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アナスタシア



 部屋着に着替えたアナスタシアは、ジュリアンが戻って来ないかとそわそわしながら待ち続けた。

 お風呂も入って髪を下ろし、少しでも多く今日のことを語り合いたかった。


 ようやく足音が聞こえて来たのは、夜の8時頃だった。

 ドアが開いて疲れた顔のジュリアンが入ってきた。


「ジュリアン」


 ジュリアンは、アナスタシアを見るとほっとしたように笑顔になった。


「どうしたの? 何だか疲れて見えるわ」

「そうかもしれない。久しぶりにカール王に会ったからな」


 彼は言うなりバスルームへ行ってしまった。呼びとめることもできず、アナスタシアはまた待つことにした。

 思ったよりも早くジュリアンは出てきた。アナスタシアはすぐには聞きださず彼が落ち着くのを待った。

 すると、ジュリアンの方から声をかけて来た。


「君は疲れなかったか?」

「ええ。大丈夫」


 そう言ってから一人だけ馬車で眠ったことを思い出した。

 恥ずかしくて申し訳ない気持ちになる。


「それならいい」

「ジュリアン、聞きたいことがあるの」

「何だ?」


 彼はゆったりとソファに座り一息ついている。アナスタシアも隣に座った。

 まだジュリアンからは湯上りのいい匂いがしていた。

 近くにいると体が熱くなる。


 聞きたいことは山程あった。

 どれから聞けばいいのか、分からない。

 でも、一番聞きたいことはレノックス卿の語らなかった真実だ。


「レノックス卿の事よ」

「ああ…」


 途端にジュリアンの顔が暗くなる。

 大きく息をついて、頭を抱えてしまった。


「どうしたの?」

「君から話せ」

「え?」

「質問には答えるよ」


 微妙な言い方だが、彼の性格なのだろう。アナスタシアは内心、ムッとしながらも心を落ち着かせた。


「どうして彼は魔法がかかった部屋でも話すことはできなかったの?」

「それは、ミアが王女だからだ」

「王女の行方を探していたの?」

「いや、俺は聞いたことはなかった。存在すら知らなかった」

「テオとミアの失踪にレノックス卿は深くかかわっているのかしら」


 ジュリアンが押し黙る。


「もし、レノックス卿があえて二人を……」

「アナスタシア、それ以上はやめた方がいい」

「え?」


 突然、彼の顔が目の前にありドキドキする。キスされるのかと思ったが、ジュリアンは青ざめていた。


「心の中が読めたらいいのにね」


 アナスタシアがぽつりと言うと、彼は、ん? と首を傾げた。


「だって、言葉にしてはならないことばかりじゃ会話ができないわ。わたしは間違ったことを話しているの? このお城だって魔法がかかっているのでしょう。この会話は聞かれていないはずじゃない?」


