で派遣されるって聞いたもの。」


「まじだったのか!四番隊が連絡受けてるなら俺らも今日辺り連絡くるかもしれねぇな。」


「あぁ。だがよ、一番気になるのはそこじゃねぇだろ?なぁ?」


「そうね。私、隊長にお願いしてみようかしら。」


「あ、狡いぞ!俺も兄貴に頼んでみる!」


「よし、それなら俺も隊長に頼んでみるぞ!」


どうやら騎士たちは五隊が協力する事以外に気になる事があるようだった。


いつもより食事の時間が長くなり、会話に華を咲かせている団員に向かって、料理長の大声が降りかかる。


「おい!お前ら!食ったならさっさと動け!後ろがつっかえてんだろうが!休みの思い出話は後にしろ!」


食べ終わった後もゆっくりしていた団員たちは、その大声に肩をビクつかせ、苦笑しながら食堂ホールを出て行く。そんな団員たちを、ヴェルムは笑顔で見ていた。


「どうやら落ち着きが無いようですな。理由に心当たりがあるのでは?」


セトがヴェルムに話しかける。ヴェルムは困ったように笑って首を傾げた。


「五隊の協力を決定したからだろう?まさか皆んながそんなに無所属を気にしているとは思わなかったよ。皆んなが優しくて私も嬉しいよ。」


そんな主従の会話を聞いていた五隊の隊長、そして周囲のテーブルに就く零番隊の面々は、揃ってため息を吐いた。

静かになったヴェルムの周囲に、セトのほっほ、という笑い声が空しく響いた。










「隊長!お願いがあります!」


食堂ホールから隊舎に戻る五隊の隊長たちは、それぞれ別の場所、同じタイミングで隊員から声をかけられた。

別の場所にも関わらず、隊長たちは同じ反応を見せる。来たか、と。


「お願いです!団長の講義を受講させてください!」


隊員たちは必死に懇願した。そして隊長たちは来た道を振り返り、進行方向を変える。後ろには頭を下げた隊員を残したまま。




「あら、あなた達も同じ要件?団長はもう戻られているかしら。」


サイ以外の四人の隊長が合流し困った顔をしていると、そこにサイも現れ、その表情から起こった事を予想した。

己も先ほど同じ目にあったばかりだ。容易い。


「てことはサイもか?ったくよ、どーしろってんだ。」


ガイアが頭をワシャワシャと掻く。スタークは腕組みをし、リクは若干眠そうだ。


「とりあえず団長に報告だけしましょう。断られたらその時はその時で。何か隊員たちを宥める方法を考えましょう。」


アズがそう言うと、四人は頷き肯定した。




五人が団長室に着くと、既に来客があっていた。団長室の前に立つ零番隊の隊員がその事を告げると、五人は待機する事にした。


「朝から誰が来てるのかしら。」


サイがポツリと呟く。それを拾ったのは扉の警備を毎日担当している零番隊隊員だった。


「現在、事務官長殿、製作科長殿、錬金術研究所所長殿がお見えです。」


扉を守る彼は常に人を役職で呼ぶ。ヴェルムは団長殿、セトは筆頭執事殿、アイルは執事殿、といった風にだ。勿論、職務の間の事で、プライベートでは名を呼び合う相手もいる。


隊長五人で廊下で待っていると、団長室の扉が開きアイルが顔を出した。

扉から少し離れた位置にいた隊長たちは、アイルを見つけて様々に反応を見せる。先客が出てきたと思ったが違った、と顔に出ているガイアや、単純に友達が出てきて嬉しそうなリクといった具合だ。


