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田舎娘ミレーヌが妖精になるまでの物語  作者: 葉裏
第四章 幼女からの出発
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突然の喪失

 それは一瞬のことだった。

 空間移動して逃がし屋の店舗に着いた途端、血の匂いがした。

 それで急いでそこからデビアン空間に移動し、帝都近くの森に飛んだ。

ミレーヌ「見たか? 殆どの者が殺されていたな」

ザック「出鱈目な殺し方です。

 机も壁も一緒に斬られていました。

 胴体が真っ二つの者も首だけがなくなっている者も、全然出鱈目な斬撃で殺されています」

ミレーヌ「風魔法か?」

ザック「分かりません。でも壁や机の切断面が焦げていたので、雷魔法……」

 そのとき背後に気配があって、振り向く間もなく斬撃が来た。

 ザックもカネも切られていた。

 もちろん私も。

 私は倒れながら背後の人物を確認した。

 黒髪黒目の学生服を着た男子だった。

 彼は手にまばゆく輝く剣を持っていた。

 斬撃だけで雷を出して切り刻む出鱈目な剣だ。

 そしてその左右には槍を持った男子学生と杖を持った男子学生がニヤニヤ笑いながら立っていた。

「ほんの腕試しで帝都に巣食う裏社会の魔族を全滅させたぞ。

 さすが雷の聖剣の威力は凄い。

 空間移動追跡の魔道具も役に立ったな」

「タツヤ、全然手ごたえがなかったな。魔王もこんな調子で殺せれば楽勝じゃねえか」

「だがよ、この女見れば可愛い顔してるじゃないか。ただ殺すのは惜しかったな」

「だがな、宰相が言ってたろう。正面から襲えば敵わないって。

 背後からばっさりやるしかないんだ。

 女だったら、王女も侍女たちもよりどりみどりだろう」

「うんうん、俺は第二王女が良いな。胸が大きくて俺の好みだ」

「じゃあ、次行くぞ」

「「おうっ」」


 私は出血を最小限にとどめて、彼らの見てる前で再生するのをやめた。

 そして彼らが空間移動で立ち去った後、二人の従者の遺体を調べた。

 だが二人とも体を真っ二つに斬られていて、生命機能は完全に停止していた。

 彼らは人間のように食事もする。

 けれどもゴーレムだから魔石を持っていた。

 私は魔石を取り出してそれを自分の収納空間にしまった。

 逃がし屋の店舗に戻った時、事務員姿のバーバラも含めて全員死んでいるのを確認した。

 迂闊だった。

 彼らは宰相の指示だと言っていた。

 確か最近宰相の思い通りにならない貴族が理不尽な冤罪で滅ぼされそうなのを国外へ逃がしたことがあった。

 そのことが関係しているのだ。

 ところで襲撃者の彼らは何者だろう。

 どうみても日本人だから、召喚魔法で転移して来た者たちなのか?

 いわゆる勇者という者たちか? 

 

 私は、空間魔法を使うことも知られてしまったらしい。

 そして学園の生徒であることも、ジョゼフ・デル・サクセスということも……。

 だからもう学園には戻れない。

 待てよ。ということは……しまった。

 彼らは確か『次行くぞ』と言っていた。




 私は急いでサウスコーストの実家に飛んだ。

 私が見たものは燃えて崩れ去るわが父、準男爵の屋敷だった。

 父だけでなく母のキンバリーも妹のパティ……パトリシアもっ。


 私は燃え盛る屋敷の中に飛び込んだ。

 だが至る所惨殺死体が転がっていた。

 使用人の若い女は着ている服を破かれて裸同然の姿で死んでいた。

 そして母のキンバリーも妹のパトリシアさえも乱暴された後、殺されていた。

 父は頭を潰されて死んでいた。

 

