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田舎娘ミレーヌが妖精になるまでの物語  作者: 葉裏
第二章 多くの顔持つ女の子
20/52

謎の貴公子登場

今回は主人公は妙にハイテンションになります。

相手が怖すぎたせいで、壊れぎみです。

 私はその得意顔で行く手を塞いでいる貴公子然とした青年を黙って見ていた。

やばい、やばい、やばい。絶対やばいっ。

 でも呑まれちゃ駄目だ。

 そうだ、逆に呑んでやるんだっ。

 私は大きく息を吸ってから気を取り直して、相手を睨んでやった。


 なんだ、こいつ?

 やっと私に辿り着いたって?

 私はマラソンのゴールか?

 違うよね。

 だからこれは何かの勘違いで、この青年も途中で自分の間違いに気づいたけど、照れくさくて言い出せないパターンだね、きっと。

 じゃあ、私もせめて気づかなかった振りをしてスルーしようっと。

 私は華麗に身を翻して通り過ぎた。

 私は障害物を避けたんだ、うん。

貴公子「おいっ、無視するなっ。

ブルガールッ、お前だっ、お前だよっ」

ミレーヌ「どなたか存じませんが、話しかけるお相手を間違えてはいませんか?」

貴公子「間違えてないっ。それと、その小芝居もやめろっ」

ミレーヌ「もう、いったい何なんですか?

 どう見てもあなたはお貴族さまですよね。

 そんなとうとい方が、私のような者に気軽に声をかけてはいけないじゃないですか。

 私は貴方のような方をまともに見てはいけないのです。

 目が潰れますっ。

 ああ、目がっ、目が潰れるっ。

 では失礼っ」

貴公子「あっ、待てっ、こらっ」

 待てと言われて待った奴はいない。借金取りだって待ってはくれない。

 という訳で私はまんまと逃げおおせる筈だったのだが……

 突然、謎の騎士たちが三人どこからともなく現れて私はすぐ捕まってしまった。

 私は背後から胴体をひょいと持ち上げられ、まるで拾得物のように貴公子の前に差し出された。

貴公子「私から逃げられると思うな、ブルガール」

ミレーヌ「たった今、そんな気がしました」

 そして私の足は地面から何十センチも離れて空中に浮いたまま、会話が続くのだった。

後ろから私を持っている騎士は、ちょうど私の顔の高さが貴公子の顔の高さに合うようにしている。

 だからまともに目と目が合ってしまう。

 駄目だ。人間の顔と言うのは八割がた目の特徴で判別できる。

 だから私は顔を覚えられない為に目を逸らした。

 けれど右向けば貴公子は右側に顔を持って来て、左向けば左に顔を持って来ようとするっ。

 ああ、うっとおしいっ。

貴公子「こらっ、馬鹿なことをしてないで、私の質問に答えるのだ。

 ブルガール、お前はシャーク奴隷館の奴隷たちの健康管理をしているというのは本当か?

 その為にあそこの奴隷はみんな元気で長持ちするという話だ。

 それは本当なんだな?

 こらっ、まだ目玉をグルグル回して変顔にするのはやめろっ」

ミレーヌ「(目玉を回しながら)知りません。健康管理なんて難しいことやってません。どういう意味ですか?(本当は知ってるけど)私はただ屑野菜と安い薬を売ってるだけです」