 アナスタシアは憤慨すると、ジュリアンがそっと手を伸ばし頬にかかった髪を耳にかけた。

 熱い指先に息が止まりそうになる。


「君の言うとおりだ。俺たちは生まれた時からずっとキャクタス国の存在におびえて生きてきた。俺の国は吸収されて小さくなり、彼の国は滅び、今はゴーレの森となっている」


 ジュリアンが真実を話してくれている。アナスタシアは嬉しくなった。

 もっと話を聞こうと体を寄せる。


「おいで、寝室へ行こう。あそこの魔力はもっと強力なんだ」


 手を引かれて隣の部屋に入り、ベッドに入った。

 枕に頭を乗せるとジュリアンが囁くように話しだした。


 ジュリアンが生まれる前にキャクタス国と彼の国(ダイアン国)で戦争があった。理由はみんなが知っている通り、ダイアン国の王子がキャクタス国の姫を見初めた事に始まる。

 しかし、キャクタスとダイアンでは争いの裏側で、男女の愛もあった。


 ジュリアンの母親はキャクタス国の女で魔法が使えた。

 父親はダイアン国の公爵だった。

 ジュリアンの父はダイアン国の中でも国王の次に力のある貴族だったが、ダイアン国は滅ぼされ、新たに作られたサッサス領を統括するために位を伯爵に落とされた。

 その上、ゴーレの森となったダイアン国も統括するように命ぜられた。


「どうしてお父様が選ばれたの?」

「それは…、エドワードの母親と俺の母親がキャクタス国王の末の妹達だからだ」


 アナスタシアは大きな目をさらに大きくして彼を見た。


「え?」


 ジュリアンは答えてくれなかった。


「なんてこと…。では、あなたは…」

「アナスタシア、うかつな事を言ってはならないよ」


 抱き寄せられて息がかかる。

 アナスタシアはぼうっとなった。


 今、すごい話を聞かされた。

 物語の中に入ったみたいだ。


「ねえ、あなた。わたしがどれほど喜んでいるか分かる?」

「え?」


 アナスタシアは、ジュリアンにそっとキスをした。

 お互いの目が絡み合う。

 何も言わずキスをしていると、もっといろいろ聞きたかったのに、とアナスタシアは思いながらも情熱に身を委ねてしまった。




 翌朝、目を覚ますとジュリアンはいなくなっていた。

 もっと一緒にいたかったのに。


 起き上がって髪をとく。


 それにしても…。

 夕べの事を思い出すと体が火照るが、それ以上にジュリアンの話は衝撃が大きかった。


 はっきり言わなかったが、おそらく彼は、キャクタス国の母とダイアン国の父を持つ子供なのだ。

 カール国王にとっては許せない存在であるが、妹と血が繋がっているので、ジュリアンたちはゴーレに変えられなかったのだろう。


 どこまでがおとぎ話で真実か分からないが、この城は魔法の城なのだ。


 きっと!


 ジュリアンは、生まれた時からカール国王におびえていたと言っていた。

 父親が全財産を使ってまで守ろうとした城。

 なぜ、カール国王から信頼されていたのに、この城に魔法をかけたのかしら。


 それに、昨日は話すことができなかったが、テオとミアの失踪にレノックス卿が関わっているという事は、彼はカール国王を裏切ったのだ。


 そのテオが見つかったらどうなるのだろう。

 レノックス卿は大丈夫だろうか。

 テオには母親が一緒だったと言っていた。つまり、レノックス卿の娘である。

 それにミアの母親も亡くなっている。

 ミアの母親であれば、国王の妻という事ではないだろうか。

 現在、妻はいるのだろうか。


 ああ、誰かに聞いてみなくてはならない。


 アナスタシアはすぐ着替えをして朝食を食べに行こうと思った。

 今日のドレスは何にしよう。

 ジュリアンはどんな色が好きなのだろう。


 持ってきたドレスのほとんどは淡い色ばかりだ。

 結婚したのだから、少しは落ち着いた色の方がいいのかもしれない。

 でも自分のドレスの事で彼を悩ませたくなかった。

 誰か相談できる相手がいれば。


 ミアは、マレインに魔法を習うことで忙しいようだし、一人でいいから侍女を持てれば。

 それが一番いい考えのように思えた。


 髪の毛もろくに結う事ができず、モスリンのドレスは比較的着やすいが後ろのホックを自分では留められない。

 髪を垂らしているから気づかれないだろう。

 後で、誰か女性を見つけたら留めてもらおうと思い、部屋を出た。

 

 ダイニングルームには、マシュー一人だった。

 彼は紅茶を飲みながら新聞を見ている。


「おはよう、マシュー」

「おはようございます。アナスタシア様」


 部屋の中には誰もおらず、マシューにこっそりホックを留めてもらおうと思った。

 人がいないのを確認して、アナスタシアは彼に近づいて囁いた。


「本当に恥ずかしくて申し訳ないのだけど、後ろの留めかぎをつけてもらえないかしら」


 マシューは最初、不思議そうな顔をしていたが、すぐに笑顔になり、サッと髪をかき分けるとホックを留めてくれた。


「ああ、ありがとう。これで安心だわ」

 