 折角得た家族を一瞬のうちに失ってしまった。

 私のくだらない正義感の為に、余計なお節介のために大事な家族までうしなってしまった。

 何のために学園に行ったのだ。

 学園で学ぶような学問ならレストーシャンで飛び級してすべて修得した。

 では何故? それは普通に学園生活を過ごして、それなりの仕事につき、家族を安心させたかったからだ。



 私は精霊王の仮面を被ると、王宮の宰相の部屋に飛んだ。

 宰相は私を見て凍り付いた。

「き……貴様は……死んだ筈では?」

 私はものも言わずハンマーで宰相の頭を砕いた。

 そしてある場所に飛んで勇者たちが来るのを待った。



「なんだ、ここは? うわぁぁすげえっ。宝の山だぜ」

「おう、少し持って行こうぜ」

「待て待て、宰相を殺した奴を追いかけてきたんじゃないのかよ」

 三人の勇者が金銀財宝がいっぱいの亜空間に気を取られている一瞬の隙が私には必要だった。

 私はその亜空間から出ると亜空間のコーティングに開けていた穴を閉じた。

 そこは七重のコーティングで亜空間を包んでいた。

 もともとは三重のコーティングで三層、五層、七層の防護層があった。

 これは元々は収納のためのマジックバッグの亜空間が持ち主が死んだ為に中身を入れたまま多次元空間に浮かんでいたものだ。

 けれども私はそれを七重のコーティングになおして、それぞれ三百層、五百層、七百層、三千層、五万層、七十万層、百万層にしておいたのだ。

 けれどもそれだけでは安心できないので更に私は八重目のコーティングをかけ始めた。

 予想通り勇者たちは空間移動の魔道具を使って内側のコーティングの層を壊し始めた。

 あっという間に七百層まで到達したので、私は必死に今九重目のコーティングを猛スピードで作っている。

 この層が壊されたら、一気に通常の空間に飛び出て追いつかれてしまう。

 そして内側から六番目のコーティング七十万層の殆どが壊されていた時に魔道具の魔石の魔気が空になったらしい。

 ところが勇者は自分の魔気を使って聖剣でコーティングの膜を斬り裂き始めた。

 そしてみるみるうちに七番目の百万層を斬り開いてしまった。

 残るは八番目の五百層と九番目の三百層だ。

 時間がないので千や万の数は無理だったのだ。

 私は九番目のコーティングの層に穴をあけた。

 そしてある空間とリンクさせた。

 その空間は海の中だ。

 しかも海底に近い水圧の高い場所。

 どっと物凄い勢いで海水が魚などと共に八番目と九番目のコーティングの層の間の空間に流れ込む。

 そして九番目のコーテイング層を閉じたと同時に八番目の層が斬り裂かれた。

 結果財宝のある空間に海水が流れ込む。

「うわっ、なんだ?」

「うわぁぁぁごぼごぼごぼ」

 勇者たちのいた空間に海水が鉄砲水のように飛び込んで隙間なく満たした。

 聖剣の勇者タツヤは息を止めて聖剣を振り回す。

 それによって九層目がみるみる壊されて行く。

 そのときにクラゲの姿をした私が彼に体当たりをして肺の空気を吐き出させ、痺れ薬を塗った寸鉄を突き刺した。






 


 三人とも溺れ死んだのを確認して、私は亜空間の海水を三人の遺体とともに元に戻した。

 彼らは海底の藻屑となって蛸やウツボの餌になるだろう。

 聖剣も空間の魔道具もそのまま亜空間に財宝と一緒に閉じ込めておいた。


 




 さて私はこれからどこに行こうか?

 どこにも行く所がない。

 財宝がいくら沢山あっても、私が一番欲しかった家族はもういない。

 私は宰相とそれに絡む勢力を一掃して回って、ニコラス商会に手が回るのを防いだ。

 

 デビアン空間はなんとか難を免れたので、私はサウスコーストの新しい領主が良い人間であることを祈って、帝国を去ることにした。


 今度こそ余計なことをしないで生きて行こう。

 私はそんなことを考えていた。

 だがどこへ行ったら良いのだ?




ここまで読んで頂きありがとうございました。

これで完結します。

なお、この続編というわけではないのですが、拙作『ウォルナット村のミッキー』という作品の後半に

本作のミレーヌのその後が登場します。よろしければそちらの方もお読みいただければ幸いです。

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