貴公子「ふん、惚けおって。時には無料で薬を飲ませたり、傷口に塗ってやったりしてるではないか」

ミレーヌ「そうだったらなんだって言うんですか。

 ちょっとあんたって離してよっ」

 私はそこで私を掴んでいる手を叩いて暴れた。

騎士「こらっ、暴れるな。手をペチペチ叩くなっ」

騎士二「こらっ、この手を止めろっ、あっ、貴様手を叩くなっ。トンプソン、その手を抑えてくれっ」

トンプ「こらっ、叩いても無駄だ。これで、動けない。

 おっ、急に大人しくなったな」

騎士二「それでもそっちの手を抑えておいてくれ」

トンプ「分かってる」

 今や私が暴れたせいで背後から胴体を掴んでいる騎士の他に、両脇から私の手を二人の騎士が掴んでいる状態だ。

 だが私は初期の目的を達したので暴れるのはやめた。

 私は顔を伏せながら貴公子に尋ねた。

ミレーヌ「はい、確かにそうしてました。

 で、それがどうしたと言うのですか、お貴族様の若様?」

騎士「無礼者、この方をどなたと」

貴公子「よいっ。構うな。ブルガールとやら、用件を言おう。

私が取引しているフェニックス奴隷館の下級奴隷をお前が同じように面倒みることを命じる」

ミレーヌ「おかしなことを仰いますね。

 若様、あなた様なら高級奴隷を買うのも簡単な筈。

 百歩譲って頂いて身の回りの世話なら中級奴隷をお買い上げ頂ければ用が足りるのでは?

 何故お金持ちの貴方様が安物の下級奴隷のことを気に掛けるのですか?」

貴公子「それは私が父上から任された王都から延びる街道の補修工事に大量に使用しているからだ。

 だがあそこの下級奴隷は病気や怪我が多く、長持ちしない。

 それでお前を召し抱えてフェニックス奴隷館の下級奴隷の世話をさせようと思ったのだ。

 もちろん報酬は弾むぞ」

ミナール「どうしてシャーク奴隷館の下級奴隷をお買い上げにならないのですか?」

貴公子「当たり前のことを聞くな。あそこで買っても、なんのメリットもない」

ミナール「それじゃあ、フェニックス奴隷館で買えばどんなメリットがあるんですか?」

貴公子「それはもちろん高級奴隷や中級奴隷を購入するとき」

騎士「若様、それは内密に願います」

貴公子「だそうだ。お前如きが知らなくても良いことだ。

 黙って私と一緒に来るのだ」

ミレーヌ「お断りします」

貴公子「なにっ、私は命令してるのだぞ。

 今まで私の命令に逆らった者は一人もいない。

 だから命令を聞かないお前は」

ミレーヌ「若様の命令を聞かなかった者は一人もいなかったから、今ここに一人現れてもどうしたら良いか分からないんですね?」

 そのとき私の体を抑えていた騎士たちの手が緩んで離れて行った。

 そして力なく崩れ落ちて行った。

 私は自由になった。

貴公子「おい、お前たちはどうしてブルガールを離すのだ。

 おいどうした? 三人とも何故倒れる?」

 ふふふふ。さっき暴れて騎士たちの手をペチペチ叩いたのは、それに紛れて彼らの手の皮膚に小さな針で痺れ薬をプレゼントしたからなんだよ。

 ようやく薬が効いてきた。

 ふふふふ。やい、貴公子さん。

 水戸黄門のようにしたくても、助さんも格さんも、風車の弥七さんもおねんねですよ。

貴公子「ジョニー、トンプソン、ハロルドッ、どうしたんだっ」

 ああ、トンプソン以外はそういう名前だったのね。

 今更分かったところでどうにもならないけど。

 私は人は殺せないけど蜂のように刺すことはできるんだよ。

 そのことに最近気が付いて、痺れ薬を浸した海綿に針を埋めた貝殻を用意してたのさ。

 名付けて『痺れ貝』まんまの名前だけど。

 だからこれからはブルガールではなく蜂娘ビーガールと呼んで欲しいくらいだ。冗談だけど。


ミレーヌ「若様、私が断ったのには理由があるのです」

貴公子「お前がお前がこれをやったのか?」

ミレーヌ「ちょっと、人の話を聞きなさい。

 ええそうですよ、無理やり連れて行こうとしたから、抵抗というかお手向かいさせて頂きました。

 それが何か?

