第5話
春休みは友ちゃんとネズミーランドに行った。遊園地は久しぶりなので楽しかった。春休みいっぱい友ちゃんと遊んで新学期。
もう新入生の入学式は行われた後だ。私たちはクラス替えがあったけど、無事に友ちゃんと同じクラスになれた。
「今年もいっぱい遊ぼうねー。」
「そうだね。遊んでられるのも今の内だけだし…来年は受験が…」
「その話は聞きたくない――――!!」
友ちゃんは成績良いけど、勉強は大嫌いだ。お母さんが厳しいらしいのでみっちり勉強させられているらしい。私も時々付き合って勉強している。おかげで成績は上位。じまあーん。
二人で、廊下をぽてぽて歩きながら「今日のお昼は久しぶりに学食だね」なんていう話をしている。
突然腕を掴まれ引き寄せられた。
「天音さん、会いたかった…!!」
情熱的に抱きしめられる。
「!?!?」
え…えっと…?
軽く相手の肩を押して距離を取って顔を確かめる。
「葉…君…?」
「はい。」
にっこり微笑まれた。美しく、そして少し背が伸びて男らしくなった葉君がそこにはいた。
「ど、どうしてここに!?」
「?勿論天音さんと学園青春ライフを送る為ですが…?」
葉君が訝しげな顔になる。そんな「何を当たり前のことを?」みたいな顔されても困るんですけど。
「地方に引っ越したんじゃ…?」
「この春から、こちらで一人暮らしです。と言っても僕は家事能力は皆無なので、保護者兼お手伝いさんがついてますが。」
「私と学園青春ライフを送る…とは?」
「言葉通りの意味ですが?難波潟 短き葦の ふしの間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや。」
「何語!?」
「日本語ですよ。」
「わ、私、葉君とは…」
もう終わったのに…
「まさか僕のことをお好きでない?あんなにも熱い口付けを交わしたのに。」
「な、なに…」
公衆の面前で何を…周囲の人たちが足を止めて見ている。ここは学校の廊下のど真ん中だ。私は真っ赤になって口をパクパクとさせた。
「もしやと思いますが、まさかと思いますが、僕の気持ちが伝わってないなんてことは…」
コクコクと頷いた。
「酷いです、天音さん。僕が遊びで女性に口付ける男だと思っていらっしゃったのですか?」
「だ、だってあんなにあっさり引っ越して…」
「1年経たずにお会いできる予定でしたので、そうまで深刻になる内容でもなかったかと…」
「そんな予定聞いてないよ!」
「やや。それは失礼しました。言ったつもりになっていました。」
ウソだ―――!!何その展開!!聞いてない!!
「僕は天音さんの作った食事が食べたいです。一生、ずっと、毎日。」
プロポーズ!?
「『はい』か『YES』で答えてください。」
あれ…なんかおかしな選択肢を出された。
「……。」
「あれ?僕はもしかしてやり直さねばならないのでしょうか?」
葉君に口付けられた。優しく優しく唇を合わせて食まれた。ぴゃあああああああああ!心臓がっ!心臓がっ!ばくばくって…!誰か救心持ってきて!!
葉君は唇を離すと真顔で言った。
「愛してます。」
はう…くたっと葉君の腕の中に倒れ込んでしまった。
「ああ、本当に天音さんは可愛い。全く天使にも似た悪魔ほど人を迷わすものはないですね。僕は喜んで魂を売り渡してしまいそうです。」
私は葉君に抱かれてちゅっちゅされた。
「えーと…葉君?プロポーズは気が済んだ?」
友ちゃんが呆れた顔で見てきた。
「まだ天音さんの返事を頂いてません。」
うーうー!!自分で『はい』か『YES』って言ったくせに!!それ以外の返事聞く気ないくせに!!
「私も葉君がすきだよ。ばか。」
葉君は喜んで私の唇を啄んでいる。
「校内での不純異性交遊は程々にね。」
「はい。天音さんのお宅に行ってじっくりやります。」
そ、それもちょっと…!
私と友ちゃんは葉君を連れて学食へ行った。3人で学食のテーブルに陣取る。
葉君のお母さんの実家は静岡でお茶関係の会社の社長さんらしい。バリバリのキャリアウーマン。その会社はお母さんの一族が経営してきた会社で葉君は将来跡を継ぐそうだ。因みに葉君の名前である『一葉』は樋口一葉から取ったと思われがちだがお茶の葉が由来であるそうだ。
「因みに、苗字は金森になりました。金森一葉です。宜しくお願い致します。」
「それにしても、半年以上音信不通とか…」
「すみません…しっかり、天音さんの心を奪えてるつもりだったのですが。」
奪われてたけど…!奪われてたけど…!
「あの雨に濡れたチワワのような葉君を返して!」
「ふふ。初恋は、男の一生を左右するものなんですよ。」
葉君は余裕で微笑んだ。薄幸の少年感が消えうせて、なんだか余裕のある様子が…それはそれでいいな、と思っちゃうからまた…。
手を取られ、指先にちゅっとやられた。うう~キュン死する。
圧倒的死亡率の私のキュン死学園生活は始まったばかりである。
難波潟 短き葦の ふしの間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや
(訳)
難波潟に生える短い葦の節と節の間程の、ほんのわずかな逢瀬さえなしにさえ、この世を過ごせと仰るのですか。
仲がこじれて、少しの間でも逢ってくれなくなった、つれない恋人への抗議。…らしいです。
自分で書いておいて、名作文学の一文抜粋がアリなのかどうかわかりませぬ(´・ω・`)
無しだったら没ですな;つД`)