「隊長の皆さん、お入りください。どうやら先客と同じ要件のようです。」


アイルの言葉の意味を最初に理解したのはスタークだった。スタークはフッと笑うと、同時に理解した他の面々も笑顔を見せる。

五人はアイルに続く形で団長室に入室した。




「あら、五隊の隊長さんたちも、私たちと同じ要件ですか?」


隊長たちが入室すると、まず所長が話しかけてきた。代表してサイが、おそらく、と返す。所長は瓶底メガネのつるを押さえながら笑った。


「さて、君たちも同じ要件だって?今この三人からも頼まれたばかりだったんだけど…。そんなに私の講義が受けたいのかい?」


ヴェルムが皺の寄った眉間を解しながら言った。すると五隊の隊長たちは揃って、はい、と返した。


「先ほど隊員たちから懇願されました。どうしても団長の講義を受けたいようです。」


代表してアズが先ほどあった事を話した。その内容にヴェルムは頭を抱え、隊長たちと他の部署のトップたちも頷いて肯定した。


「なるほど。なら、君たちには別で講義をしよう。受けたい内容はあるのかい?」


「団長の講義が受けられるなら何でも構いません。強いて言うなら、それぞれの専門知識についての講義がよろしいかと。」


ヴェルムからの質問に答えたのは、事務官長だった。彼は料理長や所長と同じく、グラナルド王国建国前からヴェルムに仕える男だ。当時からこの話し方は変わらない。


「そうか。皆んなもそう?」


全員が頷いた。


「じゃあ日程を決めようか。とりあえず隔週でどこか一つ講義をしよう。そうすれば二月あれば終わるね。順番を…」


ヴェルムが言い終わらない内に、団長室の扉がノックされる。

誰が来たのか分かったヴェルムはため息を吐き、セトに入室の許可を出す。扉の向こうから零番隊隊員の声が聞こえる前にセトが扉を開けた。


「お?なんだ、皆んな揃って。まぁいい、ヴェルム、頼みがあるんだけどよ。」


料理長だった。

ヴェルムはもう一度ため息を吐き、他の者は料理長が来た理由を悟る。


「分かった。この際、全部署に講義を入れよう。今週いっぱいまでに講義を希望する部署と、希望する講義内容を纏めた書類を提出しておくれ。統括は…、事務官長、お願いしても良いかい?」


「御意。」


そういう事になった。











「本日は四番隊協力の元、実戦形式の訓練を行う!それぞれ三人一組(スリーマンセル)を作れ!」


今日は準騎士合同訓練の日。疲れ果て死人のような顔をしていた者はもういない。ヴェルムの指示で四番隊が疲れを取ったのだ。更に、サイが調合したリラックス出来る香りのポプリも配られ、調理部の協力で精のつく料理が続いた。


みるみる内に元気になる準騎士たちを見て、四番隊と調理部はハイタッチしたとか。


「今日は三人一組に一人ずつ四番隊が就く。ただの協力者ではなく、班員として共に訓練に参加するということだ!治療術師がいる戦闘の基本は覚えているな?いつも通り二重トーナメントで行う。では始め!」


ドラグ騎士団の合同訓練では、参加する人数が多いためトーナメント方式で訓練を行う。勝った班は別の試合で勝った班と。負けた班は別の試合で負けた班と。表を作るなら、上下に勝ち進んでいく形の表が出来る。

上下の頂点が決まると、頂点同士の試合で幕を閉じる。最低でも二戦はする計算だ。


普段は巡回程度しか任務のない準騎士と、治療部隊としてでも遠征に出ている四番隊。基礎戦闘能力は四番隊が上だ。しかし、準騎士のトップにいる実力の者と四番隊に治療の能力を買われて入隊した者では、やはり準騎士に軍配が上がる。


ある意味、丁度いいバランスで作られた即席班だった。


今回のルールは、四番隊が攻撃を受けたら終了である。逆に言えば、四番隊の隊員が残ってさえいれば、他の班員が倒れてもまだ回復して戦えるチャンスがあるのである。


普段と違う作戦が求められる訓練に、最初のうちは手こずっていた準騎士たち。だが、最初からこの戦い方に慣れているかのように対戦相手たちを薙ぎ倒す班が数班あった。

その中に、フォルティスの班とバルバトスの班があった事は言うまでもない。


結局、優勝したのは準騎士トップの実力を持つ騎士率いる班だった。しかし、決勝で負けたとはいえ、バルバトスの班も大健闘だった。フォルティスの班は、優勝した班に準決勝で敗れている。