 こういうのを正当防衛といって、良識ある国では法律で守られているんですよ。

 だから犯罪ではないんです。

 ええ、良識ある国ではね。

 大丈夫です。死んでませんから。そのうち動きます。安心して下さい」

貴公子「分かった。それでお前が断った理由というのはなんだ?」

 聞いていたのかよっ。じゃあ、言ってやるよ。よく聞けぼけっ。

ミレーヌ「それは、下級奴隷を元気にすることは、私でなくても誰でも簡単にできることだからです」

貴公子「そんな馬鹿なっ。じゃあ、何故フェニックス奴隷館ではそうしないのだ?」

ミレーヌ「何故でしょうね。私のしたことと言えば、野菜を売って病気の奴隷に薬を上げただけなんですがね。

 ではさようならっ」

貴公子「あっ、お前。待てっ」

 だから、待てと言われて待つ者はいないのです、水戸黄門さん、じゃなかった。王子様。

 私は貴方の正体を知ってしまったのです。

 街道の補修工事をするのは国の仕事。

 それを父上から任されたということは、父上が王様であなたは王子様ってことですよね。

 とんでもないのに捕まった。

 伯爵のお坊ちゃまのアークスよりももっと手が悪い。

 私は必死に逃げた。だが王子様も速かった。

王子「逃げながらでも答えてくれっ。何故フェニックス奴隷館では、お前のようにしないんだ?」

ミレーヌ「それじゃあ、逃げながら答えさせて頂きます。

 経費がかかるからです。下級奴隷は売値が安いので食事代でも馬鹿になりません。

 つまりすぐに売れないと維持費の下になってしまうのです。

 まして高い薬を買って与えると完全に赤字です。

 いっそそのまま死んでしまってくれた方が原価分の損失で済みます。そういうことです」

王子「それじゃあ、それはシャーク奴隷館でも同じことではないか。何故シャーク奴隷館ではそれが成り立つんだ?」

ミレーヌ「それは私が利益を無視してボランティア……つまり無料で奉仕しているからです」

王子「何故お前はそこまでする?」

ミレーヌ「奴隷が哀れだからです。だから若様も同じようにしたければ、奴隷を家族のように気遣ってやれば良いのです」

王子「利益を無視してか?」

ミレーヌ「粗末に扱って奴隷を潰すよりは、健康を維持できるようにした方が長い目で利益を得ることができますよ」

王子「そうか、お前はシャーク館の奴隷を家族のように思っているんだな?」

ミレーヌ「いえ、そこまでは思ってません。

強いて言えば、物としてではなく人として思ってます」

王子「だって、お前は奴隷を家族のように気遣ってやれと私に言ったではないか?」

ミレーヌ「それは若様が奴隷を人としてではなく物として見ているから、敢えてそのように言ったのです」

王子「そうか。人としてとはどういうことだ?」

ミレーヌ「そろそろお別れです。奴隷は労働者です。立て万国の労働者♪です」

王子「何故急に訳の分からないことを言って歌いだす? 