 アナスタシアは自分も朝食を取って席についた。

 卵料理が好きなのだ。まだ残っている。

 果物とトーストを取ってから食べ始めると、マシューが気づいたように言った。


「そう言えば、伯爵は早くに出かけられましたよ」

「どこへ行ったの?」

「さあ、おそらく領地の様子を見に行かれたのでしょうね」

「そうよね。することはたくさんありそうよね」


 これだけの土地を所有しているのだ。ただ、ぼうっと過ごしているわけにはいかないだろう。

 アナスタシアも屋敷の中の事は把握しておこうと、使用人たちの動きを見て回るうちに昼頃になった。


 お腹が空いたので食事を取りに行くと、ジュリアンが帰っていた。


「お帰りなさい」

「どこにいたんだ?」

「お城を見て回っていたの。皆よく働いてくれているわ」

「そうか」


 昼は軽めのサンドイッチが用意されている。紅茶を飲みながらサンドイッチをつまみ、トマスとソフィーは料理が上手だわ、と感心した。

 そして、ちら、とジュリアンを見てから、アナスタシアは話かけた。


「ジュリアン、お願いがあるの」

「何だ?」

「わたしに侍女を一人つけてもらえないかしら」

「え?」


 アナスタシアはドキッとしながら、慎重に言葉を選んだ。


「髪の毛も自分では結えないし、一人では着られないドレスもあったりするから、一人でいいのよ。誰かいてくれると助かると思って…」


 尻すぼみになりながら言うと、ジュリアンは驚いた顔をしていた。


「すまない。全く気づいていなかった。君の言うとおりだ。すぐに誰かに来てもらうよう手配しておくよ」


 その言葉を聞いてほっとする。


「ありがとう」

「俺の方こそ気づいてやれなくて悪かった」


 ジュリアンが立ち上がると、背後にまわり髪の毛を避けて首筋を見た。


「今日は誰かにしてもらったのか?」


 アナスタシアはジュリアンの行動に驚きながら、しまったと思った。

 こんなことなら、マシューに頼まなければよかった。


「使用人に女性がいたからお願いしたの」

「そうだったのか」


 ジュリアンは髪の毛を戻すとぽつりと言った。


「下ろしている方が似合っているが、綺麗に結ってもらった君も見てみたいよ」


 会話らしい話ができて、アナスタシアの心がワクワクしていると、そこへマロリーがやってきた。何だか急いだ風である。


「だ、旦那様」

「どうした?」

「お客様です」

「どなただ?」

「ミルトン様とおっしゃられる方です」

「すぐに行く」

「はい」


 ジュリアンが急いで行くのをアナスタシアも追いかけた。


「テオを迎えに来たのかしら」

「そうかもしれないな」


 ジュリアンは険しい顔をしていた。


 客間に入ると、昨日会ったイザベラがイスに腰かけていた。アナスタシアはてっきりレノックス卿が来ると思っていた。

 彼女は何だか元気がなくて沈んでいるように見えた。


「お待たせして申し訳ありません」


 ジュリアンがお詫びを言うと、彼女は小さく微笑んだ。


「待ってはおりませんわ。テオドールを迎えに参りました。当主である叔父が来ずにわたくしが参りまして申し訳ありません」

「それはいいのですが、レノックス卿はどうかされたのですか?」


 イザベラは一瞬黙り込み、顔を伏せて言った。


「今朝、お亡くなりになりました。これ以上は何も申し上げることはできません」


 アナスタシアはショックのあまり、近くにあったテーブルに手をついて自分を支えた。


「え……?」


 あんなにお元気そうだった方が亡くなった?