「皆さんお疲れ様でした。今回の訓練で何も得なかった者はいないと思うわ。だからこそ、次は四番隊も含めて更に高度な戦闘になる事を期待します。」


整列する準騎士と四番隊の前にサイが立ち、言葉をかける。サイが下がると、教官が前に出て敬礼した。


「有り難くも、四番隊にはまた協力を頂ける事になった。治療術師との連携は必須技能である。次回は五番隊の協力の元、連絡戦を予定している。本日得た教訓を諸君らなら活かしていってくれると信じている。では解散!」


今までと同じような訓練の厳しさだが、準騎士たちは手応えを感じたのか、その表情は明るかった。

班を組んだ四番隊の隊員と共に食堂ホールへ向かう者も多い。交流を増やすのは良いことだ、と教官は満足していた。


「教官、お疲れ様でした。昼食を一緒にどうかしら。」


そんな教官にサイが話しかける。教官は笑顔で同意した。







「その様子だと、今日の合同訓練は上手くいったみたいだね。」


ヴェルムがサイと教官に言う。今日はガイアとアズ、そしてリクが別のテーブルに移動していた。


「はい。彼らも充実した表情で訓練を終えました。これも全て団長殿のおかけで御座います。ありがとう御座います。」


教官は食事の手を止め、カトラリーを置いて頭を下げた。


「私は何もしていないよ。協力したのは四番隊だからね。礼ならサイに。次はスターク、君のところとだろう?どんな訓練をするんだい?」


ヴェルムは箸で器用に魚の煮付けを解しながら言う。

スタークが次の合同訓練で行う内容を答えていると、サイはこっそり教官に言った。


「教官、団長は食事の手を止めてまで話す事はあまり喜ばないの、知っているでしょう?ほら、冷めてしまう前に食べましょう?そのステーキ、美味しかったわ。」


教官は下げていた頭を上げた。すると一瞬ヴェルムと目が合った。その時ヴェルムは微笑んでいた。

教官はもう一度頭を下げてからカトラリーを取る。

ここ最近で一番美味しいステーキだった。











「お前んとこは何やるんだ?」


ガイアがアズに尋ねる。

アズは少し考えた後、食べていた物を飲み込み、水を飲んでから口を開いた。


「何個か考えてはいるんだけど…。まだ本決まりじゃないかな。ガイアは?」


どうやらまだ決まっていないようだ。四番隊は治療術師の護衛と、治療を受けながら継戦する持久力を鍛える訓練だった。

三番隊と五番隊は、おそらく諜報や索敵に関する訓練になるだろう。


では一番隊と二番隊はどうするのか。この二人は悩んでいた。


「俺らがやれるのは、火力の出し方と武器戦闘の技術くらいなんだよなぁ。アズ、他にネタあるか?」


ガイアが率いる一番隊は、五隊の中でも屈指の攻撃力を誇る。更に、武器戦闘も重点的に訓練しており、魔法なしの武器戦闘なら無類の強さを持つ。

アズが率いる二番隊は逆に、水属性魔法による治療と防御を得意とする者が多い。しかし、中には攻撃一辺倒の隊員もいる。更に、水属性とはいっても、派生属性の氷属性を得意とする者もいるため、隊としての方向性は定まっていないのだ。寧ろ、オールラウンダーとして各隊の支援に動く事の方が多い。


「一つ思いついたのがあるんだけど、こういうのはどうかな。一番隊にも攻撃じゃなくて支援が得意な者がいるでしょう?その者たちと、うちの支援型の者で合同訓練に参加。攻撃型の者は次回。どうかな。」


「なるほど。つまり、一番隊との合同訓練、じゃなくて一、二番隊との合同訓練にしてしまうって訳か。」


「そうそう。それを二回やって、どちらの強みも見せていけたらって思うんだ。」


「確かにな。合同訓練は体験学習じゃねぇからな。将来奴らが入るかもしれねぇ隊の本質を見せとくのは良いことだろ。よし、その方向でもう少し詰めようぜ。午後空いてる時間あるか?」


どうやらこの二隊の懸念も無くなりそうである。


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