 待て、何故逃げる?」

ミレーヌ「決まってます。お貴族様の騎士を三人も倒したからただでは済まないからです」

王子「逃げても無駄だ。すぐ捕まるぞ」

ミレーヌ「分かってます。だから逃げるのです。今度こそさようならっ」

王子「待て、捕まえても処罰はしない。だから……うっ、なんだ? 土埃が目に入った」

 ごめんなさい。それでも、唐辛子よりは痛くないはず。

 私は王子から離れた途端、全身から冷や汗が湧くのを感じた。

 貴公子の彼に立ち塞がれた途端、計り知れないほどの恐怖を感じたのだ。

 その為私は努めて陽気に振舞った。

 真面目に対応したらプレッシャーで死にそうになるから、極めて不真面目に滅茶苦茶に振舞ったのだ。

 少なくても雰囲気で伯爵のアークスお坊ちゃまよりももっと位が上の人間に見えたから、絶体絶命だと思ったのだ。

 と思ってたら本当にそうだったっ。

 この国の王子様だったっ。

 この国を敵に回すのかっ。

 うわぁぁぁ、もう死んでいるっ。

 だが唯一救いになるのは、私がブルガールに変装していたことだ。

 そのことだけにすがっているのが今の自分の現状だ。

 私は早速人目のない所で大道商人のミレーヌに戻った。

 さあ、ロリン村に戻るのだっ。

 私は疾風のように最速で王都を脱出することにした。

 王都の北門を通過した直後、背後に騒ぎが起きた。

「今からここは閉鎖する。王宮からの命令で門から出ることを禁じるっ」

 兵士の声を遠くに聞いて、ほっとした。

 もうブルガールは駄目だ。

 イーリア娼館もシャーク奴隷館にも行けない。

 スラムの少年たちとも接触しない。

 それをしたら私が危ないだけでなく、彼らにも危険が及ぶからだ。

 一番良いのは前回のようにブルガールを殺すことだが、それは難しいっ。

 だから消滅させるしかないのだ。

 

 

ミネルバ「おや、帰って来たのかい、ミレーヌ」

ミレーヌ「ええ、今戻ったよ、お婆さん。だから鐘を鳴らしてくれる」

ミネルバ「分かったよ。今みんなを招集するから」


 非常用の鐘の連打とは違い、新しい打ち方は一回鳴らして心の中で十数えてまた一回鳴らす。

 そうやって五回繰り返して鳴らせば、私が戻って売り上げから利益を分配したり、頼まれた買い物を渡す合図になるのだ。

 私は村人の個人個人のカードを作って、そこに幾らの品を納めたかその仕入れ値を書いて行く。

 仕入れ値は高めに設定しているので、利益は私がすべて貰う。

 頼まれた買い物の品物は、仕入れ値から引いて差額の金と一緒に渡す。

 

 すぐにも主に主婦中心に村人たちが集まって来た。

ミレーヌ「アリサさんから仕入れた品は全部売れたのでその仕入れ値の合計から、頼まれた赤い布一巻き分と残ったお金を渡します。

 間違いないかどうか確かめて下さい。

 ヨハンさんのおかみさん、旦那さんの納めたウサギの毛皮十羽分の代金から頼まれたお酒の代金を引いたのがこれだけです」

 一通り渡すといつもの質問がされる。

「いったいこれだけの品物、どうやって運んで来るんだ?」

 すると私はいつもと同じ説明を繰り返すことになる。

ミレーヌ「相棒がいて荷車で運んで貰っているんですよ。

 はい、皆さんが荷車もその人も見たことがないのは当たり前です。

 名前も知られたくないし、顔も覚えられたくない人なんです。

 事情は聞いてません。

 私は荷物を運んで貰えば良いので、聞き出す気はありません。

 人にはそれぞれ言いたくない事情があるでしょうから」


 そして私は村のみんなに新しい提案をする。

ミレーヌ「今まで手芸品を中心に私のアイデアを出して来ましたが、今度からは皆さんからアイデアを出して下さい。

 手芸品に限らずなんでも構いません。

 その中で一番良い物をみんなで沢山作ってみるのです。

 男の人で木工品を作ってみても構いません。

 ただし売れそうなものですよ」

アリサ「本当にミレーヌちゃんが来てから、私たちは助かっているよ。

 収入の道が開けたからね。売るのも買い物も全部やってくれるし、本当に助かっている。

 今度は私たちも頑張ってアイデアを出して行くんだね?

 わかったよ、みんなもがんばろうじゃないか」

「「「さんせーい」」」


 私は村の収入の為新たに計画を立てていたのだった。

 だがあの王子に見つからないようにするにはどうしたら良いか?

 頭が痛くなることだ。

 私にはこの村から離れる訳にはいかないし、そのためには王都に行って稼がなきゃならないのだ。


だんだんつまらなくなってきたかもしれません。

それなのに最後まで読んでいただきありがとうございます。

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