 ジュリアンも衝撃を受けたらしく茫然とした顔をしていた。


「そんな……」

「フォード伯爵、テオドールを呼んで頂けますか?」


 彼女は顔を上げると、表情のない声で言った。


 テオを待つ間、部屋の中は誰も話さなかった。


 きっとイザベラは何も言わない。

 アナスタシアは肌で感じた。

 何か、恐ろしいことがあったに違いない。


 マロリーがテオを呼びに行き、どれくらいの時間が過ぎたのだろう。きっと数分のはずだが、長く感じられた。

 テオが入ってくると、イザベラが立ち上がり彼に駆け寄った。


「テオドール!」


 彼女はいきなりテオに抱き付いた。

 テオは驚いたがすぐに彼女を離した。


「だ、誰だ…」

「わたしはあなたのいとこになります。イザベラと申します」


 すがるようにテオの手を取った。

 テオは戸惑いながら、彼女を見つめた。


「あなたをお迎えする準備が整いました。おじい様にお会いすることはできませんが、すぐに屋敷へ戻ってください」

「どういう事ですか? いきなりで何も分からないのですが」


 テオは戸惑っている。

 無理もない。アナスタシアたちも何が起きているのか分からないのだから。


「イザベラ様、テオが混乱しております。分かるように少し説明して頂けませんの?」


 アナスタシアが助け船を出すと、イザベラは首を振った。


「何も申し上げることはできません」

「この城は安全ですよ」


 ジュリアンが言うと、イザベラが首を振った。


「いいえ、安全な場所などどこにもありませんわ。さあ、テオドール、帰りましょう」

「ちょっと待ってくれ、俺があんたの探しているテオドールとやらで間違いないのか?」


 テオが彼女から離れると、イザベラは持っていたバッグから掌程の肖像画を取り出した。


「あなたのお母さま、わたしにとっては母のお姉さまのお顔よ」


 肖像画を見て、テオは顔をこわばらせた。


「お袋だ……」


 茫然と呟く。


 アナスタシアとジュリアンも交互に見せてもらった。

 見たこともないほど豪華なドレス姿を身につけた女性はとても美しく、目の色はテオと同じ青い色をしていた。


「テオ、大丈夫?」


 テオは答えなかった。

 ジュリアンがそっと彼の肩を叩いた。


「しっかりしろ。家族が見つかってよかったじゃないか。ミアを守るのはお前しかいないんだろ」


 ミアの名前を聞いてハッとする。


「ミアを連れていくことはできませんか? お袋はミアを守れと俺に言ったんです」


 イザベラは口を結ぶと首を横へ振った。


「ミカエラ王女は連れて帰ることはできません。フォード伯爵、国王よりご命令です。しばらく、サッサス領で預かって欲しいと」

「えっ」


 テオがジュリアンを見た。

 ジュリアンも驚いてすぐには声が出せなかった。アナスタシアがサッとイザベラに質問をした。


「国王はご存じなのですか? このお城にいることを」

「もちろんです。国王が知らないことなどこの世界にはありません」


 驚く事ばかりだ。

 本当に何もかも筒抜けなのだろうか。


「少しだけ待って頂けますか? ミアに会って話がしたい」


 イザベラは何か言おうとして口をつぐんだ。


「いいわ、待ちます。ミカエラ王女もいつかお城へ戻れる日が来るわ」


 テオは身を翻すと部屋を出て行った。

 三人だけになったアナスタシアは、息抜きをしようとイザベラを外へ誘った。イザベラはほっとした顔で、ぜひ、お城を見たいと言い、ジュリアンも止めなかった。


 部屋の外へ出て歩き始めると、体が緊張していたのだろうか、手足を動かすと気がほぐれた。


「面白いお城だわ」


 イザベラが砕けた口調で廊下や窓の向こうを見て言った。アナスタシアはほっとしながらも同じように砕けた口調で話した。


「何か感じられるの?」

「何かって?」


 イザベラが首を傾げる。


「このお城全体に魔法がかかっているそうなの。だから、このお城では魔法は使えないのよ」

「そうなの?」


 イザベラが驚いている。


「何も感じないわ。むしろ、何もかも外へ漏れるのじゃないかと心配なくらいよ」

「どうして?」

「だって…」


 イザベラが苦笑する。


「無駄だと思える程頑丈なお城よ。鉄格子にこの分厚い壁。ちょっとやそっとじゃ崩れないわ。先代の城主はよほど恐れたのよ」

「何を?」


 イザベラは答えない。

 アナスタシアは思い切って質問をした。そのために、彼女を外へ呼んだのだから。


「昨日のお話なのだけど、どうしてレノックス卿はあなたが魔法を使ったのに何も語ってくださらなかったの?」

「あなたはよその国の方だから分からないと思うけど、キャクタス国王は本当に巨大な力を持った方なの。少しでも危険な事はしゃべらない方がいいわ」

「じゃあ、逆に聞くけど危険じゃない事ってあるの?」


 アナスタシアが呆れると、イザベラはぽかんとした顔でアナスタシアを見た。そして、くすくす笑い出した。


「このお城にいればあなたは守られているわ。わたしに何か聞き出そうとしても無駄よ。あなたはここに来た目的を果たさなくてはいけないわ」

「目的?」

「ええ。跡取りを生まなくては。あなたが嫁いで来た目的はそれでしょ」

「跡取り…」


 考えていなかった。

 ジュリアンにとって自分は持参金だけの女だと思っていたからだ。


「子供…」

「ええ。わたしも早く婚約したいわ」


 イザベラも微笑む。


「誰かいい方がいらっしゃるの?」


 アナスタシアが聞くと、彼女は頬を赤く染めた。


「結婚できないかもしれないと思っていたけれど、婚約者が見つかったの」

「え?」

「わたしがミルトン家に引き取られた理由は一つ。跡取りであるテオドールと婚約をするためよ」


 イザベラが誇らしげに言った。


「見たこともないいとこと婚約なんて嫌だなって思っていたんだけど、テオドールがあんなにハンサムだったなんて、想像していたよりもずっと素敵だわ」


 嬉しそうな彼女を見て、アナスタシアは複雑だった。

 真実を知ったらミアはショックを受けるに違いない。

 うかつには何も言ってはならない、とアナスタシアは自分に言い聞かせた。



 それから二人は部屋に戻り、すぐにテオとミアが戻ってきた。

 テオの後ろには打ちひしがれたミアがたたずんでいる。

 彼女は泣いていた。

 アナスタシアを見ると、抱きついてきた。


「ナーシャっ。テオが行ってしまう。わたしを連れては行けないって」

「ええ。聞いたわ」

「これからどうしたらいい?」


 ミアはぽろぽろと泣きだした。

 ずっと二人は一緒だったのだろう。

 テオは黙っていたが、何か決意した顔であった。


「ミア、テオはあなたを守ってくれるわ。そのために彼は自分の家族を探していたのよ」

「え?」

「テオはあなたを忘れない」

「ナーシャ…」


 ミアは肩を落とすと、小さく呟いた。


「テオはいつもわたしの事を考えてくれている。なのに、わたしはいつも邪魔をしてばかりね」

「何を言うの?」

「テオにはテオの人生があった。わたしがいなければ…」


 ミアの心が揺らいでいる。


「ミア、気を落とさないで。あなたは救世主なのだから」

「うん……」


 それ以上、ミアは何も言わなかった。ただ、涙は止まらずまだ16歳の彼女は細身の体を震わせてテオを見つめていた。


「ミア、会いに来るよ」

「テオ……」


 二人は見つめあったままだったが、テオが迎えの馬車に乗り姿が見えなくなるとミアが落ち込んだ表情で歩きだした。


「ミア、どこへ行くの?」

「マレイン先生が呼んでいるの。お別れがすんだら、授業だって言うから」

「え?」


 彼女から魔法を教わっているのは知っていたが、こんな日くらいは休んでもいいのではないだろうか。


「待って、今日はやめたら。そんな気分じゃないでしょう」

「何かしている方が気が紛れるの」


 ミアはそう言って温室の方へ向かって行った。


 テオが去り、そして入れ替わりにエドワードがやって来た。

 彼はアナスタシアを見て言った。


「今、君の侍女になる人を探しているから。すぐに役に立つ人材を見つけて来るからね」


 イザベラの言葉を思い出す。


 あなたがここへ来た目的は跡取りを産むことでしょう?


 エドワードも自分のために動いてくれている。

 やることはこれからどんどん増えるのだから。

 自分はこのお城を守り、家族を増やし、皆の笑顔を守るのが役目だ。


 皆がそれぞれの道を歩く中、アナスタシアも歩きださなくてはと心に決めた。






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